音声配信に戻った厚利少売ラジオ、まずはお悩み相談から
「厚利少売ラジオ」は、薄利多売のビジネスモデルから抜け出すための考え方と行動のヒントを話すビジネス対談型のポッドキャストです。この回から、番組は11月より改めて音声配信に戻ってきたと紹介されます。
川原さんは、音声で楽しめるように「身振り手振り少なめ」でお送りしたいと話します。そのうえでこの回のテーマに選ばれたのは、リスナーから寄せられたお悩み相談のコーナーでした。
しばらくですね、僕らの話したい欲求のままに喋った結果、お悩みが溜まってですね、お答えできてないものがたくさんあるので、それにお答えする回にしていきたいなと思って。
本当今日もね、冒頭喋りたいことあったんですけどね、我慢しましたよ、ちゃんと。
すがけんさんが冒頭の雑談を我慢したことに、川原さんが「自制のきく大人」と返すなど、掛け合いはいつもの軽さのまま。川原さんが相談文を読み上げるところから本題に入ります。
人口1万人の町で農業を継いだ「森の熊さん」の相談とは?
今回の相談者は、農業を営む「森の熊さん」です。相談のタイトルは「先代の背中を超えて価値で稼ぐ農業にしたい」というものでした。
川原さんが読み上げた相談の内容は、次のとおりです。途中で川原さんが感想を挟みながら読み進めています。
人口1万人の町で事業承継により農業経営を始めて2年目のものです。数字が苦手でとりあえず先代の経営を踏襲してきたのですが、最近このままでは理想の人生にならないと危機感を抱き、経営についてきちんと考えたいと思い、いろいろリサーチする中で厚利少売ラジオと出会いました。
これまで経営の経験もなく、公務員や社会福祉法人勤務が主だったため、価値観をひっくり返されてはまたひっくり返されての繰り返しで、片っ端から拝聴しています。
相談の背景には、経営経験がないまま家業を継いだ戸惑いがあります。悩みを一言で表すと「事業承継後の2代目地域経済圏小規模農家の厚利少売化」だといいます。
人口1万人の町で事業承継による農業経営を夫婦2人で開始して2年目。売り上げは1000万弱。栽培品目はいずれも先代が行っていた品目で、年間130種類、8万本の野菜の苗の販売が売り上げの9割を占め、残りは水稲、野菜などの少量多品目です。
水稲を除き、どの品目も単価は100から500円程度で、お客様のほとんどは近隣地域の方です。私の代になり、有機農産物や都市部への販売もわずかながら試験的に行ってみているところです。
週4日勤務で可処分所得600万円、何が壁になっているのか
森の熊さんが掲げる第一目標は、可処分所得600万円です。ただし、ただ稼ぐのではなく、働き方も変えたいという条件が付いています。
現在、先代の働き方をベースにしているのですが、年に7ヶ月はほぼ休みがなく、残りの5ヶ月は土日休みといった働きをしています。目標の可処分所得600万円、現在からプラス200万円を夫婦で1人当たり週4日、1日8時間くらいの労働時間に抑えた上で達成したいと考えています。
先代も健在で、先代と一緒に農業を行っており、先代のファンも多い。お客様のほとんどは先代から引き継いだ方。地域に同じ農産物を扱っている農家や販売店は多く、価格を比較されやすいです。
新たな品目で新たなお客様に販売し、達成することも可能だと思うのですが、労働時間が長いため、新たな品目に取り組むのが難しい状況です(捨てる品目を選べばいいのですが)。技術的な強みがあり、投資の少ない既存の品目の価値を高めて達成できるのが良いと思うのですが、菅さん拓巳さんならどこから取り組まれますでしょうか?
