フィラメントが伴走で大事にしているもの
フィラメントは幅広いジャンルの企業と仕事をしていますが、業種のバランスで案件を選んでいるわけではないと佐藤さんは話します。
バリューを出しやすいのは、どちらかというと重厚長大型、従来型の企業だといいます。いろいろな職能の人が集まっている組織のほうが混ざりやすく、それを機会に混ぜてしまう面もあるそうです。
依頼のかたちは、ビジコンをやりたいという場合もあれば、とにかく何か新しいことをやりたいというふわっとした話のときもあります。
ビジコンを過去に自分たちで試してきた会社と、やったことがないけどやってみたい会社だと、どっちが伴走しやすいですか。
佐藤さんはどちらもありだと答えます。それよりも重要なのは、窓口となる担当者の思いや、その人とつながっている経営者の思いだといいます。
その形式は別にビジコンじゃなくてもいいんですよ。ビジコンのほうがターム切ってやりやすいのでおすすめするんですけど。
チームのアサインは「このプロジェクトはこの人が最適かな」という感覚が中心です。ただし人によってバラバラだと困るので、しょっちゅうミーティングをして情報を出し合い、この人はこうだよねと話しながら決めているといいます。
副業で関わるメンバーが多いなか、フィラメントのためにかなりの時間を割いてもらっていると佐藤さんは感謝を口にします。
堤さんとの出会いとフィラメント入社まで
フィラメントの独特なチームカラーの源として、社長の堤さんの話題になりました。堤さんは元大阪市の職員で、イノベーション施設の立ち上げにアサインされ、運営も担っていた人物です。
通常は委託するような立ち上げでも、堤さんが一番旗を振って動いていたと佐藤さんは振り返ります。部署に行く前からそういう人だったそうです。
久下さんは、教育学部から人を育てることにたどり着いた佐藤さんと重ね、人が持つコアの芯やスキルは職種を変えても変わらないと指摘します。
佐藤さんと堤さんの出会いは、大阪イノベーションハブが立ち上がる1年前のイベントでした。ハッカソンをやるという話を聞き、部署に戻って若手に声をかけたところ、ものづくり好きのメンバー6人ほどが参加したといいます。
当時の参加者30人ほどのなかで1社から6人も来ているのはおかしいと言われ、上司として呼び出されたのが堤さんとの初対面でした。そこから意気投合し、その場所でシャープのハッカソンを開くなどの関わりが始まります。
いろんなことをやったうちの一つが、たまたまそうだったっていう。
その後は定期的に会うようになり、堤さんのアイデアをもとに弁理士も交えた月1回の特許勉強会を開いたり、メンタリングをしたりしていました。当時は佐藤さんもシャープにおり、堤さんも起業前でした。
佐藤さんがフィラメントに入ったのは、堤さんが起業してから3年目のことです。それまでもハッカソンの企画やアイデア出し、審査の手伝いなどを続けていました。
それはもう仕事というか趣味なんですか。
佐藤さんは趣味だと即答します。自分も面白いからやっていたといい、そのまま仲間になっていった流れが語られました。
噛ませ犬としての生成AIという使い方
フィラメントの役員は堤さんと佐藤さんを含めて3人で、佐藤さんは全体を見る立場です。CXOという肩書きは自分で言っただけで、あまり意味はないと笑います。
最近の話題は生成AIが多いといいます。メンバーは興味を持ってとりあえずやってみる人たちで、新しいものが出るとすぐ社内で試しているそうです。
ビジコンのワークショップでは、最初に10案出してみましょうと言っても普通はなかなか出てきません。そこで生成AIに出してもらうと、こういう感じで出せばいいのかと理解してもらえるといいます。
久下さんは、生成AIのアイデア出しで面白いと感じている使い方を紹介します。アイデアが出せない人が、大して面白くないアイデアを5つほど出す。それを読ませて生成AIに100個出させると、やはりつまらない100個が出てくる。しかしそのつまらない100個を見て、いいアイデアが3つに生まれ変わるというのです。
佐藤さんも同意します。生成AIは結局道具なので、つまらない人が使うとつまらないものしか出てこないといいます。
僕らはちょっと中をいじって、ちょっと飛ぶようなアイデアも出るように中に仕込んだりとか、そういったことはやってます。
ワークショップの参加者が使いやすいように性格を与え、いいガイド役になれるようチューニングしているとのことです。ワークショップを作る会社でここまでやる例はあまり聞かないと久下さんは新しさを感じていました。
変わりゆくプロダクトデザインの現場
フィラメントのメンバーには平松さんやフジフイルム出身の小島さんなど実績のある人が多く、久下さんはそのハンドリングの大変さを尋ねます。佐藤さんは、皆さん大人だから大丈夫で、それが大変な人は入れていないと答えました。
話題は若手デザイナーへと移ります。佐藤さんによれば、関西には若いデザイナーがあまりいないといいます。大学から東京に行ってしまい、関西にはデザイナーの就職先が少ないためです。
まだ数年、関西のほうが遅れてるかなと感じるのは、デザイナーがあんまり外に出るのを良しとしない会社の空気がある。
佐藤さんが知る若手は、プロダクトデザイン一辺倒ではなく、面白いマップを作るなど趣味と勉強の間のようなことをやっている人が多いといいます。
久下さんは、産業が凝り固まっても物を単純に作るデザインは、外のものを入れないとエキサイティングになりにくい時代だと語ります。外を入れたいのに入れられない若手が何を考えているか聞きたいと話しました。
佐藤さんは、自分たちの世代がゴリゴリのプロダクトデザインの最後だと見ています。ハードウェアのプロダクトデザインはノウハウによる部分が多く、歳を重ねた人ほどうまく仕事も早いといいます。
