謙虚な編集者は、なぜ「100万円」に踏み出せたのか
番組の冒頭は、前回のゲスト回の振り返りから始まります。前回、竹村俊助さんは、すがけんさんとの出会いをきっかけに記事の単価を大きく引き上げ、厚利少売へ転換した経緯を語っていました。
すがけんさんが印象に残ったのは、安い単価で記事を書いていた竹村さんが、「100万円にしたら?」という提案を素直に実行したことでした。
人って(高い値付けの提案を)聞いた時に、スガケンさんだからできるんでしょ、僕はできませんよとか、いろんなできない理由をやっぱり言うんで。
だってやんなきゃできないのに、やらないって言われちゃったらもう始まらないんで。
すがけんさんは、謙虚で大人しい竹村さんが「やってみます」と言えた点に、ジャンプできる人とできない人の差を感じたと話しています。川原卓巳さんも、常識のある人でも飛び込める仕組みとして厚利少売を示せた回だったと振り返ります。
後編のテーマは、竹村さんの新刊と同じ「社長の言葉はなぜ届かないのか」です。この本は、すがけんさんの著書『厚利少売 薄利多売から抜け出す思考・行動様式』の発売日の翌日に、偶然出版されたといいます。
竹村さんが本を書いた動機は、なぜ経営者の隣に広報や人事はいるのに、言葉を整理してコンテンツとして世に出す編集者がいないのか、という素朴な疑問でした。大企業の社長の顔が見えないまま変革期を迎えている今、「俺たちはこれで生き残っていく」というメッセージが求められているのではないか、と竹村さんは考えています。
竹村さんは、5年間の顧問編集者の仕事でたまった知見を広く伝えたいと語ります。お客さん集めの面もある一方で、この本を読んで顧問編集者に挑戦する人が現れてもいい、将来はWORDSに入ってくれたらうれしい、という思いも込めたそうです。
顧問編集者を広めると、価値は薄まるのか?
川原さんは、竹村さんが仕事を独占せず門戸を開こうとしている点を、厚利少売だからこそ生まれる考え方だと受け止めました。竹村さん自身は、経営者の隣に編集者が必要だということ自体がまだ知られていないので、今は独占より知ってもらう時期だと話します。
一方で竹村さんには悩みもあります。似たような人が適当な仕事をして「編集者なんて大したことない」「広報でいい」と思われるのは悔しい、という本音です。広めたいけれど価値は担保したい、という葛藤でした。
すがけんさんはこの悩みに、エルメスの例で答えます。ブランドの起源には諸説あるとしたうえで、革製品が乱立したときにエルメスが「うちは違います」と線を引いた、という話を紹介しました。
はっきり言って8年前にアドバイザーっていう名前でやって、当時アドバイザーっていう言葉もほとんどなくて。
今やアドバイザーって言葉はもう乱立していて、みんなが使うようになっていて。
すがけんさんは、それでも自分の仕事は減るどころか増えていると話します。同じ値段で始めた人の多くは3か月や半年で契約が終わる一方、すがけんさんは1つのクライアントと5年続いているといいます。
(真似されても)ワーズでやると続くよねとか、ワーズでやると高くてもリーズナブルだよねっていうものを焦点にした顧問編集者っていうマーケットが作られていくと思うんで、むしろ全然広がっていいと思います。
すがけんさんの見立てでは、真似されても、続くことが品質の証になるということです。竹村さんは「じゃあ広げます」と即答し、川原さんはこの二人のやり取りの速さに笑います。
乱立
アドバイザーや顧問編集者を名乗る人が増える
選別
同じ単価でも、品質が低い仕事は数か月で終わる
継続
質の高い仕事は長く続き、それ自体が品質の証になる
市場形成
「ここに頼むと続く」を軸にしたマーケットができる
炎上は飛行機の墜落と同じくらい珍しい
竹村さんの新刊『社長の言葉はなぜ届かないのか?』は、情報発信が気になりつつも、やるべきか、どう始めるかで迷っている経営者が最初に手に取る一冊を目指して作られています。
竹村さんの周りには、発信したいのに始められていない、あるいはやっているのにうまくいっていない経営者が多いそうです。世間ではまだ、SNSは燃えたら怖い、チャラチャラした経営者がやるもの、という見方も根強いといいます。
それでも竹村さんは、Xもnoteもツールに過ぎず、無料で多くの人に丁寧な言葉を届けるツールとしては今のところベストだと考えています。川原さんも、海外で仕事をしてきた経験から、日本はSNSへの懐疑的なバイアスが特に強いと感じると話しました。
竹村さんは本の中で、炎上を飛行機の墜落にたとえています。一件がセンセーショナルに見えるので自社も同じ目に遭うと思いがちですが、実際の確率は0.00何パーセント程度で、むしろ知られたいのに知られないケースのほうが99パーセント以上だろう、という見立てです。
飛行機は落ちるけど乗ってますよね。それ多分移動したいからどっかメリットがあるからで、なんでSNSは飛行機の墜落と同じぐらいの確率なのにやらないんですか?っていう話になりますもんね。
竹村さんは、経営のほうがよほどリスクが高いと付け加えます。さらに、危ないのはむしろ「俺は炎上しない」と思っている経営者のほうで、「炎上大丈夫ですかね?」と怯えている人には、ボリュームを上げてくださいと最近は言い切っているそうです。
もうすでに飛行機には乗っていて、つまりSNSを始めているんだけど、いやいや、全然まだタバコいけるでしょとか、いや、シートベルトしないでしょみたいな人が山ほどSNS上にいるっていうことですよね。
竹村さんはそれを「アクロバット飛行をやってるような人」と表現し、同乗する社員や広報担当はヒヤヒヤしているだろうと話しています。
テレビCMの時代と、需要を生む発信の時代はどう違う?
