お客さんは「減らす」のではなく、結果として減る?
厚利少売を実現する3つのステップには「お客さんを減らす」というテーマがあります。川原さんは、世の中には顧客の減らし方のナレッジがほとんどないとして、具体的なやり方をすがけんさんに尋ねました。
すがけんさんがまず挙げたのは、一時期抽選販売が過熱したNIKEのスニーカーです。人気の和菓子店の行列、ECサイトやブランドのエントリー制、すがけんさん自身が応募したお気に入り作家の個展も、同じように抽選で販売されています。
結局数が少ないってことがもう決まって、それ以上に欲しい人がいるっていう時に、先着じゃなくて抽選にすることって大事だと思うんですよ。
すがけんさんによると、先着順は「本当に欲しい」という気持ちの表れでもある一方、毎日並んで買ってメルカリに出品する人も含んでしまいます。売るものを希少資源と捉えるなら、正しい人の手に届く仕組みを考えるべきだという主張です。
朝から並ぶ熱意のある人に届く一方、時間があり転売目的で並ぶ人も含まれてしまう
供給より欲しい人が多いときに、本当に届けたい人へ届く可能性を高められる
すがけんさんにとって、抽選はお客さんを「減らす」というより「選ぶ」ことです。そもそも作る数を絞れば、おのずと断るお客さんが出てきます。
なるほど。確かにお客さんを減らそうじゃなく、提供数、供給数を減らすと、結果お客さんが減るんだ。
すがけんさんも、お客さんを減らすという感覚は自分にはあまりないと応じます。50個作って1人1個までなら50人、1人2個までなら25人というように、出すものを減らせば、お客さんは自然と絞られるという考え方です。
提供する時間はなぜ「希少資源」なのか
川原さんは具体例として、すがけんさんがアドバイス先を10社に限定していることに触れます。1社あたり週1回1時間で、週10時間、月40時間です。
もうだから僕は40時間以上は働かない。お金をもらう仕事はしてないっていう感じでやってます。
すがけんさんは、残りの時間を遊びではなく、知見が溜まりそうな人との対話や自身の成長に使っていると話します。年間契約のため、すがけんさんが成長するほど、契約しているお客さんが受け取る価値も増えていくといいます。
一方ですがけんさんは、薄利多売に慣れていると「欲しい」と言われるたびに全部引き受けてしまうと指摘します。テーマパークで爆買いされた商品がメルカリに大量出品された例や、人気店が営業時間を延ばし続ける例を挙げました。
求めに応じる
「欲しい」と言われるたびに提供数や営業時間を増やす
常態化する
休業日に店を開けるような対応が当たり前になる
疲弊する
働く人が疲れてクオリティが下がる
離脱する
「なんで働いてんだっけ?」となり辞める人も出る
ヘルシーに続けるためにも、それならちょっと値段上げさせてもらって、欲しい人をちょっと減らして、それでもっていう方たちに提供していけばいいので、やっぱ希少資源なんですよね。作るものや提供する時間って。
川原さんは、自分が頑張ればいいという考えが日本には根強く、提供時間が希少資源だと感じられるまでに時間がかかると話します。すがけんさんはその考え方を「薄利多売脳」と呼びました。
すがけんさんは、値上げはやみくもに行うものではないとも補足します。3000円の居酒屋から始めて3万円のフルコースを目指すシェフや、2000円のアクセサリーから2万円の品を作りたい人のように、自分が行きたい価格帯があるはずだという話です。
最初から2万円では信じてもらえないので、まずは信じてもらえる価格から始めます。信じてくれた人に十分以上の価値で報い、欲しい人が増えたところで値段を上げるか、商品点数や提供時間を減らしていく、という順番です。
すでに顧客を増やしすぎた人は、どう減らす?
