モスクが視界に3つ、イスタンブール初日の驚き
超相対性理論のオリジナルメンバー3人が、毎年恒例の旅でトルコのイスタンブールを訪れています。収録は旅の1日目を終えた夜8時ごろ、ホテルの一室に3人が集まって行われました。
3人の旅は札幌、出雲、香港に続くもので、今回のイスタンブールは「2024年分」の旅だと話されています。行き先は北欧やヨーロッパも検討したものの、最初のアイデアだったイスタンブールに勝るものは出てこなかったそうです。
13時間のフライトを経て、3人とも時差ボケで眠そうな様子です。それでも初日はイスタンブールの中心部を長時間歩き回り、街の印象を語り合います。
街の第一印象として挙がったのは、ベネチアに次ぐほどの美しさと、モスクの多さです。大きなドームを見つけたと思ったら、すぐ横にもう1つある、という光景が繰り返されたといいます。
どれソフィア?ってなるよね。
アヤソフィア ── イスタンブールを代表する歴史的建造物。ビザンツ帝国時代に教会として建てられ、のちにモスクとして使われてきましたのような建物は1つだけだと思っていたら、似た規模のモスクが100メートルおきに並んでいた、という驚きが笑いを交えて共有されています。
トルコアイスに紛失騒動、旅の話を「抽象度」上げて
渡邉さんが「今日は何を話しますか」と切り出すと、まず初日の小さな出来事が話題にのぼります。深井さんが一度試してみたかったという、なかなか取れないトルコアイスの技は「ちょっと下手だった」と評されていました。
さらに深井さんは、ミュージアムのチケットを「絶対なくすな」と言われながらなくしてしまったそうです。香港旅行では財布、今回の飛行機ではKindleを座席の下に落とし、スタッフに椅子を分解してもらって取り出したというエピソードも続きます。
ただ、こうした思い出話だけではリスナーにとって「だから何?」になりかねない、という意見が出ます。そこで旅の間は毎日1話ずつ収録し、なぜ旅をするのか、旅にどんな効果があるのかといった、抽象度を上げた話をしていく方針になりました。
渡邉さんは年末年始にメキシコへ行き、帰国してすぐイスタンブールに来ているほど、旅や移動の多い人です。前年もコペンハーゲン、ポルトガル、大西洋のアソーレス諸島、南アフリカなどを巡ったと話しています。
オーバーツーリズムと「観光の終焉」とは?
渡邉さんはまず、現代の旅をめぐるキーワードとして、オーバーツーリズム対策、ローカル、本物性の3つを挙げます。その典型として紹介されたのが、スペインのバルセロナの状況です。
渡邉さんによると、バルセロナでは投資家が物件を次々に買ってAirbnb ── 個人が自宅や空き部屋を旅行者に貸し出せる民泊仲介サービス。宿泊のほか、地元の人が案内する体験プログラムも扱っていますで貸し出した結果、家賃が高騰し、地元の人が住めなくなっているといいます。抗議として、テラスカフェでお茶を飲む観光客に水鉄砲を撃つ活動まで起きているそうです。
物件の買収
投資家が物件を買い、民泊として観光客に貸し出す
家賃の高騰
地元の人が家に住めなくなる
地元の抗議
観光客に水鉄砲を撃つプロテストが起きる
一方、デンマークのコペンハーゲンは「ツーリズムの終焉」を掲げていると渡邉さんは話します。どんな人も、旅先で観光客向けの店に入ってぼったくられたいとは思わない、という発想が出発点です。
名物食べたいけど、なんかあらかじめあらゆる言葉が書かれてるメニューを外国で見ても興ざめするじゃない。
コペンハーゲンの取り組みとして、教会に地元の人と観光客が集まり、みんなでテーブルを整え、配膳し、食事をする例が挙げられました。そのプロセスの中で、地元の人と友達になっていけるという仕組みです。
渡邉さんは、コペンハーゲンがこの方向に舵を切ったのは理にかなっていると見ています。人魚の像などの名所は、マーライオンや小便小僧と同じく「実際に見ると大したことがない」ものが多く、がっかりするくらいなら紋切り型の観光を捨てて本物の地元を味わえるほうがいい、という考え方です。
「縦の旅」は産業として成り立つのか?
