AI時代に広がる「漠然とした不安」
番組はまず、多くの人がAIの登場に対して抱く「漠然とした不安」から始まります。木原さん自身はあまり不安ではないと言いますが、世の中には自分の仕事や立場がどう変わるのか見えず、目をそらしている人が多いのではないか、という問題意識がありました。
きっかけになったのは、けんすう古川健介氏。連続起業家として知られ、ネットサービスやAIに関する発信を数多く行っている。さん、深津さん深津貴之氏。UXデザイナー・クリエイティブディレクター。生成AIの活用法についての発信で広く知られる。、小原さんが手がける新著。AIの時代を生きるために「AI×自分」の戦略を考えようという、いわゆるメタスキル個々の知識やスキルの上位に立つ、それらを使いこなすための「スキルを扱うスキル」。俯瞰して構造を捉える力などが含まれる。をテーマにした本です。
木原さんは、この本が売れる土台には「めっちゃ変わってしまうことに対して自分どうなるんだろう」という不安があるはずだと指摘し、そんな人たちはどうすればいいのかを小笠原さんに問いかけました。
漠然と不安を持ってる人が多いんじゃないかなと。そんな人たちにどうしたらいいの?っていう話をしたいと思ってます。
知識量では勝てない。カギは「構造で捉える力」
小笠原さんの見立てはシンプルです。三人が本を書いているなら、内容はきっと「ちゃんと構造で捉えろ」という話に行き着くだろう、と。そしてこれはAIが出てくる前から、うまくいく人がやってきたことだと言います。
思考できる別の存在=AIが登場したことで、知識の「量」では人間は圧倒的に敵わなくなりました。やみくもに努力して知識を積んでも勝てない。だからこそ、構造を把握できない人は本当に厳しくなる、という指摘です。
興味深いのは、小笠原さん自身が「自分の知識量は薄い」と語る場面です。ちょいちょい知っていることが「こういう座標にあるな」という立体(構造体)を持っていて、「この辺かな」と当たりをつけて調べながら話しているだけだと言います。自らを軽量のLLMパラメータ数が少なく動作が軽い大規模言語モデルのこと。ここでは「密度は低いが、幅広く対応できる状態」の比喩として使われている。のようだと表現しました。
密度の高い点を大量に打つ。細部まで正確に覚えようとする。
「犬には犬種がある」程度の粒度。細かいことは流れの中で調べて補う。
たとえば「犬には犬種がある」くらいは知っている。でも「トイプードルは毛が抜けにくい」といった細部は、会話の流れの中でその都度調べて知ればいい ── その程度の粒度だと言うのです。ある程度の密度の知識さえあれば、構造化する土台としては十分だ、というのが小笠原さんの考えでした。
点と点をつなぐ ── メタに俯瞰するとは何か
構造で捉えるとはどういうことか。小笠原さんは大学を例に挙げます。大学がそもそもどう成り立ったのか、今はどうなのか ── これが「幅」。その間にどんなターニングポイントがあり、誰がどう思って作ったのか ── これが「時間軸の高さ」。こうした軸で物事を見ると、離れた出来事同士がつながる瞬間があると言います。
たとえば幕末の歴史が好きだとしても、それだけでは学校とはつながりにくい。しかし松下村塾幕末に吉田松陰が主宰した私塾。門下から明治維新や新政府で活躍する人物を多く輩出したことで知られる。に注目すると、そこにいた人々や薩摩の同世代が日本の元勲になっている事実が見えてくる。「そこで何が教えられたのか」という問いへとつながっていく。これが「点と点をつなげる力」だと語ります。
木原さんが「AからZは分かるが、仕事ではどう構造化すればいいのか」と尋ねると、小笠原さんはこう答えます。AからB、BからCと知識の順番があるとき、「Bが分からないとCに行けない」と思い込む人がいる。でも一歩引いて上から見れば、「Zまで行けばいい」と分かる。ならばBが分からなくても、分からないまま先に進めばいい ── これが「メタに俯瞰する」ということだと説明しました。
「Bが分からないとCに進めない」── 目の前の一手にこだわって止まってしまう
「ゴールはZ」── Bが分からなくても先に進める。全体から逆算して動ける
「Fで止まる人」が多い理由
小笠原さんは「Fぐらいで止まってる人がめっちゃ多い」と言います。これを分かりやすく言い換えるなら、「目的はそこじゃないでしょ」という状態です。例に挙げたのは広告のコンバージョンWeb広告やマーケティングで設定する「成果地点」。資料請求、申込、購入など、何を成果とみなすかで施策全体が変わる。設計。メタに見れば「本当の目的地はそこじゃない」というズレがよく起こります。
大学の学生募集で考えると、本来のゴールは長い流れの先にあります。ディプロマ(教育目標)に合う学生に接点を持ち、大学の良さに気づいてもらい、オープンキャンパスで判断材料を提供し、選抜を経て入学してもらい、望む進路へ送り出し、卒業後も関わり続けてもらう ── ここまで見えていればやるべきことは決まってきます。
