カウボーイは西部劇のヒーローではなかった?
アメリカ開拓史編の今回は、いわゆる西部劇の時代がテーマです。深井さんは、西部の土地を獲得したアメリカがマニフェストディスティニー ── 「明白な天命」と訳される19世紀アメリカの理念。西への領土拡大は神に与えられた使命だとして、開拓を正当化しましたのもとで西へ進出していったと説明します。
深井さんによれば、荒野にいきなり街を作り、金鉱を掘って一攫千金を狙い、ネイティブアメリカンと戦いながら土地を広げていく過程で、カウボーイ、アウトロー、賞金稼ぎといった存在が生まれました。バーテンが酒をテーブルに滑らせるような、映画でおなじみの酒場文化もこのころ育っていきます。
ところが、西部劇の主役であるカウボーイの実像は、映画のイメージとはかなり違います。深井さんの説明では、カウボーイはもともと農場で馬の調教やフェンスの修理をする職業で、当時の最底辺の仕事の一つでした。
大体平均年齢も24歳とかなので、すごい若い人たちがやってて、給料もすごい低いみたいな。
映画のカウボーイはネイティブアメリカンとよく戦っていますが、深井さんは「実際はそんな戦う暇は全然なかった」と話します。この説明に、樋口さんは驚きの声を上げました。
一方で、カウボーイが武装していたのも事実です。西部は治安が悪く、馬や牛を盗む強盗や野盗に備える必要がありました。南北戦争後の兵士の仕事としても使われ、特に負けた南軍の兵士上がりが多かったため、銃の扱いがうまい人が多かったといいます。
武器とかはよく使える人たちが多かったんだけど、(カウボーイが活躍する)西部劇みたいなのはやっぱり作り話です。
牛を運び、歌い、「あばずれの息子シチュー」を食べる日々
カウボーイの実際の仕事として深井さんが挙げるのが、テキサスからカンザスまで2000キロの距離を肉牛を運ぶキャトルドライブ ── 牧場から鉄道の駅や市場まで、大量の牛を陸路で移動させる仕事。数か月かかることもある長旅でしたです。
深井さんによれば、この長旅の途中で牛をなだめるために歌っていたのが、カントリーミュージックだったといいます。
カウボーイの好物とされたのが、サノバビッチシチューという料理です。深井さんは、その名前を直訳すると「あばずれの息子シチュー」になると紹介し、樋口さんを驚かせました。
(カウボーイは)地味な仕事してたね。
地味な仕事です。
深井さんは、カウボーイが一時は憧れの対象になったこともあると補足しつつ、史実としては肉牛を運ぶ若い労働者だったとまとめています。
映画のイメージ: ネイティブアメリカンと戦う、銃の腕が立つヒーロー
実像: 平均年齢24歳ほどの低賃金労働者。馬の調教、フェンス修理、肉牛を運ぶキャトルドライブが主な仕事
アウトローと保安官、荒くれ者対荒くれ者の西部
西部にはカウボーイのほかに、アウトローと呼ばれる人たちがいました。深井さんによると、アウトローは頼まれればできることは何でもする「何でも屋」で、殺し屋もしていたといいます。樋口さんが「ヤクザ」とたとえると、深井さんも同意しています。
アウトローになったのは、失業したカウボーイや保安官、保安官助手などでした。深井さんは、ガンマンもここから出てきたと説明します。
一方、胸に星形のバッジをつけた保安官も西部では重要な存在でした。国ができたばかりのアメリカでは、警察組織が未発達だったからです。
(西部では)まずさ、食料品店作ったりしないといけないわけじゃん。ね、食料品店とか酒屋とか床屋とかが先に作られていくわけじゃん。だけどその荒くれ者とかはたくさんいるわけよ。
荒くれ者を捕まえる役目を担ったのが保安官です。ただ深井さんによれば、保安官自身にも、もとは荒くれ者だった人が普通にいました。さらに保安官には保安官助手を選任する権利があり、任命される助手もだいたい荒くれ者だったといいます。