森の熊さんの状況を整理すると、現状と目標の間には、収入と労働時間の両方に開きがあります。
年7ヶ月はほぼ休みなし、残り5ヶ月は土日休み。可処分所得は目標より200万円少ない
夫婦それぞれ週4日・1日8時間ほどの労働で、可処分所得600万円
相談は「自分、家族、そして先代、地域の幸せな未来のため、まずは設定した目標を達成したい」という言葉で締めくくられていました。
薄利多売の先代が目の前にいる難しさ
すがけんさんは、まず感想から話し始めます。「事業承継」という言葉から、先代がいなくなって引き継ぎがうまくいっていないケースを想像したものの、先代は健在で一緒に働き、お客さんも引き継いでくれている点は良かったと受け止めました。
一方ですがけんさんは、先代を悪く言うつもりはないと断ったうえで、あえて対比として状況を描きます。
今めちゃくちゃ薄利多売なやり方をやってる先代が今目の前にいるっていう状態だと思うんですよ。
森の熊さんはまだ2年目で、先代から教わることが多い立場です。すがけんさんは、その中でやり方を変えていくのはなかなか難しいという印象を持ったと話します。
すがけんさんは、事業を「製造」と「販売」に分けて考えます。販売だけ変えても、製造だけ変えてもうまくいかないというのが、すがけんさんの見立てです。
結局、価値って価値を生み出す仕事、製造ですね。と価値を伝える仕事、まあマーケティングとか販売ですね。この両方両輪でやらないとずれてっちゃう。
両輪がずれると何が起きるのかも、すがけんさんは具体的に示しています。
せっかくいいものを作っても、従来どおり1本100円でしか売れない
一旦は売れても、お客さんが他と比較して「あまり価値がない」と気づいてしまう
さらにすがけんさんは、価値をつくる現場に先代も関わっている点を「ゲームの解き方」として難しいと指摘します。先代を含めて新しいやり方に変えていくのか、先代に断って区画を分けてやるのかで、難易度が変わってきそうだといいます。
経営は「価値を作る」と「価値を認めてもらう」の2つだけ
経営経験のない森の熊さんに向けて、すがけんさんは「経営もそんなに難しくない」と伝えます。価値を作る仕事と価値を認めてもらう仕事の2つにまず分けること、そして出るお金と入るお金を両方意識すること。この規模の経営で押さえるべき点はそれだと話します。
すがけんさんが挙げるのはキャッシュフロー ── 一定期間に事業へ入ってくるお金と出ていくお金の流れのこと。利益が出ていても現金の入金が遅れると、資金が足りなくなることがありますの考え方です。仕入れにお金がかかり、回収に1年ほどかかるような事業はリスクが高く、先行投資型の農業はそこが難しいのだろうと見ています。
川原さんは、経営という言葉は知っていても「本当はもっといろいろあるんじゃないか」という不安が最初はある、と共感します。すがけんさんも「見えない地図がいっぱいありそう」に感じるものだと応じました。
毎月毎月物が売れる商売だったら、基本的には毎月出ていくお金より毎月入ってくるお金の方が大きければ必ず赤字にはならないんで、もうそれで経営のコンディションってめちゃくちゃいいです。
今月出たお金っていつ返ってくるのかな?って考えてけばいい。これが長ければ長いほどダメになるリスクが高い。
すがけんさんは、支払いから入金までの時間差が短いほど安心しやすいと説明します。森の熊さんの場合は苗のコストがポイントになるものの、おそらくそれほど大きくはないだろうと考え、ひとまずコストは気にせずに話を進めることにしました。
8万本の苗を1.5倍の価値で買ってもらうには?
すがけんさんがまず驚いたのは、年間8万本という苗の販売数です。1本100円でも800万円になり、売り上げの9割を占めている点を「めちゃめちゃいいじゃん」と評価します。
すがけんさんの計算では、プラス200万円程度であれば、苗の単価が1.5倍ほどになれば十分に届きます。そこで「苗を1.5倍で買ってもらうとはどういうことか」を考えるべきだと話します。
ただし、すがけんさんは苗を売ることの難しさも指摘します。苗は完成していない途中のものだからです。
本当は変化量って、そこからすくすく育ったり、もしくはそこからダメになるリスクを経てもう出来上がって、もうこれは食べれますよってなるところをやっぱり人に任せちゃってるから、価値を出すのが難しいですよね。
苗の販売先について、川原さんは「お客様のほとんどは近隣地域の方」という相談文から、契約農家のような人たちが苗を買い、最終的な野菜に育てているのかもしれないと推測します。
すがけんさんは、近隣の農家が相手なら「2割ダメになった」「味が乗って美味しい」といったフィードバックがすぐに返ってくるはずだと考えます。そのフィードバックを何年もかけて回していけば、満足度を上げながら販売できそうだといいます。具体的には、アンケートシートを作って感想や改良点を聞くような方法です。
