YouTuberでデザイナー、という肩書きのわかりにくさ
今回のゲストは、YouTuberでデザイナーの佐藤利樹さん。久下さんは「そういう人ですね」と紹介から曖昧さをにじませます。
リッキーさんは毎週火曜21時50分から、YouTubeで1時間ほどのライブ配信をしています。特に筋書きはなく、このポッドキャストと同じように対話するスタイルです。
対話相手が、配信してるから視聴者の方々っていうだけ。壁があった方が会話って弾むじゃん。逆に聞いてもらってるって感じですかね。
忙しさでジムに行けず、お菓子やモンスターなど味の濃いものを摂ってしまい太った、と本人。視聴者からも「太った」と指摘されたそうです。
ストーリーと空間とプロダクトを、まとめて形にする仕事
リッキーさんが最近手がけているのは、鳥取県の智頭町羽合町にある観光案内所づくりです。町出身の社長が地元を盛り上げたいという想いから、拠点をつくるプロジェクトだと話します。
久下さんは、リッキーさんの仕事に共通する特徴を指摘します。ストーリーとコンテンツ、空間やプロダクトが一体になったものを作るイメージがある、と。
今回も、言ってもホワッとしてる中で、それをいかにギュッと目に見えるものにしたり、みんなが理解できるようにするかを、デザインを通してやってる感じかもしれない。
過去には山中湖の別荘向けにソファやラグを手がけるなど、ライフスタイルをものにつなげる仕事を重ねてきました。
専門性がないからこそ生まれる仕事
久下さんは、こうしたやり方はデザイナーの肩書きからすると珍しいと語ります。それに対してリッキーさんは、自分に専門性がないからだと返します。
僕、経済学部出て、デザインを勉強したことがない中でデザイナーになってるので、多分頼む方も何を頼んでいいかわからないっていう前提があるんだと思う。
久下さんは、ものを作る専業スキルの価値は下がってきていると指摘します。家具のデザインができる人は大勢いる。そこに乗るストーリーやナラティブに共感できるかが、いまの価値だと言います。
だからこそ、リッキーさんの働き方はむしろ今の王道だ、というのが久下さんの見立てです。モヤっとした課題を抱えた相手が、たまたま仕事が生まれたときに「何か面白そう」と呼ぶ。そこにリッキーさんの立ち位置があります。
ゴールを決めず、投げられた球を打ち返す
久下さんは、リッキーさんの働き方を計画的で合理的だと評しますが、本人は違うと言います。壮大な計画があるわけではなく、目の前しか見ていない、と。
ゴールがあるから逆算して走れる、マラソンも距離が決まってるからゴールに到達できる。ゴールを決めるのは大事だよって話なんだけど、僕にはゴールがない。毎日がゴールだって感じ。
リッキーさんは、課題を投げられたら打ち返すタイプだと自認します。「何もできない」と言いつつ、その都度必要なスキルを身につけてきました。
野球の試合出てって言われてから練習して試合に間に合わせる。何かのスキルを一つ学んでおけば、試合の中で足を引っ張らない。その役割はなんとか果たしてるんだと思う。
象徴的なのが、auのデザインプロジェクトで作ったクマの形のACアダプター。CADが使えないリッキーさんは、粘土で形状を作ったといいます。
久下さんは、この話に衝撃を受けたと振り返ります。当時の3DCADで、あの可愛らしい曲線を作るのはむしろ大変だったからです。
区議選への出馬と、ファンを巻き込む姿勢
リッキーさんは渋谷区議会議員選挙に出馬した経験があります。友人たちが急に召集され、当確線上でおよそ40票足らずで惜しくも落選しました。
久下さんは、生配信中に「私の住んでる街じゃないですけど応援してます」といったコメントが多かったことに触れます。作品だけでなく、チャレンジする姿勢でファンを作る点が今っぽいと感じたそうです。
区議選をやってみてどうだったか
喉元過ぎれば周りも覚えておらず、振り返る機会は意外と少ないとリッキーさん。落選した40票を埋める活動を4年間で積み重ねなければならず、最初のインパクトと同じ票を次も取れるとは限らない。だから日々徳を積んでいる、と話しています。
投げられた球に対して返す仕事じゃん、俺たちって。課題に対する解決方法を、こっちは毎日大喜利で返してる。その瞬発力は圧倒的に違う。
リッキーさんは、長く使うものを正しい形で真剣に作る姿勢を持つ仲間が周りにいることから、意外と行政と合うのではないかと語ります。
ミュージシャン、店員、そしてデザイナーへ
リッキーさんのキャリアは、ミュージシャンから始まります。大学卒業時に就職したくないと思い、知人に自作の音楽を聴かせたところ、ある事務所の候補生になりました。
24歳ごろまで続け、デビュー目前でなれなかったことを繰り返します。もうダメだと思ったときに近くにできたのがCIBONEで、アルバイトを始めました。
109の店員がそのままデザイナーになるみたいなルート。デザインを勉強してきたわけじゃないけど、やれそうな感じだから、この子をディレクターにしてみたいな感じ。
久下さんは、このキャリアの運び方を若い人に教えたいと語ります。その都度チャンスを掴み、続かなくても次につながっていく積み重ねがあるからです。
ゴールがないのは「東京人」の性質?
