千円で売られるボードゲームの正体
この回のテーマは「低価格帯の商品は難しい」です。ボードゲームを安い価格で売っている制作者は少なくありません。
ゲームマーケットでの販売価格を調べると、一番多いのは2000円で、続いて2500円や1500円といった価格帯が並ぶそうです。そのなかで千円は、かなり安い部類に入ります。
千円で売られている商品には共通の特徴があると、Manaは指摘します。化粧箱ではなく、トランプが入っているようなキャラメル箱に、カードだけがコンパクトに収まっているタイプです。
作り手を見ていくと、ほとんど同じ形状にたどり着くとManaは話します。特に32枚のカードをキャラメル箱に入れるパターンが目立つそうです。
グラフィックさんのパック商品がちょうどそのレギュレーション、32枚キャラメル箱っていう形ですと、安く結構作れたりするんですね。
Mana自身も普段は2500円ほどの商品が多いものの、「ルース」というカードゲームは千円で販売しています。この回は、自身の経験と具体的な数字をもとに、低価格帯の難しさが語られていきます。
なぜ「安く売る」ほど利益が残らないのか
ビジネスとして考えると、まず重要になるのが利益です。販売価格が安い分、たくさん売らないと利益を取りにくいと、Manaは説明します。
ここでManaは、千円の商品と2000円の商品を比べます。金額は倍違いますが、売る難易度、つまりプロモーションの大変さはそこまで倍にはならない、というのが要点です。
千円のものと比べて2000円のものが倍難しいのかっていうと、そうでもないとは思います。ですけれども、2000円の商品って、同じ個数でやったらそれだけで倍の利益が得られるわけなんですよ。
つまり、売る手間は大きく変わらないのに、千円の商品はそもそも利益が取りにくいということです。これがいわゆる薄利多売で、ビジネス的な難易度が高いとされます。
薄利多売では、多く売る必要があるため、そもそもたくさん作らなければなりません。すると初期の製造費、保管料、送料、持ち運びの負担がのしかかってきます。
製造費自体は2000円の商品より安く済む場合もあります。ただ、量を多く作らなければならない点は変わらないと、Manaは補足します。
製造費は下げられても、デザイン費は下がらない
千円でも2000円でも変わらないコストがあると、Manaは指摘します。それがデザイン費です。
製造費は製造個数によって単価を下げられますが、デザイン費はデザインする数によって決まります。32枚のカードなら、32種類ぶんのデザインが必要になるわけです。
一方で、2000円の商品でもカード枚数やコンポーネントの差はそこまで大きくないため、デザイン費自体は千円の商品とそれほど変わらないとManaは考えています。
千円だと、製造原価から販売した利益分でデザイン費を計算に入れているっていう人が結構多いとは思うんですよ。
多くの人は、デザイン費を最初から製造数で割って原価計算に入れるのではなく、利益のところでなんとか捻出できるかを考えがちだと、Manaは話します。
その考え方だと、初期に賄わなければならないコストが上がってしまいます。相当な数を売らないと利益が残らず、ペイできずに赤字になることもあるわけです。
利益率50%でも、遠征費で200個が最低ライン
製造原価を下げようとすると、それなりにたくさん作ることになります。ここでManaは、話をわかりやすくするため、千円で売ることを起点に数字を組み立てていきます。
仮に、たくさん作ることで利益率が50%になったとします。デザイン費を入れるかどうかは一旦置き、便宜上50%とする計算です。
500円で作ったものを千円で売れば、1個あたり500円の利益になります。問題は、この利益をどれだけコストに充てられるか、です。
ゲームマーケットには地方から参戦する人も多く、遠征費がかかります。交通費、両日ぶんの宿泊費、参加スタッフの費用、そして会場への商品送料などです。
遠征費はおおよそ10万円ほどかかると、Manaは予測します。1個500円の利益では、最低200個売らないと遠征費が賄えない計算になります。
これ、ゲームマーケットで200個売るってなかなかな規模だとは思います。ですけれども、それが最低ラインっていうことなわけなんですよ。
損益分岐点まで含めると、必要な数はさらに膨らむ
さらに、200個を売って遠征費を賄えても、それはスタート地点にすぎません。今度は実際の製造原価ぶんの損益分岐点を超える販売が必要になります。
200個ぶんの利益はすでに遠征費で消えているため、そこからさらに製造原価ぶんを売る必要があります。結果として、必要な数は200個、300個、400〜500個という規模に膨らんでいきます。
つまり、赤字が確定した状態でそれだけの量を現場に持ち込む必要があるということです。量が多ければ送料もかかり、売れ残れば返送の送料もさらに乗ってきます。
仮に売れ残っちゃった時、返送する送料とかもかかるので、それもさらに乗っかってくると。
単発のゲームマーケットで挑むには、かなり厳しい戦いになるというのがManaの見立てです。なかには500円で売る人もいますが、それはほぼ赤字覚悟で趣味として割り切っている場合が多いと話します。
長期でも通販でも、千円の壁は消えない
では長期的に売り続ければどうか。長く売るなら多めに刷ってもよく、たくさん作るほど原価も下がる、一石二鳥に見えます。
ただし、遠征費10万円を賄う200個という数字は、遠征のたびにかかります。「たくさん作れば原価が下がる」という話は、200個を売り切った後の話に近いと、Manaは釘を刺します。
