鼻声と髪の戦い、19万再生の報告から始まる回
コテンラジオのガンディー編第1回は、パーソナリティの樋口聖典さんが完璧な鼻声で登場するところから始まります。深井龍之介さんも寝不足で、3人中2人が不調という状態です。
いや、僕、大人の風邪って必要なくないですか?っていう。
一方、楊睿之さんは絶好調だといいます。楊さんは髪を剃っておけば調子が上がるそうで、2週間に1回、自分の髪の毛と「ミリ単位の戦い」をしていると明かします。
そうですね、2週間に1回自分の髪の毛に対してミリ単位の戦いを僕仕掛けてるんですよ。
雑談のあと、樋口さんは番組の数字を発表します。YouTubeとポッドキャストの総再生回数が19万を超え、Spotifyのポッドキャスト日本国内総合ランキングで20位を突破、収録時点では17位ほどまで上がっていました。
樋口さんはありがたさと同時に恐怖もあると語り、深井さんも「最初は適当だった」始め方から、プロ意識が求められる段階に来たと応じます。
なぜ今ガンディーなのか。ヒトラーとの対比
今回のテーマは「ガンディー、偉大なる聖者の行進」です。ヒトラー編以来となる、一人の人物に焦点を当てたシリーズで、インド建国の父として知られるマハトマ・ガンディーの人生を扱います。
深井さんがガンディーを選んだ理由は、直前に扱ったヒトラーとの対比にあります。ガンディーはヒトラーと同時代を生きながら、真逆のエネルギーの出し方で世界を変えた人物だというのです。
全く同時代のインドに、それ(ヒトラー)と全く逆のエネルギーの出し方で世界を変えた人がいるというのが、もう僕の中でとても面白い。
歴史って比べると面白いんですよ。で、ヒトラー聞いた後にガンディーとか聞くと、よりお互いのことがわかるんですよね。
怒りをエネルギーのベースにして相手を攻撃する。言葉で人を動かした
怒りの逆のエネルギーで世界を変える。暴力は使わず使わせない。言葉ではなく行動
樋口さんは「怒りの逆」を「愛か」と受け止めます。深井さんは、ガンディーの姿勢として非暴力不服従 ── 暴力を使わずに、不正な法や支配に従わない抵抗のあり方。ガンディーが指導したインド独立運動の中心的な方法として知られますという言葉を挙げます。
暴力なしで植民地が独立するという「謎の挙動」
深井さんによると、ガンディーはインドで生まれ、第1次世界大戦前に生まれた、ヒトラーより少し年上の世代の人物です。当時のインドはイギリスの植民地で、インドの人々は搾取され、すごく貧しくなっていました。
深井さんは、これまでの歴史で支配を覆す方法は、基本的に暴力しかなかったと指摘します。フランス革命では、貴族に搾取された民衆がバスティーユ ── パリにあった要塞兼監獄。1789年7月14日に民衆が襲撃し、フランス革命の象徴的な出来事となりましたを襲撃し、恐怖を与えることで状況を変えました。
ここで史上初めて恐怖と全く逆のやり方で独立するっていう謎の挙動が歴史上初ここで起こったんですよ。
深井さんは、ガンディーは教科書に「非暴力で独立を成し遂げた」とさらっと出てくるものの、よく考えると「どうやって?」となる存在だと語ります。樋口さんは、ヤンキー同士の喧嘩にふらっと行って争いが収まるような話だとたとえます。
深井さんがとくにすごいと強調するのは、ガンディー一人が非暴力を貫いたことではありません。イギリス側は暴力を振るってくるのに、怒りを抱えた普通のインドの人々にも暴力で返させなかった点です。
肩書きのない男が時代を動かした
樋口さんは、ガンディーの立場を尋ねます。国の役人でも会社の経営者でもなかったのか、という質問です。
深井さんの答えは「何でもない」というものでした。ガンディーはもともと弁護士でしたが、独立運動のころにはほとんど肩書きがありませんでした。のちのインド政府の元となるインド会議派 ── インド国民会議派。1885年に結成された政治組織で、独立運動の中心となり、独立後も長く政権を担いましたの中にはいたものの、強い役職はなく、ひたすら尊敬されているだけの存在だったといいます。
その辺で説教ぶっこいてるおじさんなんだけれども、何もしてないけど、すごい時代を動かしたという人ですよね。
ここでもヒトラーとの対比が出てきます。ヒトラーは言葉で人を動かしましたが、深井さんによればガンディーは話すのが決してうまいわけではなく、言葉ですらなく行動の人でした。
非暴力不服従は「耐える」ではなく「超積極的」
非暴力不服従という言葉からは、耐え抜く、何もしないといった受動的な印象を受けがちです。深井さんは、ガンディーを調べると、実際はその逆だとわかってくると話します。
彼がやっている非暴力不服従っていうのは、新しい世界の変え方として、愛の力を使った新しい世界の変え方みたいな定義、彼してて、それを超積極的に使っていくみたいな、そういう概念なんですよ。
ガンディーはインド人を規制する不正な法律に決して屈せず、めっちゃ戦っていたといいます。ただし、絶対に暴力を使わないという一線だけは守りました。
具体的なアクションとして、深井さんは法律の無視、納税の拒否、デモを挙げます。さらに「非協力」という考え方もありました。
人口の差
当時のインドは人口3億数千万人で、遠く離れたイギリスより多い
統治の条件
イギリスはインド人の協力がなければ植民地統治ができない
非協力
不正な支配に協力しない。軍や役人の仕事を辞め、交通機関も止まる
独立
協力をやめれば絶対に独立できる、とガンディーは主張した
深井さんによると、給料がもらえなくなるのに、本当に仕事を辞める人が続出しました。ストライキも行われました。