竹村さんは、すがけんさんの著書『厚利少売』にも発信の章(第5章)があることを意外に感じたと話し、発信は厚利少売にとって重要なキーワードなのかと尋ねました。
川原さんはこれに、テレビCMの時代との違いから答えます。
その時代ってまさに昭和的で、物が足りなくて、物さえ紹介すれば売れてた時代なんですよ。しかもテレビCMって出せば1億人に届いちゃうんで、全国民に。
でも現代ってもう物は溢れていて、欲しくもないし、なんならメルカリでも安く買えるし、物なんかそんなにいらないっていう時代に、まだ物を作って売らなきゃいけない。
川原さんによれば、今は商品を使うとどう変わるのかという本質価値まで伝える必要があります。そのためには、テレビで一方的に「いいでしょ」と言うより、買った人がSNSで「これが良かった」と口コミで広げるほうが効くといいます。
物が足りない時代。テレビCMの枠を買って紹介すれば、足りない人が買ってくれた
物が溢れる時代。使った人の口コミや発信を通じて、本質価値を伝え需要を生む必要がある
みんな供給ばっかりするんですけど、需要が生まれるっていう意味で、やっぱり発信ってものすごく大事になったんだと思いますよ。
竹村さんも、自分が厚利少売に移れたのは、すがけんさんとの出会いに加えて以前から発信を続けていたからだと振り返ります。当時フォロワーは1万人ほどでしたが、「100万円で大丈夫ですかね」と迷う竹村さんに、すがけんさんは世界中がお客さんなのだから1人はいるでしょう、と伝えたそうです。
川原さんは、プロデュースの相談を受けてきた経験から、結果が出る人と出ない人を分けるのは発信ができているかどうかだと話します。妻の近藤麻理恵(こんまり)さんも、本という形で考えやメソッドを言葉にして発信したことが今につながっている、という例を挙げました。
安い仕事でも「クレジット」が資産になる理由
竹村さんは前回の話を受けて、厚利少売を進めるうえで発信しておいてよかったと感じる点を付け加えました。たとえ『週刊文春』で3万円、別の媒体で20万円のように希望より低い金額の仕事でも、それを発信すれば元が取れる面があるという話です。
竹村さんによると、「この人、週刊文春でも書いてるんだ」「あのバズったnoteを書いた人なんだ」と知られることが次の仕事につながります。ただし、自分が手がけたと公表してよいか、クライアントの了解を取ることは欠かせないといいます。
竹村さんは、無名の人やフリーランス、個人事業主に向けて、まずクレジットを入れられるかを確かめることを勧めています。クレジットが入るなら自分の責任なので、1万円だから手を抜くのではなく、1万円だからこそ結果を出すとクレジットが輝く、という考え方です。
届かない原因の核心は「つまらないから」
すがけんさんが竹村さんの本と厚利少売の相性の良さを感じたのは、社長の言葉が届かない3つの原因の1つに「つまらないから」が挙げられていた点でした。
情報って相手が欲しがって相手が読んでくれないと意味がないのに、今までってまさにテレビの枠を買い切って情報って伝えられたから、面白いかってあんま関係なかったんですよ。
でも現代って本当にものが余ってるし、情報って見る側がつまんなかったらシュッてスワイプしたら終わりなんで、一瞬で見えなくなっちゃうことができる。15秒なんか見せられないわけじゃないですか。
すがけんさんは、だからこそ相手にとって面白いか、役に立つか、行動を変えるかを突き詰める必要があると話します。厚利少売的に発信する人ほど、自分側の発信ではなく、相手側の受信を考えるべきだ、という指摘です。
竹村さんはこれを、情報は供給過多なのにコンテンツは足りていない、と言い換えました。
それこそNetflix見ててもアマプラ見てても、何見ようかなってずっと迷っちゃうぐらい、(コンテンツが山ほどあっても)私の情報っていうのはないんですよ。
竹村さんは、一生かかっても摂取しきれない情報の中から選んでもらえること自体が奇跡のようなものだと応じています。
広告を止める時代に、なぜ10分かけて読まれるのか
