地方創生のスタープレーヤーが集まる「薩摩会議」とは?
収録の冒頭、すがけんさんは川原卓巳さんの声が枯れていて、テンションが低いことに気づきます。川原さんによると、元気がないわけではなく、鹿児島で3日間開かれたカンファレンス「薩摩会議」で精を使い果たし、まだ回復していないだけだといいます。
薩摩会議は、鹿児島でリーダー人材を育てる団体セルフが主催するイベントです。代表の野崎さんは川原さんの学生時代からの知り合いで、応援の意味もあって参加したそうです。
(薩摩会議は)1年に1回やってて、僕が考え得る限り、地方創生のスタープレーヤーが一堂に全部集まってる化け物イベントなんですよ。
川原さんが「スーパークレイジー」と評したのは、薩摩会議の3日間の組み立て方です。会場にとどまらず、参加者を鹿児島の各地へ送り出す点に特徴があります。
川原さん自身は2日目に霧島を訪れました。エネルギーを使い果たした理由は、霧島の宿で朝4時半までカラオケで大塚愛の「さくらんぼ」を歌ったからだと笑いを誘います。
すがけんさんは薩摩会議の仕組みそのものに注目します。どの地域のツアーに来てもらえるかは観光の取り合いと同じで、リーダー陣に来てもらえるコンテンツを地元が用意する時点で、薩摩の地力が上がっているという見立てです。
(薩摩会議は)リーダーを日本から薩摩に呼べてるし、薩摩の人をやる気出させてるし、コンテンツ力磨けてるから。誰得って薩摩得ですよね。
川原さんは、この話をしてここまで深い答えが返ってきたのは初めてだと驚きます。参加者側にとっても、行かなければ得られない一次情報に触れられるので、行く価値があるイベントだと話しています。
すがけんさんはさらに、全員の知恵を一か所に集めて「勝つ法則」を見つけ、それを各地へ持ち帰るやり方を評価します。各地がバラバラに取り組むと成功事例がまとまらず、法則が見つからないからです。
鹿児島が静岡を抜いてお茶の生産量日本一になった理由
川原さんは台本を崩して、霧島で聞いた話をそのまま相談として持ち込みます。霧島のスタディツアーのメインテーマはお茶で、テーマは「日本の良いもの、地方の本物が海外で勝負するときに起こる表と裏」でした。
ただ最初にネタバラシしとくと、これ(お茶の話)、僕でも答え出し切れなくて帰ってきちゃったんですよ。
川原さんは、この問題が解決できれば成功モデルとして他の領域や商品、地域にも展開できると感じたといいます。そこで、川原さんがお茶業界の人に成り代わり、すがけんさんに相談する形で話が進みます。
背景として川原さんが紹介したのは、今年、鹿児島が静岡を抜いて日本のお茶生産量で日本一になったという話です。すがけんさんは「静岡が負ける日が来るんだ」と驚きます。
川原さんの説明では、首位交代の理由は地理的な条件と、先行投資をどのタイミングで始めたかの違いです。この差が30年かけて順位を入れ替えたといいます。
富士山を含む肥沃な水と土地に恵まれたが、斜面に茶畑をつくってきたため機械化が難しく、生産者の高齢化とともに生産量が減った
30年前に管理しやすい土地に茶を植え、機械をほぼ100%導入して生産性を上げてきた
すがけんさんはこれを一言で「後発有利」と表現します。川原さんも同意し、中国がフィンテックで勝ちに行った話のローカル版のようなものだと重ねています。
抹茶には定義がない?海外勢が量で迫る現実
川原さんはここから、話題をお茶全般から抹茶に絞ります。今の抹茶は、国内の生産量よりもグローバルの需要のほうが多く、「いくらでもいいから欲しい」という状態にあるといいます。
ところが、抹茶には「何を満たせば抹茶なのか」という定義があまりないと川原さんは指摘します。すがけんさんも、碾茶を臼でひいて抹茶にするという製法はあっても、茶葉の品質のグレーディングはないと応じます。
桑の葉をまた抹茶状にすりつぶしたのも、グローバルだとマルベリー抹茶とかって名前がつけられちゃったりする、本当にファジーな業界に(なっている)。
