なぜ二人はテレビのニュースを見ないのか
今回のテーマは情報収集です。多くの人が気にする話題ですが、二人の入り口はそろって「テレビのニュースは見ない」でした。
テレビでは見ない。全く。ゼロです。
田中さんの見方はニュースサイトから始まります。金融経済の人として、日経新聞的なメディアや、そのアメリカ版・イギリス版であるBBC、ブルームバーグ、ウォールストリートジャーナルなどを追っているといいます。
さらに不動産や株関係の業界紙のウェブ版など、一次情報に近いものを見て回ります。ただしニュースサイトには限界も感じているそうです。
ちょっと情報遅延したり、あまりにもニュースすぎて深掘りされてないっていうのがあるんで、その先は大体僕はnoteに行って。
田中さんが信頼するのは、日経新聞や証券会社、ファンドを離れて独立し、noteで発信している人たちです。組織のバイアスが外れ、生活がかかっているぶん真剣に書いていると考えているからです。
ニュースnoteの記事を月十個ぐらい有料で課金してて、それをパーって読んで。
SNSは即時性と熱量を見る場として使い分けています。たとえば「AIが過熱している」といった熱量そのものが、投資や金融の世界では重要な情報になるからです。
KPIが再生数のメディアからなぜ距離を置くのか
田中さんの音楽の探し方から、二人の共通する考え方が浮かび上がります。田中さんはAppleMusicやSpotifyのおすすめをあまり聴かないといいます。似た曲ばかりが流れ、広がらないからです。
代わりにチャートで世の中のトレンドを掴み、ライブやコンサートに足を運びます。さらにこだわりが強いのが、ラジオの選曲担当者だといいます。
ラジオの中の人の選曲って、本当に自分のこだわりのみでやってたりする人がいっぱいいるんで、そういうのを取りに行きますし。
けんすうさんはこの話を、メディアのKPIという軸で抽象化します。
KPIが再生数のメディアとかPVのメディアに行くと、やっぱ大衆向けにどんどんなるので尖った情報が手に入らない。
一方で、noteの有料マガジンはPVではなく購読数が指標になるため、書き手はきちんと書く必要があります。田中さんは、そうした尖った情報こそAIには出てこないと指摘します。
PV重視なものとか人気なものは、今LLMに聞けばパーッて出てきて、それだけ舐めとけばいい。そこに出てこないものを探すには、その世界にダイブしに行かないと見つからない。
キュレーションされた本屋で本を選ぶ理由
けんすうさんの変わった選書はどこから来るのか。田中さんが尋ねると、鍵はやはり「目的の違う場所」でした。
けんすうさんは青山ブックセンターや、評論家の宇野さんがやっている宇野書店など、こだわりのキュレーションがある本屋を挙げます。
売るのが目的の本屋に行くと多分ダメで。イベントやったり、キュレーションに価値があるとか、目的違うとこ行くと違う選書が見れる。
田中さんはこれを、百貨店が終わった話に重ねます。何でもある場所は、かえって欲しいものがない場所になるという見立てです。
百貨店は単にいいとこだけを取ったから、みんな何でもある場所、何にも面白くない場所ってなってる。
けんすうさんは、マスを狙うと最大公約数に収束し、AI時代には結果としてみんな同じになると話します。ニュースサイトを3つ見てもだいたい同じになる、という感覚です。
「価値を出せない領域は捨てる」という割り切り
田中さんは、けんすうさんが幅広すぎて何の人かわかりにくいと言われる点に触れ、日々の情報収集の「ど真ん中」があるのかと問います。
けんすうさんの答えははっきりしていました。最新ニュースは早いだけが価値だと諦め、時間を食う映像系も手放したといいます。
Netflixでこれ流行ってますよねって言っても、見てないのでわかりませんっていうので、時間食っちゃう系の映像とかは全部捨てました。
理由は、大して詳しくない人の感想には価値がないからです。その時間をポッドキャストや漫画に振り向けたほうが、他の人が知らないものを紹介できると考えています。
これは価値を出せないからやっていないという割り切りです。田中さんにとってはそれが音楽、けんすうさんにとっては漫画やライトノベルだといいます。
ただし、二人ともお笑いは見ています。映像や音楽を抜いて話の面白さだけで勝負するシンプルさが好きだと、けんすうさんは話します。
映像とか音楽とかを一切抜いて、要は話の面白さだけで勝負しなきゃいけないので、シンプルなんで好き。
AIで世界を横断し、一次情報にたどり着く
情報収集の手段としてけんすうさんが最近重視するのが、本で興味の起点を作り、そこからディープリサーチで深掘りしていくやり方です。
アメリカ、中国、ドイツ、韓国、フランス、イギリスみたいな感じで、全部の国で調べるとかをやると、あんまり世の中にない情報が手に入れられていい。
例として挙げたのが、世界7カ国のポッドキャストの傾向を調べた話です。他言語の番組を聴けないため、これまで誰も調べていなかった領域だといいます。
ゲストを呼ぶ形が多く、台本もしっかりしている。ショーとして見せる傾向
ゲストをあまり呼ばず1〜2人で進行。関係性とコンテキストを重視する傾向
