なぜ準備ゼロでゲストを迎えたのか
『厚利少売ラジオ』の#23は、SNS運用者のど素人ホテル再建計画さん(以下、ど素人さん)をゲストに迎えた回です。すがけんさんと川原卓巳さんは、以前から番組内や二人の会話でど素人さんの名前を挙げていたと話します。
僕だって珍しく株主パワー使って投資先になんとか紹介してくれって言って(ど素人さんを)紹介してもらった。
すがけんさんは、ど素人さんと会うために、投資先に紹介を頼んだそうです。そうした頼み方をしたのは初めてかもしれない、と振り返っています。
この回のテーマは「持たざる者が何者かになる魔術」と、需要を増やす発信の究極形としてのプロセスエコノミー ── 完成品だけでなく、制作の過程そのものを発信して価値や共感を生む考え方。過程を見せることでファンを育て、需要を作るとされますです。ただ、テーマはど素人さんに事前に伝えられていませんでした。
ど素人さんは準備をまったくしないタイプだと答えます。AIに人間が唯一勝てるのは即興力だと考えており、即興力を鍛える方向を極めたいと話しています。
川原さんは、ど素人さんの経歴や手法は別の番組「アンプラグド」で詳しく語られているとして、この回ではそこをなぞらない方針を示しました。この番組でしか聞けない「無名の人が何者かになる発信」と「需要を増やす方法」だけに時間を使う構成です。
ストリートスナップの主役は撮る人ではない?
最初の質問はすがけんさんからでした。すがけんさん自身もど素人さんの助言を受けてSNSでフォロワーを増やす取り組みを始めたものの、実際にやると難しいと感じていたといいます。
だってカメラいきなりその辺のおじちゃんに向けて回すのだって大変じゃない?
すがけんさんは、持たざる人がなぜ街頭撮影をいきなり始められるのかを尋ねました。ど素人さんはまず、ストリート系アカウントの強みを説明します。それは、一般人が集めた注目(インプ)を、自分のアカウントのインプに書き換えられる点だといいます。
ど素人さんが例に挙げたのは、有名なストリートスナップのアカウントアノニマスさんです。ど素人さんによれば、視聴者が見ているのは撮影技術でも撮影者のキャラクターでもなく、撮影される人のキャラクターです。
写真じゃないんですか?
ど素人さん自身も写真のプロとして活動していました。その立場から、アノニマスさんの初期の写真はピンボケや適当な構図もあったと話します。そのためフォトグラファーからの嫉妬やアンチコメントも多かったそうです。
一方で、そこそこの一眼レフで撮っていれば、一般の視聴者には写真の差はわからないとど素人さんは指摘します。バズの理由は、突然声をかけられた街の人の反応と、「彼女いますか?」「年収いくらですか?」といった質問へのリアルな答えにありました。
ど素人さんによると、年収の質問なら、視聴者は見た目から答えを想像し、知りたい気持ちのまま最後まで見てしまいます。その結果、視聴維持率が伸びてバズにつながります。インプとフォロワーを獲得するのは、取材される一般人ではなく撮影者のアカウントです。
何者かになりたい人ほど自分を引くべき理由
ど素人さんの説明を受けて、すがけんさんは、なりたい自分の姿と必要な努力が逆向きになっている点に気づきます。
つまり何者かになりたい人って、自分が目立とうとして何者かになろうとするんだけど、今の話みたいに自分は一旦引いといてよくて、
映る相手側をどう魅力的にとか、その興味を持って引っ張れるかみたいな方に向けないといけないから、その、なりたい像とやる努力が結構真逆ですよね。
ど素人さんはこれに同意し、従来型のフォトグラファーの投稿と比べて説明しました。画角やゴールデンアワーなど撮影者のこだわりを語る投稿は、一般の人にとっては価値が薄く、PRのように聞こえてしまうといいます。
ど素人さんは、SNSは無料で見られる広告モデルなので、今の視聴者は広告への嫌悪感が強いと話します。レコメンド型のSNSでは「スワイプされないこと」が重要ですが、PR臭のある投稿はすぐスワイプされてしまいます。
従来型の投稿とストリート系の投稿の違いは、次のように整理できます。
画角や時間帯へのこだわりを説明するが、一般の人には興味が薄く、PRに聞こえてすぐスワイプされる
広告臭がなく、視聴者が自分事として考えられる。一度気になると最後まで見てしまう
後発組はファーストペンギンにどう勝つのか
川原さんは2つの質問を投げます。アノニマスさんはなぜ伸びたのか、そして同じフォーマットをまねれば同じように伸びるのか、という問いです。
ど素人さんの答えは、どちらも「一番最初にやったから」でした。アノニマスさんは海外でバズっていたのを見て始めたと話していたそうです。国籍に関係なく人間が本質的に見たいコンテンツだと理解し、日本で最初にやったことが伸びた理由だといいます。
ど素人さんによれば、2番目以降はどんどん伸びなくなります。そこで後発組は、ジャンルをずらしていきました。福岡中心の元祖に対して、大阪版や北海道版などの地方版が生まれたのです。
ど素人さんは、地方版が伸びた理由を視聴者の期待で説明します。北海道の人にとっては、福岡のアカウントをフォローしても自分や友達が映る可能性はありません。北海道版なら「友達が出るかも」「自分も撮ってもらえるかも」「知っている場所が出るかも」と期待できます。
ストリートスナップのアカウントは、多い時期で500以上あったとど素人さんは話します。ただ、各カテゴリーでは最初に始めた人に視聴者が集まるため、飽和するとまた次のずらしが起きます。ど素人さんが語った変遷は次のとおりです。
元祖
福岡中心のストリートスナップが最初に伸びる
