リアル収録が久しぶりに戻ってきた
高杉晋作の回まではスタジオで対面収録していたコテンラジオですが、その後はコロナ禍でアメリカ編やヘレン・ケラー編をリモートで収録していました。今回は久しぶりに対面での収録が戻ってきました。
いやー、ヤンヤンさん、そして深井さん、お久しぶりです。
(リモート収録は)やりづらかった。
樋口さんは、リモート時代の編集の大変さも振り返ります。かぶった音声を切って、ずらして調整する作業に苦労したといいます。
俺も編集ももう人の音声をブツブツに切りまくって、かぶってるところでずらしてとかやったりとか。
冒頭ではお知らせも共有されました。YouTube動画に字幕をつける作業を進めていて、収録時点でスパルタ編あたりまで字幕が入っているとのことです。
あわよくば誰か(字幕を)ボランティアで翻訳してほしいなとも思ってますし、そうすると海外の方にも届けることができるようになるので。
字幕を歓迎する背景には、スパルタのような海外の固有名や、中国史の漢字が音だけではわかりにくいという事情があります。実際にスロバキアのリスナーからメッセージが届いたこともあり、幅広い層に届けたいという思いが語られました。
そもそもチンギス・カンとは何者か
本編に入ると、まず名前の表記が話題になりました。樋口さんが「チンギスハーン」「ジンギスカン」と混同するなか、深井さんは最新の表記が「チンギス・カン」だと説明します。
モンゴル語ってね、カタカナで表記できないんです。
深井さんによると、モンゴル語の発音は日本語と違うため、カタカナ表記は年々変化してきたといいます。かつては「ジンギスカン」、その後「チンギスハーン」、そして現在は「チンギス・カン」が最新の表記だと話します。
昔はジンギスカンだった時があって、その後チンギスハーンになって、今チンギスカンです。
テーマに選んだ理由として、深井さんはまず世界史への圧倒的な影響力を挙げます。チンギス・カンが築いたモンゴル帝国は、ユーラシア大陸の4分の3ほどにまで広がった、人類史上最大級の帝国でした。
大英帝国とどっち広いかぐらいの感じ。でも陸上で最も広いと思う、確実に。
さらに驚くべきは、その巨大な帝国をほぼ一代で築いた点です。弱小な立場から始まり、ユーラシア大陸の東西にわたる最大帝国を作り上げました。
だからアレクサンドロスかチンギス・カンかみたいな感じなわけ。世界史上の。
時代としては12世紀から13世紀、日本の鎌倉時代のはじめにあたります。源頼朝 ── 鎌倉幕府を開いた初代将軍。1147年頃に生まれ、1199年に没しました。チンギス・カンとほぼ同時代を生きた人物ですと同じ頃、1200年前後を生きた人物だと説明されました。ただし生没年もはっきりせず、1160年代に生まれたとされるものの、実は謎の多い人物です。
なぜ「遊牧民」を知ることが自分を知ることになるのか
今回の編で伝えたい核心は、チンギス・カンが遊牧民だったという点にあります。深井さんは、遊牧民の国家観が農耕民族とはまったく違うことを強調します。
遊牧民の国家の捉え方って、もう僕たち農耕民族と全然違うわけです。
具体的には、農耕民族が「土地」を国だと考えるのに対し、当時のモンゴル族にとって「国」とは人のことを指しました。人々が移動すれば、政府ごと国そのものが一緒に移動していくという発想です。
その人たちが移動する範囲全体が国なんです。
移動を前提とする生活のため、遊牧民はものを持てません。農耕文明のように富を蓄積して豪奢な生活をするのではなく、いかにミニマムに生きるかが問われる暮らしです。夏は草の生える場所で放牧し、冬は寒さを避けて別の場所へ移るという季節ごとの移動を続けます。
土地そのものが国。富を蓄積し、豪奢な生活へ向かう
人が国。政府ごと移動し、ものを持たないミニマムな暮らし
深井さんが遊牧民を取り上げる理由は、自分たちを知るためには自分たちと違う相手を知る必要があるという考えにあります。
モンゴル帝国が起こした東西の大交流
遊牧民は古代から文明同士の交流をつなぐ役目を果たしてきました。モンゴル帝国が東西に巨大化したことで、その交流が過去にないスケールで一気に活発になります。
たとえば中国と中東の両方を征服したことで、それまで陸路や海路にあった危険が取り除かれ、人やものが安全に動けるようになりました。特に海を使えるようになった影響は大きく、陸路に比べて物資輸送のコストが10分の1にまで下がったといいます。
特に海を使って渡れるようになったことによって、陸で運ぶよりも物資輸送コストが10分の1まで減ったんですよ。
その象徴が、クビライ・カーン ── チンギス・カンの孫で、モンゴル帝国第5代皇帝。中国を支配し元を建国しました。マルコ・ポーロが仕えたとされる人物ですの時代にベネチアからやってきたマルコ・ポーロです。こうした遠距離の往来は、それまでありえなかったことでした。
それによって世界史が大きく統合していくわけです。グローバリゼーションが一気にそこでブーストされるんですよ。
樋口さんは、モンゴル帝国が血液を循環させる役割になったのではないかと表現します。深井さんは、世界がそれまでで一番繋がり合った時代がこの頃だったと応じました。
東西を統一
中国も中東も征服し、地域をひとつにまとめる
危険が減る
陸路・海路の危険が取り除かれ、安全に移動できる
コスト激減
海路により物資輸送コストが陸路の10分の1に
大交流
