なぜ期待値調整は誰も語らないのか
この回のテーマは、満足度を左右する「期待値の調整」です。川原さんは、ビジネスで価格をつけるとき、期待値をどう設定し調整するかで、顧客が満足するか不満を抱くかが決まると話します。
一方で川原さんは、期待値調整だけを正面から扱った話はほとんど聞いたことがないとも指摘します。すがけんさんも同意し、語られにくい理由として、テクニックの話になりがちだという点を挙げます。
1日でできることは(3日でできると)1日3って言っとけみたいな。話になりがちじゃないですか。
川原さんが期待値調整を考える前提に置くのは、すがけんさんが定義した「価値は相手の変化量」という考え方です。川原さんは、これを厚利少売の根源と位置づけ、買ってもらう前にその変化量をどう伝え、相手とどう理解をつくるかが期待値調整の中身になると整理しました。
日本と海外、期待値の握り方はどう違う?
川原さん自身が期待値を気にするようになったのは、海外で仕事をするようになってからだといいます。日本ではお互いに空気を読み合い、「こんなもんだよね」がなんとなく握れるのに対し、海外では事情がまったく違ったそうです。
海外だともう契約書で言ってることしかやらないし、それ以上のことをやったとて、それって評価にならないっていうのがあるから。
川原さんは、海外の会社ではジョブ型雇用が基本で、「この金額でこれをやります」というジョブディスクリプションが毎回決まっていくと説明します。
これを受けてすがけんさんは、日本の雇用はやることではなく時間で契約していると指摘します。この時間なら何でもやってほしい、という形になり、期待値を何も調整していない状態になってしまうというのです。
それか、法外な期待を受けてる状態になっている。
すがけんさんは例として、「CMOとしてこの会社を大躍進してくれるんだろう?」という期待値で仕事が始まってしまうケースを挙げました。いざ「私がやることはあれとこれでした」となると、期待と実際が大きくずれます。
払う金額は決めても、やることは後から決める。時間で契約し、お金を出す側の期待が過剰になりやすい
始める前にやることを決める。成果から逆算したジョブディスクリプションで人を雇う
川原さんによれば、海外では会社の目的やゴールを設定し、それを適切なジョブディスクリプションにまで分解して人をアサインするところまでが経営側の仕事だといいます。最初はそれにすごく慣れなかったと振り返ります。
すがけんさんは、契約文化とは「始める前に決める文化」であり、日本は「やることは後から決める」空気だとまとめます。それはお金を出す側に負担を強いない空気であり、川原さんは、その分だけ雇われる側の負担が相対的に大きくなっていると話しました。
厚利少売の期待値は「何をやるか」より「どうなるか」
すがけんさんは、厚利少売で期待値を考えるなら、何をやるかではなく、どうなるかという成果や変化の側にコミットするべきだと語ります。やることには固執せず、相手がどう変わりたいかに合わせて動くという考え方です。
すがけんさんが挙げる例はトレーニングジムです。何キロ痩せたいのか、筋肉量を10%増やしたいのか、1年続けられるようになりたいのかで、やるべきことはまったく変わってきます。
すがけんさんは、アメリカのジョブディスクリプションも、成果を決めているからこそ書けるものだと指摘します。成果にシビアだからこそ、雇う側が責任を持ってやることを定義しているのです。
一方、日本では雇われる側がアドバイザー的に、わかっていないクライアントへ説明したほうがよく、すがけんさんはそこにこそ厚利を取れる余地があると話します。
すがけんさん自身も、「これとこれをやってほしい」という依頼をそのまま受けることは少ないそうです。代わりに、なぜそうしたいのか、どうなりたいからそれをしたいのかを丁寧に聞くといいます。
(依頼内容と)別のやり方でこういうやり方もあるんですけど、それってどっちでもいいってことですか?って聞くと、ああ、それはどっちでもいいですって大体なるんですよ。
すがけんさんは、お客さんの「やりたいこと」ではなく「なりたい状態」を聞き、それに合ったやり方をこちらから提案して「おまかせコース」でやらせてもらうことが、厚利少売に近い期待値調整だと語りました。
依頼を聞く
「これとこれをやってほしい」という要望を受け取る
真意を聞く
なぜそれをしたいのか、どうなりたいのかを確認する
やり方を提案
なりたい姿に合う方法を、こちらから選択肢として示す
おまかせで進める
成果にコミットし、やり方は任せてもらう
結果を出し切れる自信がないときはどうする?