さらに、抹茶ラテの流行によって需要が伸びたことで、茶会で使うようなセレモニーグレードの抹茶である必要が、市場的にはなくなっているといいます。農薬散布などのグローバル基準さえクリアできれば、海外で作られたものでもよいという流れです。
川原さんが危機感を持つのは、日本の産業を守るルールがないまま、今のバブル状態で売上だけが伸びている点です。何もしなければ、日本が抹茶の大本だという権威付けがなくなり、本来日本が培ってきた良さが海外に持っていかれるかもしれない、と話しています。
和牛とイタリアワインの轍、宇治茶の商標も取られていた
すがけんさんは、抹茶の状況を聞いて「日本はもう一回失敗している」と応じます。川原さんは「1度どころか何度もやっている」と返し、2人がまず挙げたのは和牛でした。
漢字で書いたら和でしょみたいなのも、あんなに明確に和って書いてあっても、和牛って言っちゃった時点で持っていかれちゃうぐらい、やっぱ日本が何にもやってないんで。
すがけんさんは、和牛の失敗をワインの歴史にもたとえます。土地や畑、土、品種、グレード付けをきちんと整えたフランスと、自由にやったイタリアとでは、ワインの価値の上がり方に差が出たという話です。
土地、畑、土、品種、グレード付けをきちんと整え、価値を上げることに成功した
「何でも自由にやろう」としたため、価値が上がらなかった
すがけんさんによると、抹茶でも「ジャパニーズ抹茶」と呼ばれた時点で負けです。抹茶の中の一つとして日本製がある、という派生商品の位置づけになってしまうからです。
(抹茶の)中の日本製ですになっちゃうけど、いやいやそうじゃなくて、抹茶は日本のものですっていう風にしないといけない。
放っておけば、世界中で「すりつぶした葉っぱ」が抹茶と呼ばれ、消費者は本当の抹茶を知らないまま「抹茶っていいよね」と言い始めてしまいます。すがけんさんは、まずそこを守ることが最初の一歩だと話しています。
川原さんが今回知って愕然としたのは、京都のハイエンドとして知られる宇治茶の商標が、すでに中国に取られているという事実でした。すがけんさんは知らなかったと驚きつつ、生産能力が高くても、世界で商標を押さえるビジネスの動きが伴っていなかったのだろうと受け止めます。
川原さんは、こんまりメソッドというIP(知的財産)を扱う中で、権利まわりには敏感に取り組んできました。1社でさえ慎重にやるのに、業界となると、そこを握る人がいなくなるという状況に初めて直面したといいます。
すがけんさんは、以前のゲスト入山さんとの京都の話にもつなげます。「京都」という集合体になると主体となる人間がいなくなり、みんながボールを取り合わず、誰も拾わない状態になるという指摘です。
川原さんによると、霧島ではティールームの岩本さんが「このままでは日本のお茶業界も抹茶も全部取られる」と自ら名乗り出て、国際規格づくりの青写真をプレゼンしたそうです。その精度が高かったからこそ難しさも明らかになり、答えが出せないまま帰ってきたのが今の川原さんの状態だといいます。
国際規格より先に必要なのは「抹茶は日本のもの」というブランディング
すがけんさんは乱暴な言い方だと断ったうえで、グレーディングよりも「抹茶が日本のものだ」というブランディングのほうがはるかに重要だと答えます。品質管理を前面に出すことには、逆効果のリスクがあるという見方です。
なぜならグレーディングは品質管理って言った時点で、他国もできちゃうってことを認めてるようなもんなんで、これ逆にマイナスになる可能性もあるから。
すがけんさんは、オーガニックの基準でさえ何十年かあれば他国も満たせてしまうと付け加えます。だからこそ、品質よりもう一段上のレイヤーで守らなければならないという考えです。
霧島のプレゼンでは、コーヒー業界のグローバル組織がバリスタ育成や教育を通じて産業の規格をつくっている例を参考に、「そのお茶版をつくろう」という方向性が示されていました。これについても、すがけんさんは慎重な立場を取ります。
