何が炎上したのか
発端は、株式会社空調服が公式Xで行った注意喚起でした。「空調服の電源を切ってほしい」といった一般ユーザーの投稿を引用する形で、投稿がなされたといいます。
その投稿では、「空調服は弊社の登録商標でございます」とし、「一般名称のファン付きウェア、ファン付き作業服をお使いいただきたく」と書かれていました。
水を差すようで申し訳ございませんが、空調服は弊社の登録商標でございます。一般名称のファン付きウェア、ファン付き作業服をお使いいただきたく、何卒よろしくお願いいたします。
これに対し、批判的なコメントが殺到しました。「うるさい」「運用が下手なアカウント」といった声のほか、ホッチキスやセロテープ、宅急便はいちいち言わないだろう、という指摘も出ていたそうです。
商標権は一般人の発言には及ばない
岡村さんはまず、前提として商標権の効力の範囲を整理します。空調服は「ファン付き作業服」という商品について商標登録されています。
そのため、商標権者以外のメーカーが同じような作業服に「空調服」と名付けて販売することは、やめるよう求められます。
一方で、一般の人がSNSで「空調服の電源を切ってほしい」と投稿することには、商標権の効力は及びません。事業として商品に使っているわけではないからです。
その「空調服の電源切ってほしい」っていう投稿に商標権の効力が及ばないというところは、前提として言っておきたい。
この点は批判する側もすでに理解している、と岡村さんは見ています。ではなぜ企業はあえてこうした投稿をしたのか。ここに一歩踏み込む必要があると話します。
普通名称化という企業の恐れ
商標登録の後、他の会社のファン付き作業服まで含めて、人々が「空調服」と呼びまくる現象が起きがちだといいます。呼びやすく、覚えやすいためです。
その結果として起きるのが普通名称化です。「空調服」がありふれた一般名称とみなされると、株式会社空調服の商標の効力自体が失われてしまいます。
過去にはエスカレーターやナイロンが、もともと登録商標だったものの、普通名称化してしまった事例として挙げられました。
それを放置し続けると、この商標権は効力がなくなってしまうっていう懸念があるわけですね。
なぜ「空調服」は認められたのか
「空調服」の難しさは、もともと商品の性質を表すような言葉だった点にあると岡村さんは指摘します。特許庁も当初は「誰も独占できない言葉だ」と判断していました。
しかし株式会社空調服が反論し、販売実績によって「空調服といえば我々の商品」というところまで浸透したと主張。裁判まで争って、登録が認められた経緯があります。
似た例として、あずきバーの井村屋、靴下屋の足袋屋が挙げられました。もともと誰もが使える言葉が、一社のブランドとして独占を認められたケースです。
空調服を相当広めたのはこの株式会社空調服という会社ですね。
つまり「こんな一般的な言葉、誰でも使っていいだろう」という批判は、この言葉を広めた企業の存在を見落としている、というのが岡村さんの見方です。
セロテープが守った歴史
「セロテープも宅急便もいちいち言ってこない」という批判に対して、岡村さんは「言ってきた歴史がある」と応じます。今回セロテープについて調べたそうです。
セロテープはニチバンがセロファン製の粘着テープとして最初に売り出した商品です。ただ「セロファン製のテープ」と認識されるため、識別力がないとして争いになりました。
発売当初は誰も「セロテープ」とは呼んでいませんでした。しかし登録までの数年の間に模倣業者が現れ、新聞などでも一般名称のように使われてしまったといいます。
困ったニチバンは、商標管理を強化しました。一般名称のように使う者に警告を発し、新聞、ラジオ、テレビ、街頭広告などに巨額の経費を投じたと解説されます。
岡村さんは、この警告が模倣業者だけでなく、一般名称のように使う者に対しても発されていた点を強調します。今回の空調服の行動と、実質的に同じことだというわけです。
裁判所自身も、一般の需要者にどう認識されているかの判断は難しいと述べていたといい、普通名称化を防ぐことは「簡単ではない」というのが岡村さんの結論です。
ブランドを守るということ
自社が大事にしてきたブランド名や商品名を、他社が使い放題になると困ります。「あずきバー」といえばあの商品だ、と信頼して買う人がいるからです。
その名前だけを使って粗悪品が売られれば、積み上げた信用に傷がつきます。だからこそやめさせたい、というのが企業の考えだと岡村さんは説明します。
ただし、みんなが「空調服」などと言いまくって普通名称化してしまえば、その模倣を防ぐことすらできなくなります。真似され放題になってしまうのです。
やっぱりこれはなんとかせねばっていうのは企業の考えなんだと思いますね。
岡村さんは、今回の投稿は「使うな」と強硬に警告したわけではないとし、そこまで怒ることだろうか、と疑問を呈します。空調服側はその後お詫びも出したそうです。
別にこれも「使うな」って言ってるわけじゃないし、強硬に警告をしたわけでもないので、そんなに怒ることかなという気はしますけどね。
むしろ前提のずれによる批判を真に受けて、普通名称化を防ぐ対応をやめないでほしい、と岡村さんは呼びかけます。やり方は工夫しつつ、萎縮しすぎないでほしいという願いです。
まとめ
一般人のSNS投稿に商標権は及びませんが、企業が「登録商標です」と示すのは、普通名称化を防ぐための正当な企業努力だ、というのが岡村さんの主張です。批判と企業の間にある前提のずれを埋めることが、この回の狙いでした。
- 商標権の効力は事業としての使用に及ぶもので、一般人のSNS発言には及ばない
- 広く一般名称化すると商標の効力自体が失われる(例: エスカレーター、ナイロン)
- 「空調服」は性質を表す言葉だったが、販売実績によって登録が認められた
- セロテープはニチバンが警告や巨額の広告費でギリギリ効力を守った歴史がある
- 「登録商標です」と示すのはブランドと信用を守るための企業努力である