川原さんは、すがけんさんの話を聞きながら、それは名医だという信頼がある医者だからこそできる期待値調整ではないかと感じたといいます。
その分野において結果が出し切れるかわかんない時にどう調整したらいいのかっていうのが結構みんな悩んでるところかもしれない。
すがけんさんは、自分もかつてはできていなかったと前置きしたうえで、意識してきたのは「期待値をビビりながら設定しない」ことだと答えます。その例として持ち出したのが、最近手伝ったマーケティングカンファレンスでの出来事です。
「ちょっと明るく」で済ませない照明のたとえ
すがけんさんが運営を手伝ったマーケティングカンファレンスでは、ステージだけにスポットライトが当たり、会場全体がほぼ真っ暗でした。パソコンの明かりばかりが目立ち、これでは聴衆が眠くなると感じたそうです。
すがけんさんが運営のグループチャットで「明るくして」と頼むと、返ってきたのは「ちょっと明るくします」という返事でした。今の状態を基準に、少しだけ良くしようとしたわけです。
バチバチに明るくなったらなんか困ることってありますっけ?って言ったら、やっぱないんですよ。
結局、照明はほぼ普通の明るさまで上がり、何の問題も起きませんでした。すがけんさんは、なんとなく今を基準に「ちょっと」だけ上げる判断は何も考えていないのと同じで、期待値の話も近いと語ります。
ステージ以外は真っ暗で、パソコンの明かりが目立ち眠くなりやすい会場
「困ることはあるか」を問い直した結果、ほぼ普通の明るさに。問題は何も起きなかった
すがけんさんの提案は、期待値は上げなくていいから、やることはバチバチに明るくやるというものです。上限を超えるくらいやって、超えられたら期待値を超えられてよかった、で済むといいます。
ただしすがけんさん自身は、言わなかったことはやらなくなってしまうタイプだと自認しています。だからこそ20代の頃から煽るレベルで期待値を上げ、「なんでこんなこと言っちゃったんだ」と思いながら夜中まで仕事をしていたと振り返りました。
期待値調整は自分の成長調整になっていないか
すがけんさんがこの話で一番気にしてほしいと話すのは、「できるようにならないとできると言わない」姿勢の危うさです。
できるようになんないとできるって言わないし、言わないことはやらないんだったら、できること永遠に増えていきませんよ。
すがけんさんは、課長や部長になりたいと言いながら、できるようには自分でしないのなら、誰がそれをできるようにしてくれるのか、と問いかけます。
川原さんも同意し、求められた役割の中で100点を取り続けても、それはパーツとしての100点にすぎず、付加価値の高い人間になる変化は起きていないと続けました。すがけんさんはそれを「切り売り」と表現します。
ここで川原さんは、期待値の設定とは、自分の成長をどこまで自分にコミットするかとイコールなのだと気づきます。
川原さんは「グサッという効果音が入るぐらい聞こえた」と反応しました。相手への期待値調整の悩みは、実は自分の殻を破らないための調整になっているのではないか、という視点です。
失敗しても「怒られるだけ」と言える理由
すがけんさんが「いい話」として付け加えたのは、失敗しても怒られるだけだ、という考え方です。ビジネスで失敗しても殺されるわけではなく、ホームレスになるわけでもなく、その仕事がなくなるだけだといいます。
すがけんさんが気になっているのは、失敗したときの謝り方です。みんなしょんぼりと謝るため、聞く側に罪悪感が生まれてしまうと話します。
良くないことしちゃったな、あの時止めてあげればよかったのかなってなると、結局こっち(頼む側)の期待値をただ下げてるだけだから。
すがけんさんによれば、湿っぽい謝罪は相手を半分共犯にするようなもので、その後「そこまでやらなくていいよ」と言われ、自分の成長を調整する結果になってしまいます。
川原さんは、常に全力を尽くしている自負がないとそのスタンスは取りにくいと指摘します。すがけんさんはそれを認めたうえで、だからこそ厚利少売が向いていると答えました。
100個やってたらそれできないけど、100個やってた人が10個に絞れてたらできるから、それが。
すがけんさんは、厚利少売になるためにというより、厚利少売にして成長のギアを上げたり殻を破ったりするために使う、という感覚のほうがいいのではと話しました。
時給10万円をつけたインスタグラマーの話
すがけんさんは「今からやります」と勢いよく動く人がうまくいくと語り、その例として約8年前のエピソードを紹介します。28歳の主婦でインスタグラマーの女性が、ビジネスの相談に訪ねてきたそうです。
インフルエンサーとして案件をこなしても競合が多いため、すがけんさんは、インスタが得意なら企業にコンサルをしてはどうかと提案しました。女性は「やってみます」と動き出し、実際に仕事を決めてきます。
いくらなの?って聞いたら、いやなんかスガケンさんの3分の1ぐらいかなと思って時給10万円にしましたって言ったんですよね。
すがけんさんは「僕の3分の1あるのかい?」と思い、少し傷ついたそうです。それでも、何も気にせずそういうことをやってしまう人が最後に勝つと話します。
僕が損してるわけじゃない。僕は傷ついただけ。損はしないから。
すがけんさんは対比として、ビビっている人は「今8000円だから1万円か、1万1500円か」と刻み続け、永遠にたどり着かないと話します。10万円で受けた人はヒーヒー言いながらやるので、成長の速さがまったく違うというのです。
8000円から1万円、1万1500円と少しずつ上げようとし、迷っているうちに時間が過ぎる
時給10万円と決めて受け、ヒーヒー言いながらやるうちに成長する。売れなければそれで終わり
川原さんは、そもそもすがけんさんに時間を使って相談できている時点でその女性は「バグっている」と笑います。すがけんさんによれば、毎回ご馳走するのは自分で、代わりに映えるカフェを教えてもらうという、彼女なりの等価交換が成立していたそうです。
「明るい×浅い」と「明るい×深い」、どちらが育つ?