苗はBtoB、だから価値は「相手の変化量」で決まる
話を進める中で、すがけんさんは森の熊さんの苗販売が、一般消費者向けではなく農家に売るBtoB ── 企業や事業者など、専門の買い手に向けて商品やサービスを売る取引のこと。一般消費者向けのBtoCと対比して使われますだと気づきます。
すがけんさんが挙げる「変化」は、高く売れた、管理が大変ではなかった、歩留まり ── 投入した原料や苗のうち、実際に製品や収穫物として使えるものの割合。歩留まりが良いほど無駄が少なくなりますが良かった、といった農家にとってのポイントです。それがなければ、どこで買っても同じ苗になってしまうといいます。
どこに価値を置くかは、買ってくれている農家が何に困り、何が嬉しかったのかを聞くだけでも見えてくるはずだと、すがけんさんは話します。
さらにすがけんさんは、単価を上げても買い手の支払額を変えない考え方を、数字で示しました。
1本80円の苗を1000本買う。支払いは8万円
1本100円の苗を800本買う。支払いは同じく8万円
すがけんさんの説明では、数を減らしても取れ高や歩留まりが良い苗であれば、農家は「ちょっと高いけど、それなら嬉しい」と感じるはずです。そう思ってもらえる苗とは何かを考えてみるとよい、というのが苗のBtoBについての提案でした。
なお、すがけんさんは例え話の中で「800円・1000円」と言い直しながら説明しており、図の金額は比率を示すための例です。
スプラウトなら一般消費者に売れるかもしれない
すがけんさんの「苗はBtoB」という指摘から、川原さんは逆に一般消費者向けのBtoCの可能性を考えます。プラス200万円であれば、その道もあり得るのではないかという発想です。
アメリカだとさ、あのファーマーズマーケットって言って、農家さんが直接週末に売ってくれるの結構あって、多分日本でも最近あるじゃないですか、マルシェだったりなんだり。
あれで[スプラウト]っていう、その発芽したばっかりの芽から出たやつをあれサラダ用に売ってるんですよ。で、僕結構好きで買うんですよね。
川原さんは、130種類・8万本の苗の中には、スプラウトの状態で最終消費者が食べたいものがあるのではないかと考えます。例として挙げたのはブロッコリースプラウトでした。
すがけんさんは、青山などでは1000円ほどするものもあると応じます。10倍の値段で売れるなら、2万本ではなく2000苗でよいという計算です。川原さんは、売り上げの9割を占める苗以外の部分を増やす発想として可能性があると話しました。
2人はこの整理を「苗のBとC」と名付け、川原さんは「人生で初めて言った」と笑います。
野菜と苗はつながっている、地域ぐるみの販路づくり
次にすがけんさんは、苗ではなく、育った後の野菜に目を向けます。森の熊さんも少量多品目で野菜を作っているため、野菜が高く売れることを示せれば、その苗も売れるようになるという考え方です。
すがけんさんが描くのは、近隣の農家をまとめて生産管理し、珍しい苗から珍しい野菜を作り、高く買ってくれる高級料理店などに卸す形です。販路ごと森の熊さんが開拓してまとめて販売すれば、JAを通さずに高く買ってもらえるルートを地域で開拓できるといいます。
なんか野菜と苗は実は別じゃなくて、なんか連続的につながってそう。
すがけんさんの提案は、野菜と苗を一続きの流れとして設計するものです。
珍しい苗で野菜を作る
近隣の農家と生産管理をしながら、珍しい野菜を育てる
高く売れる販路を開く
JAを通さず、高級料理店などにまとめて卸す
周りの農家が喜ぶ
少量でも高く売れると実感し、その作り方をやりたくなる
苗が高くても売れる
高く売れる野菜の苗として、苗の単価も上げられる
川原さんはこの全体の流れをバリューチェーン ── 原材料の調達から製造、販売までの各工程が、それぞれどう価値を生み出しているかを一連の鎖として捉える考え方ですと表現し、すがけんさんも「バリューチェーンみたいな感じ」と同意しました。
愛媛の藤本さんの神経締めに学ぶ「一言で言える違い」
すがけんさんは、魚の世界の例として、愛媛で神経締め ── 魚の脊髄の神経を破壊して死後硬直を遅らせ、鮮度や旨味を保つ処理の方法。高級寿司店などで重宝されますを手がける藤本さんの話を紹介します。藤本さんの魚は一流の寿司店が並んで欲しがるほどで、高く販売できているといいます。
すがけんさんによると、藤本さんは今、周りの漁師にも取り方を教え、販売ルートを提供し、「藤本さん印」をつけて寿司店に卸しています。藤本さん1人の魚では寿司店が100人待ちのようになり、藤本さんが取らない種類の魚にも神経締めが使えるからです。
すがけんさんは、この野菜版を森の熊さんのローカルな場所でやるのはどうかと提案します。川原さんは、それを「苗業界でいう神経締めのような、違いを作る技術」と言い換えました。