国際的にって言った時点で他の国も招くってことになるから。それは抹茶が日本のものじゃないって言っちゃうようなもんなんで。
すがけんさんが代わりに挙げたのは寿司とラーメンです。寿司を日本のものと言わない人はおらず、ラーメンでさえ日本のものと言えるようになりました。すがけんさんは、それは品質管理ではなくブランディングの結果だと話しています。
グレーディングや国際組織をつくる。他国も基準を満たせることを認め、招き入れる形になりかねない
寿司やラーメンのように、世界の人が「抹茶は日本のもの」と自然に思う状態をつくる
茶道が小さくなった今、スタバのご当地抹茶から考える
すがけんさんは、日本のコンテンツと抹茶の距離をもっと近づけるべきだと続けます。しかも日本国内ではなく、世界から見たとき、つまり日本に来る前の段階でそうなっていなければならないといいます。
川原さんは、これまで日本と抹茶を結びつけてきたのは茶道や茶室だと考えています。ただ、茶道そのものの規模は小さく、国内のお茶消費量も減っているため、何をすればいいのかで思考が止まったと打ち明けます。
すがけんさんが出したアイデアは、スターバックスのご当地メニューでした。スタバでは地域ごとに柑橘やいちごのフラペチーノが飲めるように、スタバほどのグローバルブランドで「日本でしか飲めない抹茶」をつくる、という例です。
抹茶で規制するわけにいかないから、特別な抹茶が飲めるのは日本だけみたいにして。こういうのってマスで認識しないと意味がないんで。
すがけんさんのポイントは、プロが見て違いがわかることではなく、マスがそう認識することです。変に品質管理で他国を受け入れるとヤブヘビになるので、「日本に来たらスタバで本当の抹茶ラテを飲もう」といった方向のほうがまだよさそうだと話しています。
「この抹茶、どこの?」と聞かれる状態こそがブランド
川原さんは、この問題はオーセンティシティ、つまり本物性の話でもあると受け止めます。こんまりメソッドは日本生まれ日本育ちの近藤麻理恵さんが生み出したもので、何もしなくてもオーセンティックでした。モノや商品になると、そこにもっと力を入れなければならないと改めて気づいたといいます。
すがけんさんは、商品は葉っぱと作り方が同じなら同じものになってしまうと指摘します。それはブランドではなく、ただの商品だという整理です。
ただの緑色の粉末になっちゃったら、それは抹茶と呼ぶのか、青汁と呼ぶのかさえ怪しいぐらい、同じ見た目の緑色の粉になっちゃう。
品質で差をつけようとすると、また「みんなおいで」になってしまいます。すがけんさんは、グローバルのラグジュアリーブランドが使っているような伝統や、京都などの土地と結びつけていく方向を挙げます。
川原さんも、たとえ品質に違いがあっても、本物のプロにしかわからないのでは意味がないと補います。すがけんさんは、一般の人が「この抹茶ってどこの?」と思うようにならなければならないと続けます。
すがけんさんはバッグを例に、ブランドの意味を説明します。「このバッグどこの?」と聞かれ、ルイ・ヴィトンかグッチかロエベかセリーヌか、と区別されることがわかっているから、わかりやすく印をつけておく。それがブランドだという考えです。
すがけんさんは、この区別を消費者のパーセプション(知覚)に入れておく必要があると話します。目をつぶって「日本の」と聞いたときにイメージがぱっと浮かぶ状態です。違いをつくることと、「抹茶ならどこの?」となる状態をつくることが課題だとまとめ、自然に「僕たちの課題」と呼んでいました。
川原さんは、もう一つの難しさも挙げます。高級バッグは頑丈さや使いやすさではなく、歴史やクラフツマン、ストーリー、世界観で選ばれます。一方で今の抹茶需要は、抹茶ラテや抹茶フラペチーノの「緑色」として消費されているように見えるため、何を拠り所にするかの設計が難しいといいます。