川原さんは議論から少しずれると断りつつ、「明るい」と「浅い」は別物で、その塩梅が難しいと問いかけます。すがけんさんは、一番良くないのは浅くて暗い人だと答えました。
二人は明るさと深さの2軸で整理し、暗い人はどちらもきつく、明るくて浅い人、明るくて深い人の順に良いという見方で一致します。
すがけんさんは、転んでうじうじする人はスポーツができないのと同じだと例えます。膝から血が出ていても「大丈夫」と歩く人のほうが、周りに「この人は大丈夫だ」と思わせるので強いといいます。
浅さが気になるメンバーにはどう関わる?
川原さんは、多くのプロジェクトを動かす中で、明るくても思慮が浅すぎて「ちょっと待て」となるメンバーに悩んでいると打ち明けます。悪気はなく、育成もしにくいため、哲学書でも読めば変わるのかと考えるほどだそうです。
すがけんさんは、長期的に改善するのは暗くて浅い人より明るくて浅い人だとしたうえで、そういう人は別のチームにつけると答えます。自分たちが深いから見える浅さであり、自分たちのフィードバックは相手に響きにくいからです。
これ3回チェックしてみてっていうフィードバックしてくれる人を間に置くみたいな。
すがけんさんによれば、少しだけ深い人と組ませると、3か月から半年のプロジェクトを経て、浅い人も少し深いくらいまで来るといいます。これはギャップの話なのだと語りました。
すがけんさんはさらに、人に深い浅いがあるように、仕事にも深い浅いがあると続けます。浅い人には行動で勝負できる浅い仕事を当て、深すぎる仕事は「溺れて肺がつぶれちゃう」から、まずはこちらから、と与える仕事でコントロールするという考え方です。
川原さんは「適材適所だ」と納得し、「僕のお悩み相談会」になったと笑いました。
自分に期待し、高い値段で勝負する
川原さんは、期待値調整という言葉の裏にある本当の部分が、今回の会話で浮き彫りになったと振り返ります。すがけんさんは、それを「成長調整しちゃっていませんか」という話だとまとめました。
自分にしっかり期待して、しっかり負荷かけて、高い値段つけて、ちゃんと勝負しようって話ですね。
番組の終盤では、ポッドキャストもいつまで続くかわからないという話になります。川原さんは、何かがずっとあるというのは幻想で、「機が熟したらやろう」は本当にもったいないと語り、すがけんさんもClubhouseが一瞬でなくなった例を挙げて、期待値の話と同じだと応じました。
まとめ
期待値調整の悩みは、相手にどう伝えるかの技術にとどまらず、自分がどこまで成長にコミットするかの問題でもあるというのが、この回の着地点です。やることより成果に目を向け、失敗を恐れず明るく挑むことが、厚利少売への近道として語られました。
- 日本はやることを後から決める文化で、期待値が調整されないまま法外な期待を背負いやすい
- 厚利少売では「何をやるか」ではなく、相手が「どうなりたいか」にコミットする
- 期待値はビビって刻まず、やることは上限を超えるくらい思い切りやる
- 失敗しても怒られるだけ。しょんぼりせず元気に謝ることで、成長を止めずに済む
- 浅さが気になる人には、少し深い人と組ませ、深さに合った仕事から任せる




