なぜ「資料を作らない・見ない」スタイルなのか
今回のテーマは「仕事の間違い。資料を作らない超一流は脳内で何を処理しているのか」です。川原卓巳さんもすがけんさんも、資料を作らずに人前へ出て、会話だけで価値を生み出すことで知られています。
川原さんによれば、かつては資料1つにいくらと値段がつくほど、資料作りは価値のある仕事だと考えられていました。そのうえで、自然にやっていることをあえて言語化するのが今回の狙いだと話しています。
すがけんさんがまず強調したのは、資料を作らないスタイルはAI時代だから始めたものではない、という点です。独立した8年前から、すでにそうしていたといいます。
そもそも資料は要らないから作らないし。あとね、僕逆にこれはみんなに驚かれるんですけど、相手から資料を出されるのもあんまり好きじゃないんですよ。
すがけんさんは、資料を読むことも、事前にアジェンダを受け取ることも好きではないと続けます。翌週の相談内容を前もって送られても、覚えていられない「記憶ゲーム」のように感じるそうです。
だからお客さんが聞いてたらちょっとあれですけど、まあ全て過去の仕事だから言っちゃいますけど、資料送られてきて見たことないですね。
すがけんさんが念頭に置いているのは、大企業のコンサルティング会社が作った100ページほどの資料です。わざわざ送ってもらっても、見て役に立ったことはないと話しています。
100ページの資料はなぜ役に立たないのか
川原さんに理由を細かく聞かれたすがけんさんは、1時間で相談することのために100ページを頭に入れなければならないのは変だと答えます。時間的にも記憶容量的にも無理があり、話すべきことが散らかってしまうからです。
だからそのいわゆる幕の内弁当化してるっていうか、全部いっぱい詰め込んで、そこから決めてくださいみたいな話になっちゃってるけど、一時間で話し合えることって、やっぱ一個の課題についてだけなんで。
すがけんさんの仕事スタイルは、1時間で相談し、1時間で決めることです。時価総額1兆円規模の会社と仕事をするときも、そこに価値があるのに、なぜ相談を1か月、1年と引き延ばそうとするのか、もったいないと感じるといいます。
川原さんはこれを「網羅しなきゃいけないという罠」と表現しました。すがけんさんは、課題を1つに絞らなければならないことを多くの人がわかっていない点が大きな問題だと応じます。
すがけんさんは自分の仕事を医者と同じだと説明します。資料にたくさん並んでいる問題は、腹痛や背中のかゆみのような「対症療法」の話であり、病気のもとが表面に出てきた結果にすぎないという考え方です。
お腹が痛い、背中がかゆいといった結果。コンサル資料の100ページはこれをなぞっている
なぜその症状が起きたのか。根本治療にはこちらを特定する必要がある
コンサルの資料の百ページも、なんだ、その表面的なものをいっぱいなぞって言われても、それで原因が見つかるとは到底思えないし、それがそもそも原因では全くないので。
60分の相談で、すがけんさんは最初に何を聞くのか
川原さんの次の問いは、資料を横に置いて60分の相談が始まったとき、すがけんさんの頭は何に集中しているのか、というものでした。
すがけんさんは最初に、資料の中で一番相談したいことは何かを相手に尋ねます。このとき「一応全部見ましたけど」と添えると話し、川原さんに「さらっと嘘ついた」と突っ込まれていました。
相手からは、売上が落ちている箇所や、高単価の商品が売れなくなり低単価の商品が売れ始めた箇所など、相手自身が大事だと考える点が返ってきます。ただし、すがけんさんによると、相手のこの認識もほとんど間違っているそうです。
そう、その時点でもう二つありますよね。(表層的な話と)あと百ページの無駄な悩みから一個の悩みまで絞るってとこまでそれでできて、それ五分ぐらいでできるじゃないですか。
すがけんさんは、相手が絞った1つの悩みを受けて、そこから先は自分で考える段階に入ります。医者が「一番痛いのはお腹です」と聞いたあとで、なぜその腹痛が起きるのかを探るのと同じだといいます。
たとえば「なぜ売上が下がるのか」と問い、客単価が下がっているのか、人数が減っているのかに分けます。さらに、なぜ人数が減ったのか、なぜ単価が下がったのかと深掘りしていきます。
すがけんさんによれば、深掘りに必要な情報は資料の中にいくつかあるものの、その順番では書かれていません。資料は原因を特定するためではなく、「いっぱい調べてきました」と見せるために作られていることが多いからです。
すがけんさんは、資料に値段がついたことで分量が増えたのは「知的労働産業の闇」だと話します。AIで資料が短時間で作れるようになれば、枚数の価値はなくなっていくだろうし、そうなってほしいとも述べています。
脳内の方程式は「単位」をそろえることから
川原さんは、すがけんさんの中に厚利少売の方程式があり、相手の話がそこからどうずれているかを確かめているのではないかと指摘します。すがけんさんはそれを認め、自分には「超基本の型」しかないと答えました。
現状があって、目標があって、その間の課題があって。で、課題って何なんだろう。で、じゃあその課題があるってことは、目標って何かけ何に分解できるんだろう。
現状と目標と課題を行ったり来たりしながら、だんだん細かくしていく。小さく分けて考えられるように単位を合わせていく。