品質のピラミッドの頂点を日本が取る戦略
すがけんさんは、ブランドの起源には諸説あるとしたうえで、2つの起源を紹介します。どちらも「違いがある」と示すために生まれたものです。
「これはうちの牛です」と違いを示すために刻印を押した
移動手段が馬車から車や船へ変わり、多くのバッグ屋が出てきたときに、「うちは高級だ」と線を引いた
抹茶の消費が世界中で増え、他国も生産するようになった以上、他国に作らせないのは無理だとすがけんさんは言います。そうであれば、品質のピラミッドの上は日本が取る、という戦略しか取れないという見立てです。
すがけんさんは、ここでもワインを引き合いに出します。ワイン好きはブドウや畑、シャトーの話をしますが、それ以前に誰もがまず「どこ産?」と聞き、ラベルでそこを見るといいます。
とにかく理屈なしにプレミアムだから日本だし、日本だからプレミアムだよねっていう方向に持っていく。
すがけんさんによると、日本産はもともと高品質というイメージと結びつきやすいので、グレーディングを持ち込むより、プレミアムと日本産を直接くっつけるほうがよいといいます。
すがけんさんがここで強調したのは考え方の順番です。「どうやるか」を先に考えると途端に難しくなるので、まず「どんな状態になればいいか」だけを考えるといいます。
すがけんさんは、日本産イコール抹茶のトップという状態さえつくれれば、日本はそれでいいと話します。中国茶もそれができているのだから、「そこはうちが取ります」と言える状態にすればよいという考えです。
やり方はいくらでもあり、日本全体を味方にできるならうまくいくまでやればいい、とすがけんさんは言います。クールジャパンとも結びつけるべきだとしつつ、ぶれてはいけないのは「どういう状態を目指すか」であり、目指すのは世界の人が抹茶を見て「それどこの?日本ならすごいね」と思う状態だとまとめています。
韓国のコンテンツ戦略と、抹茶に欠けている「GRチーム」
川原さんは、日本発でこうしたブランディングがうまくいった例がまだないことに危うさを感じています。すがけんさんは、アニメは日本のものとして認識されていると返します。
川原さんが、アニメなどのIPは海外に買われまくっていると指摘すると、すがけんさんは区別を示します。裏側のビジネスがそうだとしても、一般消費者が「日本はアニメと漫画だよね」と思っているかどうかが大事だという整理です。
すがけんさんが上手な例として挙げたのは韓国です。韓国は国外輸出を増やすために、まずK-POPやドラマなどのコンテンツを輸出し、その中に韓国製品を次々と入れていったといいます。川原さんはこれを「プレイスメント」と言い換えます。
あれと同じで、なんか日本のコンテンツの中に抹茶って全然出てこないんですよね。
すがけんさんは、ハローキティはみんなと友達になってくれるが、抹茶はどことも友達になっておらず孤立していると表現します。川原さんは、日本は国内市場で勝負してきた過去があるため、韓国のような「これとこれを掛け合わせよう」という土壌がないと応じます。
すがけんさんがもう一つ挙げたのが、GR(ガバメントリレーションズ)です。Googleのように世界で勝ったIT企業には、広報のPRだけでなく、各国政府と連携するGRの機能があるといいます。
すがけんさんの記憶では、Airbnbが日本で解禁される際、Airbnbは日本のオリンピックのスポンサーになりました。オリンピックのお金を受け取っている国が、そのスポンサーを禁止するのは難しい、という入り方です。
(抹茶に)日本政府も含めたGRチームがないことの問題は、すごい大きいと思います。
頑張るより、うまくいく前提条件を先にそろえる
すがけんさんは、「どうやったらできるか」から考えるとGRチームのような発想には至らないと言います。先に「どうなれば勝てるか」を考えると、そのチームなしで頑張っても勝てないことがわかり、メンバーや予算の確保という具体的な問いに進めるという考えです。
