「あ、はい」と言える人は何が違うのか?
この回の冒頭では、前回と前々回にゲスト出演した顧問編集者の竹村さん(WARS)の話を振り返ります。竹村さんは、数万円だった単価を100万円、最近では150万円にまで引き上げた人物です。
すがけんさんは、竹村さんの話を「もともとできていた人」ではなく「できなかった人」が変わった実話として評価しています。そうした実例は多くあっても、公開されている話は少ないといいます。
すがけんさんによれば、厚利少売 ── 利益の厚い商品を少なく売るビジネスのあり方。安く大量に売る薄利多売の対義語として、すがけんさんが提唱し、同名の書籍も出版されていますの考え方自体は、本やラジオで多くの人がすでに知っています。竹村さんとほかの人との違いは、提案されたときの反応にありました。
で、やっぱその皆さんと竹村さんの違いは、僕に、1本5万円じゃなくて、じゃあ100万って言われた時に、あ、はい、みたいに。
(竹村さんは)なんでこんな仕事頑張ってるのに報われないのかなとか、なんでこんないい仕事してるのに、もっとお金もらえないのかなとか、ずっと悩んでたと思うんですよね。
川原さんは竹村さんと直接会うのはこのときが初めてでした。竹村さんは謙虚で派手さのない朴訥とした人柄で、その人が100万円へジャンプしたというギャップに鳥肌が立ったといいます。一方で、仕事への胆力や変化をつくることへの真剣さも感じたそうです。
すがけんさんは、竹村さんのような人について、仕事のプロであっても商売のプロとは限らないと指摘します。
なんか多分仕事と商売って別で、みんな仕事のプロなんだけど、やっぱお金もらう商売の素人みたいな感じじゃないですか。
すがけんさんの見立てでは、竹村さんは「値上げしていいのか」という疑問を内に抱えていました。それが「100万円ね」と言われたことで、「言っていいんだ」と弾けたのではないかといいます。
厚利少売に踏み出す勇気は、どこで生まれるのか?
本題のテーマは「厚利少売をする勇気」です。川原さんは、すがけんさんや竹村さんだからできたのではないかと感じるリスナーもいるはずだと話します。川原さん自身も「むずくない?」と思う部分があると打ち明け、勇気の出し方を噛み砕いて教えてほしいと頼みました。
すがけんさんはまず、頭がいい人ほどスタートアップで起業しないという話を持ち出します。
だって1,000社に1社しか(起業して)メルカリにならないんだったら、999社の人はなれないわけじゃないですか。でも1,000人やっちゃうからメルカリが生まれるわけですよね。
だからそれと一緒で、やっぱり自分がやったらその1社になれるってみんな思うぐらいバカなんすよ、僕含め。
すがけんさんによれば、賢く合理的な人ほどいろいろなリスクに気づいてしまい、結局リスクばかりが気になって動けなくなります。竹村さんが良かったのは、あまり疑わずに「はい」と言った点だといいます。
すがけんさんは、やってみると今までと違うので大変だとも認めています。それでも、人に聞く、質問できる場で質問する、本を読み返すなど、やれることはたくさんあるといいます。
すがけんさんが問題にしているのは、多くの人がやる前に考えてやめてしまうことです。
やる前に考える
賢い人ほど先回りしていろいろなことに気づく
リスクばかり気になる
あれが起きるのでは、これが起きるのではと考える
やめてしまう
結局「はい」と言えず、試す前に終わる
川原さんが「値上げして誰も買ってくれなかったらどうしよう」というリスクを挙げると、すがけんさんは失敗の中身を一つずつ確かめていきます。
で、売れなかったら死ぬ?いや、死なないな。売れなかったら借金する?いや、しないな。え?じゃあ売れないって何がダメなんだっけ?ですよね。
川原さんが「ちょい恥ずかしいぐらいですかね」と返すと、すがけんさんは強く同意します。ビジネスでは、街でつまずいた程度の失敗を、大けがのように過大評価してしまうといいます。すがけんさんが「足が取れた」と例えたことに川原さんがツッコみ、二人は笑い合いました。すがけんさんは、こうしたバカ話ができるぐらいがちょうどいいと話しています。
10億円の提案を断られたとき、すがけんさんはどうしたのか?