地域でずらす
大阪版、北海道版など地方版が登場し、各都道府県に3アカウント以上できる
属性でずらす
高校生版、入れ墨が多い人の版など、撮る対象を絞る
テーマでずらす
貯金額、ルームツアー、クレジットカードなど、踏み込んだ質問へ移る
ど素人さんは、テーマ型が伸びた背景として、台本や演出の入ったショート動画が増え、リアルな動画が減っていることを挙げます。台本もやらせもなく、何が起きるかわからない動画だからこそ見たい、という需要です。
あ、それでいうと、でも片付けのコンテンツが当たったのも同じだわ。覗き見したかったのよ。芸能人の家とかを。
「2秒ごとに興味をずらす」動画はどう設計されているか
ど素人さんが関わったアカウントで一番伸びたのは、ラーメン屋のストリートラーメンというアカウントです。ざるを持って街の女性に声をかけ、「あなたの家で今からラーメンを作っていいですか」と頼む企画です。
ど素人さんはこの動画を、視聴者の興味が2秒ごとに移っていく構造として説明しました。興味が移るたびに「知りたい」が生まれ、それを次の場面が解決していきます。
ど素人さんによると、最後まで見てもらえれば、シェフの腕をPR臭なしでアピールできます。
すごい。2秒単位で興味をこうずらしながら最後まで見せるって、そこまで設計するんですね。
これアカウント設計した時に、あ、この興味が移り方するな、これうまくいくわ、まで描き切れてるの?スタートの時点で。
ど素人さんは、スタート時点で描き切れていると、当然のように答えました。
即興10秒で生まれたネギのアイデアとは
ど素人さんによれば、ストリートラーメンの原型は、即興10秒で考えたアイデアでした。きっかけは、ど素人さんが毎年登壇しているSNSサミット ── SNS運用やマーケティングの実務者が集まる国内イベント。ど素人さんは、この界隈で一番大きいサミットだと紹介していますでの「リアルタイムコンサル」です。
リアルタイムコンサルは、手を挙げた参加者をその場で助言する企画です。ある回で「ネギを売りたい」という参加者が手を挙げました。
ど素人さんは、丸の内のOLにネギを持ってインタビューし、「お姉さんの家でこのネギを料理させてください」と頼むアカウントを提案したといいます。ネギを持った不審な人、家に連れていってくれる女性、室内、冷蔵庫、料理、女性の反応という6つの需要で必ずバズる、と説明したそうです。
(興味が移る)6つの需要の話(を)リアルタイムでするのすご。
ど素人さんによると、その参加者は結局その企画を実行しませんでした。数か月後、依頼してきたのがラーメン屋さんです。
このラーメン屋さんは、元フレンチのミシュラン付きのシェフで、レシピをBtoBで卸しているため技術力をPRしたいと考えていました。ど素人さんは、冷蔵庫の不思議な食材からでもおいしくおしゃれな料理を作れることが何よりの腕のPRになると考え、空いていたネギのフォーマットを提案したといいます。
もったいなネギくん、マジで。
できないことほど伸びる、の本当の意味
すがけんさんは、提案されても実際にはカメラを向けられないネギくんの気持ちがよくわかると話し、どういうメンタルならできるのかを尋ねます。
ど素人さんの答えは、すがけんさんの感覚が普通であり、普通の人ができないからこそバズる、というものでした。誰もやらないからブルーオーシャンなのだといいます。
すがけんさんは、時給30万円の厚利少売のコンサルで、クライアントに「聞いたんだからできるでしょ」と言ってきたことを反省したと話します。できない人の気持ちが初めてわかり、手が震えるほどだったといいます。
ど素人さんは、SNSでは嫌悪性イコールバズ性だと続けます。知らない人の動画は普通見られませんが、見たことのないものなら見たい欲求が生まれます。誰もやりたくないことは、見たことのないものである可能性が高いという理屈です。
知らない人が「コンサルしたらお金持ちになれます」と自分のすごさを語る
丸の内でネギを持つ人のように、誰もやりたがらず見たことのないもの
すがけんさんは、知られていない人が権威性を語っても意味がないと受け止めました。ストリート系では他人に興味を向けてもらい、それを自分のアカウントに集める必要があります。それは難しいけれど、難しいからこそ見たことのないものが作れる、という整理です。
ど素人という名前に込めた覚悟
川原さんは、すがけんさんがクライアントだったら、どう会話で導いてできるようにするのかを尋ねました。
ど素人さんによれば、依頼してくる時点で奇抜な運用になることはわかっているため、クライアントにはすでにやる覚悟があるそうです。そのうえで、嫌悪性が伸びること、みんながやりたくないことがバズることを伝えるといいます。
ど素人さんは自分自身も例に挙げます。「ど素人」という名前で全国的な知名度を取るのは、普通の男性なら嫌なはずだと話します。当時は31〜32歳ごろで、あえて雑魚キャラとして発信していたそうです。
ど素人さんは、無精ひげを3日ほど剃らずにいたり、Tシャツがボロボロになっていく様子を見せたりしていました。そこから「みんなでTシャツを作ろう」と公式Tシャツの発売につなげたといいます。
すごいって言われたくて始めるのにすごくないって言い始めるんでしょ。
すっげえ頭いいし、すっげえ頭悪いのが同居しているのが大好きで。
ど素人さんはもともとキャッチの仕事をしていたため、声かけが得意だとも明かします。川原さんも若い頃の経験から駅前での声かけには抵抗がないと話し、スタジオは笑いに包まれました。
すがけんさんならおばあちゃんからインプを借りる?
