初めてのゲストは、なぜ竹村俊助さんだったのか?
『厚利少売ラジオ』は、すがけんさんと川原卓巳さんが、薄利多売から抜け出すための考え方を語るビジネス対談番組です。前回はすがけんさんが単価100万円の仕事を10億円に引き上げ、売上100億円を達成した話を、予定の15分を大きく超えて1時間かけて語ったと振り返ります。
今後も僕に限らず、薄利多売に悩みつつも厚利少売シフトしていった、いわば厚利少売人ですね。
すがけんさんは、自分以外の実践者のエピソードも届けたいと話します。そこで名前が挙がったのが、第8回の書籍出版の裏側の回で話題に出た、株式会社WORDSの竹村俊助さんでした。
やっぱりいろんな方の具体例を聞けば聞くほど、自分だったらどうできるだろうがより解像度を高くイメージできるようになるのでいいですよね。
川原さんの紹介によると、竹村さんは早稲田大学政治経済学部を卒業後、日本実業出版社やダイヤモンド社などで長く編集に携わってきました。前田裕二さんの『メモの魔力』などの編集・執筆を手がけ、2018年に独立して株式会社WORDSを立ち上げています。今回は2回連続出演の前編で、テーマは「顧問編集者はなぜ生まれたのか」です。
六本木のカフェで出会った、値付けに迷う独立直後の竹村さん
すがけんさんと竹村さんが初めて会ったのは六本木のカフェでした。すがけんさんが別の編集者と会う約束をしたところ、その編集者が「紹介したい人がいる」と連れてきたのが竹村さんだったといいます。時期は独立から1〜2年ほどたった、コロナ前の2019年ごろだと竹村さんは振り返ります。
竹村さんと初めて会った時のエピソードが、竹村さんが薄利多売から厚利少売になるその瞬間の話なんで。
当時の竹村さんは、ダイヤモンド社を辞めて本のライターとして食べていくつもりでした。『メモの魔力』や『リーダーの仮面』の制作を手伝い、放っておけばそのまま本のライターになっていたかもしれないと話します。
転機になったのは、GUMIの國光さんという経営者からの依頼でした。noteを書きたいが時間がないので代わりにまとめてほしいと頼まれ、竹村さんが書いた記事がよく読まれたのです。この成功体験から、竹村さんは経営者の代わりに言葉にし、コンテンツにして広める仕事を「顧問としての編集者」として始めようと考えました。
ただ、竹村さんは値付けに迷っていました。高いほうがいいのか、安くして広めるのが先なのか。そうした悩みを抱えていたタイミングで、すがけんさんと出会ったといいます。
「それならライターじゃなくて編集ですよね」から出た1記事100万円
すがけんさんの記憶では、竹村さんの相談はウェブ記事の単価の低さでした。1文字いくらで計算されるため、結局1記事5万円や10万円になってしまうという悩みです。
すがけんさんが仕事の中身を尋ねると、竹村さんは「取材して構成をまとめ、最後に書く」と説明しました。本当は取材をたくさんしたいけれど、出来上がりは1文字いくらで決まるので、取材を増やすほど割に合わなくなるという状況でした。
それだったらライターじゃなくて編集ですよね、そのお仕事って。究極書かなくてもいいかもしれないじゃないですか、それなら。
(取材を)コストに思わないぐらい、最初からたくさんもらったらいいんじゃないですかね。
じゃあまあ1記事100万円じゃないですかみたいなことをなんかお伝えしたような記憶があります。
竹村さんにとって、この出会いは脳内で革命が起きた瞬間だったといいます。1文字何円という積み上げは、書籍『厚利少売』にもある原価積み上げ式 ── かかった材料費や作業時間を足し合わせて価格を決める考え方。売り手側の労力が価格の基準になりますの考え方です。すがけんさんはそれに対して、相手にどれだけ価値や変化を与えられるのかを問いかけました。
國光さんのnoteの例でいえば、記事は数十万ページビューを獲得し、Forbesに転載され、結果的にタクシー広告にも流れることになりました。広告費に換算すれば大きな価値があるのに、それが20万円でいいのか、という問いです。
