冒頭の骨折報告と、判決回のはじまり
番組冒頭、アシスタントはゴールデンウィーク中に起きた「ショックな出来事」を報告します。
子供と遊ぶために押し入れから出したパンチングマシンに水を足そうとしたところ、こぼれた水で滑って転倒。お尻から落ちた際に自分の肘でお腹を打ち、肋骨を骨折したと話します。
肋骨。さっき医務室行ってきたら、ヒビじゃないね、折れてるねって言われた。
自分の肘でお腹をバーンって打ったのよ。奥さんから一言、アホやって言われて。
「大丈夫」の一言もなく「アホや」と言われたことが、骨折以上に痛かったと振り返ります。ここから話題は本題の著作権へと移ります。
そもそも椅子のデザインはどの法律で守られるのか
岡村さんは、著作権の最高裁判決が出たと切り出します。上告まで進むこと自体が珍しく、高裁で判断が割れた重要な事例だからこそ最高裁が扱ったと説明します。
題材は幼児用椅子で、番組の書籍『ロゴとネーミングの法律』にも登場したものです。まず前提として、こうした実用品のデザインは本来どの法律で守られるのかが問われます。
アシスタントは考えた末に「意匠」と答えます。意匠は特許庁への出願手続きを経て、新しく簡単には作れないと認められた場合に登録されるものです。
一方の著作権は手続きが不要で、作品が出来上がった時点で自動的に発生します。アシスタントもこの点は即答で正解しました。
意匠と著作権、期間と手続きの違い
岡村さんは、両者の保護期間の違いを整理します。意匠と著作権では、守られる長さも始まりのタイミングも大きく異なります。
出願手続きが必要。保護期間は出願日から25年。工業製品など量産される実用品が前提。
手続き不要で創作時に自動発生。保護期間は作った人の死後70年と非常に長い。
意匠権の保護期間は、かつては15年でしたが、平成18年の改正で20年、令和元年の改正で25年へと伸びてきました。起算点も登録日から出願日へと変わっています。
この違いを踏まえると、権利者にとっては手続き不要で保護期間も長い著作権のほうが有利ではないか、という論点が浮かび上がります。
なぜ実用品の著作権は認められにくかったのか
ここで岡村さんは、意匠でも守られるような量産品・実用品に著作権を認めてよいのか、という古くからの議論を紹介します。
著作権は勝手に発生するため「取る」という概念がなく、実際に発生しているかどうかは裁判で争って初めて判断されます。そのため、この領域はずっと曖昧なままでした。
裁判では、こうした実用品の著作権はなかなか認められてきませんでした。背景には、裁判所が意匠法の存在を強く意識していることがあります。
同じようなものについて何にも手続きもせず、死後70年っていうめちゃくちゃ長い強力な権利を与えるっていうのが、どうしても裁判所として憚られる。
そのため従来は、高度な美的鑑賞の対象になるものだけ著作権を認める、という厳しい考え方が取られてきました。オブジェやアートのようなものは認められやすい一方、工業製品はほとんど認められてこなかったのです。
割れた判断と、最高裁が下した統一見解
2014年ごろ、この椅子「TRIP TRAP」について知財高裁が著作物性を認める画期的な判決を出し、業界がざわつきました。当時の裁判官は、美的な高度さを裁判所が判断するのはおかしいとして、シンプルに創作性を認める立場を取りました。
しかしその約10年後、同じ知財高裁が別の裁判官のもとで、著作権はそう簡単に発生しないという昔ながらの基準を再び持ち出します。同じ椅子をめぐって、判断がばらついてしまいました。
この状況を受けて、最高裁が統一見解を示したのが今回の判決です。結論として、この椅子の著作物性は否定されました。
新しい判断基準は「機能に由来するかどうか」
アシスタントは、釘を使わず板をスライドさせて高さを変えられるというアイデアも争点になるのかと質問します。
岡村
岡村さんによれば、それは意匠や特許寄りの考え方です。著作権は基本的にアイデアではなく創作的な「表現」を守るもので、機能的な仕組みそのものは評価されにくいと説明します。
今回の最高裁は、従来の「美的鑑賞の対象」や「高度な創作性」という言葉を使わず、機能に由来する形かどうかを軸に判断しました。
量産される実用品の形が、機能に由来する構成とは別に、思想や感情の創作的表現として把握できる場合には著作物にあたる、というのが判決の枠組みです。たとえば別途施された彫刻や絵の部分には著作権が認められ得ます。
この椅子は特徴的に見えても機能から来ている形だとされ、著作物性は否定されました。普通の椅子とは違うこのレベルでも認められない点が、実務上の一つの指標になると岡村さんは見ています。
欧州との違いと、判決への率直な感想
アシスタントは、デザインを重視するフランスやイタリアではどうなのかと尋ねます。判決文には、多くの欧州諸国で著作物と認められているからといって、法制の異なる日本で同様の保護が要請されるわけではない、と記されていました。
よそはよそ、うちはうち。
岡村さんは、著作権に関するベルヌ条約でも保護のあり方は各加盟国に任されているとし、右へ倣えにしなかった点を評価します。
一方で、判決文の「今後様々な事例の積み重ねに期待することとなろう」という締めについては、当事者としては物足りない、先送りのようだという感想も交わされます。
立体商標という着地点と、弁理士業界への苦言
岡村さんは、この椅子が立体商標として登録されている点にも触れます。商標権は10年ごとに更新でき、実質的に半永久的に権利を持ち続けられるため、結論としては保護されると考えられます。
最後に岡村さんは、これほど重要な最高裁判決なのに、騒いでいるのは知財系の弁護士や学者が中心で、弁理士はあまり反応していないと寂しさを漏らします。
背景には、特許の明細書作成が業務の中心を占める弁理士が多く、著作権だけでは弁理士が稼ぎにくいという構造があると分析します。それでも意匠に深く関わる判決だとして、注目を呼びかけます。
まとめ
量産される実用品に著作権が認められるのかという長年の問いに、最高裁は「機能に由来する形は著作権にならない」という基準を示し、幼児用椅子「TRIP TRAP」の著作物性を否定しました。手続き不要で死後70年という強力な著作権と、意匠法とのバランスが判断の背景にあります。
- 意匠権は出願手続きが必要で出願日から25年、著作権は手続き不要で死後70年と、保護の仕組みが大きく異なる。
- 実用品の著作物性は従来認められにくく、TRIP TRAPをめぐっては知財高裁の判断が10年をおいて割れていた。
- 最高裁は「美的鑑賞」「高度な創作性」といった従来の言葉を避け、機能に由来する形かどうかを判断軸とした。
- 多くの欧州諸国で著作物とされても、保護のあり方は各国に委ねられており、日本は独自に判断するとされた。
- この椅子は立体商標としても登録されており、更新を続ければ長期的に保護され得る。