話題は、すがけんさん自身をどう発信すればよいかに移ります。ビジネスでは強者のすがけんさんを人間としての弱者として立てるのが面白い、億万長者が無人島に取り残されるような企画なら伸びる、というアイデアも出ました。
やっぱりアカウントって自分をIPのように扱うんじゃなくて、自分をメディアのように扱って、誰に出てもらうかとかを企画する、ちょっとプロデューサーっぽい立て付けで(いくのがいいのか)。
ど素人さんは、ストリート系ならメディア型もありだと答えます。一方で、ど素人ホテルのアカウントは本人がIP ── 知的財産(Intellectual Property)の略。ここではキャラクターや作品のように、人そのものが価値の源泉になる存在を指しますになっているので、どちらでいくかの選択だといいます。
ど素人さんが以前すがけんさんに提案したのは、寂れた地方商店街で、おばあちゃんが営む豆腐屋やかまぼこ屋などの売上を上げる企画でした。ど素人さんによれば、おばあちゃんはSNS上に少ないため稀有性が高く、インプが一番取れる存在だといいます。
おばあちゃんの店
寂れた商店街でどう成り立っているのかが気になる
今の売上
月商7万円のような数字に、どうやって成り立っているのかが気になる
すがけんさんの助言
どんなアドバイスをするのかが気になる
その後の月商
売上がいくらになったのかが気になり、最後に「すがけんさんすごい」となる
ど素人さんはこれを、おばあちゃんからインプをもらう技だと表現します。すがけんさんは、以前会ったときにサラッと言われた助言の裏で、6つほどの興味まで考えられていたことに驚いていました。
権威を捨てたプロが一番強い理由
すがけんさんは、撮影する人がいないと難しいと以前ど素人さんに言われていたことに触れます。ど素人さんは、体にマウントするカメラ、超広角の手持ちカメラ、三脚の3カメ体制が理想で、面倒なので撮影者は1人いたほうがいいと話します。
ただ、ど素人さん自身は、撮影で誰かに協力してもらったことはなく、すべて一人で撮っているそうです。
ドしろーとさんって元々のスキルセットでいうとバチバチイケてるビデオグラファーでありカメラ屋さんなんですよ。
ど素人さんは映像のプロでありながら、ボロボロのTシャツで「ど素人」として表に出ています。番組では、このギャップと、ブランドをあえて下げる振る舞いの掛け算が、ど素人さんの強さだと語られました。エピソード説明で示された「稀有性=バズ」という考え方にもつながる話です。
それができないんだよな。やっぱ捨てるっていう。
番組の最後に、川原さんは、ど素人さんがBrainで出している記事『今から無名が有名になる16の裏技』を紹介しました。具体的なアカウント事例が書かれた記事で、この回ではその奥にある考え方や第一原理が聞けた気がする、と締めくくっています。
まとめ
前編では、ど素人さんの事例を通して、無名の人がSNSで需要を生む方法が語られました。中心にあるのは、自分のすごさを語らず、他者の注目と「見たことのなさ」を借りて、最後に自分の価値を見せる設計です。
- ストリート系では、撮影者ではなく撮影される人のキャラクターがインプを生み、それを撮影者のアカウントが獲得する
- ファーストペンギンが勝つため、後発組は地域、属性、テーマとジャンルをずらしていく
- 2秒ごとに視聴者の興味を移す設計なら、PR臭なしで技術や腕を伝えられる
- 誰もやりたくないことほど見たことのないものになりやすく、「嫌悪性イコールバズ性」だと語られた
- プロとしての権威をあえて捨てる覚悟とギャップが、ど素人さんの強さだと語られた