頑張ってうまくいくより、そのうまくいく前提条件を全部一旦揃えちゃうっていう、こういう考え方の方が多分ね、うまくいくと思うんですよね。
川原さんは、言い方はカジュアルだが真理だと唸り、すがけんさんは一言で返します。
すがけんさんは、業界ぐるみの取り組みは大変で足並みもそろわず、ゴールもぶれやすいと指摘します。だからこそ手弁当で頑張るのではなく、形から順番に整えるべきだといいます。
すがけんさんは、ここから先は株式会社と同じだと言います。こうした設計をすれば、うまくいかない方向があまり想像できなくなると話しています。
業界に「リーダー不在」が起きる理由と、主体者の決め方
川原さんは、株式会社と業界・産業の違いは「ファウンダーは誰か」にあると考えます。誰が旗を振れば座りがよく、みんなが乗るのか。結局いつも、リーダー不在やリーダーシップ不足という結論に行き着くといいます。
すがけんさんの答えはシンプルです。損をするのが嫌なら、当事者である自分たちがリーダーをやるべきだという考えです。
これ(抹茶の問題)で損する人がいるわけで。損する人が頑張んなきゃダメなんですよ。
すがけんさんと川原さんは当事者ではないので、話が来ればいくらでも手伝えます。しかし当事者が当事者として振る舞わなければ、誰も手伝わなくなってしまうといいます。
僕らの善意を誰が受け止めて、誰が感謝してくれるかわかんないままだと、誰もやんなくなっちゃうじゃない。
すがけんさんは、ここで必要なのは人格、つまり人という形だと強調します。人間は人間から感謝されたいからで、川原さんも「業界さん」という人はいないと応じ、警視庁のピーポくんの話で笑いが起きます。
川原さんは、霧島のツアーで当事者の顔を見たからこそ、ここまで熱が入っていると明かします。すがけんさんは、だからこそ現地の人たちがもっと頑張る必要があると返します。
すがけんさんが社長としか仕事をしない理由も、ここにあるといいます。現場の会社員とやると「社長に言いづらいから」「隣の部署なので」と言われて何も変わらないからです。
すがけんさんは、最初にやるべきは主体者を決めることだと話します。誰が嬉しいのか、誰がやるのかを決め、譲り合いが起きるなら「誰も得しないからやめましょう」と終わらせるべきだという考えです。そのかわり主体者になった人はめちゃくちゃ得をする、と付け加えています。
主体者は「AI千利休」がいい?茶道という総合芸術の奥行き
主体者の話から、すがけんさんは意外な提案をします。時代を考えると、AI千利休を主体者に据えたほうがよかったというのです。
すがけんさんの理由は、お茶の主体は誰かと問われれば千利休しかいないからです。川原さんも、すでに亡くなっていて歴史があり、ブランドと結びついた千利休以上の存在はいないだろうと整理します。
(千利休は)お茶というプロダクトを茶道という総合体験、総合格闘技に昇華させた人だから。茶器含めてね。
すがけんさんによれば、抹茶は茶器や茶道を含む総合芸術の中にあるものです。その奥行きで勝負しなければラグジュアリーにはなれず、品質だけの勝負になってしまうといいます。
すがけんさんは、海外の人にとっては味より体験のほうがよほど大事だと続けます。
すがけんさんは、体験はコンテンツとして、実際に体験する前に届けることもできると話します。近藤麻理恵さんのNetflix番組で、視聴者が片付けを疑似体験できたのと同じだという例えです。味は届けられませんが、茶道というコンテンツは届けられます。
すがけんさんは、抹茶を受け取ったときに背景が何もなく、「ヘルシーなんでしょ」「オーガニックなんでしょ」という話にしかなっていない現状を問題視します。手に取った消費者に浮かぶ情景をコンテンツでつくる必要があり、それは今の抹茶のステークホルダーだけでは難しいと見ています。
