社労士のキャリア三択と「開業」という着地点
社労士のキャリアには、勤務社労士、事業会社で働く、独立開業という3つの選択肢があります。前編では最初の2つを扱い、後編では開業社労士に焦点を当てます。
吉田さんは、社労士資格の最終的な終着地はやはり独立開業なのではないかと話します。ただし、他のキャリアが劣っているとは考えていません。
もちろん他のキャリアの選択が劣っているとは思わないんですけれども、難易度的にも、自分で小さいながらに事業を起こすみたいなところの難易度も含めると、かなり大変なのかなと思います。
労務か年金か:売るサービスの最初の分岐
開業社労士は、まず「どのサービスを売るのか」で分かれます。大きくは、労務をやる社労士か、年金をやる社労士かの2択です。
大多数派は労務系の社労士です。一方、年金系の社労士は主に障害年金の裁定請求、つまり手続きの代理を担っています。
年金には老齢年金、障害年金、遺族年金の3つがあります。吉田さんは、老齢年金と遺族年金は比較的社労士でなくても対応しやすい一方、障害年金はノウハウが必要で難しいと話します。
吉田さん自身は障害年金の経験は1回のみで、詳しくないと前置きしつつ、社会的意義もあるため興味がある人は年金に詳しい先生に話を聞くとよいと勧めます。
労務系社労士の中身:手続き・給与か、コンサルか
吉田さんを含む多くの社労士は労務系です。お客さんは事業会社で、経営者の悩みに対応します。
経営者の悩みは大きくお金か人に分かれます。お金は税理士に、人は社労士に相談するという形で、人の悩みの相談を受けて解決策を提示する仕事が多いといいます。
加えて、手続き業務や給与計算業務の代行といったベーシックな業務もあります。この労務系社労士は、さらに個人開業か組織化かで分かれます。
比率では個人開業が圧倒的に多く、社会保険手続きの代行や、そこまで人数の大きくない給与計算の代行を担う人が多いとされます。
吉田さんは、個人開業が向いている人として、自分で全部やりきりたい人や、人間関係にストレスを感じやすい人を挙げます。自宅開業などで家賃を抑えれば、手取りが残りやすい点も特徴だといいます。
もう一つの個人開業の形がコンサル系です。例えばプライム市場の人事部長を務めた人が50歳ごろに退職し、上場企業やこれから上場したい企業を相手に人事労務施策をコンサルするような形です。
ここで吉田さんは、ある社労士から言われてハッとしたことを紹介します。コンサル系の社労士は一つではない、という指摘です。
一つは人事制度の改訂や人的資本経営を手伝う「人事系コンサル」。もう一つは、パワハラやセクハラ、問題社員への対応といった外に出しにくい問題を扱う「労務系コンサル」です。
この2つはやっていることが大きく違うにもかかわらず、「コンサル」という言葉の中で人事も労務もごちゃ混ぜに語られやすいといいます。
労務系を選ぶ
年金系ではなく労務系の社労士としてやっていく
個人か組織か
個人開業のままか、組織化を目指すか
個人の中の分岐
手続き・給与代行系か、コンサル系か
コンサルの中の分岐
人事系コンサルか、労務系コンサルか
組織化の分岐と「一番大変な年商ライン」
話は組織化に移ります。開業社労士には、個人でやる道と、スタッフを雇って組織を作る道があります。吉田さんの事務所は後者を選択しています。
組織化の中にも分岐があります。代表の目が届く5〜10名ほどの組織か、それ以上の30人、50人、100人を目指す組織かで、やり方も変わってきます。
吉田さんはスタッフ10名を一つの目標に掲げてきました。最近その規模になり目標を達成したものの、まだやりたいことが多く、それ以上を狙うと話します。
一方で、5〜10名の範囲でスタッフにも顧問先にも目が届く状態で止め、そこでサービスを続けるという選択もあり、ここは大きな分岐だといいます。
続いて吉田さんは、開業前後で印象が変わった年商ラインについて語ります。開業前は、年商3000万〜4000万の先生をすごいと思っていました。
しかし実際にそのラインに達して感じたのは、年商3000万〜4000万が一番大変なのではないか、ということでした。
