100人の熱気は「著者に会いに来た」からではない?
この回は、2024年11月24日に開かれた書籍『厚利少売』の出版記念イベントの公開収録を届ける特別編です。公開収録のパートは、来場者が実際に前に出て悩みを話し、やり取りしながら深掘りしていくお悩み相談のコーナーでした。
川原さんは会場に入った瞬間、100人ほどの来場者がものすごい熱量でこちらを見てきたことに驚いたと振り返ります。「感動を超えた恐怖」と冗談めかすほどの空気だったようです。
すがけんさんによると、会場には約100人、オンラインにも約300人の参加者がいました。すがけんさんが印象に残ったのは、自分が登場した瞬間よりも、参加者同士の自己紹介やワークショップの時間のほうが盛り上がっていたことだといいます。
本では絶対に届けられないようなことをリアルでみんなでやってたので、まあ一番は僕の登場の瞬間よりも、皆さんが自己紹介、周りに自己紹介したり、ワークショップをやってる時の方が盛り上がってた。
すがけんさんは「解せなかった」と笑いつつも、参加者が著者に会いに来たというより、厚利少売 ── 薄利多売の反対で、少ない顧客に高い価値を提供して高い利益を得る考え方。菅原健一さんの著書のタイトルでもありますを覚えに来た感じが伝わってよかったと話します。主体的に学び、実践しようとしているからこその熱量だった、というのが2人の受け止めです。
時給1,400円から2,300円、幅が出るのはなぜ?
最初に登壇したのは、教育に特化した地方創生 ── 地方の人口減少や経済の縮小に対して、地域の活力を取り戻すための取り組みの総称事業を、個人事業主として市と一緒に進めている村上綾さんです。
村上さんの悩みは2つありました。行政との契約期間が1年、最長3年と決まっている中でどう継続していくか。そして任期が終わったあとも更新してもらえる力をどう付けるか、という点です。
さらに厚利少売の観点では、村上さんの時給は最低1,400円から最大2,300円ほどと幅があり、ワークで考えた結果、最低でも3,000円に上げたいと話しました。
すがけんさんはまず、時給に幅があるなら高いほうの仕事だけを選べるようになれば時給は上がる、と指摘します。村上さんによると、時給が高くなるのは、経験があって見通しが立ち、スピード感を持ってこなせる仕事でした。
すがけんさんはここから、手当たり次第に仕事を受けると、自分が役に立てる仕事と立てない仕事が混ざってしまうと話を進めます。役に立てない仕事では自分で時給を下げたり、安いまま働く時間を増やしたりしがちです。
すがけんさんの見立てでは、村上さんの課題は高く買ってくれる人が集まる仕組みがないこと、つまり発信の問題でした。何でもできますと打ち出すと安い仕事も来ますが、一番できることをピンポイントで深く発信し続ければ、最初から「それをやってほしかった」という人が来て、コミュニケーションコストもほぼかからなくなるといいます。
得意なことを絞って発信
何でもできますではなく、一番できることを深く濃く出し続ける
内容を理解した人が来る
何をやってほしいかが明確な状態で相談が来る
コミュニケーションコストが下がる
当たり外れのある営業をしなくて済む
高い価格でも依頼される
やってほしいことが明確なので、3,000円でも受け入れられやすい
予算が決まった行政相手に、どう単価を上げる?