川原さんは、これを「会社ごと」ではなく「社会ごと」にする話だと言い換えます。すがけんさんも、日本には何百年も前から抹茶や茶道という体験があり、侘び寂びもそこから生まれた、という文化の根幹の話から始めるべきだと応じます。
それ(茶道の映像)を見ちゃった後に他の国が真似をって言ったって、「うん、それは中国茶だよね」ってなるだけで、これ真似されないんですよ。
川原さんは、現場に近づきすぎるとこの議論にならないのはなぜだろうと漏らします。すがけんさんは「拓巳さんは優しいから入り込んでしまう」と返し、自分は誰がどうかには関係なく、成功したいから考えていると話します。
AI千利休に何を聞くのか?旗印と知恵袋の2つの役割
川原さんは個人的な興味として、千利休の膨大な情報を詰め込んだAIができたら何を聞くべきなのかを尋ねます。今の時代に茶道を再構築する理由なのか、それとも旗として存在すればいいのか、という問いです。
すがけんさんの答えは「両方」です。AI千利休には、業界をまとめる旗印としての役割と、現代の条件で考える知恵袋としての役割があるといいます。
AI千利休運営委員会のような形で業界関係者を集め、リーダー不在でも「AI千利休の話を尊重しよう」とまとまれる
過去のアーカイブから意思決定のルールを定義し、現状の背景を入れて、日本の文化として受け入れられる道を問える
すがけんさんは、本物の千利休に何百年も遡って質問しても「え?」と言われて終わるが、AI千利休なら現状を入力すれば答えられると話します。自分たちだと「どう売るか」の話しかできないところを、過去の出来事と照らして示してくれるかもしれないという期待です。
千利休に入れた過去のバックグラウンドとかを入れとくと、「それはね、なんとかの戦争の時も実は同じことが起きてて」みたいな(話になる)。
すがけんさんは、静岡と鹿児島の話を聞いてすぐに「テクノロジーの戦争」「後発が勝つ」とわかったのも、知っていればわかることだからだと言います。ルイ・ヴィトンのダミエが日本の市松模様を使っているように、日本文化がリスペクトされてきた例を引き合いに出しながら議論すればよいという提案です。
すがけんさんは、AI千利休は議論のたたき台になると話します。川原さんが「そのモデルをつくりたい」と乗り出すと、すがけんさんは「僕は全然興味ない」と返して笑いを誘います。
大体こんなのカフェの紙ナプキンにパッて書いて、もう僕の仕事終わりだから。
すがけんさんは、思いつきではなく頭の中のシナプスをつなげまくって考えているので大変なのだと話します。すがけんさんは、この回を動画に編集して薩摩の人たちに送ったらいいと提案し、川原さんもそうすると応じています。
AI吉田松陰も?対話に必要なのは「素直さ」
川原さんは、同じフォーマットが国家運営のレベルでも使えるのではないかと考えます。たとえばAI吉田松陰のように、その道なら全員が納得する人物を過去から召喚するという発想です。
「歴史から学べ」って言ってる割には歴史から学んでないですよね。
すがけんさんは、歴史から学ぶより、歴史を詰め込んで擬人化した存在とAIで対話するほうが合理的になってくると話します。川原さんは「賢者は歴史から学ぶ」という言葉を引き、今はAIと対話することが答えなのかもしれないと応じます。
すがけんさんが付け加えたのは、対話には素直さが必要だという点です。AIの吉田松陰に「そんなわけないじゃないですか」と言ってしまえば、そこで終わるからです。
自分が想像もできない事実を受け止められる人間かどうかっていうのが、すごい重要ですよね。
すがけんさんは、損得ではなく、得たいゴールにとってよいかどうかで議論すべきだと話します。たとえば「うちの畑が半分になる」と思っても、「値段が4倍になるから頑張ろう」と思えるかどうかだという例えです。
