なぜ「職場の現象学」を始めるのか
番組『職場の現象学』が始まりました。この番組では、職場や組織の中で感じる違和感や関係性、言葉になりにくいものを扱っていきます。
ファシリテーターは株式会社PRdoor代表の鈴木さゆりさん。普段は企業の広報PR支援を中心に、組織に関わる仕事をしています。
メインパーソナリティは、場や関係性について研究している中央大学ビジネススクールの露木恵美子教授です。
鈴木さんは、露木教授のゼミの十七期生として学び、この三月に修了したばかり。在学中に法人も設立し、露木教授の考え方に強く影響を受けてきたと話します。
二年前の公開授業と説明会に参加したとき、「これだ」と感じたことが入学のきっかけだったそうです。
(説明会の)時に「これだ」と思って、本を読んで、もう入ろうと思って、そこから入ったみたいな。その場と関係性の重要性みたいなところに非常に共感して。
何かしら協力できないかと考えていた鈴木さんに、それを察した露木教授が声をかけ、このポッドキャストが始まる運びとなりました。
正しいはずなのに進まない。多くの人が抱える悩み
番組が扱うのは、職場の関係性において「何かおかしい」と感じているけれど、うまく説明できないことです。
たとえば、会議が進まない、空気が重い、正しいはずなのに意思決定が思ったようにいかない。職場ではよくある場面かもしれません。
鈴木さんは、こうした問題が個人の能力の問題として処理されてしまうことが多いと指摘します。マネジメント能力や進行能力のせいだ、という形です。
個人の能力の問題として、マネジメント能力とか進行能力だろうみたいな形で処理されてしまうことが多い。でも本当にそうなのか、というところを考えていきたい。
露木教授は、ビジネススクールに来ているかどうかに関わらず、ほとんどの人がこうした悩みを抱えていると話します。
職場やビジネスの現場での悩みは、人と人との関係性に由来することがかなり多い。問題意識を掘り下げていくと、大体そこに行き着くといいます。
自分の会社の組織はこれでいいのかって悩んでる方もいると思うんですけど、その背景には人が作ってるものなので。人と人の関係性っていうのは本当に基本の基盤なので、そこに悩んでる方が多いし、それが当たり前なんだと思います。
書籍『職場の現象学』が生まれるまで
番組タイトルの「職場の現象学」は、露木教授の共著書籍のタイトルでもあります。同名を冠した書籍が二冊出版されています。
露木教授がビジネススクールで教え始めたのは2011年。以前から場や職場の研究を続けてきましたが、学生たちと学ぶ中で、もっと理論的に理解したいという声があることに気づいたそうです。
そこから本を作り出しましたが、完成までに七年以上かかりました。共著者は現象学者の山口一郎先生です。
共著者の山口一郎先生、バリバリの現象学者ですけれども、そのお話が楽しすぎてですね、七年間もかかって。
一冊目が出たのは2020年、コロナの年でした。本屋に並んだのが緊急事態宣言の当日という、印象的な巡り合わせだったといいます。
現象学そのものがなじみにくく難しいため、鈴木さんのようなビジネススクールの学生に読んでもらい、どこがどう難しいのかも含めて解説する入門書を作ることになりました。
それが2022年に出た二冊目、『共に働く意味を問い直す 職場の現象学 入門』です。絵やイラストも多く、ビジネスパーソン以外にも読める内容だといいます。
頭ではなく体で感じる。ワークショップという方法
書籍の内容をもとに、露木教授は定期的にイベントも開催しています。年に五、六回のペースだそうです。
考え方が理解できるだけでなく、自分が感じているもやもやや違和感を言葉にし、現実に結びつける。そのためには体を使ったワークショップがよいと考えたといいます。
鈴木さん自身も何度か参加してきました。悩んだときに「体を動かす」という方向には、自分ではなかなか行かないと振り返ります。
その課題解決として、体を動かすとかっていう方向に、なかなか自分だと行かないですもんね。あ、そういうふうに解決していくんだっていうのが、ちょっとびっくりした。
露木教授は、人間は生き物であり、頭だけでなく体を使って日々生活していると話します。
