会社は辞めても「離れられなかった」理由
最終回では、業務委託という形でシャープ公式Xの運営を続ける山本さんに、その選択の背景を尋ねるところから話が始まりました。
なぜ、シャープさんから離れないという道を選んだのか。山本さんは「正確に言うと離れられなかった」というのが実情だと話します。
誰かに代わってもらって辞めようと言ったものの、思っていたほど簡単にはいかなかったといいます。いきなり運営を渡されるのも残酷だという気持ちも、少しは分かったそうです。
山本さんは会社に対してはドライな立場だとしつつ、フォロワーへの思いは別だと語ります。
あの、お客さんのことはすごい好きですから、あんまりこうパキッと辞めてしまうのも、まあちょっと不義理かなっていう気持ちは芽生えたっていうのが、本当のところではありますね。
少し前の時代なら、会社を辞めるか辞めないかの二択に近かったかもしれません。業務委託や副業という選択肢が広がったからこそ、辞めないという道が取れたと考えられます。
注目したいのは、この委託という形を提示してくれたのが会社側だったという点です。山本さん自身も、その方針が実現できたことに驚いたと話しています。
業務委託・副業という新しい働き方
平田さんは、フリーランスとして活躍する人の最初のクライアントが元いた会社であるケースは多いと指摘します。
転職しようとした時に、引き留めとして業務委託での副業を提示されるパターンが、副業の一般化とともに広がっているといいます。
山本さんは、企画全般の監修も頼まれることがあると明かします。ショート動画やYouTubeも増える中で、対象はX以外にも広がっているようです。
一方で、15年以上続けてきた自身のツイートの仕事については、負荷はほとんどないと語ります。
息するようにツイートしてきたわけですもんね。(と言われて)そうですね。ですから、やっぱりなんか仕事の切り分けみたいな話でもなくてっていう感じなんで、やる分には僕はそんなに負担ではないっていうのは確かなんですけど。
家電と漫画、論理と感情の違い
わざわざ転職までしたコミチでの仕事について、今後やっていきたいことを尋ねられると、山本さんは「ヒットに至る前の段階」への関心を語りました。
漫画やIPは映画やアニメになって成功したものが目立ちます。しかし本来はそこに至れたはずなのに至れなかったものもある。その前の段階をうまくやりたいというのです。
ここで山本さんは、家電と漫画の決定的な違いを挙げます。長く家電に関わってきた立場から見ると、その差は新鮮だといいます。
ずっと家電やってたから、ツイートしたら買うわけじゃないんですよ。そこが違うわけなんですよ。それがやっぱ僕にとっては新鮮。
家電のようなハードなものは、必要か必要でないかという論理的な選択で売買されます。一方、作品には好きや嫌いという感情の部分で関わることになります。
その感情の動きを飲み込んで企画ができるところに、本来やりたかったものがあると山本さんは話します。理詰めの世界とは全く違う手応えがあるようです。
必要か不要かという論理的な選択で売買される。ツイートしても即座に買うわけではない
好き嫌いという感情で関わる。作品の数だけファンのあり方が変わる
もうひとつの顔、ノイズと即興演奏
話題は、山本さんのもうひとつの顔である音楽活動へと移ります。現代音楽のノイズ系で、ターンテーブルや改造レコードの即興演奏をしているといいます。
最近はドイツの実験音楽レーベルから、あえてのカセットでリリースもされたそうです。その背景には、日本のアンダーグラウンド音楽の豊かさがありました。
山本さんはその世代ではないものの、音楽を芸術として見直す流れの中、京都で多感な時期を過ごしたことがきっかけだと語ります。
始まりは意外にも、友達の少なさでした。
一方であんまり僕バンド組むほど友達がいなかったんで、DJは一人でできるじゃないですか。だから、元々テクノとかのDJを始めてたんですけど、それなら一人でもできるし。
やがてかけるレコードを割って貼り直したり、サンプラーで組み直したりと、DJを逸脱していきます。そこでアンダーグラウンドなノイズやフリージャズの先達に面倒を見てもらったといいます。
この活動は十代の頃から続けているもので、シャープで働きながら並行して行ってきたものです。会社からもやっていいと言われていたそうです。
テクノのDJ
一人でできる入口として始める
レコードの改造
かけるレコードを割って貼り直し、サンプラーで組み直す
DJの逸脱
ノイズやフリージャズの先達と出会い、面倒を見てもらう
即興演奏
初対面の相手と即興でセッションする活動へ
即興セッションと、ずらす遊び
