彼女の「気が利かない」に、なぜ樋口さんはキレたのか
フランス革命シリーズの収録を終えた3人は、番外編として「当たり前レボリューション。それ本当に当たり前ですか?」という企画を始めます。周りが当たり前だと思っているけれど、自分は「これどうなの?」と感じていることを語り合う企画です。
楊さんがタイトルコールをしたことに、深井さんと樋口さんは「初めてかもしれない」と反応し、和やかな空気で話が始まります。
最初に口を開いたのは樋口さんで、大学時代に彼女と出かけたときの体験談を話します。雨の日に傘が1本しかなく、2人で1本の傘に入って屋台へ向かったそうです。
屋台で買い物をした樋口さんは、傘を忘れて歩き出してしまいます。彼女が傘を持って追いかけ、そのまま2人の間に差してくれました。樋口さんは食べ物を片手に携帯でメールを返しながら、1〜2分ほど歩いたといいます。
携帯をポケットにしまったあとも、樋口さんは傘のことを忘れたまま歩いていました。そこで彼女から「気が利かないな」とボソッと言われます。
あ、なるほど。こいつは自分が傘を持ってない。つまり男が傘を持ってなくて、女がずっと傘を持ち続けてることに対して言ってきたんだと思った時に、僕ブチギレですね。
は?お前ちょっと待て。今の発言どういうことかちゃんと説明しろって、言わせたんです。
めんどくせ。
「やるのはいい、でも強要されたらルール」という線引き
樋口さんは、自分が傘を持つこと自体を嫌がっているわけではないと強調します。普段は傘も持つし、食事もおごるし、雨なら走って車を取りに行き、荷物が多ければ持つといいます。それは男としてそのほうがかっこいいと思っているからだそうです。
ただお前がルールとしてそれ(傘を持つこと)を俺に言ってくるのは絶対に違うんですよ。平等っていう前提の中でやってくれてありがとうなんですよ。
それ強要された時点でルールなんで、それは。
樋口さんの線引きは、食事の支払いでも同じです。トイレに行っている間に彼女が払っていたのに気づかず店を出ても、それを責められる筋合いはないといいます。ルールがないのにやるからこそ意味がある、という考え方です。
樋口さんによると、第三者が言うのならかまわないそうです。友達や彼女の友達から「傘ぐらい持ってやれよ」と言われれば、「ごめん、気遣いがなかったね」と素直に受け止められます。傘を持っている彼女本人が言うことが、樋口さんには受け入れられなかったのです。
平等な前提のうえで樋口さんが自分から持つ。相手から「ありがとう」が生まれる
彼女が「気が利かない」と言った時点で、傘を持つことがルールになる
デートを中断して車内で会議、その結論は?
樋口さんは、最初は感覚的にキレていたものの、途中で「もうデート終わり」と切り上げ、車に乗ってシートを倒し、彼女と「会議」を始めたといいます。
話し合いでは、なぜこの問題が起きたのか、まずお互いが前提をどう思っていたかから整理しました。30分から1時間ほど話し、樋口さん自身も「自分がするという前提」を逆に持っていたという結論に至ったそうです。
なんか全然俺より理屈っぽい。俺の方が理屈っぽく見えません?そこでそんな理屈っぽいの?みたいな。
樋口さんは、当たり前の前提があるからこそ、自分から「持ってあげる」というサービスの差が生まれると話します。深井さんは、そこに喜びや善意も表現できると応じました。
ルールになったらちょっとポジションが変わりますもんね。その行為の。
深井さんは、傘を持つという小さな話がここまで発展したことに感心し、楊さんも「深いですね」と反応しています。
人の話を聞けない深井さんは、なぜ授業スタイルが苦手なのか
次に深井さんが挙げたのは、長い時間じっと人の話を聞けないという悩みです。だから学校の一方的な授業スタイルはやめてほしいと話します。
トークだったらいい。インタラクティブにするか、本で渡してって思うわけ。
樋口さんは、深井さんと初めて会った場面を思い出します。福岡市のイベントで、登壇者が話しているのに、隣の席の深井さんはKindleを読み、Slackを打ち、自分のプレゼン資料を触る、というループを続けていたそうです。
めちゃくちゃ落ち着きないな、こいつと思って。
楊さんが会社員時代に上司に怒られたときはどうしていたのかと尋ねると、深井さんは大企業にまったく向いておらず、毎日のように長時間説教されていたと答えます。
一回言って要点まとめてって感じなんだけど、結論から言ってみたいな感じなんだけど、ずっとグダグダなんか言ってくるんで、何言ってんだこいつって思ってたらもっと怒られてた。
深井さんは、自分がインタビューして聞く分には問題ないものの、向こうから一方的に伝えられるのは聞けないといいます。樋口さんが、楊さんの話はトークならずっと聞けていると指摘すると、深井さんは「トークですからね」と応じました。
学校の授業や上司の説教など、相手から一方的に長く伝えられる話
トークやインタビューなど双方向のやり取り、または本で渡された内容
「男は運転がうまい」は本当に当たり前?