人や自然、本との出会いの中で刺激を受け、それを体全身で感じている。その体が感じていることが「違和感」という感覚として言葉に出てくるといいます。
体が感じてること、それが違和感っていう感覚なので、違和感っていう言葉に出てくるんだと思いますし、そこのところにもう一回立ち戻って考えるっていうことも大事かなと思います。
現象学とは何か。「関係性が先にある」という考え方
改めて、現象学とは何か。鈴木さんの問いに、露木教授はその成り立ちから説明します。
現象学は哲学の一つの領域で、百年以上前にエドムント・フッサールが提唱しました。今の社会科学のさまざまな分野に大きな影響を与えている考え方です。
ただ、日常の感覚と少し違うところに視点を止める必要があるため、一般の人が学ぶのは難しい。露木教授自身、実は避けていた時期があったと明かします。
露木教授がもともと研究してきたのは「場」です。組織が自律的に動いていくとき、組織の枠組みよりも「場が動いていく」という観点で研究してきました。
その場を理論的に説明し、言葉にするために行き着いたのが現象学だったといいます。順番としては、場が先でした。
場が先です。場を解説する、説明する、理論的に皆さんに分かっていただく、言葉にするために現象学に行き着いたというか。
場の研究
組織が自律的に動く様子を「場」の観点から研究してきた
現象学との出会い
場を理論的に説明し言葉にするために現象学へ行き着いた
関係性への注目
物事の成り立ちの根本にある人と人との関係性を捉え直す
現象学は、物事の成り立ちを問う学問です。その根本に、人と人との関係性があると露木教授は考えています。
通常、私たちは別々の人間がいて、その間に関係があると考えます。しかし現象学では、関係が先にあって、そこから私たちが存在すると考えるといいます。
人と人との関係性っていうと、我々別々の人間だから、そこの間に関係があるっていう風に考えちゃうけれども、でも現象学では、実はこの関係が先にあって、我々が存在するって考えるんですね。
露木教授は、生まれたときは母親とつながっていて、そこからだんだん自分の体が他の人の体と違うと気づいて「自分」ができてくる、と説明します。
二歳のイヤイヤ期も、自分ができてくる過程だといいます。他者とのつながりの中で、自分というものができてくるのです。
関係性を「言葉で説明できる」ことの意味
年代や役職を問わず、人が悩むのは基本的に関係性の部分だと鈴木さんは言います。
露木教授は、関係性そのものを普段は考えないと指摘します。どういうものか、どうできているのか、なぜしがらむのか。理論で説明できるとは思っていない人が多いのではないか、と。
関係性は感覚として捉えられがちです。しかし、それを言葉で説明できると変わることがあるといいます。
感覚は大事なんだけれども、それを言葉で説明できると、あ、だからこの関係ってしがらんじゃってるのかとか、この観点がなかったからうまくいってなかったんだなとか、それがわかるだけでも、ちょっと安心する、ホッとするというか。
原因がわかることで安心でき、「わからなくて当たり前だ」という気持ちにもなれる。そこが現象学で見えてくる部分だと話します。
話は尽きず、二十年研究してきたテーマを話し出すと一週間以上かかってしまうため、細切れで進めていくことになりました。
皆さんの悩みの根底にある関係性を紐解くっていうところに、ぜひ興味を持っていただければいいかなと思います。
初回は、番組が掲げるテーマの出発点を確認する回となりました。次回は、職場で起きている悩みや違和感を、もう少し具体的に掘り下げていく予定です。
まとめ
初回は、職場の違和感を個人の能力の問題で片づけず、場と関係性の視点から捉え直すという番組の出発点が語られました。関係性は感覚として抱えがちですが、言葉で説明できると少し安心できる。そこに現象学という手がかりがあることが示されました。
- 職場の悩みの多くは、人と人との関係性に由来すると露木教授は話す
- 会議が進まない、空気が重いといった違和感は、個人の能力の問題として処理されがち
- 現象学では「関係が先にあって、そこから私たちが存在する」と考える
- 露木教授の研究は「場」が先で、それを言葉にするために現象学へ行き着いた
- 違和感を言葉にするために、体を使ったワークショップという方法もとられている
