初めての仕事は安く受けていい? フリーランス保育士からの相談
この回で取り上げられたのは、ラジオネーム「ナゴミ」さんからの相談です。シッターや家事代行をメインに活動するフリーランス保育士で、オーダーメイドの仕事の値付けに悩んでいるという内容でした。
私はシッター、家事代行をメインに活動しているフリーランスの保育士です。今は時給制で料金設定をしていて、およそ1時間3000円からお仕事を引き受けています。対象は個人宅から企業様まで、お客様のお困りごとに合わせて幅広く対応しています。ただ、オーダーメイドでサポート内容を決める際の価格付けに悩んでいます。
特に初めてするお仕事ジャンル、例えば住み込みの依頼やクルージング利用時にもご依頼をいただくことがあります。そうした場合、私の予想し得ることが起きる可能性が高いのと、経験の欲しさもあって、普段よりもかなり金額を落としてご案内しています。一方で、これはある意味薄利多売をしてしまっている状態だとも考えています。お二人だったら、オーダーメイドや新しい仕事を引き受ける場合、どのように値段を設定しているのか、大切にしている考え方などを教えてください。
相談を読み上げた川原さんは、この状況がすがけんさんの経営アドバイザー開業当初に似ていると指摘します。すがけんさんも「ほんとそうだと思います」と応じ、回答に入っていきました。
すがけんさんの最初の答えは、初回の価格はそれほど難しく考えなくていい、というものです。住み込みやクルージングへの同行といった依頼はめったにないため、経験そのものに価値があると考えています。
2回目以降が適正の価格になればいいわけだから、別にある意味タダでもいいし、要は経験を自分がお金を払って買うっていう考え方でタダでもいいし、やるっていうのは別に悪い考え方じゃないとは思います。
ただし、すがけんさん自身はこれを「なんとなくの一般論の回答」と位置づけています。ここから、値付けの基準をどう探し、どう超えるかという話へ踏み込んでいきます。
相場はどこで探す? 「基準を超える」ための本質価値
すがけんさんは、値付けの基準は自分で探せるはずだと話します。依頼が来るということは、ナゴミさんが何かのサイトに登録していたり、何らかの経路で見つけてもらえていたりするということです。
同じサイトには、同じ仕事ができる人がほかにもいるはずです。そうした人を「お手本」にすれば、こういう仕事は何時間ぐらい拘束されて、いくらなのかという値付けのヒントが得られる、というのがすがけんさんの考えです。
そのうえで大事なのは、相場をなぞることではなく、それを超えることだとすがけんさんは強調します。ただ仕事をこなすのではなく、初回から付加価値や本質価値を提供して、相手を驚かせるぐらいの対応をすることです。
ああ、すごい良かった、やっぱりナゴミさんに頼んでよかったって言って、ちょっと追加でお代を包んでいただけるぐらいなサプライズな対応をしっかりすることが重要じゃないかなって思います。
すがけんさんは、相場という基準値を超えないと厚利少売にはならないと話します。時給換算しても負けないぐらいの本質価値を返すことが、その条件だと位置づけています。
高級寿司の予約が教える「1800万円」の不安
本質価値とは何かを説明するために、すがけんさんは高級店で人と食事をする場面を例に出します。誰かと高級店に行くとき、すがけんさんはとても不安になるそうです。
すんごい高級店に行く時って僕めちゃくちゃ不安なんですよ。なぜかっていうと(相手が)来なかったら終わりなんですよね。
相手が遅刻したり来なかったりすれば、店から出禁になる可能性もあります。今後30年ほど通おうと思っていた寿司屋を、相手の「ちょっと遅れる」の一言で失うリスクがある、とすがけんさんは話します。
すがけんさんはその損失を、その場で金額にしてみせました。計算しながら「自分で計算して行くのやめようって思っちゃいました」とこぼし、川原さんから「今顔が曇り始めた」とつっこまれています。
だからこそ、わかっている友達は当日の朝に「今日何時だよね」「10分前ぐらいには着いとくね」「予約してくれてありがとう」と連絡をくれる、とすがけんさんは話します。予約した側はその不安やリスクをわざわざ口には出しませんが、気を使える人はそこを汲み取ってくれます。
子育てを預ける親は何に不安を感じている?