川原さんは、薄利多売で先にお客さんを増やしきってしまった人はどうすればよいのかを尋ねます。すがけんさんは、アクセサリーの値上げを例に答えました。
毎月2000円のアクセサリーを100個売れてますって人が4000にして50個になることはないと思うんですよね。
すがけんさんの見立てでは、価格を2倍にしても販売数は50個ではなく、60〜70個は売れます。すでにいるお客さんでも、価格を2倍にしてもお客さんは半分には減らないため、売上は維持されるか少し増えるという考え方です。
| 価格 | 販売数 | 売上 |
|---|---|---|
| 2000円 | 100個 | 20万円 |
| 4000円 | 60〜70個 | 24万〜28万円 |
すがけんさんは、もう1つの方法も挙げます。2000円の商品とは別に、10倍の2万円の商品を作り、3個売れればよしとする方法です。2万円の商品は新しい価格層のお客さんに向けたもので、既存の土台があるので挑戦しやすいといいます。
2万円の商品が売れるようになってきたら、2000円の商品を減らしていきます。すがけんさんは、こうして価格帯の比重をコントロールすることが大事だと話しています。
値上げを拒まれたら、どう受け止める?
川原さんは、モノではなく自分の時間を提供する無形財の場合、付き合いの長い相手に値上げを伝えると嫌な感じになるのではないかという不安を口にします。すがけんさんの答えは率直でした。
嫌な感じはね、するんじゃない。
すがけんさんは、前回の顧客満足度調査の話と同じで、本当に満足していない人は値上げを嫌がると説明します。役に立ってきた実績を示し、より良いサービスにするために値段を上げて働く時間を減らしたいと伝える、という順序です。
すがけんさんは、独立すると月400時間ほど働いてしまう人もいると話します。それを200時間に減らして余裕を持ちたいので価格を2倍にしたい、という理由に「嫌だ」と言う相手とは付き合わなくていいという立場です。
嫌だ、俺は搾取したいんだ。もっと働けって。おかしいじゃないですか。
すがけんさんは、安く売る代わりに自分も安く買えるというトレードを「メルカリ経済圏」と呼びます。その発想のままでは薄利多売から抜け出せないので、値上げした価値に見合うよう一緒に頑張ろうと言ってくれる相手こそが正しい取引相手だと語りました。
川原さんが、値上げを断られたら実際に何と答えるのかを尋ねると、すがけんさんは「それでも買ってくれる素敵な方もいるので、お断りです」と答えます。川原さんは「役に立たない具体例」と笑いながらツッコミました。
僕が時給10万円で始めますと、時給30万円にしたいって言った時に、相手が嫌だって言うのは、お前にはその価値がないっていうことをナイスに言ってくれてるだけじゃないですか。
すがけんさんは、値下げを求められたなら、それは自分の通信簿だと受け止めるといいます。成果を出せなかったのなら謝ればよく、成果が出ているのに価値を認めない相手とは長く付き合わないほうがよいという考え方です。例として、タケムラさんが単価を5万円から100万円に上げたことも挙げています。
価値に見合うよう互いに責任を持とうとする、続けるべき取引相手
こちらの価値を下げて取引しようとしているので、長く付き合わないほうがよい
すがけんさんは、自分が買う側で値上げを提案されたときも、安いままでやろうとは言わないと話します。やめるか、費用対効果が見合うよう一緒に頑張るかのどちらかを選び、買う側も提供価値に責任を持つべきだという姿勢です。
すがけんさんは、時給1万円で働けば何の責任も負わずに済み、楽だと言います。それでも安くしないのは、自分の価格が後に続く人の「お手本」や基準値になるからです。基準が30万円なら、その3分の1でも10万円になるという計算です。
厚利少売の成功者は業界の希望になる?