マルコ・ポーロの往来など、東西の交流が一気に活発化
この影響は日本にも及びました。クビライ・カーンの時代の元寇によって、鎌倉幕府は最終的に滅び、日本は室町時代へと突入していきます。
(元寇に)勝ちますけど、鎌倉幕府は滅びますから。
遊牧民が歴史から見えにくいのはなぜか
これほど大きな影響を与えた遊牧民ですが、その実態は見えにくいという難しさがあります。理由の一つは、彼らが自分たちで歴史を残していなかった点です。文字も本来は持たず、モンゴル帝国ができてしばらくしてから記録を残すようになりました。
遊牧民の歴史書いてんのって、その周りの周辺の農耕民族がしか書いてないわけだから、農耕民族フィルターがかかってるわけ。
この「農耕民族フィルター」が、遊牧民を歴史から見えにくくしています。深井さんは意外な例として、中国の隋や唐が実は遊牧民の鮮卑 ── モンゴル高原から中国北部にかけて活動した遊牧民系の民族。隋や唐の建国に関わったとされます系の人たちが作った国だと指摘します。
中国人の概念って時代、時代によって全然変わってきてるし、常にあの中国大陸という場所で遊牧民が出たり入ったり、出たり入ったりして、混血が進んだり、文化の交流が進んだりしている。
楊さんは、中国が何千年も単一民族に統治されてきたというイメージは事実と違うと補足します。中国人という概念自体が時代ごとに変わり、遊牧民との混血や交流が繰り返されてきたと語りました。
中国史の常識を覆す遊牧民の存在
遊牧民の視点は、これまで形成されてきた歴史観そのものを揺さぶります。深井さんは、劉邦が作った漢帝国も、初期は遊牧民の属国だったと説明します。
この漢帝国っていう国も、その普通に中国史勉強してると、すごく強大な中国帝国みたいな感じで受け取るんだけど、実は初期は遊牧民の属国なんですよ。
漢帝国は、匈奴 ── 紀元前から中国北方で強大な勢力を築いた遊牧民。漢帝国は初期、匈奴に貢ぎ物を渡す立場にあったとされますという強力な遊牧民に貢ぎ物を渡す、立場としては下の存在でした。しかし、こうした語られ方は通常の中国史ではされません。
さらに深井さんは、キングダムで知られる秦の先祖も遊牧民だったと続けます。西から来て馬を育てるのが上手かったために取り入れられ、そこから秦という国が始まったといいます。
(秦は)馬を育てるのがうまかったから取り入れられて、秦という国がそこで始まったんですよ。
楊さんは、日本や中国の歴史を学ぶと「中国に異民族が侵入してくる」という言い方をすると指摘します。しかし実際には血統も文化も入り混じっており、一筋縄では理解できないと深井さんは応じました。
| 王朝 | 遊牧民との関わり |
|---|---|
| 漢 | 初期は匈奴の属国で、貢ぎ物を渡す立場 |
| 秦 | 先祖は西から来た遊牧民で、馬の飼育に長けた |
| 隋・唐 | 鮮卑系の遊牧民が作った国 |
大器晩成のチンギス・カンと「認識」の価値
遊牧民の話とあわせて、チンギス・カン本人についても記録は伝説が中心で、実像はつかみにくいといいます。それでも分かることを整理すると、人物像がわずかに見えてきます。深井さんは、彼が常に危機の中にいた人物だったと語ります。
アレクサンドロスとの決定的な違いは、チンギス・カンが大器晩成型だった点です。40歳頃までは比較的普通の遊牧民として自分で遊牧生活を営んでおり、40歳以降に世界帝国を築き上げました。
(チンギス・カンは)四十歳ぐらいまで普通の、比較的普通の遊牧民。もう自分で遊牧生活しないといけない遊牧民。
70歳頃まで生きたとされるため、およそ30年で世界帝国を作ったことになります。あまりに突然のことで、周囲も驚くほどでした。一方、40歳までの実際の生活は不明で、幼少期の話も伝説として残るのみだといいます。
だからそこから三十年ぐらいで世界帝国をいきなり作ります。
今回の編では、この分からない人物を分からないまま扱う試みに挑みます。分かったつもりにならず、想像できる部分は想像するという姿勢です。
わかんない、わからない中でもわかるところは想像してみて、そうかもしれんねみたいなことを言うっていうのを。
その背景には、深井さんが繰り返し語る「認識」の価値があります。世の中は事実だけでできているのではなく、事実に対する人間の認識でできているという考え方です。
楊さんは、今回はリベラルアーツ的な色が強い回になるかもしれないと述べます。次回は、遊牧民の特徴とその歴史をざっくり語る回になると予告されました。
このシリーズの次のエピソードはこちら
まとめ
チンギス・カン編の導入回は、人物そのものよりも「遊牧民」という視点の重要性に焦点を当てました。世界史への圧倒的な影響、農耕民族とは異なる国家観、そして事実だけでなく認識を大切にする姿勢が、シリーズ全体の見取り図として示されました。
- チンギス・カンはほぼ一代でユーラシア大陸の4分の3に及ぶ史上最大級の帝国を築いた
- 遊牧民にとって国とは土地ではなく人であり、政府ごと移動する農耕民族とは異なる国家観を持っていた
- モンゴル帝国の東西統一により物資輸送コストが10分の1に下がり、グローバリゼーションが一気に進んだ
- 漢・秦・隋・唐など、遊牧民は中国史に深く入り込んでいるが、農耕民族フィルターにより見えにくくなっている
- チンギス・カンは40歳以降に世界帝国を築いた大器晩成型で、記録が伝説中心のため事実と認識の両方から捉える試みとなる




