すべての電化製品に入っている半導体とは何か
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科学技術の歴史編、12回目にして最終回のテーマは半導体とAIです。深井さんはまず、半導体が身の回りのあらゆる機器に入っていることから話を始めます。
半導体を知らない人いるかもしれないんですけど、電化製品全部に入ってます。ほぼ全てに入ってますね。
携帯電話、車、飛行機、テレビ、洗濯機。深井さんは、半導体のお世話になっていない人はいないと説明します。すでに社会のインフラになっているという見方です。
半導体という物質の特徴は、電気の流れ方が「半端」なことにあります。よく通す物質と通さない物質があるなかで、半導体はその中間にあたります。
(半導体は)流したり流さなかったりできるんです。
この性質によって、デジタルの0と1を管理できるのだと深井さんは述べます。半導体 ── 電気を通す導体と通さない絶縁体の中間の性質を持つ物質。電気の流れを制御できるため、コンピューターの計算や記憶の基礎になっている。
トランジスタからシリコンバレーへ、半導体をめぐる系譜
半導体が最初に本格的な形をとったのは、1940年代末に登場したトランジスタでした。開発が進められたのは、電話を発明したアレクサンダー・グラハム・ベルが作ったベル研究所だと深井さんは紹介します。
なんかいろんな歴史勉強するとね、必ずどこかで誰かが繋がってて面白いですよね。
トランジスタは真空管の代わりになるものでした。真空管は電気信号の形を損なわずにエネルギーを大きくする装置ですが、白熱電球のように切れてしまい、交換の手間がかかります。トランジスタは小さく、安定し、長く使えました。
この技術はソニーの創業者・井深大さんによってラジオにも応用されました。それまで真空管を使い、発熱も大きく巨大だったラジオが、携帯できるほど小さくなっていきます。
初期のトランジスタはゲルマニウムを材料にしていましたが、やがてシリコンに変わります。シリコンは化学的に安定した薄い膜を作れて機能性が高いことがわかってきたためです。
シリコンでのトランジスタ製造の中心人物の一人がショックレーで、彼がカリフォルニア州に作ったショックレー半導体研究所がシリコンバレー ── アメリカ・カリフォルニア州にある、半導体やIT企業が集中する地域の通称。世界の技術産業の中心地の一つ。の始まりだと深井さんは述べます。
その研究所をスピンアウトした8人がフェアチャイルドセミコンダクターを作り、そのうちの一人ノイスが後にインテルを創業します。深井さんは、自身のファーストキャリアが半導体製造だったこともあり、この分野に詳しいと語ります。
集積回路とムーアの法則、指数関数的に伸びる計算能力
初期の製法では、シリコンの薄い円盤(ウェハー)の上にトランジスタを作り、バラバラに切り離して一つずつ使っていました。やがて、切り離さずにウェハー上で配線して回路にする発想が生まれます。
一つの半導体の上に複数の電子回路を載せれば、計算などいろいろな機能を持たせられます。電卓なら、一つのチップの中に電卓機能をすべて入れてしまえるという考え方です。これが集積回路です。
集積回路では、どれだけ小さいところにどれだけ多くの回路を作るかが問われます。回路の数が多いほど機能が増し、計算速度も上がるためです。
ちっちゃくする戦争になるんですね。
この集積回路の発展は、直線的な右肩上がりではなく指数関数的でした。この成長を予測したのがムーアの法則 ── 半導体の集積回路上の素子数が一定期間ごとに倍増していくという経験則。インテル共同創業者ゴードン・ムーアが提唱した。です。
今んとこマジでずっとムーアの法則に沿ってずっと発展してんすよ。だから十年前のパソコンとか使い物になんないでしょ、機能的に。