川原さんは、すがけんさんが単価を上げていった話に触れます。最初に提案しに行ったときは、けんもほろろに断られていました。捉え方によっては失敗ともいえる場面です。
いや、サッと帰りますよ。そうっすよねって言ってサッと帰りますよ。
ただし、すがけんさんの対応は、100万円で提案したときと10億円で提案したときで違っていました。10億円の提案は、いい資料を作ったという意味ではなく、相手にちゃんと向き合った提案だったといいます。
(10億円の提案は)ちゃんと向き合って提案してるから、相手もやっぱり真摯にダメな理由言ってくれるじゃないですか。
すがけんさんは10億円の提案を「娘さんをください」レベルのプロポーズに例えます。相手も真摯に応えてくれますし、応えてくれなくても、聞けばちゃんと理由を言ってくれるといいます。
相手の全予算の1%以下。「なんでこれ僕にくれたの?」という変な空気になり、サッと帰る
相手の予算の大半を求める真剣な提案。相手も真摯にダメな理由を言ってくれ、こちらも聞ける
商談の60分のうち、提案に使うのは10分だけ
10億円の提案の話から、すがけんさんは商談で一番大事なことに話を広げます。それは「時間を余らすこと」です。
会議って大体1時間だから、みんな情熱を伝えて55分ぐらい喋り倒して、相手の要望を一切聞かずに、じゃあこれで検討してくださいって言って立ち去っちゃうんですけど。
もう僕は10分だけ喋って、ずっとニコニコ待ってます。
すがけんさんによると、提案を10分で終えると、相手は「あと50分ある。こちらが何か言う番だ」という気持ちになります。川原さんはこれを「ユアターンにしちゃう」と表現しました。相手のターンにすれば、相手はちゃんと答えてくれるといいます。
すがけんさんは、商談で喋り続けてしまう人の話は、結局「相手が得する話」ではなく「私の話」になっていると指摘します。
私を知って知って知って知って知ってくれたら好きになってくれるんでしょ?みたいに押し続けるんですけど、それは絶対やっちゃダメで。
すがけんさんによれば、短く話して待てば、相手が知りたいことだけに答えられるので、話は2、30分で終わります。逆に相手の知りたいことがわからないと「一旦全部喋りますね」となり、相手に記憶ゲームをさせてしまうといいます。
自分の話を全部伝え、相手の要望を聞かずに立ち去る。相手は集中が続かず、記憶ゲームになる
大事なことだけ伝えてニコニコ待つ。相手が知りたいことに答えるので、2、30分で終わる
川原さんは沈黙に耐えられる胆力に驚きますが、すがけんさんは「楽しくはない」と答えます。相手は考えるのが遅いだけかもしれませんし、悩んでいるのかもしれません。そこで話し続けると、いらない情報が増えて相手を混乱させるだけだといいます。
なんか10分も相手は黙ってないんですよ。本当は2、3分なんです。でも自分は10分待ってる気持ちになっちゃうんですよ。
でも足りなかったら聞くでしょ。大人なんですよ、相手。
すがけんさんは、これが相手を尊重することだと考えています。相手はリスペクトすべきプロなので、わからないことは聞いてくれるはずです。すがけんさんは、そう信頼することを先に自分からしないと、相手も信頼してくれないと話しています。
川原さんは、自分の提案への確信と、相手を信じて黙る勇気が大事だとまとめました。すがけんさんは、黙るときは難しい顔ではなく「届いたんだろうな」とニコニコしているのがポイントだと付け加えています。
厚利少売は「歩く」のと同じくらい初歩の話
川原さんは冒頭の話を受けて、怖ければ厚利少売をしないという選択肢も本人が選べるのだと確認します。
なんなら今選んでやってないだけで。で、やってみてダメならやめてもよくて。だから歩き始める前に、私はなぜ歩くべきなのかみたいな哲学的なことをみんな今やってるだけなんですけど。
いや、歩いてみて、歩けたら歩き続ければいいんじゃないっていうぐらい初歩なんすよね。
すがけんさんは、厚利少売に勇気を持ち出すこと自体が、物事をややこしくしていると話します。川原さんは「一刀両断いただいた気分」と応じました。
仕入れた商品を売る小売業でも厚利少売はできるのか?
後半はお悩み相談のコーナーです。前回はラーメン店の相談でしたが、今回は同じ小売りでも、卸で仕入れた商品を販売する業態についての質問が届きました。
小売業はどうしても薄利多売になりがちだと思いますが、厚利少売にするには自社製品を開発し、その商品のストーリーや付加価値をつけるという方法になるのかなと考えています。ただ、卸で買った製品を販売するというビジネスモデルの場合は、どのようにすれば厚利少売になりますでしょうか。教えていただけると幸いです。
すがけんさんは、この相談の答えは突き詰めると「本質価値」の話だとします。ハタノさんが「仕入れたものを売っている」と思っているなら、それはどこでも買えるものになり、人は1円でも安いところで買いたくなります。
厚利少売って高くても買いたいを実現することなんですけど、そのためにはあなたから買いたいを作らなきゃいけなくて。
すがけんさんによれば、この考え方は仕入れ品でも、メーカーでも、サービスでも、ラーメン店でも同じです。「あなたから買いたい」がなければ薄利多売になるというのが、すがけんさんの答えの軸です。
セレクトショップとクラシコムは、なぜ高くても選ばれるのか?