1文字いくら、かけた労力で値段を決める。結果として1記事5万〜10万円に収まる
相手が得る価値から値段を決める。1000万円分の価値を出せるなら100万円もあり得る
竹村さんは、この考え方を「ありがたいと同時に厳しい教え」だと受け止めています。1週間や1か月かけて書いても読まれなければ、お金をいただくのは申し訳ない、という裏返しにもなるからです。
すがけんさん自身は、こうしようと指示するタイプではないと話します。竹村さんがどんな人で、何をしたいのか、お客さんはどこで喜んでいるのかをひたすら質問し、最後に値上げを勧めたといいます。
竹村さん考え方が変わんないなと思ったから、僕も、いやもうそんなの1記事100万円ですよって、その頭をガンと殴る代わりにその言葉で言ったんだけど、竹村さんは素直にちゃんとそうしたんですよね。
すがけんさんは、5万円を20万円にするような4倍程度の値上げでは発想が変わらないと考えていました。100万円なら、10万円の記事10本分を1本で済ませられ、浮いた時間で新しい客とも出会えます。何より100万円の価値がある記事が生まれ、それが次の客を連れてくるという見立てです。
ペラ1枚に「100万円」。初めての提示はどう受け止められたのか
竹村さんが初めて100万円を提示した相手は、識学の安藤さんでした。WORDのペラ1枚の原稿に金額100万円と書き、怒られたらどうしよう、ふざけているのかと言われたらどうしようと、ドキドキしながら出したといいます。
安藤さんの反応は「想定よりは高かったけど、優秀な人を2人雇うぐらいかな。1回やってみましょうか」というものでした。当時『リーダーの仮面』の編集も進んでいて、竹村さんへの信頼があったことも大きかったと竹村さんは話します。
竹村さんは、相手の想定は30万〜50万円程度で、80万円あたりが現実的な落としどころだろうと考えていました。ところが安藤さんは値下げも交渉もしてこなかったといいます。
竹村さんの推測では、20万円が25万円や30万円になる程度なら「これまで20万円でしたよね」と交渉されたはずです。100万円と提示されたことで、安藤さんは「ただのライティングではなく、100万円ぐらいの価値を提供しようとしている」と別物として認識したのではないか、と竹村さんは考えています。結果として本も売れ、Twitterのフォロワーも増えたそうです。
高いからこそ、売り手も買い手も本気になる
すがけんさんは、ここに厚利少売の本質があると話します。例に挙げたのはRIZAPで、3万円だったらあんなにみんな痩せていないはずだといいます。人生が変わる値段として60万円や100万円を払うから、本気で取り組み、成功者が生まれるという見方です。
値段で合意してプロジェクトが始まる時に、お互いがフルスロットルでやる気の状態から始まるじゃないですか。だからめちゃくちゃ遠くまで飛べるようになる。
竹村さんも、成約してからギアが変わったと実感しています。取材が1時間でも、残りの23時間も安藤さんのことを考え、このイベントの話がネタになりそうだと気にかけるようになりました。安藤さん側も、5万円や10万円の仕事なら取材を延期しがちなところを、100万円のプロジェクトだと意識するので本気になる、と竹村さんは見ています。
10万円の記事。延期やキャンセルも起きやすく、どれか当たればいいと量産に流れる
100万円の記事。双方が本気になり、1本1本ホームランを狙って書き上げる
すがけんさんによれば、10万円のままなら、記事が当たらなくても「また10本書いてもらえばいい」という薄利多売の発想になり、つまらないものが量産されて会社の評判も下がっていきます。竹村さんは、厚利少売が一度成立すると、次も100万円で値付けするために100万円以上の価値を出し続けなければならないと話します。それが天国か地獄かはわからないけれど、商売の本質がうっすらわかってきたといいます。
竹村さんは現在、料金をさらに150万円に値上げしています。値上げによって声をかけてくる客の覚悟も変わり、生半可な依頼は来なくなったそうです。
