周りが変わらないのは誰のせい?
厚利少売ラジオのシーズン2で、川原卓巳さんは久しぶりのテーマトークとして「パートナーやチームを厚利少売脳に変えるにはどうしたらいいのか」を取り上げました。
このテーマは、リスナーや知人から複数寄せられた要望です。家族経営の中小企業、少人数のスタートアップ、取引先と組んで働く個人事業主など、厚利少売を周りと分かち合いたいのに伝わらないという声が多いといいます。
題して、本日のテーマ、「パートナーやチームを厚利少売脳に変えるにはどうしたらいいのか」。
難しい。
すがけんさんは、この悩みの難しさを「自分以外の人間を変えようとしていること」にあると話します。そのうえで、経営者に向けて少し厳しい前置きをしました。
周りが変わんないから厚利少売ができないって思うのは、やっぱちょっと言い訳になっちゃってる気がする。
すがけんさんによれば、「周りが変わらないから自分は厚利少売ができていない」という状態なら、まずは自分が実践して背中を見せることが先です。自分が変わらない理由を周りのせいにすると、その連鎖が無限に続いてしまうからです。
一方で、すがけんさんは、自分ではもう頑張っているのに周りがついてこないという人には、いくつかのやり方があると続けます。
人の行動を変えたいなら、何を変えるべきか
すがけんさんが最初に挙げたのは、人の行動ではなく、その人が摂取する情報を変えるという方法です。人が薄利多売を選ぶのは、過去にそうしてきたことや、過去に知っていた情報で意思決定しているからだといいます。
人間の行動を変えたいならば、その人が摂取する情報を変えなきゃいけないんですよ。
そこですがけんさんが勧めるのは、厚利少売の本と厚利少売ラジオを周りに紹介することです。ふざけて聞こえるかもしれないが、最もまともな解決策だと話します。「今回面白かったよね」「あの話聞きました?」という会話から、少しずつ変わっていくというイメージです。
すがけんさんは、この考え方を「同じ釜の飯を食う」という例えになぞらえました。
川原さんはこれを受けて、順番を整理します。自分が厚利少売を実践し、幸せそうにうまくいっている姿を見せるのが「0手目」です。そのうえで、無料で聞けるラジオや本を「1手目」として使い、周りの人の頭を占める情報の割合を変えていきます。
「何をやるか」より「なぜやるか」
すがけんさんは、社長などの立場からパートナーを急いで動かしたい場合は、ワークショップを開いてみんなで考える方法もあると話します。そのとき最も重要なのは、なぜ自分が厚利少売をやりたいのかという動機を説明することです。
すがけんさんによれば、多くの人は「厚利少売っていうやり方があって、すごくいいからやりましょう」とWhatだけを伝えてしまいます。そこに「なぜ」が入っていないと、相手の動機とつながりません。
代々続くうちの家業をあと100年続かせるためには、今の日本のこの構造だとやっぱりダメだから変えたいとか。
動機がきれいかどうかで人は動くかどうかが決まるんですよ。
すがけんさんは、動機をすり合わせる具体例として、パートナー企業が「うちも利益率が減ってきているし、何とか変えなきゃと思っていた」と自分ごとにしてくれる状態を挙げています。
ゴールデンサークル理論は、なぜ人を動かすのか
川原さんは、人を変えることは基本的にできないと考えつつも、人に動いてもらえるようになることは必要だと話します。そのきっかけになったのが、サイモン・シネック ── アメリカの作家・講演家。TEDトーク「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」で、Whyから語ることの重要性を示しましたの動画でした。
動画で語られるゴールデンサークル理論は、すがけんさんの話を図式化したものだと川原さんは説明します。伝え方にはWhatから伝える方法とWhyから伝える方法があり、Why、How、Whatの順で伝えるほうがはるかに人を動かすという考え方です。
「あれをやりましょう」から始まり、動機がすり合わないまま相手が「なぜ?」と感じる
Why→How→Whatの順で語り、相手が動機に共感してから中身を受け取れる
僕、どの発信、どのプレゼンも絶対あの(ゴールデンサークルの)型はやってるんですよね。