ところがFで止まっている人は、「とにかくいっぱい呼べばいい」「有名なタレントを呼んで説明会を聞かせよう」「資料請求を増やせば入学者も増える」といった発想になりがちです。木原さんも、多くの大学がSNSのフォロワー数をKPIにしがちだと共感します。「何のため?」という問いが抜けたまま、数字だけを追い求めてしまう ── これはまさに「Bあたりで止まっている」状態だと二人は指摘しました。
資料取り寄せを増やせばいいんだみたいな。いや、そういうこっちゃないよねみたいな。
データは特別でなくていい ── AIの本当の使い方
ここで話はAIの得意分野に及びます。小笠原さんは、AIによって「シミュレーションができるようになった」ことが本質だと言います。将棋やチェスでAIに人間が勝てないのは、圧倒的なスピードと回数で分岐を予測できるから。大学の学生募集も、突き詰めれば「どうすれば学生が入りたいと思う大学になるか」をシミュレーションすればいい、という構造の話に還元されます。
木原さんは当初、「自分たちのプロセスがデータ化されていればAIで構造化しやすい」「他大学に比べてデータが多いことが優位性だ」と考えていました。しかし小笠原さんはここに切り込みます。「その個別のデータ、要ります?」と。
「選ばれるプロダクトを作り、使ってほしい人に届け、興味を持ってもらい、ジョインしてもらう」という事例は世の中に山ほどある。だから自分たちを特別だと思ってはいけない、と小笠原さんは言います。これもまた「一歩引いて見る」=メタスキルの一種です。
従来は計算回数を減らすために正確なデータが欲しかった。しかしAIなら百万通りのパターンを作り、「初動がこうなったから、このパターンがハマるかも」と試せばいい。小笠原さんは「百キロ出せる車で、速度制限がないのになぜ十キロで走ろうとするのか」とAIの使い方に疑問を投げかけます。危険が問題になれば制限もできるだろうが、それまでは全力で使えばいい、という発想です。
この指摘を受けて木原さんは、「自分たちのデータの優位性が逆になくなる」「AIに早く適応し、そこから新しいチャレンジをする大学が有利になる」と気づきます。着手が遅れればまずい、という危機感を口にしました。
「うまくいってる」が一番危ない
話の終盤、小笠原さんは組織論へと踏み込みます。「まだやれてない、ぐらいじゃないと新しいことにチャレンジしづらい」というのです。やれている・分かっていると思っている人は、次の新しい手をあまり打たない。そして安定した組織では、中の人が均質化・画一化し、似たようなことばかり考えるようになる、と警鐘を鳴らします。
例に挙げたのは9.11テロ2001年9月11日にアメリカで発生した同時多発テロ事件。事前に兆候を防げなかったとして情報機関が強く批判された。。事件を防げなかったCIAアメリカ中央情報局。対外的な情報収集・分析を担うアメリカの情報機関。が批判された際、職員の均質性(たとえば多くがプロテスタントであったこと)が「疑いの目を弱めたのではないか」と指摘されたといいます。小笠原さんは「あ、そうかも」と納得したそうです。
「うまくいってるって言い合ってる組織が苦手」と語る小笠原さんに対し、木原さんは「うまくいっていること自体はいいのでは」と食い下がります。この論点は決着せず、次回「組織の安定」をテーマに改めて話すことになりました。小笠原さんは木原さんに「安定がなぜ嫌なのかを次の収録までに考えてきてください」と宿題を出して、番組は締めくくられます。
まとめ
AIによって知識の「量」で戦う価値が下がる時代、人間に残る武器は物事を構造で捉え、俯瞰する力 ── 本エピソードが示したのはこの一点に尽きます。細部の点を大量に覚えるのではなく、AからZへ一本の線を引き、ゴールから逆算して動く。学生募集の例が示す通り、目の前の数字(フォロワーや資料請求)にとらわれる「Fで止まる」発想から抜け出すことが問われています。
さらに、自社データの優位性さえもAIのシミュレーション能力によって相対化される時代には、「自分たちを特別だと思わない」姿勢と、早く適応して新しいチャレンジを続ける組織の柔軟さが重要になります。「うまくいってる」という安定への警戒 ── その是非は次回に持ち越されました。
- AIの登場で知識の「量」では勝てなくなり、物事を構造で捉える力が人間の強みになる。
- 細かい点を打つより、AからZへ一本の線を引く「点と点をつなぐ力」が重要。
- 一歩引いて俯瞰(メタ視点)すれば、途中でつまずいてもゴールから逆算して進める。
- 目的を見失い途中の数字(フォロワー・資料請求)に固執する「Fで止まる」発想は要注意。
- AIは大量のパターンをシミュレーションできるため、個別データの優位性は相対化される。
- 「うまくいってる」安定は組織の均質化を招き、新しい挑戦を鈍らせる危険がある。
