専門性を絞るとブランドは構築しやすいのか
この回のテーマは、ブランディングと専門性です。Manaさんは以前の配信で、作品を出し続けると過去作買いなどが入るストック型として手堅い、という話をしていました。
その続きとして今回考えるのが、「ではどういった作品を出し続けていくのか」という点です。
Manaさんは、ブランドを構築するうえで専門店のような専門性を持つと、ブランドとしての認知は高めやすいと話します。
ただし、これは諸刃の剣でもあり、難しさもあるといいます。ここで言う専門性とは、自分がどのジャンルの作品を出し続けるのかという絞り込みのことです。
思いついたものをオールジャンルで出し続けるのも一つの手ですが、この回では、あえてジャンルに特化させたらどうなるかを掘り下げていきます。
ゲームシステムで絞ると過去作買いが起きやすい
まず考えられるのが、ゲームシステムで専門性を持たせる方法です。トリックテイキング ── 各プレイヤーがカードを1枚ずつ出し、その組み合わせで勝敗を決めるカードゲームのジャンル。「トリテ」とも呼ばれる。専門、アブストラクトゲーム ── 運の要素が少なく、情報がすべて公開された戦略性の高いボードゲームのジャンル。将棋やオセロが代表例。専門、ワーカープレースメント ── 手番でコマ(ワーカー)を場所に配置し、その場所の効果を得ていくボードゲームのシステム。専門といった形で、システムのジャンルで絞る考え方です。
たとえば「トリックテイキングしか作らない」として、トリテを10作品出したとします。新作を出すたびに、トリックテイキング好きに刺さるようマーケティングを仕掛けていくことになります。
そこで買ってくれる人も、当然トリックテイキング好きです。トリテ好きなら過去のトリテにも興味があるはずだ、という流れで、過去作買いといったものも起こりやすいとManaさんは話します。
専門性は「通り名」になって情報が届きやすくなる
専門性を絞るもう一つの利点は、ブランド名に「冠」がつくことだとManaさんは言います。単なるサークル名だけでなく、そこに「トリテの何々」といった通り名がつくイメージです。
「トリテといえばこの人」「アブストといえばこの人」と冠がつくと、もともとそのジャンルが好きな人に情報が届きやすくなります。
オールジャンルの場合、トリテの新作を出しても、トリテ好きに網羅的に情報が届くかは分からず、それなりのマーケティングが必要になります。トリテに絞っていれば、キーワードとして届きやすいわけです。
オフラインの営業活動も同じです。ボードゲームではテストプレイ会や試遊会に顔を出すことも重要ですが、絞っていない場合、その場にトリテ好きがいるかどうかも分かりません。
トリテ専門の試遊会など、システムを絞った会に出向けば、そこにはそのジャンルが好きな人がいます。最新作だけでなく過去作もまとめて告知でき、告知の合理性が生まれます。
Manaさんは、これはビジネス一般の作法でもあると話します。オールジャンルは差別化が難しく、まずは得意分野で確固たる地位を築いてから他へ展開するのが基本だといいます。
ジャンルだけじゃない、人数でも絞れる
絞れるのはゲームシステムだけではありません。Manaさんは、プレイ人数でも十分に専門性を出せると話します。
2人用専門のボドゲサークルも成立しますし、ソロ専門のサークルも十分目立つといいます。その人数でしかやらないという層が確かに存在するからです。
ソロプレイであれば、ソロ好きという確固たるニーズがあります。2人用は口コミで拡散的には広がりにくいものの、夫婦、親子、兄弟、親友同士で毎回2人でやるという層は一定数いる、とManaさんは指摘します。
そこを確実に取りに行き、確実に告知していく。そう考えると、人数での縛りもありだといいます。専門性を高めてガッツリやれば、それ自体が強いブランドの立ち上げ方になるという考えです。
他ジャンルをやりたくなったら新ブランドを立てる
専門で絞ると、他のジャンルに手を出しにくくなります。その場合、Manaさんは新しいブランドを立ち上げる考え方を挙げます。
トリテ専門で出してきたが、アブストも出したくなったら、アブストラクトシリーズとして別ブランドを立てる、というやり方です。
たとえで挙げられたのが家電メーカーです。冷蔵庫専門でやってきたメーカーが、別のブランドラインで電子レンジを始める、というようにブランドを分けるイメージです。
サークル全体の作品数が増えてから考えるのも一つの手で、Manaさんはこの流れを理想的だと話します。専門として過去作にも流しやすいからです。
オールジャンルの「薄く幅広く」は修羅の道
一方でオールジャンルには、さまざまな層にニュースを届けられるという良さがあります。今回はトリテ、次はパーティー系、次は2人用、と各層に向けてマーケティングしていく形です。
