フィラメントは何をやっている会社なのか
久下さんはまず、名物社長もいるフィラメントが「何をやっている会社かよくわからない」と言われがちだ、と切り出します。
僕らのサイトでは「挑戦を楽しめる人と組織を作る企業変革の伴走者」というふうに定義をしています。
よくある企業向けの新規事業コンサルという形にはなると思うんですけれども、いわゆるコンサルよりも人作りの方に重きを置いています。
久下さんが「新しい事業を生み出せる人を育てるということか」と確認すると、佐藤さんは企業の本音を挙げます。
企業さんの話を聞いていると、すぐに事業を作りたいというよりも、事業を作り出せる人を育成したいというのがそもそもの本音なんですよね。
形式としては社内ビジネスコンテストから始まることが多いものの、成果そのものよりも、そこに関わった人がどう成長するかを見ているといいます。
丸くなるメンバーとメンタリングの姿勢
久下さんは、フィラメントには人のマネジメント経験が豊富な人が必要ではないか、と問いかけます。
うちは正社員だけじゃなく社外の方も手伝ってくれていて、元Googleでその前はAmazonにいた人とか、そうそうたるメンバーがいます。パワーで押す感じじゃなく、本当に人を育てる側の人が集まってきています。
久下さんは、以前は怖い印象だった人がフィラメントに入ると「すごく丸くなっている」と感じると話します。佐藤さんは、その理由をメンタリングの姿勢に結びつけます。
うちのメンタリングは上からガーンという感じじゃないんです。その人がなぜそうなったのかという立場に立って、まず褒めるところから始めます。
顧客思考というか、その人がどう考えているかを読み解いていく作業なので、丸くないとやってられない。
学びを体験に変えるビジネスカードゲーム
話題は、フィラメントが手がけたビジネスカードゲームに移ります。研修やビジコンの合間の講座だけでは、やったことのないことは理解が進みにくいのが背景です。
カードゲームの形だったら、最近若い人にも流行っているので、仮の体験にはなるんですけれども、どういう仕組みになっているかを理解しやすいんじゃないかと。
社内にカードゲーム好きの社員がいたことがきっかけで、ビジネスカードゲームを作る大阪のネクセラさんに手伝ってもらい、ゲームとして成り立ちつつ学びにもなる形を目指したといいます。
デザインと言わずに、デザインをやる
久下さんは、佐藤さんが家電メーカーのプロダクトデザイナー・UXデザイナーだった経歴が、いまの人を育てる仕事に生きているか尋ねます。
めちゃくちゃ役に立ってますね。その人が何を考えているかは、もともとお客さんがどう考えているかという考え方と一緒ですし。
佐藤さんは、ハードウェアのデザイナーから始まり、世の中のデザインの価値観が変わるにつれ、自身の仕事もマネジメントやデザイン戦略へと移っていったと振り返ります。いまの状態はその延長線上にあり、違和感なくやれているといいます。
久下さんは、この流れを「他社の事業向けに研修と言いながら、実質は体験を設計している」とまとめます。ただし佐藤さんは、あえてデザインとは言わないと話します。
僕はポリシーとして、あんまりデザイナーですとかデザインをやりますとは言わないようにしているんです。ビジネスの世界ではまだ狭いイメージで捉えられてしまうので、バックボーンはデザインですけれども、そこを前面には出さないようにしています。
デザイナーの手法を、ビジネスの現場へ
事業そのものへの伴走で、デザイナー的な視点を求められることはあるか、という問いに、佐藤さんは「求められるというより、こっちから言ってしまう」と答えます。
その一例が、アイデアがまだ固まっていない段階でのプロトタイピングやイメージムービーです。ビジネスの世界では、マーケティング段階より前にこうした手法はあまり見られないといいます。
スマホで簡単にムービー作っちゃえばいいんじゃない、とか、こういうプロトタイピングツール使ったらいいよ、とか、紙とハサミでこれ作ってお客さんに聞いてみたら、みたいなことはよく言います。
久下さんは、本来は非デザイナーこそ試すべき「ダーティプロトタイピング」を、デザイナーがやると逆に驚かれると指摘します。
デザイナーが一番嫌がるダーティプロトタイプ。
しょぼい段ボールに超適当なマジックで書いてあるみたいな。デザイナーはすごく綺麗な形を作る人だと思われているんでしょうね。
佐藤さんは、かつてはラフなモデルを作ると「デザイン汚いな」と見てもらえないような職人気質のデザイナーが多かったと振り返ります。デザインを掲げない人と仕事ができるようになったことが、こうした変化につながっているのかもしれません。
上流から関わりたいデザイナーの原点
久下さんは、クライアントワークで事業に伴走するスタイルになって、体験や人へのデザインの解き方が変わったかを尋ねます。
僕自身はあんまり変わってないですね。昔からそういうことをやることこそがデザイナーだと思っていたんですよ。美大出身じゃないので、デザインとはこうじゃなきゃいけないという思い込みがあまりなかったのが幸いしたんだと思います。