実は年商3000万から4000万ぐらいが一番大変なんじゃないかっていうことです。
その理由はこうです。優秀な開業社労士1人が見切れる売上は、天才は別として、そこそこ優秀な人でもおおよそ年間1500万〜2000万だといいます。1200万でもパツパツになると話します。
年商3000万は、スタッフが1〜2人いる状態です。しかし所長のキャパを超えた売上があるため、状態が不安定になります。
スタッフが1〜2人だと休みにくく、有給休暇は権利として認めていても取りにくいという苦労があります。
さらに、そのスタッフが退職すると、いきなり所長が3000万規模を1人で見ることになり、限界値を超えてしまいます。スタッフも所長も大変で、非常に不安定だといいます。
そのため、組織化を目指さないなら年商1500万〜2000万で止めておいた方が幸せかもしれない、と吉田さんは勧めます。
逆に3000万〜4000万を超えるなら、年商1億円、スタッフ10人ほどを目指した方がかえって楽だといいます。10名いれば有給も取りやすく、1人退職しても残り9人で業務を分配できるからです。
1人退職すると、残る所長ともう1人で業務を対応。キャパを超え、非常に大変になる。
1人退職しても残り9人で業務を分配できるため、比較的大変になりにくい。
なぜ独立したのか、そして35歳という開業タイミング
最後に、吉田さんが独立した経緯が語られます。1社目の社労士法人で「やりきったな」と感じる状態になったことがきっかけでした。
社労士法人のビジネスモデルは、持っている売上の3〜4割を返せると言われます。ある時、自分の持つ売上を集計すると、これ以上は上がらないと感じたといいます。
当時は土日も出勤し、家に持ち帰って仕事もして、それで持っていた売上が1200万ほど。事務所として顧客単価を上げる雰囲気でもなく、これ以上はキャリアが発展しないと考えました。
そこで転職を考え始め、日本橋の社労士法人の先生から共同経営の話を持ちかけられ転職します。前編で触れたとおり、大きな勉強にはなりました。
ただ、最初は雇用から始める形だったこともあり、円満に解消はできたものの、結局は共同経営には至らなかったといいます。
吉田さんは、キャリアが煮詰まると共同経営の持ちかけ話が来ることがあると指摘します。自身はトラブルになりませんでしたが、出資比率で大揉めすることもあり得ると注意を促します。
1社目、2社目を経て、独立を決めたとき吉田さんは34〜35歳ごろでした。この年齢は独立開業にとても良いチャンスだったと振り返ります。
その理由の一つが、若すぎると不利になりやすい点です。ある税理士は、見積もりを出したとき「若いから」という理由で弾かれた経験があったといいます。
40代、50代の社長からすると、20代で開業した士業は選択肢から外れてしまう現実があり、20代開業は大変だと吉田さんは話します。
一方で、遅ければ良いわけでもありません。社労士は顧問型のストック型ビジネスで、顧問先がどんどん増えていくため、早く開業した方が有利という面もあります。
若すぎる不利と、早く始める有利。その両方を踏まえると、35歳前後は絶妙なタイミングだったと吉田さんは考えています。
もし何歳で開業するのがいいのか悩んでいるのであれば、この35歳という年齢を一つ参考にしてみてください。
もちろん、子どもの年齢や家族の状況など事情は人それぞれで、いくつになってもチャンスはあるとした上で、一つの参考にしてほしいと締めくくります。
まとめ
開業社労士のキャリアは、労務か年金か、個人か組織か、コンサルなら人事か労務かといった分岐の連続です。吉田さんは自身の経験から、年商ラインや独立のタイミングまで具体的に語りました。
- 開業社労士は、まず労務系か年金系かで分かれ、大多数は労務系
- 労務系は個人開業か組織化、さらに手続き・給与系かコンサル系かで分岐する
- コンサルは人事系か労務系かを明確に意識してキャリアを作るとよい
- 年商3000万〜4000万は最も不安定になりやすく、止めるなら1500万〜2000万、超えるなら1億円・10人規模が楽
- 共同経営は報酬や顧客担当を細かく決めるべきで、独立は35歳前後が一つの目安