共演者のひとりが金沢のアスナさんです。おもちゃのキーボードを使った独特な演奏で、海外でも評価を受けていると紹介されました。
鍵盤を一つだけアイスの棒で押した状態のキーボードを一台ずつ増やし、電池の減りから生まれるゆらぎや、音同士の干渉を身体的に聴かせる演奏だといいます。その過去音源が、評価の高まりとともにドイツからリリースされたのです。
山本さん自身のスタイルはDJスタイルです。ターンテーブルと改造したレコードを組み合わせ、その日初めての共演者と即興で一気に演奏します。
だからなんかほんまに変な人いっぱいいるから。あの懐中時計3台だけでちっちゃいマイクでカチカチ音を一つやれる。それといきなり30分一緒にやってくれって言われても、どないせえちゅうねんっていうことをやるっていうのが楽しくて面白い。
この活動を趣味と捉えているのか問われると、山本さんはライフワークだと答えます。仕事より先に始めたもので、仕事にしようとは考えたことがなかったといいます。
ここで、レコードへの向き合い方と言葉への向き合い方がつながっていることが明かされます。
レコードも割と僕は文脈やと思ってて、その文脈をひっくり返し、逆方向に動かすのがスクラッチで、針を飛ばしていくのが、今度はサンプリングとかと思って。そこをこうずらしたり変えたり、無効化したりとかいう、その行為がすごい好きで。それは多分僕、言葉もそうやって足してやるのもすごい好きなんですよね。
「広告が嫌われないように」という願い
今後の目標や野望を尋ねられると、山本さんは行き掛かりでやってきたことが多いとして、はっきり「ほんまにもうないです」と答えます。
ただ、少し考えてひとつの願いを口にしました。
山本さんは広告で仕事を覚えました。広告がいい仕事だと思われていた最後の時代あたりに入社し、それを教わったといいます。だからこそ、今の状況を気にかけているのです。
平田さんは、Web上の広告のバツマークを探して消すのが大変で、コンテンツが読めなくなることもあると応じます。
そもそも広告を流すためにお金を払うわけじゃないですか、広告したい人が。今ってその広告を消すのに(見る)身の方がお金払ってるでしょ。こいつむかつくなってみんなに思われてるのが、嫌われないように存在する風になればええなとは思ってますね。
この願いに、MCの山崎さんも強く共感します。山崎さんは今でも広告を信じていると語り、信じている人たちの集合体であるべきだと話します。
覚悟が薄まる時代への問い
どうすれば広告は嫌われずに済むのか。山崎さんは、数字が先行してクリエイティブが曲がり始めるとよくない、と指摘します。
本来は絵やコミュニケーションの美しさを信じ、それが数字になって良かったという順番のはずだといいます。数字が先行して絵を変え始めると歪んでいく、という見立てです。
山崎さんは半ば冗談を交えつつ、決裁やABテストをやめようと投げかけます。
平田さんは、いい広告を使う会社にはオーナー企業が多い気がすると自身の主観を述べます。決裁が早く、トップがいいと言えばすぐ動けるからではないか、というのです。
さらに平田さんは、ハンコを求めるのは責任を負いたくない自信のなさの表れかもしれないと語ります。自分の言葉と人格で全部を引き受ける覚悟こそが大切だと話しました。
作るものを最初に見せる時って超緊張するじゃないですか。それこそ学生時代だったりとか、大体ボコボコにされるわけですよ。出すことのその覚悟みたいなのが決まっていくんですけど、ABテストとか、ウェブだから後で直せるとか、この辺から歪んでいく。
後から直せることには、数字で改善を回せる良さもあります。しかし同時に、作り手の覚悟を薄める側面もあるのかもしれません。
まとめ
最終回は、業務委託という働き方、家電と漫画の違い、そしてノイズ演奏という意外な顔まで、山本さんの多面性が浮かび上がる回となりました。その根底には、ずらして遊ぶ感覚と、広告への静かな願いが流れていました。
- 山本さんは業務委託でシャープ公式Xの運営を継続。会社にはドライでも、フォロワーへの不義理は避けたいという思いが選択の背景にあります。
- 委託という形を提示したのは会社側で、副業や業務委託が広がった時代だからこそ取れた選択だと語られました。
- 家電は論理で買われ、漫画は感情で関わられる。その違いに新鮮さを感じ、ヒットに至る前の段階に取り組みたいと話しています。
- 十代から続けるノイズ・即興演奏はライフワーク。レコードや言葉を「ずらす」感覚が、その活動と仕事を貫いています。
- 長く広告に関わった立場から「広告が嫌われないようになってほしい」と願い、覚悟が薄まる時代への問いをMCと共有しました。