楊さんは、それを発見したムーアもすごいし、実際にその通りに動いている現実社会もやばいと驚きます。深井さんは、そろそろ天井到達説もあると添えつつ、機能が伸び続けてきたことのすごさを語ります。
楊さんは、前回学んだ原子力から原爆までのスピード感を踏まえると、こうなるのもわかると応じます。そのうえで「どうなっていくんや。怖い」と率直な感想を漏らします。
鉄が硬くなっただけで社会は変わった。まだ来ていない「二次・三次の波」
コンピューターの頭脳であるCPUを一つの半導体で実現する大規模集積回路(LSI)も登場します。その機能がムーアの法則で伸び続けることで、コンピューター全体の発展が支えられていきます。
深井さんは、半導体の発明と発展は現代社会と切り離せないと述べます。ドローン、ロケット、飛行機の自動運転、スマホなど、あらゆるものが凄まじい恩恵を受けているという見方です。
ここで深井さんは、鉄が少し硬くなっただけで社会構造が変わってきた歴史を引き合いに出します。ムーアの法則でこれほど計算能力が上がるなら、社会がどうなるか想像がつかないというのです。
だから僕たちまだ経験してないレベルの波がこれから来る可能性ありますよね。
コテンラジオを配信できているのも半導体があるからだと深井さんは言います。ただしそれは技術の「一次因果」にすぎず、火薬が中央集権国家を生んだような二次・三次の変化は、まだ起きていないと考えられます。
石油を超える戦略物資。半導体をめぐる戦争のリスク
深井さんは、半導体を作るにはレアメタルが必要で、金属の歴史で扱ったレアメタルやレアアースがここに関わってくると指摘します。話は、半導体をめぐる戦争のリスクへと進みます。
クリス・ミラーの著書『半導体戦争』を引きながら、深井さんは半導体が石油を超える世界の最重要戦略物資になっていると紹介します。ただし2020年ごろの本のため、その後の変化はあるかもしれないと補足します。
同書によれば、第二次世界大戦を決着させたのは鉄やアルミニウム、冷戦を特徴づけたのは核でした。そして現在の米中対立を制するのは、おそらく計算能力だろうと述べられています。
計算能力はAIの機械学習、ミサイル制御、自動運転、武装無人機など、あらゆる軍事利用に必要です。半導体なしには軍事的に強くなれないという論です。
一方で、iPhoneを支えるBluetoothもバッテリーもWi-Fiもカメラもすべて半導体で動くのに、Appleはチップを製造していないと深井さんは指摘します。ファブレス ── 自社では工場を持たず製造を外部に委託し、設計や開発に専念する企業形態。Appleなどが代表例。の形です。
この本が書かれた当時、世界最先端の半導体を作れるのは台湾のTSMC社しかないとされていました。深井さんは、それが1社に集中していることのリスクを本が問うていると紹介します。
これ確か熊本に工場できたやつですよね。
楊さんが熊本の工場に触れると、深井さんは分散させたほうがよいと応じます。ただし、TSMC社1社だけを狙って戦争が起こるとは自分は思わないとも述べ、最先端を作れるのがその瞬間1社しかない状況は起こりうると整理します。
深井さんは、すでに半導体が不足しており、売れるのに作れないパソコンもある現状にも触れます。世界がこの不足に困っているというのです。
人間の知能を機械で再現できるか。AI研究の始まりと3つのブーム
最後のテーマはAI、人工知能です。深井さんは、AIとは人間ができることを機械にさせようとするものだと述べます。とりわけ、指示なしに自ら学習し進歩する力を狙っているという見方です。
始まりは意外に古く、1956年です。数学者のマッカーシーとミンスキーがダートマス大学で夏季研究会を開き、知能のあらゆる側面を正確に記述すれば機械にシミュレーションさせられるのではと論じました。
慎重に選ばれた科学者の一団が協力して一夏かけて取り組んだらできるんじゃね?とか言ってるんですよ。