そうやって幅広くやれば、ボードゲーム業界全体としての認知が上がる可能性もあります。いわば「薄く幅広く」の戦略です。
ただしこれは、しっかり継続して相当数を出さないと難しい修羅の道だとManaさんは言います。当たれば大きいものの、専門で絞って増やしていくやり方のほうがやりやすいとしています。
ジャンルや人数を絞る。冠がつき、過去作買いや告知が起こりやすい。作れる幅は狭まる。
さまざまな層に届く。業界全体の認知は上がりうるが、相当数の継続が必要な修羅の道。
ゲームマーケットの会場でも、「トリックテイキング専門です、5個あります」というだけで呼び込みになります。刺さる層が来て、いろいろ見てくれる展開ができるわけです。
ゲーム単体のアピールっていうよりも、そのブランドとしてのアピールといったものが結構効くっていうのが、この絞る戦略ですね。
自身の経験、2人用専門を掲げなかった反省
Manaさん自身も、前半は2人用を専門でやろうと考えていたといいます。バーストオブマナ、ルース、鬼遊び、パロパロ、ウカオの丘などが、いずれも2人用でした。
娘とやっているため、テストプレイも2人のほうがやりやすいという事情もありました。ただ、もっと広く長く続けたいという思いから、多人数向けにも手を広げていきます。
2人用は拡散力や口コミが2の倍数でしか増えていかないため、多人数向けを用意したいと考え、トリテラインに手を出し始めたといいます。キリンやザ・セント・オブ・ジェラシーなどがそのトリテジャンルにあたります。
ここでManaさんは反省を語ります。2人用専門でいこうと考えていた頃も、それは思っているだけで、「2人用専門だ」という打ち出しはしていなかったのです。
振り返ってみて、そして今後を考えても、絞る戦略は十分ありだとManaさんは話します。せっかく絞っていたなら、それをきちんと告知に活かすべきだった、という学びです。
専門性の落とし穴、作れる幅が狭まる難しさ
専門性は、できるゲームの幅を絞る・狭める考え方でもあります。そのため、いろんなゲームが思いつく人にとっては難しい面もあるとManaさんは言います。
自分に課した制約によって、他のゲームが作れなくなる感覚です。あれこれ手を出すと専門性が失われ、しっちゃかめっちゃかになってしまいます。
規模の問題もあります。5〜6個ほどの小さなサークルで新ブランドラインを作っても、トリテが2〜3種類、アブストが2〜3種類では、専門店としては少なすぎます。
専門性を高めるなら、そのジャンルで10作品、せめて8作品ほどは必要だとManaさんは話します。その制約下でそれだけ作れるかは、オールジャンルより難易度が高いといいます。
自分の作品同士が競合のようになり、似たり寄ったりになりがちだからです。そこをどう変えていくかという作り手としての難しさもあります。
専門性は多作を前提にした「セグメント戦略」
Manaさんは、トリテが好きでしょうがない、2人用ばかり考えているといった状態がこの先も続くなら、今のうちから専門だと謳うのは重要な戦略だと話します。
これは1作品だけで終える、単発で売り続けるのとは別の戦略です。多作を出し続けるときに、どこの層に刺していくのかを考えるための武器が専門性だといいます。
絞り方はジャンルや人数だけではありません。小箱専門や重ゲー専門など、重さで考えてもいいと補足します。「重ゲーといえばこのサークル」といった形です。ただ軽ゲーは範囲が広すぎるとしています。
専門性は、狭めれば狭めるほど強くなりますが、そのぶんターゲット層は少なくなります。だからこそ、そこへ確実に刺しに行く戦略が必要になります。
一方で、差別化やマーケティングコストの投入先を絞れるため、時間もお金も合理的・効率的に進めやすくなります。絞って展開できる人なら、ぜひ取り入れてほしい考え方だとManaさんは締めくくります。
まとめ
多作でボドゲを売っていくなら、ジャンルや人数で専門性を絞ることは、過去作買いや告知の合理性を生む強力な武器になります。ただし作れる幅が狭まる制約もあり、絞るならそれを謳い、十分な作品数で臨むことが鍵になります。
- 専門性を絞ると冠がつき、そのジャンル好きに情報が届きやすく過去作買いも起きやすい
- 絞り方はゲームシステムだけでなく、2人用やソロなどのプレイ人数、小箱や重ゲーなどの重さでも可能
- 他ジャンルをやりたくなったら、家電メーカーのように新しいブランドラインを立ち上げる手がある
- 専門店として成立させるには、そのジャンルで8〜10作品ほどが目安になる
- 専門と決めたら思っているだけにせず、早めに専門だと打ち出して告知に活かすことが重要