すがけんさんは、この寿司の例えが子育ての仕事にもそのまま当てはまると話します。シッターや家事代行をする側が「こうやればいいよね」と思っていても、都度連絡をもらわないと不安になる親がいるからです。
何かが起きたけど隠そうとして黙ってるのかもなって思う心配性な人だっているし、子供だって何か起きたら損失が1,800万円じゃ済まない可能性もありますよね。
すがけんさんによれば、親が帰ってきて子どもの笑顔を見てやっと報われる、ほっと胸をなで下ろす、という状態は、本当はあまり良くないのかもしれません。「ただやりました」というだけでは、本質価値にはあまり届いていないという見方です。
5万円の寿司を食べるだけの場面でさえ、気遣いのあるなしで価値が変わります。子どもというもっと大事なものを預かるシッターの仕事なら、親の心境の深さをどこまで汲み取れるかで、まったく違う価値を生み出せるはずだと、すがけんさんは考えています。
時間内に預かり、何も起きなかったことを報告する。親は帰宅して子どもの様子を見るまで不安が残る
都度の連絡などで親の不安を先回りしてケアする。高くても頼みたいと思ってもらえる理由になる
経験のない依頼こそ「高く見積もる」理由
ここまでの話を踏まえて、すがけんさんは「最後に僕だったら」と自分の答えを示します。それは、最初の一般論とは逆の考え方でした。
住み込みクルージングみたいな時にどういう振る舞いをするかっていうと、いやー僕もやったことないんで、ちょっと見積もり高くなりますよって言うんですよ。
ナゴミさんは「できないかもしれないから安くしたほうがいいか」と考え、すがけんさん自身も最初は「経験を買うならタダでもいい」と答えていました。しかし本当に厚利少売の人は、予想できないからこそ高めの金額になると返す、とすがけんさんは話します。
だってわかんないじゃないですか。8時間って言われたけど、10時間になっちゃうかもしれないし、3000円分ぐらい頑張ればいいと思ってたけど、5000円ぐらい大変かもしれないから。
高めの見積もりを理由とともに返すと、依頼者の側から「ここは確定できます」「ここまではやらなくて大丈夫です」という反応が返ってきます。そうしたやりとりを通じて、仕事の範囲が明確になっていくというのがすがけんさんの説明です。
高めに見積もる
経験がなく予想できないことを理由に添えて返す
依頼者が応答する
確定できる点や、やらなくていい点を伝えてくる
範囲が明確になる
時間や業務の定義が決まり、リスクの持ち主がはっきりする
お互いが安心する
予想の深さが伝わり、信頼につながる
依頼者側もクルージングは初めてで、夕食が5時になるか9時になるかわからない、ということもあり得ます。そのとき不確実さのリスクをナゴミさんが負うのか、発注する側が負うのか、という問題になるとすがけんさんは整理します。
逆にタダで引き受けると言われると、かえって怖いとすがけんさんは指摘します。未知の仕事こそ、事前にどこまで想像してあげられるかが重要だというのが、ナゴミさんのケースへの結論でした。
え、大事な子供預けるのにタダでもいいからやりたいって言って逆に怖いみたいになっちゃうんで。
「大事なものシリーズ」に1時間3000円は安すぎる?
川原さんは、保育という仕事柄、事前に想像するという価値は大きいと応じます。すがけんさんは、子どもを預かる仕事は「何かあってから返します」が通用しない性質だと続けます。
100均で売ってるものを壊しちゃったから、100均でもう一回買い直しますとかじゃない真逆の性質なんで。
大事な子どもも、30年関係を作りたかった店も、すがけんさんの言葉でいえば「大事なものシリーズ」です。そう考えると、1時間3000円で大丈夫なのかと思うほどだと、すがけんさんは話しました。
保育士の肩書きは単価を下げている? エルメスが引いた線
川原さんは、ナゴミさんの価格が低くなる理由の一つに、保育士という仕事の市場単価があると見ています。保育士の単価はかなり低いはずで、そこに引っ張られているのではないかという指摘です。
すがけんさんは「いい洞察」と受け止め、保育士という肩書きを変えてみるのもありかもしれないと応じます。一方で川原さんは、保育士と名乗ることで「プロなのね」という安心感も売れるため、そのバランスが難しいと話します。
そこで、すがけんさんはブランドの起源の話を持ち出します。移動手段が馬から自動車に変わった時代に、エルメス ── フランスの高級ブランド。もともとは馬具工房として創業し、のちにバッグなどの革製品で知られるようになりましたが「うちは高級です」と普通のバッグとの間に線を引いた、という例です。