その後、AIは3つのブームを経ます。第1次は1970年頃までで、探索と推論を得意とし、チェスなどに役立ちました。第2次はエキスパートシステムで、専門家の判断をあらかじめプログラムしようとしましたが頓挫します。人間の判断がいかに複雑かが逆にわかった形です。
ディープラーニングとAlphaGo、人間の理解を超える一手
第3次AIブームは2012年から今に続いています。深井さんは、その決定打がディープラーニング ── 人間の神経細胞のネットワークを模した人工ニューラルネットワークを多層に重ね、データから自ら特徴を抽出して学習する機械学習の手法。の登場だったと述べます。
たとえば猫の画像を猫と判別することは、コンピューターには難しい課題でした。機械はRGBで理解しており、人間のように特徴を捉えていないためです。ニューラルネットワークを模した仕組みで、機械が自ら特徴を抽出し判断できるようになりました。
このディープラーニングで最もセンセーショナルだったのがAlphaGoです。チェスではすでに人間が負けていましたが、囲碁はまだ先とされていました。
(AlphaGoが)解説ができない勝ち方したんですよ。何その手みたいなやつを打ってきて、あ、これミスったんでしょうねとか言ってたら、後々その手が強いっていうのがわかってくるみたいな。
2016年、AlphaGoは当時世界一だった韓国の棋士イ・セドルに勝ちます。人間には理解できない一手が、後から強いとわかる現象が起きたのです。深井さんは、このあたりで人間の知性を超えるかもしれないという感覚が強く出てきたと振り返ります。
近年はChatGPTのようなLLM(大規模言語モデル)も登場しました。膨大なデータを与えると、あるところから急に質的に転換し、何を聞いてもちゃんと返してくるようになったといいます。
AIは核より危険か。第一人者たちが鳴らす警鐘
AIの進化を受けて、2014年ごろから危険性に警鐘を鳴らす人が出てきます。深井さんは、MITの理論物理学者テグマークを中心に「生命の未来研究所」が結成されたことを紹介します。
オックスフォード大学の哲学者ボストロムは『スーパーインテリジェンス』で、人類よりはるかに賢い存在をどう制御するかを考察しました。この本を読んだイーロン・マスクは、AISは核より危険かもしれないと発言し話題になります。
マスクは2015年に生命の未来研究所へ1000万ドル(約15億円)を提供し、さらにサム・アルトマンらとOpenAIを設立しました。ChatGPTや画像生成のDALL・Eを生んだ流れです。ただしマスクは途中で離脱しています。
ノーベル物理学賞を受賞した人工知能研究の第一人者ジェフリー・ヒントンも警鐘を鳴らします。彼は2013年からGoogleに携わっていましたが、2023年5月に退社しました。
知能を宿した機械がもたらすリスクについて自由に語りたいからつって(ヒントンさんは)辞めたらしいよ。
楊さんは、利害関係があると危険性を語りにくくなるのだろうと受けとめます。深井さんは、ヒントンが強力なAIの開発一時停止を求める公開書簡に署名したことも紹介し、第一人者たちが本気で危険だと考えている点を強調します。
今後20年以内に私たちは自分たちよりも知的なものを開発することになるでしょう。それがどうなるのか全くわかりませんって言ってるってことだよね。
深井さんは、想像もできないからこそ、もしヤバかった場合にヤバいのだと整理します。ヒントンは、AIが人から制御権を奪わないよう今懸命に取り組むべきだとも述べています。
自律性という恐怖。低確率でも一度起きれば取り返しがつかない
深井さんは、AIが今までの技術以上にリスクが高いとされる理由を、その自律性に見ます。ターミネーターやスカイネットのように、自律性があるから反抗しうるというイメージです。
AlphaGoが独力で考え出した一手を人間が理解できないように、AIは人間に理解できない挙動をする可能性があります。囲碁を深く理解する人にしか意味がわからない手を、自律的に打ってくるコンピューターは大丈夫か、という問いです。