けんすうさんは、東アジアの傾向を「友達の部屋や部室での会話を盗み聞きするような感覚」と表現します。田中さんも、アメリカがポッドキャストを「ショー」と呼ぶ文化との違いに納得していました。
一方で、二人はAIやネットだけでは足りない部分も強調します。田中さんが問うたのは、人に直接聞いているかどうかでした。
世の中でニュースでゲットできるの年遅れみたいな感覚すらあるので、現場感ある人に聞くのが一番。
漫画なら編集者、まだデビューしていない作家の作品まで読んでいる人が一次情報に近いといいます。田中さんも、業界の地図はLLMで掴み、最先端は中にいる人に会いに行って聞くと話します。
歩き方とトレンドの最先端は絶対その中にいる人しかわかんない。
けんすうさんは、NFTをやろうとした際、ネットとの親和性が高い分野ですら、実際に聞くと情報に乖離があったと振り返ります。田中さんも、パブリックとプライベートで話す熱量はまるで違うと同意しました。
フィルターバブルを壊すための「逆張り」の購読
自動で情報が入ってくる仕組みについても話は及びます。けんすうさんはAIやポッドキャストの情報をSlackに流す仕組みを持ちつつ、意外と見られていない一次情報の価値を挙げます。
ダボス会議のレポートのPDFとか、一次情報としては超クオリティ高いはずだが、意外と見ない。
田中さんも世界銀行や官公庁、国の機関のレポートを高く評価します。AIによって、これまで読むのがきつかった資料も読めるようになったといいます。
けんすうさんは、本の記述の元になった研究論文を確認すると「ちょっと違う」ことが多すぎて怖くなったとも話します。田中さんも、世の中の自己啓発本の多くはデータがいい加減だと率直に認めていました。
ここで田中さんが打ち明けたのは、あえて仕組み化しない理由です。
そういうのがあると、フィルターバブルに取り込まれやすくなっちゃうから、誰かの編集者の意図があったものを雑食で食べてた方が、変なバイアスかからなくていい。
だからこそ二人は雑誌を紙で買います。けんすうさんはイスラエル・パレスチナ問題を例に、日本にいると片側の情報に偏ると指摘します。
「パレスチナ最低だ」みたいなことを書いているノートを購読しましたもん。西側の見方ではない見方を見ないと偏る。
田中さんも、かつてアメリカの会社でユダヤ系の同僚に囲まれ、その視点に染まりかけた経験を語り、あえてランダムに情報を取ると話します。
独裁者とサイコパスの視点から情報を集める
話は「視点を変える」ための極端な読書へと進みます。けんすうさんが紹介したのは『独裁者の倒し方』という本でした。
独裁者側の気持ちめっちゃわかるようになりました。あの立場になったらほとんどの人この挙動になるんだ。
油断すれば家族もろとも消されるという恐怖の中では、ほとんどの国がそうなってしまうといいます。約2300人の独裁者を研究し、1600人ほどに同じ傾向が出るというデータが示されていたそうです。
田中さんが読んでいたのは、サイコパスをテーマにした本でした。共感性が脳から欠如している人が一定数存在し、上場会社を転々とする強烈なケースが紹介されているといいます。
そのケースは、大規模なリストラで一時的に利益を出し、残った社員に到達不可能な目標とストックオプションを与えて粉飾へ追い込み、利益が出た瞬間に会社を売却するという手口でした。社員は自らの持ち株の価値を守るため、告発すらできなくなります。
世の中うまくやっていこうと思ったら、権威を振りかざすか、嘘をつくか、そしてそのどちらもなかったかのようにいい奴でいる。
さらに田中さんは、トロッコ問題の変則版をサイコパスに問うたらどうなるかという話を紹介します。
変則版は、1人の健康な人の臓器を取り出せば5人の病人が助かる、という設定です。論理はトロッコ問題と同じでも、普通の人にはできません。けんすうさんは合理的な回答が返ると予想しましたが、答えは違いました。
トロッコにしても病院にしても、それどっちでもいいっていうらしいですね。
クレバーな判断ではなく、自分の利になるか損になるか以外は無関心だというのです。共感性がないと、どちらが正しいかすら考えないという結論でした。
独裁者やサイコパスの視点に立つことも、視点を変えて多様な考えを取り入れる情報収集の一つだと二人はまとめます。
まとめ
二人に共通するのは、再生数や部数を追うメディアから距離を置き、目的の違う情報源へ自分から潜っていく姿勢です。専門家の一次情報や、あえて対立する立場の視点まで取り入れることで、AI時代に「みんなと同じ」にならない情報収集を実践しています。
- KPIが再生数・PVのメディアは大衆向けに寄るため、購読数や個人のこだわりが軸の情報源を選ぶ
- 最新ニュースや映像系など「価値を出せない領域」は割り切って捨て、強みに時間を投じる
- 本を起点にディープリサーチで国を横断し、現場の人への直接取材で一次情報にたどり着く
- 官公庁やダボス会議などの一次資料は、AIを使えば読めるようになった見過ごされがちな情報源
- 雑誌の雑食読みや、独裁者・サイコパスなど極端な視点の購読でフィルターバブルを壊す





