そもそも休職制度は義務ではない
まず、大体どこの会社にも休職制度というのはあります。
どんなものかというと、スタッフさんがご病気になった場合に、その間休んでいただく制度です。
よくあるのはメンタル不調でのうつ病、あとはがんのような重い病気、盲腸のように比較的治りやすい病気もあると思います。
ここで意外に思われるかもしれないのですが、実は労働基準法などに「会社は必ず休職制度を用意しなければならない」というルールはありません。
極端な話、うちの会社は休職制度がありません、というのは違法ではないんです。
ただ、実際にはどこの会社も休職制度はあるかなと思います。
休職制度がないと、法的にはどうなるのか
仮に休職制度のない会社でスタッフさんがご病気になったら、法的な理屈どおりだとどうなるか。
雇用契約は、会社が賃金を払い、スタッフさんが労務を提供するという約束です。
どちらか一方が守られていないのであれば、当然解約できるよね、という話になるんです。
労働者側は予告すれば14日で辞められますし、辞めやすい。
逆に会社側が労働契約を解約するのはかなり難しいのですが、本人が働けない状態が続いているのであれば、解約すること、つまり解雇することは可能です。
なので、重い病気で働けない状態が続けば、当然会社は解雇できてしまう。これが理論上の話です。
ただ、これを突き通している会社はほとんどありません。
これを突き通すと、病気になった人を片っ端から解雇していくことになります。
そんな会社で働きたいですか、という話になりますよね。
だから多くの会社は、ご病気になった場合は一定期間、療養に専念できる期間を設けるという形で休職制度を用意しているんです。
休職制度は会社にとってもメリットがある
休職制度は従業員さんにとってプラスの制度ですが、会社側にもメリットがあります。
たとえば20歳ぐらいから就職して、定年が60、長いと65。職業人生はざっくり45年ぐらいあります。
その中で、20年間教育してきた優秀なスタッフが、アラフォーで病気になったから解雇します、というのはもったいないじゃないですか。
20年間の実務経験や、会社が教育研修してきたものが、そのスタッフさんに蓄積されているはずなんです。
それが一つのご病気で辞めてしまうのはもったいない。ちゃんと休んでいただいて、復職していただく。
アラフォーで1年休んで復職すれば、そこからさらに25年ぐらい働けますから、会社にとってもハッピーなんです。
不運にも病気になり、休職制度を使って療養に専念し、完治して復職し、また活躍する。こうなれば双方ハッピーですね、というのが本来想定されている良いパターンです。
よくある制度設計の間違い|休職期間が長すぎる
ここからは、私がよく目にする制度設計の間違いです。
一つ目は、経営体力や会社の規模と比較して休職期間が長すぎるという設計です。
大企業だと、ご病気になったら1年間休職を認めています、という会社は全然珍しくありません。
一方でスタートアップや中小企業だと、休職制度は数ヶ月ぐらいというのが相場観です。
これから起業する会社や、まだ規模の大きくない会社が、就業規則に「病気になったら1年休めます」と書いていると、身の丈に合っていない制度になってしまう。
休職期間中はずっと社会保険料もかかり続けますから、会社もただではないんです。
余談ですが、大企業だと1年休職できる上に、その間給料が満額出るという破格の制度もあると聞いたことがあります。おそらく東証プライムに上場しているような会社ですね。
これを聞いて私はこう考えます。休んだ方が得じゃん、と。
実際にこういう制度を入れている大企業の人と話したのですが、「もうすぐに診断書を取ってきて休んじゃうから、真面目に出社して頑張っている人からすごい不満が出る」と言っていました。
なので、休職している方が得、という状況は制度設計の中で作らない方がいいと思います。
休職期間中は傷病手当金ももらえますから、給料を満額出すようなことはやめた方がいいんじゃないかなと思いますね。
短すぎる休職期間も危ない
では短ければ安全かというと、そうでもないんです。
労務管理に力を入れていない会社だと、休職期間が1ヶ月というすごく短い設定をしているところがあります。
これ自体が直ちに違法になるわけではないのですが、やめた方がいいです。
労働基準法には解雇予告というものがあって、解雇するなら30日前に予告してくださいね、という義務があります。
30日も1ヶ月も大して変わらないじゃないですか。
1ヶ月だと、裁判で争ったときに「休ませるつもりがないよね、実態として休職制度じゃないよね」という判定になって、会社が負けたりするんです。
ですから、休んでほしいというメッセージがこもった制度設計にした方がいい。せめて3ヶ月から、どんなに少なくとも2ヶ月ぐらいは設定した方がいいと私は思います。
こうした間違いが起こるポイントとしては、就業規則を他の会社からコピーしてきたとか、親会社が大企業で、その就業規則をそのままコピーしてきた、というケースがあります。
運用の間違い|休職辞令と手続きの見落とし
次は運用の間違いです。
休職に入るときには、休職辞令や休職命令書というものを出すのが一般的です。
これも法律で出さなければならないと書いてあるわけではないのですが、ちゃんとした会社は、いつからいつまで休職か、病気が治らなかったら退職になること、社会保険料の精算、療養に専念してくださいといった取り決めを文書にします。
中小零細のお客さんだと「そんなの出さなきゃいけないんですか」とおっしゃることがあります。
労務担当者の方は、自社に休職辞令の雛形がちゃんと準備されているか、確認した方がいいと思います。
もう一つの運用の間違いは、休職に入る手続きが就業規則どおりではない、というものです。これは結構ミスりやすいんです。
どういう条件で休職になるか、そのトリガーは就業規則に書いてあります。よく見るのは「1ヶ月連続して欠勤している場合」といったルールです。
凡ミスの一つは、1ヶ月経ったら休職と書いてあるのに、2週間しか欠勤していないのに休職命令書を出しているケース。
もう一つは、1ヶ月欠勤で休職に入るルールなのに、その1ヶ月間に年次有給休暇を消化しているケースです。
有給休暇は法的に認められた権利ですから、これは「1ヶ月連続欠勤」に該当していないことになるんです。
なぜここが大事かというと、復職するときに揉めるからです。
復職したいスタッフと、その健康状態では働けないと考える会社で見解が相違したとき、本当に揉めた場合は裁判になります。
そのときに「1ヶ月欠勤で休職と書いてあるのに2週間で入れているじゃないか」「有給は権利なんだから要件を満たしていないよね」と言われ、休職期間満了での退職もおかしい、となってしまう。
なのでここは本当に気を使って休職命令を出してほしいなと思います。
まとめ
休職制度は義務ではないけれど、あった方が会社にとってもスタッフさんにとっても得になる制度だと私は考えています。だからこそ、身の丈に合った期間設定と、就業規則どおりの手続きが大事になります。後編では、復職したい従業員と退職してもらいたい会社が揉めた場合の話をしていきます。
- 休職制度は法律上の義務ではないが、優秀な人材を失わないために多くの会社が用意している
- 休職期間は長すぎても短すぎてもリスクがあり、会社の規模に合った設計が必要
- 休職中に給料を満額出すと「休んだ方が得」になりかねないので注意した方がいい
- 休職辞令の準備と、就業規則どおりの手続き(欠勤要件や有給の扱い)の確認が復職トラブルを防ぐ