さらに深井さんは、確率は低くても一度起きれば取り返しのつかない事態を挙げます。大規模サイバー攻撃、自律ロボットによる自動化された戦争、人工ウイルスによるパンデミックなどです。
一方で恩恵も大きいと深井さんは補います。病気が治ったり、AIによる医師の診断ができるようになったりする可能性があるというのです。
「AIは脅威にならない」4つの楽観論とその限界
深井さんは、AIが脅威にならないとする複数の説も紹介します。1つ目は、技術革新で仕事が奪われ失業者が溢れるという主張は歴史的事実に基づかない、という説です。
一時的な失業は起きても、人々が永久に失業したままにはならず、新しい仕事が生まれるだけだと説明されます。20世紀に消えた写字生、ろうそく職人、電報のメッセンジャーボーイなどが例に挙げられます。
その仕事が存在しないからといって、世界は止まるみたいなこともしない。
2つ目は、技術革新の速さには上限があるという説です。革新が起きても、そこから利益を引き出せない限りは進まないという論です。仕事がすべて奪われれば人々の収入が減り、会社の売り上げも減り、AIの発展自体が止まるだろう、というわけです。
3つ目は「人類学的惰性」です。人間は便利な技術が登場しただけでは簡単に習慣を変えない、という説です。Skypeが2004年に登場しても、みなが即リモートワークをしたわけではない、と深井さんは例を挙げます。
深井さんは、この惰性こそ自分が言ってきた「技術で社会構造が変わるはずなのに、人間の認知がボトルネックになる」状態だと重ねます。ただし3つとも、AIが核戦争を起こさない理由にはなっていないとも述べます。
時間軸のスパンをもうちょっと広げると、またちょっと結論の毛色が違うかもしれないね。全員が行動を変えることにはコストがかかるけど、本当に超一部のイノベーターだけで世界がガボって変わる可能性あるからわかんないですよね。
「そもそも人間はそんなに頭がよくない」という逆張りの謙虚さ
深井さんが最も面白かったと語る楽観論は、「そもそも人間はそんなに頭がよくない」という説です。人間を超える知能を恐れる前に、人間自体が最初からそれほど賢くない、という指摘です。
これなんかいいな。これ一番いいよ。
深井さんは、人間はすでに電卓より計算が遅く、チェスも囲碁も機械に負け、翻訳もディープラーニングに及ばないのに、それでどうにもなっていないと説明します。楊さんはスチュワート・ラッセルの名を挙げつつ、この説にほっこりすると応じます。
逆張りの謙虚さがみたいなのがあるよね。
深井さんは、人間が優れているのは個々の知性ではなく集合知だと述べます。みんなで考え、経験を蓄積し、連携する力がすごいのであって、頭そのものはよくないという説です。
この説はさらに、自分たちより賢い存在に支配される恐怖には合理的理由がないのでは、と続きます。あるいは支配されても幸せかもしれない、という論です。楊さんは、食べログのランキングに従う自分を例に、すでにAIでない何かに支配されているとも言えると返します。
技術の歴史は道具の歴史。認知そのものを拡張してきた人間
エンディングでは、シリーズ全体を振り返ります。樋口さんは、科学技術の歴史は道具の歴史でもあると述べます。石を削って物を切る時代から、人間は道具とともに歩んできました。
ここまで来たからこそホモサピエンスっていう生き物の他所ゆえんだなと思いましたね。
深井さんは、人間は想像できるものを必ず作ってきたと感じたと語ります。チューリングマシンのように、頭で考えたものを誰かが後から作る例が繰り返されてきました。
樋口さんは、望遠鏡や顕微鏡を挙げ、道具を通して見た世界のほうが現実に近いという価値転換が前提として必要だったと指摘します。ガリレオが望遠鏡で天体を覗いて以降の認知の転換です。
道具を通して理解できた世界の方が実は正しいんだっていう認識ですよね。