だから荒くれ者対荒くれ者みたいな構図が基本的なこの西部の雰囲気なんですよ。
深井さんは、クリント・イーストウッド監督の映画『許されざる者』が大好きだと話します。この映画には、カウボーイ、アウトロー、保安官、保安官助手、賞金稼ぎ、ガンファイトといった、ここまで紹介した要素がほぼすべて登場し、比較的リアルな描写だと薦めています。
住民が犯罪者を追う「パシ」と、ファッションリーダーのテキサスレンジャー
深井さんの説明では、保安官助手の給料は保安官の半分で、誰でもなれる仕事でした。保安官助手は常に保安官を手伝っていましたが、大きな犯罪者が現れたときには別の仕組みが使われます。
その仕組みが、パシ ── 英語の「posse(ポッシー)」。保安官が住民を臨時に招集して組織する追跡隊のことで、西部劇によく登場しますと呼ばれる追跡隊です。保安官が募集をかけ、住民の有志が応募して、みんなで犯罪者を捕まえに行きます。
なんでみんなで追っとるんだってみんな思うかもしれないんだけど、警察がなんでやんねえのかっすよ。こういう制度があるからですね。
保安官
荒くれ者を捕まえる。自身も元荒くれ者であることが多い
保安官助手
保安官が選任し、常時手伝う。給料は保安官の半分で誰でもなれる
パシ(追跡隊)
大きな犯罪者が出ると保安官が募集し、住民の有志が加わって追う
深井さんは、西部には自警団的な感覚があったと話します。最も有名な自警団が、めちゃくちゃ強かったとされるテキサスレンジャーです。
深井さんによると、ブーツ、ベスト、帽子というカウボーイの格好は、もともとテキサスレンジャーの格好でした。樋口さんが「当時のきゃりーぱみゅぱみゅじゃないですか」と返すと、深井さんは「そんなファッションリーダーではない」と笑いながら受け流しています。
犯罪者が犯罪者を狩る、懸賞金制度の世界
保安官と似たり寄ったりでありながら、対照的な存在として深井さんが挙げるのが、賞金稼ぎと懸賞金をかけられた犯罪者です。深井さんは、強ければ強いほど懸賞金が上がる漫画『ONE PIECE』の世界は、このアメリカの懸賞金制度だと説明します。
懸賞金制度が生まれた背景も、警察機関の整備の遅れにあります。保安官だけでは治安を守れないため、誰でもいいから捕まえてくれればお金を渡す、という仕組みになりました。
犯罪者が犯罪者を捕まえに行きます。だって危ないじゃん。犯罪者捕まえに行くってことは自分が死ぬかもしれないわけでしょ。
そんな仕事する人ってそのそうやって追い詰められてないとやんないわけでしょ。
深井さんは、賞金稼ぎも賞金首も「どっちもガラが悪い」とまとめています。
ビリー・ザ・キッドから1万ドルのジェシー・ジェームズまで
深井さんは、当時の懸賞金の額を有名な人物に絞って紹介します。書き起こしでは基本の額が聞き取れませんが、ほかの額との比較から、普通の犯罪者はおよそ100ドルだったと読み取れます。
ビリー・ザ・キッド ── 19世紀後半のアメリカ西部で活動した無法者。若くして多くの殺人に関わったとされ、西部劇の題材として有名ですの懸賞金は1500ドルで、普通の犯罪者の15倍ほどです。ブッチ・キャシディは5000ドルで、普通の犯罪者50人分にあたります。
そして最も高額だったのがジェシー・ジェームズの1万ドルで、深井さんは普通の犯罪者100人分だと強調します。
ジェシー・ジェームズの懸賞金が高かった理由について、深井さんは南北戦争との関係を挙げます。ジェシー・ジェームズは犯罪集団を統率する南軍の生き残りで、敗戦に苛立つ南軍の人たちの精神的支柱のような存在になっていました。
(ジェシー・ジェームズは)犯罪を犯しまくってるからめちゃくちゃ質悪かったんですよ、当時の政府からしたら。もうマジでやめてくれと。もう速攻で殺したいってなったんで、1万ドル。