名だたる経営者が、次々と竹村さんの客になる理由
すがけんさんは、NOT A HOTELの濱渦さんや、ラクスル改めジョーシスの松本さんも竹村さんの客だと紹介します。スタートアップ界隈の経営者が尊敬する経営者たちが、こぞって竹村さんに情報発信の顧問編集を依頼しているとして、すがけんさんは竹村さんを「業界のエルメス」と表現しました。
竹村さんは、安藤さんの成功のあと、GOの三浦さんから声がかかったと振り返ります。このときは100万円ではなく10万〜20万円に、noteのスキの数に応じた成果報酬という条件でした。それでも竹村さんは採算度外視で、ありえないほどの結果を出そうと決めたといいます。
その結果、リチカというスタートアップの松尾さんのnoteは700ほどのスキを集め、界隈で知られるようになりました。濱渦さんも三浦さん経由の仕事で竹村さんの記事を知ってから、WORDSと直接契約し、長く続く関係になりました。さらに松本さんはNOT A HOTELの取締役でもあり、そこから声がかかったといいます。
安藤さん
初めて100万円で契約。本が売れ、フォロワーも増える
GOの三浦さん
低単価・成果報酬で依頼。採算度外視で結果を出す
濱渦さん
三浦さん経由の仕事を経て、WORDSと直接契約
松本さん
NOT A HOTELの取締役として結果を見て依頼
実際BtoBでお仕事が来るのって、本当にその身近な人たちなんですよ。なので、この身近な人たちを喜ばせる、喜んでもらえるのはすごく重要だと思います。
すがけんさんは、三浦さんの紹介には隠れたすごさが2つあると指摘します。1つは、三浦さんが『言語化力』という本を書くほど言語化に長けた人なのに、自分でやらず竹村さんを薦めたこと。もう1つは、GOがNOT A HOTELの株主でもあることです。
なんならファンドの人ってそんな高いものにお金使わずに頑張れって言いたいんですよ。そういう性質の人が、お金を使ってでも(竹村さんを)頼れって言ったのは本当ものすごいことなんですよね。
すがけんさん自身も、ファンドから「高くてもいいから投資先に入ってほしい」と頼まれることがあるといいます。ファンドはコスパを重視するので、明確な結果がリターンを上回るなら「いくらでもいいからやろう」となる、という説明です。
お金を感謝とともにいただけるっていうのが商売の本質なんで。
厚利少売は「客を選ぶ」ことでもある
竹村さんは書籍『厚利少売』を読み、1つの商売の話というより、資本主義全体への提言のように感じたといいます。物も情報もあふれて値下げ競争になっている今、困っている人に価値を返すという商売の原点に戻ろう、という読み方です。
特に面白いと感じたのは「客を選んでいい」という点でした。竹村さんのもとには、社員3人ほどでPMF ── プロダクトマーケットフィットの略。製品やサービスが市場のニーズに合い、顧客に受け入れられている状態を指すスタートアップ用語です前のスタートアップが、なけなしの100万円や150万円を払うのでnoteで知名度を上げてほしいと依頼してくることがあるそうです。
竹村さんは、そうした依頼は断ることが多いといいます。うまくいかなければ「竹村さんに書いてもらったけどダメだった」と思われるのも嫌ですし、それだけのお金があれば1人雇うこともできるはずだと考えるからです。
これって儲けたくてっていうより、損させられないなって感覚で選んでるんですよね。
損させそうだったらやめるとか、相手が損より得が大きそうだからやりましょうとかっていう風に、自分軸じゃなくて相手軸でビジネス考えてるんですよね。
竹村さんはさらに、インターネットやSNSの時代には、高いのに役に立たないものは評判にも口コミにもならず、一巡して終わってしまうと話します。だからこそ、売れてからが勝負なのだと改めて感じているそうです。すがけんさんも、満足度を上げ続けるために奉仕することが自分たちの仕事だとまとめています。
5万円の仕事と100万円の仕事は、中身も能力も変わったのか?