すがけんさんは、損して得を取れるか、損をしても未来につながるならいいと思えるかには、義侠心や男気のような要素が必要で、そこに人間性が出ると話します。川原さんは、これが前半の「人格」の話につながり、大義のために生きる武士道のようだと受け止めます。
川原さんは、すがけんさんの人格特性と頭脳を「才能」だと評します。やることは似ていても考え方がまったく違う、というのが2人の一致した見方です。
この回は「すがけんの仕事中」そのもの。経営者合宿と本の案内
すがけんさんによると、「すがけんさんはどんな仕事をしているのか」と毎回聞かれるものの、クライアントとのやり取りは見せられません。今回の対話が、本職である壁打ちアドバイザーの仕事にかなり近いといいます。
(お困りの経営者に)何も配慮せずサイコパスに答え続けるっていう。
すがけんさんは自身を医者にたとえます。患者に寄り添いすぎると「では手術をやめますか」と言えなくなるので、共感せずに「こっちですね」と言うのだと話します。川原さんは、この回を「すがけん仕事中」というタイトルで出すと応じます。
話は2人が予定している経営者合宿に移ります。すがけんさんは、ほかの参加者の相談をオブザーバーとして聞き、「すがけんさんならどう言うか、川原さんならどう言うか」を想像しながら見ることで、リアルタイムのケーススタディになると説明します。
すがけんさんによれば、自分の相談だと主観に入り込んでしまいますが、他人の相談なら考え方の矯正ができます。施策の話はこんなにしなくていい、勝てる条件だけを最初に考えればいい、といった学びが得られるといいます。
告知では、すがけんさんが書籍『厚利少売 薄利多売から抜け出す思考・行動様式』を紹介し、SNSでの読書感想の投稿を呼びかけます。川原さんは「AIすがけん」「AI厚利少売」のようなAI付き書籍のアイデアも出し、すがけんさんも面白いと応じています。
川原さんも自著『人生は「捨て」で自由に生きるための47の秘訣』を紹介します。今回の何を考え何を考えないかという話は、人生単位で何を捨て何を残すかを書いた本に通じるといい、すがけんさんは「まず捨てる勇気を持てば、新しいことを始められる」と応じます。
川原卓巳さんが気づいた「可処分所得と可処分時間を増やす」という軸
番組の最後に、川原さんは最近気づいたことを一つ話します。プロデュース、本、ラジオと活動は多岐にわたるものの、結局やりたいことは一言にまとまるといいます。
僕、人類の可処分所得と可処分時間を増やすことしか興味ないんだなと思ったの。
すがけんさんは、時間は川原さんの本で、所得は厚利少売で扱っていると整理します。川原さんは、その両方の起点として近藤麻理恵さんの片付けを広めているのだと納得したといいます。
川原さんが増やしたいのは、浮いた時間とお金で楽しいことをしたり、人の役に立ったりする人です。この番組ができているのも、互いに人へ何かを与える余裕があるからだと話し、厚利少売ラジオを聴いた人にもそうなってほしいと締めくくりました。
まとめ
この回は、鹿児島で見た抹茶産業の危機を出発点に、すがけんさんが「どうやるか」より「どんな状態を目指すか」を先に決める考え方を実演した回でした。抹茶を守る鍵は品質管理や国際規格ではなく、「抹茶ならどこの?日本ならすごいね」という知覚をつくるブランド化と、それを担う主体者にあると語られています。
- 鹿児島は機械化への先行投資で静岡を抜きお茶生産量日本一になったが、抹茶には定義がなく、海外勢が量で迫っている
- すがけんさんは、グレーディングや国際規格は他国を招き入れかねず、寿司やラーメンのようなブランディングが重要だと指摘した
- 目指すのは品質のピラミッドの頂点を日本が取り、「日本産=プレミアム」と認識される状態で、PRとGRの両輪が必要だとされた
- 業界のリーダー不在には、損をする当事者が主体者になるか、旗印と知恵袋を兼ねるAI千利休を立てるという案が示された
- 頑張る前に、うまくいく前提条件をそろえることが、すがけんさんの壁打ちの核として語られた


