かっこいい映像は、なぜ誰にも届かなかったのか
ど素人ホテル再建計画さんは、もともとPVのようなシネマティックな映像を作るのが好きで、映像業界でもそこそこ知られた存在だったといいます。けれど、そうした映像はSNSで全く伸びないことに気づいたそうです。
ど素人さんの考えでは、どれだけかっこいい映像を作っても、届かなければブランディングにも認知にも採用にもつながりません。そこで、もっと多くの人が見たいと思うエンタメに振ったほうが売り上げは上がると考え、ど素人ホテル再建計画を始めたと話しています。
すがけんさんが「映像の仕事を増やすためだったのか」と尋ねると、ど素人さんは否定します。バックパッカーとして旅を続けていたところ、コロナで海外に行けなくなり、ちょうどそのとき沖縄のホテルから再建の依頼が来たのがきっかけだったそうです。
ど素人さんには、このホテルを再建できる強い自信がありました。ホテルの施設も口コミもとても良く、Googleマップ、じゃらん、楽天トラベルの評価はいずれも4.2ほど。ただ、マーケティングができておらず、その口コミが誰にも届いていなかったといいます。
口コミ
ホテルはすでに4.2前後の高評価を持っていた
認知
ホテルに唯一欠けていたのが、口コミを届ける認知
予約
口コミが多くの人に届いて初めて予約につながる
ど素人さんは、ホテルの予約は口コミ×認知だと捉えていました。認知を取るのは自分の得意分野で、ホテルが唯一持っていないものを自分が持っていると感じたため、確実に売り上げを上げられると判断したそうです。
ホテル王の計画は、なぜSNSプロデューサーに変わったのか
ど素人さんが沖縄のホテルの先に見ていたのは、ホテルの買収でした。当時はコロナの影響で全国的にホテルの価格が下がり、売却したい人も多かったといいます。まず3年以内に黒字化させ、価値の下がったホテルを次々と買収していく計画だったそうです。
なるほど、ホテル王だったんだ、目指すは。
1つ再建に成功すれば融資や投資も取りやすくなる、というのがど素人さんの読みでした。ところが黒字化が見え始めたころ、さまざまな企業から「うちも再建してほしい」という依頼が届きます。
困っていそうだったので手伝ったところ、10社ほどの案件がすべて売り上げを伸ばし、黒字化し、アカウントは何百万再生とバズったそうです。ど素人さんは、こちらのほうが世の中のためになり、自分の才能もこちらにあるのではないかと感じたといいます。
個人の中でピボットが起きたんだ。その時に。あれ?みたいな。
沖縄のホテルを黒字化し、値下がりしたホテルを買収していく「ホテル再建スペシャリスト」
依頼を受けた企業をSNSで次々とバズらせ、SNSで事業を伸ばす道へ
本を1冊も読み切ったことがない人の「ビジネス脳」
川原さんが最も気になっていたのは、ど素人さんのビジネス脳がどこで鍛えられたのかという点でした。ホテル王を目指す時点で事業計画として成立しているのに、ただ旅をしていただけではないのか、と問いかけます。
ねえねえ、なんでさ、そのビジネス脳がそんなに鍛えられているの?