すがけんさんが挙げた極端な例は、目標が売上の金額で、現状が社員数で語られているケースです。円と人では単位が合わず、比べられないので課題が見つかりません。こうしたずれは、実際にもよくあるといいます。
すがけんさんは、そうした場合に「目標の時点では何人になるのか」と聞き、1人当たりの売上に直してみます。すると、その金額では給料が払えない超低単価のビジネスになってしまう、といった具合に、経営者の中であやふやな点が見えてきます。
課題を確かめる場面でも、すがけんさんは問いを重ねます。「社員を雇えない」が課題なら、なぜ雇えないのか、採用で負けるのは給料が安いからではないか、と掘り下げます。
その流れから、単価を上げて社員数を今より減らすくらいがちょうどいいのではないか、という提案にたどり着きます。この時点で相談開始から30〜40分ほど経っているのではないか、とすがけんさんは話しています。
川原さんはこの進め方を、薄利多売 ── 利益の少ない商品を大量に売って全体の利益を確保する商売のやり方。番組が掲げる厚利少売はその反対で、少ない顧客に高い価値を提供して利益を得る考え方です的な当たり前とすがけんさんの当たり前のずれを、質問でチューニングしていく作業だとまとめました。相手が自分で「これじゃ無理なのか」と気づくのが特徴です。
整体院の値上げ相談で起きた「あっ」という気づき
すがけんさんは、自身が関わっているリアルバリュー ── すがけんさんが出演している番組。会話内では、1000万円を払う経営者向けの会員組織「リアルバリュークラブ」も話題に上っていますでの実例を紹介します。その前に余談として、「出させていただいて」という謙遜の言い方には、選ばれたことを匂わせるずるさを感じると話しました。
すがけんさんはリアルバリューからお金をもらっているわけではありません。それでも、1000万円を払った会員の経営者が得をしたのか、来年も払ってくれるのかが気になり、自発的に勉強会や壁打ちを始めたといいます。
壁打ちの相手の1人は、整体院を何店舗か経営する方でした。すがけんさんが1時間5000円の料金を1万円に上げてはどうかと提案すると、その経営者は「それだとお客さんが減りませんか」と返しました。
すがけんさんは「単価を上げるのは何のためでしたっけ」と問い返します。経営者は厚利少売を学んでいたので、値段を上げて客層を変えるためだと答えました。
いや、ですよね。お客さん変えるってことはお客さん減りますよね。だって今までのお客さんから変わんなきゃいけないんだから、今のお客さんは続かない人も当然出るから。
すがけんさんは、整体はまさに設備産業だと説明します。ベッドの数が決まっているので、予約がいっぱいになればそれ以上は受けられません。
満席でやっと採算が取れる状態では、いつ利益が出るかわかりません。そのため、5〜7割の稼働でも利益が出る値段にしておく必要があり、値上げは必須だといいます。川原さんは、高級ホテルと同じ仕組みだと補足しました。
低単価のまま
満席でようやく採算が取れる状態が続く
設備や店舗を増やす
売上を上げようと部屋数や店舗数を広げる
薄利多売の増産
利益の薄い構造がそのまま拡大する
採用に困る
給料を上げられず、人が集まらなくなる
対症療法をつなげると全体が治る
同じ整体院の経営者からは、別の相談もありました。高単価にすると客層の世界が違いすぎて、お客さんの気持ちがわからなくなるのではないか、という不安です。
すがけんさんが「金額を上げて何をしたいんでしたっけ」と聞くと、経営者は「社員の給料を上げたい」と答えました。
ですよね。社員の給料上がったらその人たちと近くなるんだから、気持ちわかっていかないんですか?
すがけんさんによれば、ここで経営者は「あっ」と気づいたそうです。給料を上げたいなら単価を上げるしかなく、単価を上げれば社員の給料レンジがお客さんに近づき、研修での補いも合わせて気持ちがわかるようになる、という筋道です。
すがけんさんは、高単価のお客さんに来てもらい、従業員にお金を払い、従業員も単価の高い生き方に近づけていけば、すべてがそろっていくと話します。パーツごとに見ると、それぞれがずれているように見えてしまうのだといいます。
すがけんさんの見立てでは、背中の痛みや腹痛のような個別の症状だけを見ているから、一つひとつの問題が経営者の中でつながっていません。根本を変えれば個別の悩みがまとめて解けるという点が、資料に頼らない相談の核心にあります。
川原さんはここで、もう1つ聞きたい観点が出てきたとして、続きを後編に回しました。ビジネスを営む人にも、ソリューションを提供する側にも役立つ話になりそうだと予告しています。
まとめ
すがけんさんが資料を作らず、見もしないのは、1時間で話し合えるのは1つの課題だけだと考えているからです。相談では悩みを1つに絞り、現状・目標・課題の単位をそろえ、問いを重ねて根本原因へたどり着きます。整体院の事例のように、根本を厚利少売に変えれば、ばらばらに見えた悩みがつながって解けていきます。
- 100ページの資料は表面の症状を並べたもので、根本原因の特定には役立たない
- 1時間の相談では、まず一番の悩みを聞いて課題を1つに絞る
- 現状と目標の単位をそろえると、比べられるようになり本当の課題が見える
- 値上げで客が減るのは、客層を変えるという目的どおりの結果
- 個別の悩みを対症療法で見ず、根本からつなげて治すことが大切