深井さんはもう一つ、男は運転がうまいとみんな思っているけれど、自分は「死ぬほど下手くそ」だと打ち明けます。運転も話を聞くのと同じで、短い時間しか集中が続かないといいます。
途中でその音楽とか聞いてたら、音楽の方に集中して、このドラムいいねみたいな感じで考えてたらぶつかりそうなんですよ。
深井さんは何度もぶつけたことがあり、運転はもうやめたそうです。父親は運転がうまいのに、なぜ自分はこんなに下手なのかと疑問を口にします。
樋口さんは、自分も似た面があると話します。樋口さんは過集中 ── 一つのことに強く没頭し、周りに注意が向かなくなる状態を指す言葉。発達特性の文脈で語られることもあります型で、長年の経験から運転はほぼ自動化しているものの、助手席の人との会話が盛り上がると、曲がるところで曲がれなかったりカーナビを見られなかったりするそうです。
曲がらないといけないとか、あれって要は脊髄反射でやってないから、脳を使う作業になるともう途端にダメです。
結構だから運転は俺脊髄でやってます。
男はかっこよくなければいけない?楊さんのアンチテーゼ
楊さんが挙げたのは、男はかっこよくなければいけない、という風潮です。楊さんは自分のビジュアルについて、その風潮への「アンチテーゼ」だと笑います。
楊さんは、女らしくなりたいわけではないとしたうえで、生まれ育った中国では男らしさを求める傾向が日本以上に強いと話します。日本でいうジャニーズのような男性が中国で認められるようになったのは、ここ10年ぐらいのことだそうです。
親の世代からすれば、もうこの人たち(ジャニーズのような男性)は男じゃねえみたいな。人間じゃねえみたいな。そういう人もいますので。
楊さんは、男女はグラデーションのようなものだと考えていて、生物学的にもホルモンの分泌量が違うだけだと話します。
樋口さんは、3人とも「男だからこうしないといけない」という当たり前に疑問を持っていることを意外だと話し、楊さんも、そうした圧力はそこそこ感じると応じました。
「男は手を出しちゃいけない」を樋口さんはどう考えるのか
樋口さんは続けて、男は女性に手を出してはいけない、というよくある考え方を取り上げます。楊さんは、男も女も殴ってはいけないし、殴られたら男も嫌だと返しました。
樋口さんは、自分は絶対に女性に手を出したくないとしたうえで、「敵を作ってもいい」と前置きして持論を語ります。男が殴ってはいけないのは、暴力では男のほうが強いからだといいます。
それ(殴っちゃいけないルール)は言ってしまえば男が作ったルールだと思って。男にとって不利な状態をあえて男が受け入れているルールだと思うんですよ。
樋口さんの考えでは、そのルールを守られている側が先に破れば、ルールのない世界での平等になり、あとは個体差の話になるといいます。楊さんは、傘の話と似ていると指摘しました。
楊さんが「実際にボコボコにしたわけではないでしょう」と確認すると、樋口さんはしたことはないと答えます。そう考えてしまう、という話だと楊さんがまとめると、樋口さんも「まさにそうです」と同意しました。
いくらビンタされても男が一発も殴っちゃいけないっていうルールは絶対おかしいです。だから、でも基本的に絶対ダメですよ。
楊さんは、そもそも女性側も殴らなければいいと話し、樋口さんも「本当にそうです」と応じます。樋口さんは、ルールは常に平等であるべきだという考えを示しました。
前提
暴力では男のほうが強いため、男はあえて手を出さないルールを受け入れている
ルールが破られる
守られている側が先に暴力を振るう
樋口さんの考え
ルールのない世界での平等になり、個体差の話になる。ただし基本的に手を出すのは絶対ダメ
論理の人・樋口さんは、感情をどう扱っているのか
楊さんは、樋口さんが一番論理的だと話します。樋口さん自身も、論理でしか動いていないかもしれないと応じました。
楊さんが、論理というエンジンとアーティストというエンジンがどう共存しているのかを尋ねると、樋口さんは一度「わからん」と答え、楊さんが「急にめっちゃバカになった」と笑います。