川原さんは、各業界で厚利少売を実現した人は、その業界にとっての希望になっていくのではないかと話します。すがけんさんもこれに同意しました。
すがけんさんは、薄利多売は大量に作らないと成り立たず、規模の維持が大変で、地球の資源も多く使うと指摘します。薄利多売が100%悪いわけではないものの、厚利少売にも同じくらい価値があると認識されてほしいと語ります。
逆にみんなもそこで成功した人を、薄利多売の人はやっかまんじゃなくて、その人が成功したらみんなも厚利少売に移れますから。
川原さんは、成功者の存在は「できるという証明」になると応じます。すがけんさんは、成功した人をむしろ応援し、みんなで厚利少売へ移っていこうと呼びかけました。
おにぎり屋か高級料理店か、迷う27歳の料理長
後半はお悩み相談のコーナーです。川原さんが、ラジオネーム「タクミ」さんからの相談を読み上げます。名前が川原さんと同じなので、すがけんさんが「自分で書いたの?」とからかう場面もありました。
僕は現在27歳で地元で料理長をしております。フーディーのお客様から教えていただき、すがけんさんを知り、厚利少売の本を購入させていただきました。
(フーディー側から知ったのは)初めてかも。なんかちょっと小っ恥ずかしいですね。
昔からの夢は地元でおにぎり屋さんをやることでしたが、高価格帯で一人一人のお客様と向き合う料理屋がやりたいと料理人として研鑽を積む中で次第に変わっていき、独立して資金に余裕ができて、落ち着いたら地元でおにぎり屋をやろうと考えるようになりました。そこでお二人のラジオを聴き、今地元にいるので、まずは休みの日に簡単に数量限定で始めてみて、失敗したらやめればいいと思えました。
あわよくばそこで貯まったお金を元手に料理屋を開こうと思いました。そこでお伺いしたいのですが、おにぎり屋と料理屋どっちが先か、だんだん自分で何がしたいのか分からなくなってしまいました。曖昧で申し訳ございません。
すがけんさんは、ゴールは決まっているのに課題が多すぎたり解像度が低かったりすると、途中でうまくいきそうな別の道に揺れてしまうのは誰にでもあることだと話します。
果たしてその高価格帯で一人一人のお客様と向き合う料理屋がやりたいことと、おにぎり屋をやることがちゃんと繋がってるのかは、僕はちょっとわかんなくなりました。
すがけんさんは、おにぎり屋のお客さんが将来の料理屋に来るとは限らないと指摘します。高価格帯の料理屋がやりたいのであれば、まず手の届く価格帯の料理屋から始め、信じてくれた人に報いながら、提供するものを減らして値段を上げていくのが王道だという答えです。
地元はマストか?修業とブランドづくりの意味
川原さんは、「地元」がどれほど絶対条件なのかによって選ぶ道がまったく変わると指摘します。飲食は基本的に商圏が狭く、地元でおにぎり屋をやることがゴールなら、すぐにでも始められるからです。
すがけんさんは、地元でありながら全国からフーディーが来る店を目指すのであれば、有名店での修業が大切だと話します。客が集まる理由は料理の技術だけではなく、その本質価値は外から見ていてもわからないからです。
すがけんさんは、寿司店のように有名店でないと良い食材を仕入れにくい世界もあり、和食も同様ではないかと続けます。修業には、本質価値を見極めることに加え、流通や仕入れのつながりを得る意味もあるという見立てです。
本質価値を見極める
なぜその店に客が集まるのかを内側から学ぶ
仕入れの道を得る
有名店でしか手に入りにくい食材の流通に触れる
ブランドをつける
名店での経験を経て、選ばれる理由をつくる
すがけんさんは、地元で料理長を務める人が修業に出るのはプライドの面でも大変だろうと気遣います。それでも川原さんは、27歳ならチャレンジしやすいと背中を押しました。
すがけんさんは地方の現実にも触れます。東京の店から独立して地元に戻っても、いただける価格は3万円が精一杯になりやすく、食べに行く人もレビューを書く人も少ないので食べログのランキングが上がりにくいといいます。見つけてもらうまでに数年かかるかもしれません。
川原さんは、フーディーと出会い、すがけんさんを紹介され、厚利少売の本までたどり着いたタクミさんを「1%の希少人材」と評価します。インバウンド客やフーディーが訪れるトップクラスのオーベルジュで修業するなど、ブランドをつけるムーブを挟むのも面白いと提案しました。
いや、本当にね、まさにブランドを作るムーブが結構重要だと思います。
川原さんは、本気の悩みに胸が動いたと語り、27歳なら何でもできると激励しました。すがけんさんも「まだまだできますよ」と応えています。
まとめ
この回のすがけんさんは、お客さんを無理に減らすのではなく、作る数や提供時間を希少資源として絞り、価値に見合う価格へ上げていくことで、結果的に顧客が選ばれていく道筋を示しました。後半の相談でも、本当に欲しいものを明確にし、王道で価値と価格を上げていく姿勢が貫かれています。
- 供給より欲しい人が多いなら、先着ではなく抽選にして正しい人に届ける
- 提供時間を限定し、それ以外の時間を成長に使えば、既存顧客の得る価値も上がる
- 価格を2倍にしてもお客さんは半分にならず、売上は維持されやすい
- 値上げへの反応は自分の通信簿であり、価値を認めない相手とは長く付き合わない
- 高価格帯の店を目指すなら、遠回りに見えても修業とブランドづくりが王道になる