すがけんさんは、人が動機を知りたがるのは「変えるのが大変だから」だと付け加えます。その動機が、儲けたい、楽をしたいという独りよがりなものなのか、パートナー企業のことまで考えたものなのかで、受け取り方はまったく変わるといいます。
さらに川原さんは、Whyには自分にとっての意義だけでなく、やらなかった場合に社会全体でどういう未来になるのかというマクロの危うさも含めると、より動いてもらいやすいと話しました。
人口が4000万人増えた50年と、減る50年
すがけんさんは業務連絡として、厚利少売が大前研一さんのAobaBBTという大学院で教えられることになったと報告しました。9月10日に第1話が公開されるといいます。
その講義向けに、すがけんさんは川原さんの言う「マクロ環境」として、日本の人口の推移を改めて調べたといいます。すがけんさんの説明では、日本の人口は約8000万人から約50年で1.5倍、つまり約4000万人増えました。
人口が増えると、子どもは十数歳で携帯電話を、20歳ぐらいで車を欲しがります。すがけんさんは、この人口ボーナス ── 生産年齢人口の増加などで経済成長が後押しされる状態を指す言葉ですによって、経済が非常にやりやすくなったと説明します。
4000万人、その50年間は4000万人分が冷蔵庫を買い、洗濯機を買い、携帯電話を買い、自動車を買い、洋服を買いっていう風になってったんで、ありとあらゆるものは足りないわけですよ。
すがけんさんによれば、いっぱい売れる前提があったからこそ、安くても薄利多売を目指すのが合理的でした。ところが2000年ごろから2030年ごろまでの約30年は、人口が横ばいになります。
この横ばいは、子どもが生まれなくなったのに寿命が延びたことによるものです。増えているのは65歳以上の人で、お金はあっても新しい服や車をどんどん買うわけではありません。すがけんさんは、横ばいなのに経済の調子が悪い理由はここにあると話します。
そして、これからの約50年で人口は再び8000万人ほどに戻るといいます。4000万人増えたことで日本が世界一のような時代を迎えたのなら、4000万人減ればその反作用が起きる、というのがすがけんさんの見立てです。
確かに逆回しが同じペースで起きるってことだもんね。
すがけんさんは、この状況で薄利多売で数を売る戦略が取れるのか、という問いこそが厚利少売の発端だと話します。ただし悲観だけではありません。50年後でも8000万人がいて、お金を持つ人もちゃんといます。
これまで99%の事業者が薄利多売を続けてきたため、高くても良いものを求める人向けの商品は、世の中にほとんどありません。すがけんさんは、ゼロから5万人、10万人と伸ばしていく余地は十分にあり、それが小さな組織の生き残る道だと語りました。
来年の今日、楽になっているのはどちらか
川原さんは、人口の話を「一時リスナー」として聞きながら、近藤麻理恵さんの会社の社長として打ち手を考えていたといいます。挙げたのは3つの柱でした。
- お金を持ち、人口が増えているシニア向けに身支度を整えるサービスを作る
- 人口が減るなかでも厚利少売をやりたい人を育成する
- 日本の良い価値を、為替差益も生かして海外へ厚利少売で展開する
いい経営者ですね。
すがけんさんは、薄利多売と厚利少売の違いを1年後の姿で説明しました。この言葉に、川原さんは「鳥肌が立った」と反応しています。
(薄利多売だと)今日から来年の今日、もっと大変になってます。
市場が減り続けるため、来年の今日、再来年の今日と年々大変になっていく
高くても買いたい人に向けて商売するため、年々楽になっていく
すがけんさんは、いつから始めるかについては早いほうがいいとしつつ、いずれにしても年々楽になるほうを選ばないと経営は大変になると話します。ラジオを聞きながら少しずつ挑戦し、「何かつかめてきたかも」と実感してほしいと語りました。
マンハッタンの小さなシャケ定食が教えること
後半は、川原さんがICCでフード・ドリンク部門の審査員を務めた経験から始まります。各地の風土を生かし、本気で作られた商品を、値付けも評価軸に入れて見たことで、厚利少売の視点で考えられたといいます。