イスタンブールの中心部も観光客向けの街で、初日に地元の人向けの店はほとんど見つからなかったと3人は振り返ります。アヤソフィアやグランバザール周辺を歩いた初日は「センター街を歩いたみたい」だったとして、郊外へ行ってみたいという声も上がりました。
ここで、作家のカズオ・イシグロ ── 長崎生まれのイギリスの作家。『日の名残り』などで知られ、2017年にノーベル文学賞を受賞していますがコロナ禍に語っていたという「縦の旅と横の旅」の話が出ます。表面的な観光としての横の旅ではなく、ローカルな人とつながる縦の旅が大事だ、という考え方です。
表面的な観光のために、名所を広く巡る旅
ローカルな人とつながり、深く入り込む旅
渡邉さんは縦の旅の価値に賛同しつつ、その発想では人数が増えず、今のような産業としては成り立たないだろうと指摘します。そのうえで、産業でなくてもいいという考え方もあり得るとして、自身の体験を語りました。
ツアーに申し込むと大体もう建築好きの人しかいないみたいなのがあって、(参加者も)建築家ですとかデザイナーですとかっていう人しかいない。
渡邉さんは海外で建築家の自邸を見学するのが好きで、少人数のツアーでは話題の合う異文化の人と出会えるうえ、ガイドとも腹を割った話ができるといいます。フランスの有名メゾンのデザイナーと、わずか5人ほどのツアーで一緒になったこともあったそうです。
さらに渡邉さんは、京都大学経営大学院の山内教授の習慣も紹介します。山内教授は出張や旅行のたびに現地のAirbnbエクスペリエンスで地元の人から料理を習い、イタリアならティラミスの講師を必ず2人予約して、おいしいほうのレシピを覚えるそうです。
料理は最も文化が出るという話から、3人は「明日やってみよう」と盛り上がります。料理を習えば地元の人の家に入れ、海外ではなかなか見られない民家の造りから文化の違いがわかる、という期待も語られました。
バックパッカーと超富裕層、両端の旅が似ている理由
渡邉さんは2年ほど前、仕事で超富裕層の旅行をリサーチしたことがあるといいます。旅にかける予算で、バックパッカー、格安、標準、豪華、桁違いに豪華な旅行と並べてみると、両端の2つの価値観が最も近いことがわかったそうです。
その共通点を、渡邉さんはトランスフォーマティブトラベル ── 旅を通じて自分の価値観や生き方に変化が起きることを重視する旅のスタイル。体験や人との交流を目的にする点が特徴です、つまり自己変容のための旅と表現します。異質な文化に触れて自分の価値観が揺らぐことを、どちらも求めているという見方です。
いろいろな人と交流して友達になり、一緒に巡ったり地元の人の家に行ったりする
予約困難店の高級ディナーと、田舎のおばあちゃんと梅干しを作るような体験が隣り合う
渡邉さん自身も、貧乏学生時代はユースホステルに数多く泊まったそうです。高級ディナーと、誰も知らない田舎での地元体験が並ぶ富裕層の旅が、バックパッカーの旅に似ているという話は、聞き手にも「なんか分かる気がする」と受け止められていました。
深い旅に必要な準備と、偶然入った本屋
渡邉さんに「旅は行くの?」と聞かれた荒木さんは、欲求はあるものの、実際には表面的な旅しかしていないと打ち明けます。
旅行くけどさ、なんかもう表面的な旅しかしてないんだよな。欲求はあんだけど、どうしたらできるの?そういうの。
渡邉さんの答えは、事前の準備が必要だというものです。渡邉さんはその国に精通した日本人の知り合いから現地の人を紹介してもらうことが多く、そうすると複数の層の人に触れられるといいます。ただ、イスタンブールに精通した人は見つけられなかったそうです。
それでも初日には、通りすがりに入った本屋で良い体験がありました。最初の店は自社の出版物しか扱わない版元書店で、英語の本を尋ねると、隣の本屋を案内してくれたといいます。
隣の本屋はホスピタリティにあふれ、ニコニコと迎えてくれたそうです。渡邉さんは、本屋は観光客があまり入らないため、観光客からぼったくろうとしてこない場所だと話しています。
この本屋では、歴史の本2冊と、アヤソフィアの補強も手がけたイスラム建築の大家とされるスィナンの建築写真集2冊が買われました。カバンに入りきらず、ホテルのフロントに国際郵送を相談したものの、国際情勢の影響で難しいと言われたという話も出ています。
予定を立てない3人の旅は誰が支えている?