保育士を変えるというよりかは、保育士に何かをつける、線を引いて何々保育士にするっていうのはあるかもしれないですね。
すがけんさんは、不安になると資格を足す方向に考えがちだが、おそらくそちらではないとも付け加えます。保育士という言葉を残しながら、ナゴミさんにしかできないとわかる肩書きを模索できるのではないか、という提案です。
安全の先にある価値とは? 子どもの成長と外部の視点
親として子どもを預けることもある川原さんは、利用者の立場からシッターの価値を語ります。見てもらって安全であること、自分の時間が生まれることは、いわば当然の「アフター」だと川原さんは考えています。
でもそれ以上にそっちで過ごしてる子供の人生にとってまでいい影響を与えててくれたら、これ全然なんか家庭教師だなと思うんですよ。
すがけんさんも、ただ事なきを得たというだけでなく、子どもが生き生きとしたり、学びに貪欲になったり、普段見られない成長があったりすれば、まさにそういう話になると応じます。川原さんは、そこまでやると伝えたり事例を紹介したりすれば、値段の換算の元が変わると続けました。
安全に過ごして事なきを得る。何も変わらないか、機嫌が悪くなって帰宅後が大変になることもある
親にはできない小さな変化が生まれる。子どもが生き生きとし、学びに貪欲になり、普段見られない成長がある
親にはできない変化を作るという話に、すがけんさんは自分の仕事との共通点を見いだします。最近、すがけんさんにはそうした仕事が多いそうです。
経営者や責任者が部下や役員に何かを言うと、ポジショントーク ── 自分の立場や利害に基づいた発言のこと。聞き手からは本音ではなく立場上の主張だと受け取られやすくなりますとして受け取られてしまいます。川原さんも「役割があるから(言葉に)くっついちゃう」と応じました。
いや、なんとかさん、これってこうだと思いますよって、ちゃんとフィードバックすることに結構価値があるみたいで、上司が言えないフィードバックっていうのがやっぱあるみたいで。
すがけんさんは、子育ても同じかもしれないと話します。親が毎日言うことは聞き流されても、新しく来た人が自分の常識として何かを言うと、子どもが「やっぱりそうなんだ」と受け止めることがある、という見方です。
続けるなら何を積み上げる? レビューと信用で単価を上げる
すがけんさんは、ナゴミさんはまだまだ価値を上げられると話します。そのうえで、保育士は最初に選んだキャリアの性質上なかなか転職しにくく、貧困に困る人もいると聞くと触れました。
だからこそ、どうせ続けるなら、コツコツ続けてだんだん上手になるもの、積み上がるものを意識すればいい、というのがすがけんさんの考えです。具体例として挙げたのが、アプリ経由で仕事をする場合のレビューでした。
こなすんじゃなくて、やっぱ一個一個のお客さん大事にして、いいレビューを書いてもらって信用を上げていくもそうだし、それで来たい人が増えればもちろん単価アップのチャンスにもなるし。
さらにすがけんさんは、腰を据えて長期で取り組むなら、子どもの発育や親子の関係に必要だと思うものを提供できるようになることが大事かもしれないと話します。あまり人がやらないけれど、自分は必要だと思うことを形にするという方向です。
川原さんは「そこまで行けたら全く違う次元の仕事だな」と反応します。すがけんさんは、親である川原さんに響いていることを指して「N1がね、響いてますよ」と笑いました。
最後に川原さんは、今回はフリーランス保育士への回答だったものの、フリーランスで働くあらゆる仕事に応用できる話になったとまとめ、厚利少売を目指してほしいとエールを送りました。
まとめ
初めての仕事を安く受けるべきかという相談に対し、すがけんさんは「経験を買う」という一般論を示したうえで、未知の仕事こそ高めに見積もり、範囲を明確にするやりとりが信頼を生むと答えました。子どもという「大事なもの」を預かる仕事だからこそ、親の不安を想像し、安全の先にある価値を届けることが単価を上げる鍵になると語られています。
- 初回は経験を買うつもりで安くてもよいが、2回目以降は相場を超える適正価格にする
- 経験のない依頼は、予想できないことを理由に高めに見積もり、仕事の範囲を相手と一緒に明確にする
- 高級寿司の予約の例のように、相手が口に出さない不安を汲み取ることが本質価値になる
- 保育士の肩書きは捨てず、線を引いて「何々保育士」として独自性を示す道がある
- レビューと信用を積み上げ、子どもの成長や親子関係に届く価値を提供できれば単価は上げられる