佐藤さんは、職人的なデザイナーも素晴らしいとしつつ、メーカーでは仕上げは小さなプロセスの一つに過ぎず、上流から下流まで関わりたかったと語ります。
ものが生まれる瞬間から立ち会っていたいというのがあって。僕はもう最初の議論から参加させてくれと、あえて手を挙げて参加していました。
当時、こうしたやり方を好むデザイナーは意外に少なかったといいます。だからこそ、議論に加わるだけで喜ばれることもあったと二人は振り返ります。
その原点として、佐藤さんは子どもの頃から電子工作が好きだった経験を挙げます。会社では技術部門によく顔を出し、技術の課長と仲良くなって教わっていたそうです。久下さんは、それを当時まだ言葉のなかった「デザインエンジニア的な発想」ではないかと表現します。
教育を避けた学生が、人を育てる仕事へ
久下さんは、領域を越えるデザイナーが増える一方で、自分のコアスキルや本当の価値を説明するのが難しくなっていると感じることはないか尋ねます。ここで佐藤さんは、自身の意外な経歴を明かします。
僕、元々教育学部出身で、美術の先生になるコースだったんです。当時は僕以外ほぼ全員教員になっているんですけど、僕は教員になりたくなかったんですね。
学生の時からプロダクトデザインが好きで、先生とマンツーマンで勉強していた感じだったんですけども、結局いま人を育てる仕事をしているという、すごい皮肉だなと。
久下さんは、キャリアの後半になって、源流にあった「人を育てる」という場所に逆にたどり着いたのではないか、と受け止めます。
社会人の最初の頃は「自分たちが作りたいものを作る」ことが正義だったと佐藤さんは振り返ります。ただ、いろんな人と交わるのが好きだったため、一途にものを作るだけでいいのかと感じ、やりたいことが増えていったといいます。
いわゆるスターデザイナーじゃないので、自分ができることの限界を知っていたんですよね。だったら、もっとできるやつに活躍してもらった方がいいというスタンスだったんです。
久下さんはこの姿勢を「監督感がある」と表現します。才能ある若手とチームを組んだ方がいい仕事ができる、という考え方です。
同質な組織と、人が育つ時間
話題は、フィラメントが向き合う組織の課題に移ります。佐藤さんは、単一の職種の人しかいない会社が一番つらいと言います。
似た大学、似たレベル、似た部署の人が集まる会社では、見えている世界が狭くなりがちだといいます。同質性で業務効率を上げる組織設計が、新しい事業を立ち上げる動きとぶつかる構図です。
いろいろ混じっていないとイノベーションは起きないとよく言われますが、同じような部署の人たちの会社は世の中にいっぱいあって、話していると本当に見えてる世界が狭いんですよね。
対処として、フィラメントは違うジャンルの人を連れてきて話してもらったり、社外とつながりを持つ人を前に引っ張り出したりするといいます。ただ、変化の大きさは人によって分かれるため、繰り返しが必要だと佐藤さんは話します。
成果が出るまでの時間について、佐藤さんはリピートの顧客が多く、長いところでは3年ほど続けると語ります。
3年ぐらいやると、僕らが入らなくても、いろんなところからいろんなものが生まれてくるような感じになってきます。1年ぐらいで成果が出る会社もありますが、1年はちょっと短いかな、じっくりやりたいなという感じですね。
一方で、世の中の研修は3ヶ月など短いものが多く、講演とワークショップで終わってしまいがちだといいます。佐藤さんは、人事の研修は枠が決まっていて優位性を出しにくく、むしろ経営企画や経営層に近い切実な相談のほうが動きやすいと話します。
先に年間計画を埋めてから、そこにはまる会社さんを探しているんです。
そうした案件は先があまり決まっておらず、まず3ヶ月やって様子を見て続ける、という形で長く付き合う会社が多いといいます。お試しを兼ねて短く始めること自体は問題ないという整理です。
人事が組む年間研修は枠が決まっており、講演とワークショップで終わりがち。優位性を出しにくいと話されています。
経営層に近い切実な課題から始まり、3年ほど続けると自走して事業が生まれやすくなると話されています。
まとめ
前編では、フィラメントの佐藤啓一郎さんが、事業そのものより「事業を作れる人」を育てる仕事に軸足を置くまでの考え方を語りました。プロダクトデザイナーとしての経歴と、教育を避けた学生時代の原点が、いまの伴走スタイルに一本の線でつながっています。
- フィラメントは「挑戦を楽しめる人と組織」を育てる伴走者で、事業より人作りを重視している。
- メンタリングは上から押すのではなく、相手を理解し、まず褒めるところから始める。
- 佐藤さんはデザインと名乗らず、プロトタイピングなどデザイナーの手法をビジネスの現場に持ち込む。
- 上流から関わりたい志向と、教育学部出身という原点が、人を育てる現在の仕事につながっている。
- 同質な組織ほど視野が狭くなりがちで、人が育つには短い研修より年単位のじっくりした伴走が必要だと考えられている。