深井さんは、人間が考えるときの身体性の中に道具が含まれ、道具が体の一部になっているのではと応じます。剣の達人が刀の先まで自分の感覚として捉えるように、技術を進めた人たちは、私たちが自分と思わない領域を自分のように扱っていたのかもしれない、という見方です。
僕らがスマホを難しさを感じることなく操作できているように。彼らは金属の組成を扱えるのかなみたいな。
純粋な一歩の積み重ねが、人類の巨大なうねりになる
楊さんは、技術を進めた人たちが儲けたい、純粋に知りたいという動機で、目の前の一つの問題に取り組んでいたイメージを語ります。個人には小さな一歩でも、人類から見れば巨大な歩みになる、というのです。
楊さんは、その積み重ねをダーウィンの進化になぞらえます。誰もが今を一生懸命生きているだけなのに、気づけば全体としてここにたどり着いた、という感覚です。
さらに楊さんは、初期の車が10年で70台しか売れなかった例を挙げ、それでも0台ではなかったことに注目します。金持ちが乗りたい、自慢したいという理由で買った挙動も、技術の発展に寄与していたと述べます。
研究者とか技術者だけではなくて、そういうなんかこう、受取手側とかもめちゃめちゃ関わってるなって思ったですね。
科学は直感に抵抗する態度。デフォルトは今も直感である
深井さんは、自身の学びとして、科学革命の前後で人の思考回路が全く変わったことを挙げます。ただし個人レベルでは、今も古代的な直感で生きる人もいると指摘します。
科学は、直感よりも実証実験の結果を大切にする態度です。ただし人間は科学的態度だけでできているわけではありません。世界的には科学の権威が直感より高い状態になっているものの、それ自体が大転換だと深井さんは述べます。
デフォルトは直感の方なんですよね、アリストテレスとかでさえ。
深井さんは、自分でも何かを正そうとするとき実証実験はしないと認めます。だからこそ、科学とは直感に抵抗する感覚なのだ、という気づきが面白かったと語ります。
このまま滅びるのか。技術の軍事転用という歴史的再現性
深井さんが最も大切だと感じたのは、世界を終わりにしかねない力を人類が持っている点です。確率は低くても一度起きれば終わる事態を、どう防ぐかという問いです。
深井さんは、新しい技術で軍事転用できるものを転用しなかった例は歴史上見当たらないと述べます。戦って勝ったほうが優位だから必ず転用される、という再現性がある、というのです。
その再現性に対して、対策を取る科学者はいてもマジョリティではないと深井さんは危惧します。だからこそ、ホモサピエンスは愚かで、このまま滅びるのかもしれないと半ば笑い話として語ります。
なんか本当にちょっとそれ感じちゃった、正直。あ、これ滅びる系かなって思った、正直。
一方で深井さんは、恐れすぎてもバグると述べます。絶対に滅びると言い切るのも、絶対に起きないと言い切るのも極端です。起こりかねないことを「正しく恐れて正しく対処する」ことが重要だと整理します。
アクセルとブレーキ、両方ある車がいい。多様な立場を保つ意味
深井さんは、不老不死の薬を探せばヨーロッパが中央集権国家になったように、全然関係ないことを頑張った結果が社会構造を変えてしまう難しさに触れます。何を頑張ればよいのか読み切れないというのです。
楊さんは、いろんな価値観と立場が存在する状態を維持することに一定の価値があると述べます。深井さんも、一部でも反対がある世界と、誰からも反対されない世界とではパワーの出方が違うと同意します。
アクセルとブレーキ両方必要なんですよね。ブレーキがあるから思いっきりアクセル踏めるってのもあるから。
技術を推進する力だけが働く。止まる仕組みがなく、暴走のリスクを抱える
推進する力と止める力の両方がある。止められるからこそ思いきり進める
イノベーションは止められない。それでも社会構造まで考える