竹村さんは、自身が手がけたgumiの国光さん國光宏尚のnoteを例に挙げました。Facebookやインスタのような自己承認欲求を満たすプラットフォームは終わる、という趣旨のタイトルの記事で、後半はほぼフィナンシェFiNANCiEという新しいプラットフォームの宣伝だったといいます。
それでも、国光さんを知らない人がコンテンツとして読み始め、5分か10分かけてフィナンシェや国光さんを知り、少し好きになってくれた。竹村さんはこの体験に、手前味噌ながら価値が高いのではないかと感じたそうです。
YouTubeの広告が嫌われ、お金を払ってでもCMを止めたい時代に、人がわざわざ時間をかけて読んでくれる。竹村さんにとってそれは、コンテンツ化には広告の世界を少しずつ変えるほどの価値があるという「小さな革命」で、100万円という値付けを考えたきっかけの1つにもなったといいます。
すがけんさんは、竹村さんの仕事は従来の広告とまったく違うことをしていると評します。
誰に見せたいんでしたっけ?その人って何を知りたいんでしたっけ?その人と仲良くなるにはどういう順番で話したらいいんでしたっけ?っていう、ある種の人対人の当たり前のコミュニケーション。
最初から「はじめまして、俺金持ちです」って言うやつ嫌われるじゃないですか。
すがけんさんは、相手ありきでコミュニケーションを設計し、企業が「いい人」に見えるようにしているのが竹村さんの仕事だとまとめました。
企業側に編集者がいないという空白
竹村さんは、これまではSNSやnoteがなく、企業は一度に大きく語らないと伝わらなかったと話します。今は友達や親戚のおじさんくらいの頻度で、企業と一般の人がやり取りできるようになりました。
自己紹介
まず自分が何者かを伝える
信頼
日々の発信で信頼を得る
好意
少し好きになってもらう
提案
「こういうのを売っているけど興味ありますか?」と伝える
川原さんは、ツールと環境がそろったからこそ、どんな技術でちゃんとした発信を置けるかで差が生まれると受けました。
竹村さんによると、以前は雑誌や新聞の側に編集者というディレクターがいました。SNSでツールが民主化した今、企業側にこそ編集者がいたほうが効率的で効果的な発信ができる、というのが顧問編集者のコンセプトだといいます。
厚利少売とともに、ぜひ顧問編集者であり、企業側に編集力のある人が増えていくっていう未来は作っていけたらいいなってすごく思いました。
企業の言葉ではなく、社長個人の言葉を
最後に書籍の案内を求められた竹村さんは、タイトルを「企業の言葉」ではなく「社長の言葉」にした理由を語りました。社長はつい企業を背負い、DXのような難しい言葉を使いがちですが、SNSは人対人の世界で、画面の向こうの人は企業ではなく企業の中の人に反応するからだといいます。
竹村さんが伝えたかったのは、社長をたまたまやっている「あなた」の発信をしてほしい、という一点です。それが伝えられたら大丈夫だと言う竹村さんに、川原さんは、案内を頼んでそう返されたのは初めてだと笑いました。
川原さんはその場でAmazonを見て、『厚利少売』を買った人が買っている本に竹村さんの本が表示されていることに気づきます。逆に竹村さんの本のページでも『厚利少売』が最初に出てくるそうです。
だからやっぱりピンとくる人はもうピンときてるんですよね、そこに。
竹村さんは、言葉によってコンテクストを作れば高い利益や高い価値を出せるということなのだろう、と締めくくり、2冊をセットで読むことを勧めました。
まとめ
この回では、竹村俊助さんの新刊を軸に、経営者の言葉が届かない理由と、発信が厚利少売の両輪になる理由が語られました。物も情報も余る時代には、相手にとって面白く役立つコンテンツを、社長個人の言葉で届けることが価値を生むと考えられます。
- 炎上は飛行機事故ほど珍しく、怯える人より「炎上しない」と思い込む人のほうが危ないと竹村さんは話している
- 物が足りなかったテレビCMの時代と違い、今は発信を通じて需要そのものを生む必要がある
- 低単価の仕事でもクレジットを入れて全力で結果を出せば、次の仕事につながる資産になる
- 言葉が届かない核心は「つまらないから」で、自分側の発信より相手側の受信を考えることが大切
- 企業の言葉ではなく、社長個人の言葉で人対人のコミュニケーションをすることが勧められている