準備の話を受けて、3人の旅は香港もイスタンブールも、基本的に誰も予定を立てないという話題になります。メンバーの中には、もともと予定を立てるのが好きではなく、行き当たりばったりで旅をしたいという声もありました。
一方で、現地の深いところまで届こうとすると準備が必要になる、という認識も共有されます。イスタンブールは初めてなので、まずは観光でも、街を知るだけで十分価値があるという見方も示されました。
実際には、3人の中で常に準備をしているのは渡邉さんです。事前におしゃれな店を見つけてくれる渡邉さんを「お母さんみたい」と表現する場面もあり、香港旅行も他の2人が準備していなかっただけだと笑い合っています。
その渡邉さんも、初日の朝は寝坊したそうです。初日は歩きながらも仕事を続け、タクシーの移動中には時差のないドバイの相手と電話会議をしていたことも明かされました。
料理体験に郊外、まずい栗から知ること
収録の終盤では、イスタンブールで何をするかの相談が始まります。WORLD 50 BEST BARS ── 世界のバーを専門家の投票で順位づけするランキング。各地のバー選びの指標として知られていますに入るバーに行くこと、中心部を離れて郊外に行くこと、船で対岸の北側へ渡ることなどが候補に挙がりました。
カッパドキアへの日帰りも話題に出ますが、荒木さんは飛行機に「自信を失った」と話します。渡邉さんによると、空港からのタクシーで荒木さんは話しかけても返事ができないほどぐったりしていたそうです。
その場で探すと、Airbnbで「地元ホストと一緒に伝統的家庭料理を作ろう」という体験が見つかり、3人は参加してみることに決めます。初日の朝一番の行動が、荒木さんの酔い止めを買うための薬局だったことも笑い話として語られました。
薬局やスーパー、本屋は、初めての国で必ず行くべき場所だという話も出ます。露店で買った栗がまずかったことで、日本の天津甘栗がいかに質の高いものかがわかった、という体験が例に挙げられました。
自分で知るって、体で知るっていうのは大事だね。
旅は始まったばかりで、料理体験が本当に実現するのかは次回へと持ち越されます。
まとめ
イスタンブール旅の初日を振り返ったこの回では、モスクの多さやハプニングの話から始まり、観光地化への反動としての「ローカル」や「本物性」、そして自己変容を求める旅へと話が広がりました。準備の有無や偶然の出会いも含め、旅の価値をどこに見出すかが3人の言葉から浮かび上がります。
- バルセロナのオーバーツーリズムやコペンハーゲンの「ツーリズムの終焉」など、ローカルと本物性が現代の旅のキーワードになっている
- カズオ・イシグロの「縦の旅」は価値がある一方、人数が増えず産業としては成り立ちにくいと渡邉さんは指摘する
- バックパッカーと超富裕層の旅は、異文化に触れて価値観が揺らぐ自己変容を求める点で似ている
- 深い旅には事前準備や現地の人とのつながりが必要で、本屋や薬局、料理体験のような場所に偶然の出会いがある
- まずい栗から天津甘栗の質の高さを知るように、体で知る体験に旅の意味がある