ど素人さんの答えは意外なものでした。受験をしたことがなく、本を1冊読み切ったこともなく、資格は運転免許しか持っていないといいます。このやり取りには、すがけんさんと川原さんの掛け合いも重なり、スタジオは笑いに包まれます。
ど素人さんが昔から自信を持っていたのは、自分の感覚が世の中の中央値だという点でした。フリーランスとして手がけた小さな事業はすべて当ててきたそうで、その最初の例が海外の古着の輸入です。
ど素人さんの古着ビジネスは、自分が欲しいものを輸入し、売れるまでは自分で着て、売れたら手放すというやり方でした。古着はもともと価値が落ちにくく、自分の服代もかからないうえ、毎日違う服を着られたといいます。
古古着になっただけだもんね、自分を通してね。
ど素人さんは、ノースフェイスやチャンピオンのような売れやすいブランドは普通のマーケターでも調べればわかると話します。自分が得意だったのはノンブランドの古着で、デザインや形だけで売れるかどうかを感覚で見抜き、300円で売られていたシャツが1万円で売れることもあったそうです。
中央値の人が選ぶ「ユニーク」とは何か
ど素人さんはその後シェアハウスを経営し、その1部屋をAirbnbの民泊として貸していました。この民泊が世界トップ10のユニークリスティングに選ばれ、Airbnbで講演をしたこともあるといいます。
すがけんさんは、古着が一点物であり、民泊もユニークさで選ばれている点に注目します。ど素人さんは中央値と言いながら、実際には中央値の感覚の中で「まだないもの」を作り続けている、という指摘です。
300円を3000円とか3万円で売るような、なんか結構小売り商売的な発想と近いんですよね。ないことをやるから。
ど素人さんはこの指摘に強く同意しつつ、天才が考えるユニークさは伸びないと補足します。一般人は新しい店や奇抜なものを常に求めていますが、中央値にいる人がユニークだと感じるものこそが、みんなにとってのユニークだという考え方です。
すがけんさんも、インフルエンサーがアパレルを始めると本人の奇抜さが高まりすぎて売れないことが多いと応じます。川原さんが「中央値なのに、なぜこんなに奇人なのか」と首をかしげると、すがけんさんが言葉を整理しました。
世の中の中央値と同じ感覚で、みんなが面白いと感じるものを受け取る
その感覚の少し先にある、まだないユニークなものを狙って出す
川原さんが中央値でいるための心がけを尋ねると、ど素人さんは「先天性のもの」だと答えます。小学生のころから自分を普通のやつだと思っており、すごい人を見ても自分はああはなれないと感じていたそうです。古着やゲストハウスがうまくいったことで、その感覚を活用できると気づいたといいます。
レコメンドの時代に、普通の人が勝ちやすい理由
すがけんさんは、このエピソードのテーマを「普通では何者にもなれないのか」という悩みにつなげます。ど素人さんの話から見えるのは、センサーは普通のままでいいが、アウトプットはまだないものを作る必要がある、というヒントです。
ど素人さんはさらに、今は普通の人が最も勝ちやすい時代だと話します。SNSのアルゴリズムがレコメンドシステムになり、みんなが面白い、いいと思うものがバズる仕組みはどのSNSでも同じだからだといいます。
それの次って何だろう?3ヶ月後に自分がいいねって押してるものって何だろうぐらいの感覚でやると、ちょっと見えるかもしれないですよね。
川原さんは、周囲の尖ったセンスの人たちが早々に「SNSはつまらない」と言い出した理由が腑に落ちたといいます。SNSが普通の人の感性に最適化されているため、そうした人たちを刺激しなくなった、という見立てです。
ど素人さんは、そうした人たちは本に向かうと指摘します。本にはアルゴリズムがなく、見たいものを能動的に取りに行けますが、SNSは受動的で中央値に近いコンテンツが届くため、上位レイヤーの人はうんざりしてしまうといいます。
アルゴリズムがなく、自分が見たいものを能動的に取りに行く
受動的に受け取るため、中央値に近いコンテンツや自分の欲に沿ったものが届く
すがけんさんは、SNSでは抗えない自分の欲に反応してしまうため、学びを求める人にとっては世俗的な場になってしまうのだろうと付け加えています。
プロセスエコノミーは日本発のフォーマットになれるか
ここから川原さんが、プロデューサーとしての本題を切り出します。川原さんの得意分野はIPのビジネスプロデュースで、フォーマットの開発が最大の価値になるといいます。
川原さんによると、テレビではSASUKEや料理の鉄人のように日本発のフォーマットが各国へ広がった例がある一方、SNSで日本発のコンテンツフォーマットが海外へ渡った例はほとんどありません。その候補を尋ねられたど素人さんは、即座に「プロセスエコノミー」と答えました。
ど素人さんは最近、中国でTikTok本社やREDの本社、SNSマーケティング会社のトップ層と会ってきたそうです。プロセスエコノミーの話をすると、相手は「中国にはない、面白い」と絶句していたといいます。
ど素人さんは、プロセスエコノミーは日本人だから伸びるのではなく、人間の「知りたい」という欲求をかき立てるフォーマットなので、世界中でバズるはずだと考えています。たとえば中国のホテルを買い、現地の人が再建していく様子を発信すれば伸びるだろうと話します。
ただし、ど素人さん自身は中国語がわからず、海外マーケティングの経験もないため手をつけていません。言語コンテンツである以上、細かな言葉や文化・歴史の理解、感性が欠かせないといいます。
それやらせてくんない?ちょっとマルCつけてさ。俺海外に散らすのは超得意なのよ。
すがけんさんは日本らしさを打ち出す道も提案しますが、川原さんはSASUKEや料理の鉄人にも日本らしさはなく、フォーマット自体の面白さと、現地の人が演じることが鍵だと応じます。そのうえで、過剰に恥じる文化だからこそ思い切ってやると異常に尖る、という日本らしさはあるかもしれないと付け加えました。
すがけんさんは、成功した経営者が100万円だけを持って衰退した町へ行き、1億円にする挑戦をするナショナルジオグラフィックの番組を例に挙げます。川原さんはそれも完全にプロセスエコノミーだと答え、すがけんさんにこのフォーマットに挑戦してほしいと持ちかけました。
いや、久々にガチガチ筋で世界に見つかってない宝物見つけた感じ。
頭のいい人ほどプロセスエコノミーを理解できない?