ジェシー・ジェームズは銀行強盗もしていたといいます。また深井さんは、まれに一個人が懸賞金をかけることもあったと紹介し、それが映画『許されざる者』の主題になっていると話しています。
生死問わず、写真もなし。暗殺が仕事になる世界
人を倒せば金が稼げる時代だったのかという樋口さんの問いに、深井さんは「そうですよ」と答えます。懸賞金は生死を問わず、殺して死体を持っていってもお金がもらえました。
要は暗殺が当たり前で仕事として成り立つ世界ですからね。
さらに深井さんは、当時は手配書に写真がほとんどなく、似顔絵が中心だったと指摘します。樋口さんの「多分めっちゃ間違ってやってるでしょうね」という推測に、深井さんも同意しています。
賞金稼ぎの側はゴロツキが多かったため、名前があまり残っていません。例外として深井さんが紹介するのが、ドック・ホリディ ── 本名ジョン・ヘンリー・ホリデイ。歯科医出身のガンマン・賭博師で、保安官ワイアット・アープとともにOK牧場の決闘に関わったことで知られますです。歯医者だったものの結核にかかって自暴自棄になり、賞金稼ぎになっていったといいます。
樋口さんが、警察がない状態では効率のいいシステムに思えると話すと、深井さんははっきり否定します。
絶対警察の方が効率いいです。みんな警察に感謝しましょうね。
深井さんによれば、普通の原始社会ならこれほど反社会的な人間はなかなか出てきません。発達した社会なのに警察が整備されていない、という状況が西部の特殊さでした。
樋口さんは、社会の発達と警察の不在というアンバランスさが文化を作ったのだと受け止めています。
ガンファイトのルールは銃の精度の悪さから
映画でおなじみのガンファイトにも、深井さんは理由があると話します。背中合わせで10歩進み、振り向いて撃つという決闘のルールに、深井さん自身もずっと疑問を持っていたそうです。
あれね、10メートル先の人間にも弾が当たんないんだそうです。当時の銃ってすごい精度が悪くて、全然弾当たんないんだって。
深井さんの説明では、当時の銃では先に撃つタイミングよりも当たるかどうかの精度のほうが重要だったため、離れて撃ち合うルールが成り立ったといいます。
物陰から撃ったほうが勝てるのに、なぜ決闘をするのかという樋口さんの疑問には、深井さんは物陰から撃つのは卑怯だからだと答えます。正々堂々と勝つという美学があったわけです。
深井さんはあわせて、治安が悪い西部では、銃を持つことが基本的な権利だったと補足しています。
酒場サルーンは葬式も手術もする「地域のプラットフォーム」
西部劇で欠かせない酒場は、サルーン ── 西部開拓時代の酒場。飲酒だけでなく賭博や娯楽、情報交換の場として町の中心的な役割を果たしましたと呼ばれていました。深井さんによれば、一日でできたような張りぼての街ばかりで、酒ぐらいしか娯楽がなく、酒場は「ディズニーランドみたいな」娯楽の中心でした。
サルーンのバーテンは、白シャツに蝶ネクタイという清潔な服装で、銃の扱いにも長け、相談にも乗ってくれる存在だったといいます。樋口さんは「めちゃくちゃイケてる」と反応しています。
深井さんによると、酒場の2階はたいてい娼館でした。娼婦の中には地位の高い人もいて、市長の夫人になった人もいたといい、深井さんは西部の社会的地位の流動性を指摘しています。
サルーンの役割は娯楽にとどまりません。深井さんが挙げたものを並べると、次のようになります。
- 賭博の場
- 旅の行商人が話を聞かせてくれる場
- 政治家が客に酒をおごって票を集める場
- 葬式会場の代わり
- 足の切断などを行う病院の代わり
- 興行師が見世物を見せる場
深井さんは、政治家が酒をおごって票を集める行為は今の日本なら公職選挙法違反だろうと話しつつ、当時は普通に行われていたと説明します。こうした様子を「全般的に野蛮」と表す深井さんに対し、樋口さんは酒場を地域のプラットフォームとまとめました。
ゴールドラッシュで本当に儲けたのは誰か?