川原さんは、アパレルのセレクトショップ ── 自社ブランドではなく、店のバイヤーが選んで仕入れた複数ブランドの商品を販売する店舗の形態を例に挙げます。セレクトショップも仕入れ品を売っていますが、選ぶこと自体が本質価値になっているので、安さを理由に買いに行く場所ではありません。
すがけんさんはこれに同意し、二人の共通の知り合いであるクラシコム ── ECサイト「北欧、暮らしの道具店」を運営する日本の企業。雑貨や家具などを独自の世界観で紹介・販売していますを挙げます。北欧、暮らしの道具店では、楽天などでも売っている商品が安くならず、送料もかかり、すぐには届きません。それでもAmazonや楽天よりそこで買いたい人がいるといいます。
なぜなら、検索されて出てきた商品じゃなくて、北欧暮らしの道具店を見て欲しくなった商品だからですよね。
すがけんさんは、ハタノさんの言う「ストーリーや付加価値をつける」ことは、オリジナル商品でなくてもできると話します。同じソファでも、どの店が売るかで紹介の切り口がまったく変わるという例を挙げました。
| 売る店 | 紹介の切り口 |
|---|---|
| 釣り具屋のEC | 汚れにくい |
| お菓子屋 | 子どもの食べこぼしが付きにくく、すぐ取れる |
| アパレルショップ | 秋の洋服に映える |
それって自社製品である必要はあんまりなくて、自分たちは何屋だからこの商品を仕入れ、こういう紹介をするっていう、そこに一貫性、約束が欲しいっていう話だと思うんですよね。
すがけんさんによると、メーカーから送られてきた情報だけで商品を紹介すると、個性がなくなり「あなたから買いたい」にはなりません。その状態を抜け出して個性をつくれば、仕入れ品でも厚利少売は十分にできるといいます。
すがけんさんは自身の経験も紹介します。すがけんさんは以前、本屋の棚を借りて「すがけんさんセレクトの書店」をやったことがありました。
やっぱ(本は)めっちゃ売れましたよ。あなたから買いたいから。
当時のすがけんさんはマーケティングや広告の人として知られていました。その人がすすめる20冊を読めば自分もそうなれるかもしれない、という理由で本が売れたといいます。すがけんさんは、究極の仕入れ品である本でも、ストーリーと意味が乗れば売れると話しています。
出版記念イベントとVIPチケットの案内
最後はお知らせのコーナーです。すがけんさんは、代官山蔦屋書店で開いた朝と夜のイベントに来てくれた人たちにお礼を述べました。
すがけんさんは、多くの人が来てくれたことでかなり緊張したと明かしています。ただ、司会を担当した代官山蔦屋書店のあやかさんがさらに緊張していたため、先輩風を吹かせているうちに自分の緊張が解けたそうです。目の前の人の質問に直接答える場には、ラジオのお便りとは違う価値があったといいます。
続いて、匠書房から出版された書籍『厚利少売』の出版記念イベントが、11月24日に開催されることが告知されました。今回は、すがけんさんと川原さんと少人数でディナーを囲みながら、その場でビジネスの相談ができるVIPチケットも用意されています。申し込みは番組の概要欄から受け付けています。
まとめ
この回のすがけんさんの答えは、厚利少売に勇気はいらず、考えすぎずにまず「はい」と言ってやってみればいい、というものです。商談では短く提案して相手を信じて待つこと、仕入れ品でも「あなたから買いたい」をつくる一貫性があれば高く売れることが、具体例とともに語られました。
- 賢い人ほどリスクを考えすぎて動けない。失敗は「つまずいた」程度で、死にも借金にもならない
- 真剣な高額提案なら、断られても相手は真摯に理由を教えてくれる
- 60分の商談では10分だけ話して、あとはニコニコ待ち、相手のターンにする
- 厚利少売の核心は「あなたから買いたい」をつくることで、自社製品かどうかは関係ない
- 何屋としてどう紹介するかという一貫性があれば、仕入れ品でも個性と付加価値が生まれる