後のシリーズで重要になる塩の話も予告されます。イギリスは生活必需品である塩の専売権を持ち、インドの人々が勝手に作ったり売ったりすることを禁じていましたが、ガンディーたちはそれも無視しようとしました。
逮捕されればいいじゃんって。どんどん逮捕されて。でもその逮捕も人数が多すぎて刑務所が溢れかえるんですよ。
「捨て駒」ですらない。私とあなたは同じだという思想
樋口さんは、逮捕されたくない、給料が欲しいという個人の感覚からは考えられないと驚きます。フランス革命と同じように、インドを救うための捨て駒になる覚悟なのかと尋ねます。
深井さんは、インドの人々は捨て駒という感覚でも、インドを守るという感覚でさえなかったと答えます。人類全体のため、というより、そもそも何かのためではないというのです。深井さん自身も理解が難しかった部分だと認めています。
深井さんは、ガンディーがイギリスの高級役人に語ったことを紹介します。植民地支配はイギリスの民にとってもよいことではなく、インドにとってよくないことはイギリスにとってもよくない、という主張です。
だからみんな実は私とあなたは同じなんですっていう話を彼はずっとしてるんです。
ガンディーの考え方には、すべてが自分の中に入っているという、ヒンドゥー教の概念が入っていると深井さんは説明します。この感覚からいくと、敵対するという概念そのものがなくなり、どちらかの利益という発想もなくなります。
樋口さんは、ガンディーの世界観を一つの生き物の右手と左手にたとえます。腹が立つからといって、右手で左手を殴ったりはしない、という理解です。
イギリスにはあなたが左手で僕たちが右手だとしたら、同じ人間なのに右手潰しますかってみたいなことを言って。僕が言ったら誰も聞かないですけど、ガンディーが言ったら聞くんですよ、みんな。
恐怖を起こさせない一人の人間
ガンディーの言葉になぜ説得力があったのか。深井さんは、ガンディーが本当に攻撃性を持っておらず、恐怖も持っていなかったからだと語ります。
フランス革命編やヒトラー編では、「生活が維持できないかもしれない」という恐怖が怒りや攻撃性に結びつき、ヒステリックな集団活動になる現象が繰り返し描かれてきました。
恐怖が怒りや攻撃性に結びつき、ヒステリックな集団活動になる
その連鎖を意図的に起こさせないようにしてインドを独立させた
樋口さんは、ガンディーを活動家だと思っていたが、ほぼ宗教家に近いと感想を述べます。深井さんは、宗教家と哲学者の間ぐらいで、だいぶ宗教的だと応じます。
樋口さんが「ブッダに近い」と言うと、深井さんも同意します。ガンディーはヒンドゥー教徒ですが原理主義者ではなく、さまざまな宗教を学び、聖典を引用し、晩年はイスラム教徒との融和を深く考えていたといいます。
さらに深井さんは、ガンディーがもともと弁護士で、ロジカルな人物だったと付け加えます。
非暴力は仮説だった。日常で重ねた「実験」
深井さんが紹介するガンディーのもう一つのスタイルは、仮説と実験です。非暴力不服従で必ず独立できるという考えは、確信はあっても最初は仮説でした。
樋口さんは「非暴力不服従の実験のやり方がわからない」と戸惑いますが、深井さんによれば、説明を始めるとそれだけで1回分になってしまうため、後の回に持ち越されます。
理解の鍵になる3つの言葉
第1回の最後に、深井さんはガンディーを理解するための3つのキーワードを挙げます。いずれもサンスクリット語の言葉で、今後のシリーズで繰り返し出てくると予告されます。
1つ目は、ヒンドゥー教の聖典バガヴァッドギーター ── 古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』の一部をなす聖典。戦場での王子と神の対話の形で、義務や行為のあり方を説きますです。深井さんによると、ガンディーの行動指針や、これから出てくる活動・信念の基礎は、この聖典から濃厚に来ているといいます。
樋口さんが「バガボンド」と聞き間違えて深井さんにつっこまれる場面もあり、難しい言葉の連続に笑いが挟まります。
2つ目のサティヤーグラハ ── サンスクリット語で「真理の把握・堅持」を意味する造語。ガンディーが南アフリカでの運動の中で非暴力抵抗の呼び名として広めましたは、真理を堅持するという意味です。歴史上誰も実現したことのない方法だったため、ガンディーは人々に伝えるためにこの名前をつけました。
開始秒
3つ目のアヒンサーは、愛、不殺生、非暴力などと訳される言葉です。
ヒンドゥー教の聖典。ガンディーの行動指針や信念の基礎
「真理を堅持する」。非暴力不服従の活動・方法にガンディーがつけた名前
愛、不殺生、非暴力などと訳される
次回からは、ガンディーがどのように生まれ育ったのかに話が進むと予告され、第1回は締めくくられます。
まとめ
ガンディー編の第1回は、ヒトラーと同時代に、怒りや恐怖ではない力でインド独立を導いた人物の全体像を示す回でした。肩書きのない一人の人間が、普通の人々にも暴力を使わせずに不正に抵抗させたことが、深井さんの語る「謎の挙動」の核心です。
- ガンディーはヒトラーと同時代に、怒りとは真逆のエネルギーで世界を変えた人物として紹介された
- 非暴力不服従は受動的な我慢ではなく、法の無視、納税拒否、非協力などを伴う超積極的な戦い方だった
- 「私とあなたは同じ」という思想が、敵対という概念そのものをなくす基盤になっていた
- ガンディーは弁護士出身のロジカルな人物で、非暴力という仮説を日常の実験で確かめていた
- バガヴァッドギーター、サティヤーグラハ、アヒンサーが今後のシリーズを理解する鍵になる