そういう人たちがいなくなるとやり方も変わってくるし、ネットやAIを介していろんなものを見てる世代が台頭してくるので、いよいよ変わってくるかなと。
久下さんは造形カルチャーが好きなため、ぬるいスタイリングを見るとまだ自分にもできると安心すると冗談交じりに話します。佐藤さんもわかると応じつつ、それは物の種類も時間もあって鍛えられたからだと指摘します。
佐藤さんの世代は、1つのものを作るのにA案からZ案まで出し、さらにもう1周するようなことをひたすらやっていました。100万円ほどのモックアップを一度に4つ作れるような、恵まれた環境だったといいます。
今はモックアップが1年に1個作れたらいいくらいで、あとは画面上のシミュレーションだそうです。そのため失敗の回数がないと佐藤さんは言います。
僕ら失敗いっぱいしてるじゃないですか。間違ったのが製品にまでなって、泣きながら店頭でそれを見るみたいなことがよくあった。
デジタルプロダクトへと価値の重心が外側へ移り、考えることが増えた現在から見ると、当時は暇だったのではと2人は振り返ります。ただ、その時代を経てきたからこそ、使いやすくなった今のCADを速く扱えるという面もあります。
A案からZ案まで案を出し、100万円ほどのモックアップを一度に4つ作れる。失敗を重ねて鍛えられた環境
モックアップは年1個作れたら上々、あとは画面上のシミュレーション。失敗の回数が少ない
久下さんと佐藤さんは、当時をクリアしてきた世代と今の世代とでは、もはや職能が違うと話します。工業デザイナーやIDといった呼称も古くなってきており、その職能を世代を超えてコラボできると面白いのではと語られました。
デザイナーにチャンスが巡る時代
話題は、以前フィラメントのメディアQUMZINEに載った2018年の田向さんとの対談記事に及びます。デザイン思考は手法ではなくメンタリティーの話だという内容に、久下さんは共感していました。
そもそもデザインという言葉はふわっとしたものなので、この仕事イコールデザインと決めつけないほうが面白いものが生まれる、という話につながっていきます。人を育てることも、言おうと思えばデザインと言えるのです。
巨大メーカー主役の時代が終わり、メーカーがソリューションビジネスやDXコンサルを担う業態になっている状況について、久下さんは元プロダクトデザイナーとしての思いを尋ねました。
デザイナーのやれる仕事がどんどん増えてると思ってるんですよ、僕は。むしろやらないと損だと思ってるぐらい。
佐藤さんは、手を上げていったほうがいいと言います。時代が変わっても、組織の中で手を上げて自分がやりたいという人にチャンスは巡ってくるという考えです。
さらに佐藤さんが強調するのは、興味を示すことです。世の中に新しいものが出てくるなか、そこで何が起きているのかに興味を持てば、デザイナーは自分だったらこうするというアイデアを必ず持つといいます。
興味持ったら、デザイナーって必ず自分だったらこうするってアイデア持つじゃないですか。それを出していけばいいんですよ。
興味を持つ
世の中や会社で起きていることに関心を向ける
アイデアが生まれる
デザイナーなら自分だったらこうするという案を持つ
手を上げて出す
そのアイデアを出していくことでチャンスが巡ってくる
久下さんは、学生に教えていても、KPOP好きの子がKPOPにつなげられる課題を喜ぶように、自分の好きなことや興味に合わせて仕事やスタイルを進めるのは一つの手だと応じます。
佐藤さんは、会社がやっていることが興味の対象になれば一番いいと言い、それは思い込みでやるしかないと話します。会社に入ったということは、その会社のやっていることが何らか好きなはずだからです。
佐藤さん自身も前職が好きで、3年ほどで辞めるつもりだったのに、次々と面白いことが降ってくるので離れるのがもったいなくなり、結果として30年在籍したといいます。楽しめる人にとって大企業は最高だと2人は語り合いました。
好きが繋がる、地元・奈良での活動
最後に、佐藤さんが最近楽しいと感じていることが語られました。コロナをきっかけに、住んでいる奈良に関わることが増えたといいます。
もともと自分の住む場所を調べるのが好きで、奈良のことを調べると人とつながっていくのが面白いそうです。奈良にはいろいろな人が集まってきており、奈良市から仕事を頼まれることもあると話します。
関わっている人が店を作る際には、夏休み中にペンキを塗るような手伝いもしたといいます。企業相手の遠い仕事をやればやるほど、地に足のついた地元のことをやりたくなるという感覚があるようです。
久下さん自身も新しい取り組みをしたい人を助けるのが好きだといい、自治会長を3年務めるなど活動が増えていることを明かします。デザイン業界随一の鹿研究家として鹿の顔を見分けられる、という話題で対談は和やかに締めくくられました。
まとめ
佐藤啓一郎さんの来歴からは、興味を持って行動し続けることが仕事とチャンスを広げていく様子が浮かび上がりました。生成AIの使い方も、変わりゆくデザインの現場も、根っこにあるのは「面白がって手を上げる」姿勢だと言えそうです。
- フィラメントの伴走で重要なのは業種より、担当者や経営者の思いだと佐藤さんは話します。
- 生成AIは道具であり、噛ませ犬として使うことで、いいアイデアが生まれ変わる余地が生まれます。
- モックアップを何案も作れた時代と、シミュレーション中心の現在とでは、プロダクトデザインの職能そのものが変わってきています。
- デザイナーのやれる仕事は増えており、手を上げて興味を示す人にチャンスが巡ってきます。
- 企業相手の仕事を重ねるほど、佐藤さんは地元・奈良での地に足のついた活動にも惹かれていったといいます。