村上さんの現在の主な収入源は市からの業務委託です。行政は使える予算の枠が決まっていて、単価を上げる交渉は難しいという返事をもらっている最中でした。
すがけんさんが確認すると、決まっているのは時給ではなく、村上さんに払う月額でした。そこで、すがけんさんは「単価を上げて働く時間を減らせばいい」と答えます。同じ金額でも、ひとつの変化を生むのに100時間かかる人もいれば、10時間で済む人もいるからです。
すがけんさんは自身を例に、提供するもの自体を変える必要があると説明します。
僕は今1時間30万円なんですけど、資料を作らせたらもう本当にやめた方がいい。僕には頼まない方がいいです。
すがけんさんによれば、どんな天才でも1時間でコンサルが作る100枚のスライドは作れません。一方、経営者の悩みを聞いて「AとBならBがいい」と判断を示すことなら短時間でもできます。
資料作りのように労働作業が決まっている仕事は単価を上げにくく、納品をする仕事から判断をする仕事へ1〜2レイヤー上がるほど時給は高くなる、というのがすがけんさんの考えです。経験のある人が「右ではなく左」と方向を示すだけで、ほかの人が使う100時間分の作業がより良く、より早くなるなら、判断を任せたいと思ってもらえるかもしれません。
資料作成など作業量が決まっていて、かかる時間に応じた報酬になりやすい
経験をもとに方向を決める。短時間でも、残りの作業全体の質と速さを左右する
こんまりの生き方に学ぶ「待ち」を生む値上げ
川原さんは別の切り口で、村上さんが最終的に何を得たいのかを尋ねます。行政に起こせる変化を大きくしながら単価を上げたいのか、もっと効率的な方法があれば行政という枠すら外してよいのか、という問いです。川原さん自身、政治家を志したこともあり、公益性が求められる行政の仕事は「ぶっちゃけムズい」と話しています。
村上さんは、まだ子どもはいないものの、子どもができたら子どもとの時間を一番にしたい一方、大好きな今の仕事の時間も取りたいと答えました。時間に融通が利く形で、地域と子どもを結びつけた事業をすることが最終的な目標だといいます。
川原さんは、参考になるのは近藤麻理恵さんの生き方だと話します。
あの人も基本的には片付けの仕事で一回クライアントのところに行って、5時間拘束されて、当時まだしかも2万円とかでやってたんですよ、安い単価で。
川原さんによれば、近藤麻理恵さんの依頼は半年待ちになるほど人気になり、待てない人のために本を書いたことでゲームチェンジが起きました。自分の稼働以上に稼げるものを結婚前に作っていたから、仕事をしながら子どもとの時間も取れるようになった、という話です。
この話を受けて、今の値段で行列ができるほどの状態を作れば値上げができる、という流れも示されました。100社が待っているなら値上げして50社になっても、まだ待ちが続きます。そこでさらに値上げし、お客さんと「この倍の価格に見合う仕事にするにはどうすればいいか」を一緒に作っていけるといいます。
すがけんさんも、価値を返せるかをお客さんと探った例を紹介します。あるクライアントから新入社員研修を頼まれた際、すがけんさんが担当すると1カ月で120万円、3カ月で360万円かかってしまいます。
インタビューしてみると、知識を教えるのは安い人でもできますが、5年経っても先輩の指示しかやらない人を、自分から仕事を取りに行く人に変えられたら360万円払っても惜しくない、という話になりました。そこで始めたのが「スガケンサバイバル塾」です。無人島に来たと思え、と自発的に働く姿勢を叩き込んだところ、半年ほどで新人が1つ上の先輩を抜き始めたといいます。
富裕層に届けるならInstagramよりnote?
村上さんは現在Instagramを中心に発信しています。今は行政だけが顧客ですが、単価を上げるなら、子ども関係では富裕層の家庭も対象になると考え、そうした人たちが何で情報を得ているのかを2人に尋ねました。
川原さんの答えは「人づてが一番多い」というものです。質の高いものがふるいにかけられて耳に入ってくることが多く、自分から媒体に情報を取りに行くことはあまりないといいます。
すがけんさんは、Instagramはビジュアルの世界なので、考え方を伝えるならnote ── 文章や画像を投稿できる日本のメディアプラットフォーム。長めの文章で考えを発信する用途によく使われますではないかと提案します。出来上がりが同じでも、考え方が違うことが大事だという指摘です。
考え方を、自分の意見みたいなのをしっかり発信すると安心してもらえるんじゃないですかね。多くのお金持ちは安心は買います。
発信のプロに聞く、続けるコツは?