リッキーさんは、ゴールを設定しないからこそ動けるのだと言います。多くの人は年収や暮らしのイメージなど、ふわっとしたゴールがあるから動けなくなる、と。
これぐらいの年収は欲しいよな、これぐらいの家に住みたいよなみたいなのが実はあるから、できないって言ってるだけ。俺はそれがないから、本当にないの。
久下さんは、キャリアのゴールそのものが幻想に近い部分があると応じます。日本一のデザイナーになりたいと思っても、日本一という基準は実はない。歩く途中で大事にしたいスタイルが見えてくる、と。
リッキーさんは、これを「東京人っぽさ」だと表現します。東京に住む多くの人は元々の東京の人ではないのに、東京を自分のものだと思っている「大家さん」のようだ、と。
東京に地方から来て、ここに旗を立てるぞと言うなら、ゴールがないとなかなか続きづらいのかもしれない。
さらにリッキーさんは、東京の人は共感を得にくく、インフルエンサーには向かないと分析します。地方から出てきた人のほうが、距離の分だけ人の気持ちがわかり、大きな愛で共感を巻き込めるからです。
自分を語らない人と、アルゴリズムの壁
久下さんが引っかかったのは、リッキーさんが生配信で「バンド仲間に自分のことを何も話したことがない」と口にした場面でした。研修生時代のストーリーも、メンバーは知らなかったといいます。
話す機会がないから。だからこういう機会がいっぱいってことは、注目されてないってことですね。
リッキーさんのYouTubeは、Googleのアルゴリズムに強く影響されているとも語られます。アイスクリーム屋を名乗るとソフトクリームは別物と判断されるように、ジャンルをまたぐと勧めてもらえないのだそうです。
そのため、ファッション以外の仕事の話は動画では出しにくく、視聴者からは「ファッショニスタおじさん」として認識されているのではないか、と久下さんは推測します。
一方で、リッキーさんはいろいろな場所で発見されています。息子のバスケの試合会場で自分のデザインした椅子に座る人を見かけたり、耐震の専門家に「リッキーさんですよね?」と声をかけられたり。
いろんなところで俺を知ってる人がいて、いろんな俺を見てると思った。
まとめ
専門性もゴールも持たないと語るリッキーさん。それでも、目の前の課題を打ち返し続けることで、デザインからYouTube、区議選まで多彩なキャリアを積み重ねてきました。前編は、その独特な生き方と価値観をたどる回になりました。
- ものを作るスキルより、そこに乗るストーリーや共感が価値になっている
- ゴールを設定しないからこそ、投げられた課題を打ち返し続けられる
- 粘土で作ったクマ型アダプターのように、スキルではなく最終品の魅力が問われる
- 区議選への出馬も、作品ではなくチャレンジする姿勢でファンを作る試みだった
- 自分を語らないリッキーさんは、多くの場所で断片的に知られている