感情で動くか論理で動くかじゃなくて、全部論理で認識する中に感情っていうパラメータがあるだけです。
樋口さんは経営判断を例に挙げます。自分が傷つくけれどうまくいくA案と、楽しいけれどうまくいかないかもしれないB案があるとき、社長の感情がマイナスになると社員のモチベーションや売上に響くため、感情も一つのパラメータとして計算に入れるといいます。
社長の感情が落ち込む
経営判断で樋口さん自身が大きく傷つく
社員に波及する
社長の感情のマイナスが社員のモチベーションに関わる
数字に表れる
最終的に売上が下がる。だから社長をある程度楽しくさせておく
楊さんも同じ回路でロジカルに考えるといい、感情はロジックの支配下に置かれているのかと尋ねると、樋口さんは「支配下に置かれてます」と答えました。樋口さんは、常に自分を客観的に見ているそうです。
客観的すぎて入り込めない悩みをどう乗り越えるか
楊さんは、客観的すぎるタイプで困るときがあると打ち明けます。フランス革命シリーズで取り上げたロベスピエール ── フランス革命期の政治家。ジャコバン派の指導者として恐怖政治を主導し、のちに失脚・処刑されましたを見ていて、入り込めるのが羨ましいと感じたそうです。
樋口さんもそれで悩んだことがあるといい、意外な乗り越え方としてコントの経験を挙げます。コントでは役を自分に憑依させるように入り込むそうです。
僕という体に、僕という魂を憑依させる。
深井さんが、それでも俯瞰で見ている自分がいるのではと尋ねると、樋口さんは、ステージの上では俯瞰を消そうと思って入っていると答えます。深井さんはそれができないと話します。
レースゲームで運転席目線か車体を上から見る目線かってあるじゃないですか。僕ポッってボタン押したら運転席目線にパンってカメラが切り替わるんですね。
深井さんが「訓練で?」と尋ねると、樋口さんは訓練だと思うと答えます。舞台では観客にお尻を向けてはいけないため、感情的に動きながらも客観的なカメラで自分を見ていて、どちらかを選ぶのではなく100と100で2人いると説明しました。
音楽と芸人に見る「没頭しながら俯瞰する」力
樋口さんは、音楽を演奏しているときも同じだといいます。体で乗っている自分、楽器を動かしている自分、客席から見ている自分が同時に動いているそうです。
ここで100出したら次のギターソロ行った時に100出せないから、ちょっと動きを抑えてとかいうのを没頭した中でやってるんですよ。
コントや演奏で感情的に入り込み、リズムに乗っている
観客にお尻を向けない、次の構成やギターソロに向けて力を配分するなど、客観的に見ている
深井さんと楊さんは、自分たちにはまったくできないと話します。楊さんは演技や学芸会が苦手だといい、樋口さんから「イントロコール下手くそだったもんね」といじられていました。
樋口さんは、テンションの上下をコントロールする訓練をすると伸びると考えています。収録の合間に話していた芸人の例では、楽屋でタバコを吸いながら翌日の入り時間を話していた人が、ステージに立った瞬間に一気に切り替えるといいます。
それって嘘ついてないですから、自分に。全く嘘ついてないんですよ。その自分も本気なんでっていうのがありますね。
最後に樋口さんは「まとまったようでまとまってないですけど」と締め、3人が互いにお礼を言って番外編は終わりました。
まとめ
傘、説教、運転、男らしさという身近な「当たり前」から始まった雑談は、行為がルールになると意味が変わるという樋口さんの線引きや、感情を論理のパラメータとして扱い、没頭と俯瞰を同時に持つという話へと広がっていきました。
- 樋口さんは、傘を持つことやおごることを自分から進んでやる一方、当事者から強要されるとルールになり、意味が変わると考えている
- 深井さんは、一方的に長く伝えられる話や長時間の運転に集中できず、インタラクティブなやり取りなら問題ないと話す
- 楊さんは、男はかっこよく男らしくあるべきという風潮に疑問を持ち、男女はグラデーションだと考えている
- 樋口さんは、感情を論理の中の一つのパラメータとして扱い、コントや音楽では没頭と俯瞰を同時に保っている