発信の話題が出たところで、川原さんは会場にいた発信者に急きょ話を聞きに行きます。オフで来ていたT先生と、養生ダイエットコンサルタントの愛梨さんです。
子育てをテーマに発信しているT先生は、意識していることは「喜ばれるかどうか」の1つだけだと話します。家庭によって悩みは違い、片付けをしない子どもにもひとつのアプローチでうまくいくとは限らないため、響かなければ別の方法を考える、というのがT先生のやり方です。
すがけんさんは、商売では試せる単位が長いけれど、SNSならいろいろ試し、喜ばれる大きいものを仕事にしていけると受けます。T先生は、うまくいかない投稿を消さず「質と数」の両方を追うと話しました。YouTubeでは、最初は1週間で1万再生ほどだった動画が、3年後に200万再生になっていたこともあったといいます。
愛梨さんは4年ほどYouTubeを続けてきて、決めていることは「初めての人を大事にする」ことだと語りました。動画が500本あっても、1本でわからないと思われたら離れてしまうため、1本で完結して理解できるよう丁寧に説明しているそうです。InstagramやXは、YouTubeのしっかりしたコンテンツからエッセンスを取り出したものという位置づけです。
愛梨さんのYouTube登録者数は書き起こしで「57人くらい」となっており、正確な数は登録者数です。
すがけんさんは、発信をすれば指名で好きと言ってもらうところから始められると締めくくり、村上さんの相談はここで終わりました。
手作りの動物は1体いくらにすべき?
2人目は、事前に質問を寄せていた長部まなみさん長部まなみです。質問文はスタッフが読み上げました。
私は今人生最大に、自分の目指す姿を明確にするために徳島から参加します。最近、誰かのためにと思うモチベーションが爆上がりすることに気づいて、厚利少売の本を読んでから、大好きなものづくりで何かできないかと数年かけて挑戦してきた様々なジャンル、木工、粘土、養蜂、フルートなどを生かして、Instagramで「あなたの好きな動物を作らせてください」という企画をし、感覚をつかむためにまずは無料からですが挑戦しています。この先どうなるかわかりませんが、見た方からお金を払うから作ってほしいと言っていただけた場合、お二人ならどのような価格設定をするかお伺いしたいです。
質問の最後には年収と月収の目標額が書かれていましたが、書き起こしでは金額が聞き取れず目標の年収・月収です。すがけんさんは、その目標から逆算した1体あたりの価格で「いいんじゃないですか」と即答し、みんな値段を下から考えがちだと指摘します。
続いて、すがけんさんは1カ月に何体作れるかを確認していきます。まなみさんの作品はお客さんの要望に合わせて大きさも決めないオーダーメイドで、小さければたくさん作れるというものでもありません。すがけんさんは、オーダーメイドなのだから高くてもいいのではと話します。
高い価格に不安を感じるのは何かと比べているからだ、とすがけんさんは問いかけます。まなみさんは、マルシェなどで勉強するうちに相場が見えてきて、1体10万円はハードルが高く感じると答えました。
作品ではなく「話を聞くこと」が商品になる
今まなみさんが手がけているのは、飼っていた犬を亡くし「また会いたい」と願う方からの依頼です。一番お気に入りの写真を送ってもらい、性格やどれだけ家族に愛されていたかを聞き取りながら、表情まで立体的に表現しているといいます。
作品の実物は小ぶりで、すがけんさんも価格としては突飛に聞こえると認めつつ、それでも売れると感じたと話します。
作る工程よりも、その方とのお話をすることが、多分その相手の方がお金を払う価値を感じるポイントだと思うんですよ。
すがけんさんの見方では、これは商品というよりサービスです。大切な存在に関心を持ち、話を聞いてもらうこと自体が依頼者にとって尊い行為で、そのアウトプットが本の場合もあればお墓の場合もあり、まなみさんの場合は立体作品だということです。
作品というアウトプットだけなら「3Dスキャンして最短2日で届けます」というサービスに負けてしまいます。だからこそ、聞き取りやラフスケッチといった中間成果物にこそ価値がある、というのがすがけんさんの提案です。
速さや大きさで比べられ、3Dスキャンのようなサービスや他のかわいいものと競合する
ペットの話を聞き、ラフスケッチも作り、思い出ごと形に残す。依頼者にとって代わりがきかない
まなみさんは、写真の背景まで表現したいとも話しました。依頼主の犬はひまわり畑によく行っていたため、小さなひまわりを添えたジオラマ ── 建物や風景などを縮小して立体的に再現した模型のこと風の背景を作る予定です。すがけんさんは「めっちゃいいんじゃないですか」と応じます。