みんなが自分で自分たちの首を絞めて足引っ張ってるのは、その地域で横にいて、目に見えてる人たちの基準に引っ張られてることが、どれほど値付けを難しくしてるかって感じたのね。
すがけんさんは、日本で富裕層ビジネスがうまくいかないのは提供側が富裕層ではないから、という話と同じだと応じます。相手の感覚がわからないと、何をすべきか、いくらにすべきか、何と比べられているかがわからないからです。
川原さんはここで、マンハッタンでのシャケ定食の体験を語りました。小さな切り身の定食が約7500円で、悔しい思いをしながら食べたといいます。日本に帰ってすぐ「お口直し」に入った店では、大きなシャケの定食が750円でした。
僕はこれが自分の中にある厚利少売の伸びしろであり、日本が置かれてる基準だと思っていて。
すがけんさんは、マンハッタンのシャケ定食が7500円でちゃんと売れていて、それを食べた人がインバウンドで日本に来ている点を指摘します。日本で7500円で出しても、切り身が2倍あると喜ばれるかもしれないというのです。
川原さんは、味や焼き方、米のつや、小鉢や味噌汁まで含めた満足度は「丸2個ぐらい違う」と話し、その差を体感するために「厚利少売を味わう海外ツアー」をやろうと思いつきました。自分の業種の最高峰とされるものを海外で味わえば、自分の仕事の価値がわかるという狙いです。
すがけんさんは香港の例も挙げます。物価がすべて2倍のため、日本から来た参加者は、より多くの金額を稼いでいるはずなのに貧しく見えてしまうといいます。日本は物価的に世界から鎖国のような状態で、原材料を仕入れる以上、このままではコストが上がるだけだと話しました。
川原さんは、円安で日本の会社がバーゲンセールのように買われているとし、すがけんさんもニセコや熊本の台湾企業の半導体工場を例に挙げました。いいものを高く売らなかった結果、日本全体が薄利多売で買われていく状態だと二人は語ります。
みんなめちゃめちゃ本気で命かけて、それこそ骨身削ってまでクオリティ高いものをやってるんだったら値つけよう。
シャインマスカットは1800円だと売れなかった
すがけんさんは、値段の基準が周りに合わせて決まってしまう例として、元寺田倉庫 ── 東京・天王洲に拠点を置く倉庫会社。保管業のほか、アートや文化の発信拠点づくりでも知られますの経営者、中野さんのエピソードを紹介しました。天王洲で、産直の生産者を招くファーマーズマーケットを開いていたときの話です。
あるとき、地方の生産者がシャインマスカットを1800円で売っていました。中野さんが「安いですね」と声をかけると、「冷やかしなら帰ってください」と追い返されたといいます。
翌日の日曜日に中野さんが見に行くと、シャインマスカットはまったく売れていませんでした。そこで中野さんは自分が運営会社の社長だと明かし、売れなければ全部買い取るので2倍の3600円で売ってみてほしいと頼みます。
3600円、2倍で売ってみてもらっていいですか?って言ったら完売。
すがけんさんによれば、天王洲までわざわざ来る客は、普段の紀ノ国屋で3600円のシャインマスカットを見慣れています。そのため1800円だと「安い」ではなく、「甘くないのかな」「普段のほうがおいしいのかな」と受け取られてしまったのです。
1800円。客は「甘くないのでは」と疑い、2日目になっても売れない
3600円。普段の店と同じ価格で安心され、完売
安くて損してるどころか、安くて悪になっちゃってるわけですよ。
すがけんさんは、頑張ったのに損をし、しかも悪いと思われるのは大きな問題だと話します。身の丈ではなく相手の価値に合わせて値決めすることが必要で、生産者の身の丈には合わなくても、買い手にとっては釣り合っているのだといいます。
安さは善か、怪しさか
川原さんは、この話に2つの矛盾を感じたといいます。生産者は安くすることが善であり経営努力だと思って頑張っている一方で、ちゃんとした値段がついていないものを怖い、怪しいと感じる消費者もいるという点です。
だから誰が買いに来るの?って話。
すがけんさんの答えは「相手」でした。周りの農家の「そんな高い値段で買うかよ」という声を基準にすると安くなりますが、生産者が会場にいる買い手の気持ちで考えれば、値上げという選択肢が見えたはずだと話します。