ここに書いてらっしゃる内容って、他のエリアと比べて何の違いも感じられなかったんで、ここでしか取れないものとかが美味しくなくてもいいんですよ。ここでしか取れないから。
美味しくするのは後から頑張ればいいけど。なんか料理人って別に苦けりゃ苦いなりにちゃんと上手に作ってくれるし。
すがけんさんが強調するのは、まず違いがあればいいということです。「ここのゴーヤはとにかく苦くていいんだよね」と言われるような違いで、コアでニッチなファンを作っていく発想だといいます。
絞れないなら、料理人に送りつけて反応を見る
川原さんは、130種類もあるなら、どこかに絞って違いを作りにいくことになるのだろうと話します。すがけんさんもトライした方がいいと答えたうえで、別のやり方も示します。
僕だったらもうあるんだったら、もう特定の人にとにかくどんどん送りつけて、これはもう高くていいですよって言ってくれるものをもうまずは見つけちゃう。
すがけんさんの案は、料亭や料理人とのネットワークを10ほど作り、売れても売れなくてもよいので野菜を送ってしまうことです。「これは全然違う」という感覚は、作り手からはわからないものだといいます。
川原さんは、料理人を「最後に食べる人の目の前にいる人」と表現しました。違いを一から作るのは大変なので、今あるものを送り続け、反応が得られるものを見つけるのが近道だというのが、すがけんさんの考えです。
すがけんさんは、取り組む順番についても整理しています。野菜のプレミアム化に成功すれば苗の説得力が大きく増すので、野菜から始めてもよいといいます。あるいは苗の段階で、今の買い手が何を喜ぶのかを証明し、その価値を高めていく2点から取り組む道もあると話しました。
週4日で働くためのブランドづくりとオンライン
川原さんは、森の熊さんが週4日・1日8時間という働き方を目指している点に触れます。そのためにはオンラインを使うのが一択で、いかに自分たちをブランドアップさせるかだと話します。
すがけんさんは、現状ではブランドの概念が一切なく、藤本さんの神経締めのような目印がないと指摘します。森の熊さんという生産者としてブランド化するのか、特定の苗が強いというブランドでいくのかはあるにせよ、品質を保証する目印があるとよいといいます。
川原さんは、苗には人の心をくすぐる何かがあると感じています。種や豆と同じように、苗は「すごく生命」だという感覚です。すがけんさんも、それならBtoCで売れると応じました。
サラダとかで、それこそある程度値段の高いところに行くと、サラダボウルとかにやっぱスプラウトが絶対入ってる。
川原さんによると、日本ではスプラウトは身近になく、アメリカでは逆にとても多いといいます。食べる側にとっても「体にいいことをしている」感覚があり、「生命の源に近い」ものだと話しました。
すがけんさんは、新しい商品でブランディングする方法も、森の熊さん自身でブランディングする方法もあると整理します。いくつも試せるのは悪いことではないので、やりやすいところから試してほしいと伝えました。
「同じ」から「違い」へ、努力の向きを変える
川原さんは、厚利少売ラジオに出会ってこうした試みを考えている時点で、他の苗農家と比べて違いを作っており、相当面白い存在になると話します。
すがけんさんの説明では、実力がないうちは世の中の相場どおりの金額で買ってほしいと、同じものを同じ値段で売る薄利多売から始めるのが普通です。森の熊さんは今、その努力の向きを同じから違いへ切り替えるタイミングにあるといいます。
川原さんは、取り組んだ結果をまた送ってほしいと呼びかけます。すがけんさんは、農家なので変化が出るのは何ヶ月も先になるだろうとしつつ「一緒に頑張りましょう」と締めくくりました。
最後のお知らせでは、すがけんさんが著書『厚利少売 薄利多売から抜け出す思考行動様式』を紹介しました。川原さんは『人生は捨て 自由に生きるための47の秘訣』を、今やっていることの手放し方が書かれた本として紹介し、経営者合宿の要望とお悩み相談の投稿も呼びかけています。
まとめ
この回は、野菜苗を年8万本売る2代目農家の相談をきっかけに、価値を「相手の変化量」で捉え、違いとブランドで単価を上げる道筋が語られました。苗のBtoBとBtoC、野菜と苗をつなぐ販路、料理人への試し送りなど、すぐ試せる打ち手が具体的に示されています。
- 経営は「価値を作る仕事」と「価値を認めてもらう仕事」の両輪で、出るお金がいつ返ってくるかを意識すればよい
- 苗はBtoB商品なので、価値は買い手の農家が高く売れる、管理が楽、歩留まりが良いといった変化量で決まる
- スプラウトのように苗の段階で一般消費者に売る道もあり、10倍の単価なら少ない本数で済む
- 高く売れる野菜の販路を地域で開けば、その苗の価値も上がり、野菜と苗は連続的につながる
- 藤本さんの神経締めのような一言で言える違いを作り、「同じ」から「違い」へ努力の向きを変えることが厚利少売への入り口になる