最低200個売らなきゃいけないよといったものが、出れば出るほど200個っていうノルマがどんどんどんどんのしかかってくる。
では出展をやめて、通販で長期的に売ればどうか。しかし通販には送料がかかります。千円の商品に対して200〜300円の送料は、割高に感じられます。
1万円の商品にかかる千円の送料より、千円の商品にかかる200〜300円のほうが体感として厳しいと、Manaは指摘します。低価格帯は通販でも売りにくいというわけです。
即売会なら送料もかからず「安いから買う」という動きが起きやすい一方、通販ではそれが起きにくいと考えられます。さらにプラットフォームの手数料も引かれ、ただでさえ低い利益がいっそう残らなくなります。
これらを踏まえて、千円で成立させるなら最低でも千個以上は作る必要があるとManaは言います。しかも短期で一気にさばき切るくらいの覚悟が求められる、厳しい戦いだと話します。
Manaが千円の「ルース」を売り続ける理由
ここで疑問が浮かびます。難しいとわかっていながら、なぜMana自身は「ルース」を千円で販売しているのか、という点です。
私はそのルース単体で多くの利益を得るだとか、たくさん売りまくろうっていう風には、実はそこまで思っていないわけなんですよ。
販売個数でいうと「ルース」は伸びているものの、利益額では2500円ほどの他の商品のほうが良い、とManaは明かします。ルース単体で大きな利益を狙っているわけではないのです。
赤が出なければいい、というくらいの感覚で作っているとManaは話します。作りたいから、売りたいからという動機もありつつ、活用の仕方に狙いがあると続けます。
低価格帯を「プロモーション」として使う抱き合わせ戦略
Manaの答えは、低価格帯の商品を単体で勝負させるのではなく、メインとなる作品と抱き合わせて扱う、というものです。
「ルース」を出したときも、それ1タイトルだけでゲームマーケットに挑んではいません。同時に「オニアソビ」という商品もリリースし、その時はオニアソビを売ることをメインに考えていたそうです。
オニアソビだけでも出展費や遠征費は賄えるため、それと抱き合わせる形で「ルース」を準備したという構図です。遠征費などのコストは、低価格帯ではないメイン商品側で受け持つ、という考え方です。
抱き合わせにする狙いはいくつかあります。サークルを知ってもらうきっかけになり、宣伝の幅も広がるという点。そして、オニアソビ目当ての人にもう1個として買ってもらう、ついで買いが起きやすいという点です。
- サークルを知ってもらい、宣伝の幅を広げる
- メイン商品目当ての人についで買いを促す
- ルース目当ての人にメイン商品を紹介する導線になる
実際、「ルース」はノンコピーライトガールズのイラストを許可を得てお借りしており、目を引くとManaは話します。そのイラストでブースを飾り立てていたそうです。
可愛い何これって寄ってきてくれる方とかもいっぱいいらっしゃいましたし、結構ルースを求めて来るっていう人たちも結構いらっしゃいました。
一方のオニアソビは、当時ゲームマーケットで全カードを額縁に入れて吊るして飾っていたそうです。アートワークがかっこいいという印象を与え、ルースきっかけで両方買う人も、オニアソビきっかけで両方買う人もいたと振り返ります。
チラシ置き場に置いた「ルース」のチラシは、なくなりが異常に早かったとManaは話します。会場でイラストを見て興味を持ってもらう入り口として、しっかり機能していたようです。
千円で出す前に、本当に千円でいいのか考える
大ヒットすれば嬉しいものの、そこに至るまでの難易度はとても高いとManaは言います。だからこそ、大ヒットしなかった場合に「赤字だ」と諦めるのはもったいない、と考えています。
その解決策が、低価格帯をプロモーションと位置づける発想です。「ルース」は千円、メインの商品は2500円という役割分担で販売スタイルを組み立てています。
もっとも、「ルース」は手を抜いた商品ではないとManaは強調します。千円でも安く感じられるコンポーネントや体裁に仕上げた自信作だと話します。
それでも、それ単体で遠征費を賄えるかというと厳しい、というのが当時からの実感です。面白い作品として自信を持って届けられる一方で、数字の面では難易度が高いという整理です。
これから千円で売ろうと考えている人に向けて、Manaは「本当に千円でいいのか」を一度考えたほうがいいと投げかけます。利益がないと続けられず、続けられなければプロモーションもし続けられないからです。
たとえ趣味だったとしても、赤が出ないようにすることは、活動を続けるうえで意識したほうがいいのではないか。これがこの回の結論としてManaが語った内容です。
まとめ
低価格帯のボードゲームは、売る手間が大きく変わらないのに利益が取りにくく、遠征費を賄うだけでも多くの販売数を求められる薄利多売のビジネスです。Manaは、千円の商品を単体で勝負させず、メイン商品のプロモーションとして抱き合わせる形で活用しています。
- 千円と2000円で売る難易度は大きく変わらないが、利益は倍違うため低価格帯は利益が残りにくい
- 利益率50%・遠征費10万円で試算すると、遠征費を賄うだけで最低200個、損益分岐点まで含めるとさらに多くの販売が必要になる
- 通販でも送料が割高に感じられ、手数料も引かれるため、低価格帯は動かしにくい
- Manaは「ルース」を単体の利益源ではなく、メイン商品への導線・ついで買いを生むプロモーションとして位置づけている
- 千円で売ると決める前に、利益が残り活動を続けられる価格かを考えることが大切