すがけんさんは、実際には売れ残ったシャインマスカットが夕方には値札に線を引かれ、500円などに値下げされるだろうと推測します。努力を無駄にする真逆の行動で、本来は買い手が安心できる、あるいは慣れている価格で売るべきだといいます。
値段のレーダーに入ってくんないと、まず見向きできないもんね。
二人は中野さんのお節介ぶりを「現代の水戸黄門」と笑い、さらに「キングオブ捨て」と呼んで盛り上がります。そのうえで川原さんは、良いものが気づかれないまま届いていないケースが多すぎると振り返りました。
川原さんは、利益率を2倍にする値付けは序の口で、海外をマーケットにすれば10倍でもやっていけるものだらけだと話します。すがけんさんも、日本は清潔で民度が高く、同じ商品でも体感値がまったく違うのだから、その価値を知らせていく時期だと応じました。
ラジオで前を向き、本で歩き出す
川原さんは、逆の循環は誰か一人の勇気と気づきで値を上げることからしか始まらないと話します。だからこそ、番組に出会った人に半歩でも厚利少売に近づいてもらうことが、自分たちにできる一番の変化だといいます。
まずはそっちを向いてもらうっていうね。薄利多売に背を向けて厚利少売を向いてもらうってことがすごく重要。
すがけんさんは、ラジオで前を向くモチベーションを上げ、具体的なやり方は見出しが整理された本で学んでほしいと話します。二人のトークは脱線が多く、聞かないとわからない話があちこちに隠れているからです。
川原さんは、着想したことをその場で話すのが一番熱量があって面白いと話し、後で誰かに整理してほしいと冗談を言います。そこから、自分たちの死後にアーカイブを整える「没後チャンネル」という話で笑い合いました。
すがけんさんは、人口が8000万人になる頃には全員が厚利少売をやっていなければならないと語ります。川原さんも、もっと多くの人に届けて背中を押さないと間に合わないと話し、番組を周りに紹介してほしいと呼びかけました。
ファーストペンギンは、押されて飛び込む
すがけんさんは、押された人がさらに周りを押していく必要があると話し、ファーストペンギン ── 群れの中で最初に海へ飛び込むペンギンのこと。リスクを取って新しいことに挑む人の例えとして使われますを例に挙げます。すがけんさんによれば、ファーストペンギンは自分から飛び込むのではなく、後ろからどつかれて飛び込んでいるといいます。
だからみんなも僕らにどつかれて厚利少売に飛び込んだ方がいいし、自分からはね、なかなか飛び込めないんで、もう僕ら押し続けますんで。
川原さんも、自身が経営や起業をするようになったのは、近藤麻理恵さんにどつかれて押された結果だと振り返ります。当時は「できないよ」と思っていたそうです。
すがけんさんは、やってみれば何とかなると話し、経営で大切なのは成功を狙うことより失敗しないことだと続けました。
すがけんさんによれば、失敗しない方法で続けていればいつか当たり、当たったときに大きく返ってくるようにしておくのが経営の考え方です。川原さんはこれを「いいギャンブルの極意」と表現し、すがけんさんもギャンブルに例えてよく説明すると話しました。
最後に二人は、経営者合宿や円安体感ツアーなどのアイデアについて、反応が多いものから実現したいと呼びかけ、今出会っているリスナーこそ厚利少売の最初期の仲間だと語って回を締めくくりました。
まとめ
今回の厚利少売ラジオは、チームを厚利少売に巻き込む方法から始まり、人口減少という日本のマクロ環境、そして相手基準の値付けへと話が広がりました。根底にあるのは、自分や周りの身の丈ではなく、相手が何を見て価値を判断しているかに目を向けるという姿勢です。
- 周りを変えたいなら、まず自分が実践し、本やラジオで周りが触れる情報を変える
- 人を動かすには、Whatより先に「なぜやるのか」というWhyと動機を伝える
- 人口が約4000万人減る今後の日本では、薄利多売は年々苦しくなり、厚利少売は年々楽になる
- 1800円で売れなかったシャインマスカットが3600円で完売したように、安さが「怪しさ」になることがある
- 値付けは周りの生産者ではなく、実際に買いに来る相手が安心できる基準で決める