書き起こしでは話者表示が混乱していますが、文脈からはど素人さんの発言と読み取れる部分で、中国の担当者たちは「今どきTikTokなんてAIに全部任せるだけでしょう」という反応だったと語られます。通訳を入れて質問にも全部答えたうえで、それでも絶句していたそうです。
ど素人さんは、プロセスエコノミーは頭のいい人には理解しづらいと話します。頭のいい人にとっては「結論から言え」が当たり前ですが、プロセスエコノミーは最後まで結論を言わないからです。結論を言ってしまうと、今のSNSでは見続ける理由がなくなり伸びないといいます。
そこでど素人さんは、ショート動画で結論を言ったと見せかけてミスリードし、最後に伏線を回収する構成にしているそうです。例として「大若酒店が倒産しました」と始めながら、実は倒産していない理由を説明していく流れが挙げられ、結論を先に聞きたい人も満足できる形になっているといいます。
すごい、すごいシナリオライターっすよね、ほんと。
ど素人さんはなぜ「頭がいい」のか
ゲストとの対談を終えたあと、すがけんさんと川原さんが振り返ります。すがけんさんは、広告業界がいまだにお金を払って認知を獲得する発想にとどまる中、視聴者が欲しいものを提供して再生数にする発想は、マーケティング業界には全くないものだと評価します。
すがけんさんは、相手が欲しいものがわかることこそマーケティングの奥義だと話します。自身がアドバイザーを続けられるのも、業界ではなく消費者を理解しているからで、ど素人さんはその完全なSNS版だという見方です。さらに、それを言語化できているから再現性がある、とも指摘しています。
川原さんが最後まで「なぜ頭がいいのか」わからなかったと漏らすと、すがけんさんは「経営者だからだ」と答えます。大企業のトップと違い、銀行からすぐお金を借りられない小さなビジネスで毎日どう生き残るかを考えていると、あれだけ優秀になるという考えです。
細い道で一輪車でこいでますからね。
川原さんは、一兵卒から戦い続けて大将軍になったようなものだとたとえ、自分も同じように実践の中で頭が良くなったと振り返ります。すがけんさんは、センスはアウトプット、センサーはインプットの話であり、感覚は人と同じで、出すものは少し先という状態が一番いいと改めてまとめました。
番組の最後には、ど素人さんのBrainの記事「今から無名が有名になる16の裏技」が紹介されました。川原さんは、この後すぐにど素人さんへ連絡し、プロセスエコノミーをグローバルに持っていく打ち合わせを設定したいと語っています。
まとめ
ど素人ホテル再建計画さんの強みは、世の中の中央値と同じ感覚で受け取り、その少し先にあるユニークなものを狙って出す点にありました。レコメンドが主流の今は普通の感覚が武器になり、その先にある結論を言わないプロセスエコノミーは、日本発のフォーマットとして世界に通用する可能性があると語られています。
- ホテルの予約は口コミ×認知であり、良い口コミも届かなければ売り上げにつながらない
- センサー(インプット)は凡人のままでよく、センス(アウトプット)でまだないものを狙う
- レコメンドアルゴリズムの時代は、みんながいいと思うものを知る普通の人が勝ちやすい
- プロセスエコノミーは人間の「知りたい」欲求に訴えるため、海外でも現地版として展開できる可能性がある
- 小さなビジネスで日々生き残りを考える経営経験が、ど素人さんの鋭いビジネス感覚を育てている