西部といえば欠かせないのがゴールドラッシュ ── 金鉱の発見をきっかけに、一攫千金を狙う人々が大量に押し寄せる現象。1848年のカリフォルニアの例が最も有名ですです。深井さんによれば、1848年、カリフォルニアの大工ジェームズ・マーシャルが川で金塊を発見しました。
ジェームズ・マーシャルは土地の地主ジョン・サッターに相談し、誰にも言わないでおこうと話し合いました。ところが1週間ほどで全員に知られてしまい、深井さんは「どっちも言ったんだろうね」と笑います。
この噂を聞いて、陸路で8万人、海路で2.5万人が、金持ちになろうと押し寄せたといいます。
結果としては大して金鉱は見つからなかったんですよね。けど、その周辺事業、こんだけ人が集まったからですね。
集まった人たちのための店作りなどが好景気につながり、そこで大金持ちになったのがジーンズで知られるリーバイ・ストラウスです。樋口さんが言うように、リーバイスは金鉱を掘る人たちのための丈夫なズボンでした。
金塊の発見
1848年、ジェームズ・マーシャルがカリフォルニアの川で発見
噂の拡散
口止めしたはずが1週間ほどで全員に知られる
人の殺到
陸路8万人、海路2.5万人が押し寄せる
周辺事業の好景気
金鉱は大して見つからないが、店などが増え、リーバイ・ストラウスが大金持ちに
深井さんは、一気に10万人が集まる様子を、樋口さんの地元の田川にいきなり10万人が集まるようなものだとたとえます。人も物も増え、物価が上がり、街がどんどんできていく世界だったといいます。
欲望のままに生きた西部と、酒癖の悪いアメリカ人
楊さんは西部を「カオス」と表し、当時のアメリカ人がヨーロッパ人がビビるほど酒を飲んでいたと話します。深井さんも、当時のアメリカ人は酒癖が悪いと思われていたと応じます。
楊さんによると、酒の生産が増えた背景には物流の事情もあったようです。物流が未発達な中、余った穀物をウイスキーなどの酒にすれば、かさばらず物流コストが下がったといいます。
あまりの酒癖の悪さに禁止法のような動きも生まれ、酒は薬物と同様の扱いを受けるまでになったと二人は話しています。
楊さんは、ここまでの西部の姿を「欲望」という言葉でまとめます。
だって酒飲みてぇつって酒をガーって飲んで、あいつより強かったら金稼げるってなったらいっぱいバンバン人殺して、で、金があるぞつったらぶわーって集まってみたいな。欲望ですよね、全部。
深井さんも、これはアメリカでなければ実現しない環境設定だと同意します。最後に深井さんは、西部の文化が育ちネイティブアメリカンを倒していく中で起きたのが南北戦争だとして、次回は南北戦争を取り上げると予告しました。
まとめ
西部開拓時代の西部は、発達した社会でありながら警察や裁判機関が整っていないという、アンバランスな環境でした。その空白を保安官や懸賞金、酒場といった仕組みが埋め、人々は欲望のままに動いていたと語られています。
- カウボーイの実像は、平均年齢24歳ほどの低賃金で地味な労働者だった
- 保安官も助手も賞金稼ぎも荒くれ者が多く、「荒くれ者対荒くれ者」が西部の基本構図だった
- 懸賞金制度は警察の不在から生まれ、ジェシー・ジェームズには1万ドルがかけられた
- 酒場サルーンは娯楽・政治・葬式・医療まで担う地域の中心だった
- ゴールドラッシュで儲けたのは金鉱よりも、リーバイスのような周辺事業だった