楊さんは、シリーズを通じて科学技術の歴史はイノベーションの歴史だと感じたと述べます。イノベーションは止められず、既得権益を守ろうとする動きもうまくいかない、という見方です。
深井さんも基本はイノベーション派だと応じつつ、補足します。江戸幕府は新規御法度によって何世代かの安寧を実現しており、それに意味がないとは言い切れない、というのです。
現代において技術を止めるっていうのは短期的自殺だと思うんですよ。その直近死にますって宣言してるのと一緒だなと思ってて。
深井さんは、フランス革命が技術を止めた反動として起き、ナポレオンが戦争で勝ちまくった例を挙げます。中長期では先進国家になる可能性もあるが、直近の生活が大きく損なわれるリスクもある、という両面です。
そのうえで深井さんは、技術は一次効果ではなく二次・三次の効果まで想定すべきだと強調します。株式会社の経営者でさえ、自分の技術が社会構造をどう変えるかまで考えていないことが多い、という指摘です。
SFを読まねばならない時代。無知の知があるだけまだマシ
楊さんは、岡田斗司夫さんの「これからはSFを読まないといけない」という話を引き、経営者こそ想像力が必要な時代に入ったと語ります。電気自動車一つとっても、単にガソリンが電気になるだけでは済まない波及効果があるからです。
話は、人文知もSFも流行りもキャッチアップさせられて大変だという嘆きから、AIに経営させたほうがよいのでは、という半ば冗談にまで及びます。深井さんは、能動的にこの社会を選んだ人はいないという事実にも触れます。
深井さんは、今の自分の状態をダニング・クルーガー曲線 ── 学び始めは自信が高まるが、知識が増えると自分の無知に気づいて自信が下がり、その谷を越えてさらに深く理解していくとされる認知の変化を表す曲線。の谷に落ちている状態だと表現します。勉強しすぎてどうすればいいかわからない状態です。
でも無知の知がないよりマシじゃない?もうマジでわかんないことだらけだの方がまだマシだと思うんですよ。認知として。
項羽と劉邦へ。次回予告と書籍紹介
深井さんは、今回参考にした書籍として総論系の3冊を紹介します。野家啓一さんの『科学哲学への招待』、北康利さんに関連するイノベーションの通史、そしてルートポートさんの『人類を変えた七つの発明史』です。難しい各論の本が多かったため、読みやすく信頼できる本を選んだと述べます。
久しぶりの次回予告として、深井さんは次のテーマが古代中国の項羽と劉邦だと明かします。構造系の準備が大変だったため、しばらくストーリー系でいくとのことです。
楚出身の項羽が活躍した時代には楚という国の将軍の家系のエリート、このエリートとチンピラ劉邦が戦って、劉邦が勝つっていう謎の現象が起こる。
深井さんは、これがコテンラジオの本編としては久しぶりの中国史だと語ります。項羽を主人公にしようかと考えているものの、これから勉強するのでまだわからないとも述べます。
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まとめ
科学技術の歴史編の最終回は、半導体からAIまでをたどりながら、技術が社会構造を変える波の「一歩目」に立つ現代を、どう受けとめるかを問う回でした。楽観論も悲観論も紹介したうえで、正しく恐れて対処すること、多様な立場を保つことの意味が語られます。
- 半導体はトランジスタから集積回路へと進み、ムーアの法則に沿って計算能力が指数関数的に伸びてきた
- 半導体は石油を超える戦略物資とされ、最先端の製造が一部に集中することが戦争のリスクとして論じられている
- AIは3つのブームを経てディープラーニングやLLMで進化し、自律性ゆえに第一人者たちが警鐘を鳴らしている
- 「そもそも人間はそんなに頭がよくない、優れているのは集合知だ」という逆張りの謙虚さが印象的な楽観論として挙がった
- 技術は一次効果ではなく二次・三次の社会構造への影響まで想定すべきで、正しく恐れ、多様な立場を保つことが重要だと語られた