川原さんは、リスナーが抱きそうな疑問として、5万円単価のときと100万円単価のときで、提供価値や相手の変化量は違うのかと尋ねました。
竹村さんの答えは、作業自体は「話を聞いて文章にまとめる」ことで変わらないものの、照準が絞れるようになったというものです。以前の週刊文春の小さな記事は3万〜5万円で、目的は誌面の枠を埋めることに近かったといいます。100万円や150万円の仕事では、採用を良くしたい、採用コストを下げたいといった目的を共有し、同じ方向へ走るようになりました。
続いて、「もともと力があったから高い値付けができたのでは」という質問も投げかけられました。竹村さんは、能力は変わったと答えています。100万円の仕事には緊張感とプレッシャーがあり、良質な客から学ぶことも多いからです。VCや投資、株主の話をあまり知らなかった竹村さんも、この5年間で経営者から見える風景が少しずつ見えてきたといいます。
フリーランスや個人事業主へのアドバイスとして、竹村さんは2つの道を挙げます。1つは、安く受けた仕事でも数を増やさず、3万円の記事に3日かけて最高のものにすることです。実際、週刊文春の編集長に「冒頭から面白い」と声をかけられ、他のライターとは違うと目をつけてもらえたそうです。
もう1つは、勇気を出して10倍ぐらいの値段を一度提示してみることです。竹村さんによれば、契約が決まると「やった」の次の瞬間に「これ次につながるかな」と不安になり、自然と努力し始めるといいます。
「10倍もらったら10倍書く」は薄利多売脳
すがけんさんは、チャンスのない人は高い値付けにしてもチャンスは増えないと指摘します。だからこそ、薄利の段階で来たチャンスに一生懸命リターンを返そうとすることが大事だといいます。
薄利多売脳だと、「え、10倍ってことは10倍の文字数書けばいいんですよね?」って言って、文字数で頑張っちゃうわけですよ、量で。
すがけんさんの考えでは、10倍払ってもらったなら返すべきは文字量ではなく、100万円分の価値です。竹村さんの場合は、人材紹介会社に3割の手数料として300万円を払う代わりに、毎月の記事でオーガニックに採用できれば300万円浮くので、100万円は高くない、という価値の見つけ方でした。
10倍の文字数を書く、10本に増やす。アウトプットの量を10倍にする
相手が何で得をするのかを探し、結果を10倍にする
竹村さんも、すがけんさんと会うたびに作業の話ではなく「相手にどんないいことがあるのか」を問われると話します。採用がコストとリターンの面でもトレンドの面でもベストだと見えてきて、去年ごろから「採用に効く」という打ち出し方を始めたのも、その対話から見つかったものだといいます。
前編はここで締めくくられ、書籍『厚利少売』の告知と、お便りフォームでのゲストリクエストの呼びかけがありました。今回の竹村さんの出演も、リスナーから名指しで寄せられた要望で実現したもので、次回も竹村さんが引き続き出演します。
まとめ
竹村俊助さんが顧問編集者になった背景には、1文字いくらの原価積み上げ式から、相手に与える変化で値段を決める発想への転換がありました。100万円という値付けは、売り手と買い手の双方を本気にさせ、その結果が次の客を連れてくる循環を生んでいます。
- 取材と構成が中心なら、それはライターではなく編集の仕事であり、値段は相手が得る価値で決めるべきだとすがけんさんは問いかけた
- 初めての100万円の提示を、識学の安藤さんは値下げ交渉なしで受け入れ、双方が本気で取り組むプロジェクトになった
- BtoBの仕事は身近な人から来るため、目の前の客に結果を出すことが、名だたる経営者からの依頼の連鎖につながった
- 厚利少売では「損させられない」という相手軸の感覚から、売り手が客を選ぶようになる
- 10倍の対価をもらったら量を10倍にするのではなく、相手が得る結果を10倍にするのが厚利少売の考え方