そのうえで、すがけんさんは誰を客にするかが重要だと続けます。アクセサリーを探す人ではなく、ペットとの思い出を永久保存したい人に届けないと、オーダーメイドの意味がありません。1体50万円は無理としても、10万円ぐらいは目指していけるだろう、という見立てでした。
不安だから値下げする、をやめられるか
相談の最後に、すがけんさんは「自分で信じたほうがいい」と会場全体に語りかけます。
僕も普通に時給3,000円から30万円にするまで多分できるなと思ったし、やっぱ信じないと不安になるじゃないですか。人って不安な人から物を買いたくないんで。
すがけんさんによれば、不安だからおまけを付ける、不安だから値下げするというのは、自分が楽になるための行為です。緊張と同じで相手には関係がなく、相手はむしろ値下げされたくないといいます。
すがけんさんは来場者に、帰るときには「私のサービスは素晴らしい」という自信を1つだけ持って帰ってほしいと呼びかけました。自信を持って「高い」と言うほうが、相手もお金を払いやすいというメッセージです。
収録の締めでは、改めて「10万円」という値決めが話題になります。すがけんさんは25万円は難しいが10万円は普通に売れると話し、川原さんも唯一無二で一番大切なものを形に残してくれるのは「プライスレス」だと重ねました。
ものを作ることには残念ながらさほど意味はなくて。だからご自身がいや、私はものを作りたいんだと思えば思うほど、今の話は遠のいていき、相手の話を聞きたいんだと思えば、今の話は実現に近づいていく。
川原さんは、お便りでもこのくらいの具体性でやり取りできれば精度の高い答えが出せると話し、ファンクラブのような形で収録に参加し質問できる仕組みも考えていると明かしました。
本では伝わらない「異常値」の見本とは
収録を振り返り、川原さんは会場の熱量を「静かなる熱量」と表現します。声が盛り上がるのではなく、真剣に学びに来て、自分のやり方が正しいかを確かめたいという空気が伝わってきたといいます。
川原さんはまた、自分への値付けや周囲の相場との比較など、薄利多売がはびこる世の中で厚利少売に踏み出す難しさを、目の前で聞きながら感じたと話します。だからこそ一人ではなく、ラジオやリスナー、読者と一緒に踏み出すことが勇気になるだろうと語りました。
すがけんさんは、本に書いた「異常値になる」ことの見本として、2人のやり取りそのものを見てほしかったと話します。
別に僕らはすごいから異常値になったわけじゃなくて、異常値だから今ここにいる。
すがけんさんによれば、文章にすると綺麗な言葉になってしまうところを、返し方や身なり、リアクションの一つひとつで業界の普通とは違う姿を見せることが、イベントならではの持ち帰れる醍醐味だったといいます。
週1配信への変更も「厚利少売的な決断」
最後に、『厚利少売ラジオ』が週1回の配信に切り替わることが告知されました。毎日聞きたい人、長尺で聞きたい人、週2回では実践する時間が足りない人など、さまざまな声があったことを受けた実験的な変更です。
週2回配信。1回20〜30分では具体的に話し込むには足りなかった
週1回配信で尺を伸ばす。聞いて実践し、学びを得てから次の回を楽しみにするペース
川原さんは、1つの話に込める熱量やかけられる時間が変わるので、ある種の厚利少売的な決断だと話します。すがけんさんは、物足りない人は過去回を繰り返し聞き、体に染み込ませてほしいと呼びかけました。
あわせて、リスナー投票で一次選考が行われるJAPAN PODCAST AWARDSへの投票も呼びかけられました。すがけんさんは「大賞狙っていきます」と意気込み、投票後はハッシュタグ「厚利少売」を付けたポストもお願いしていました。
まとめ
公開収録では、時給の幅、予算の決まった行政との契約、オーダーメイド作品の値決めという具体的な悩みを通じて、価値の出し方と伝え方が掘り下げられました。どの相談でも、作業量ではなく相手に起こせる変化に目を向け、それを発信で届け、自信を持って値付けすることが軸になっています。
- 時給を上げるには、高く買ってくれる人が集まる仕組み、つまり得意なことを絞った発信が要る
- 報酬の総額が決まっている相手には、納品する仕事から判断する仕事へ提供価値を変える
- 行列ができるほどの状態を作れば、お客さんと一緒に価格に見合う価値を作りながら値上げできる
- オーダーメイド作品では、作るものより「話を聞くこと」というプロセスが価値になる
- 不安からの値下げやおまけは自分のための行為で、人は自信のある人から買いたい

