広島で5年、全国に顧問先を持つ社労士とは
今回のゲストは、社労士事務所ACE代表の石田朋久さんです。広島県広島市生まれで、今も広島で開業しています。
石田さんは社会人になって10年ほど営業職を務めた後、試験に合格し、2020年1月に広島市で開業しました。収録時点で開業から5年3ヶ月ほどが経過しています。
現在は広島市の西地区、宮島の近くに事務所を構え、従業員は全員で12人です。顧問先は紹介が多く、北海道から鹿児島まで全国に広がっているため、出張ベースで動いているといいます。
本当はね、事務所の近くに全部あればいいんですけど、基本的に仕事を断らないスタンスでずっと今までやってきておりまして、どこでも行けますよというスタンスでこうなったって感じですね。
この企画は、吉田さんが東京で石田さんと話す機会があり、東京と地方では社労士を取り巻く環境が大きく違うという話で盛り上がったことがきっかけです。石田さんは顧問税理士が神奈川県にいる関係で、東京・神奈川でも20社から30社ほど契約しているため、両方の現場を知る立場です。
契約の入口を分ける「相見積もり」の有無
石田さんがまず挙げたのが、契約の入口の違いです。東京と地方では、相見積もりがかかるかどうかがはっきり違うと話します。
まず明確に入口のところで違うのが、相見積がかかるかかからないかというのが東京と地方で違って、絶対ではありませんけど、やっぱり関東の方は相見積もりがかかることが非常に多いなというのが第1の印象です。
関東では、会社側が業務フローやスケジュール感といったオーダーを示したうえで、複数社に見積もりを依頼してくることが多いといいます。
一方で地方は、見積もりを前提としない相談が圧倒的に多いそうです。
地方でいうと、大雑把に言うと、いい社労士さん誰か紹介してみたいな感じで、単独で来ることが多くて、見積もり前提ではないという感じが圧倒的に多いんです。
商談で見られるのは「業務スキル」か「人となり」か
契約の入口が違えば、商談の進め方も変わります。石田さんによれば、東京で相見積もりがかかるケースでは、最初のオンライン面談の段階で受け答えが見られていると感じるといいます。
相見積がかかった時は、そもそも最初のZOOM面談などで受け答えとか多分きっと見られていて、そうじゃなければ多分金額以前にテーブルに上がらないという印象は受けています。
地方はそうではなく、まず直接会いたいという要望が強く、判断の軸も違うと石田さんは話します。業務オーダーが前提ではないぶん、ビジネススキルよりも人として接せられるかどうかが中心に見られている印象だといいます。
吉田さんも、東京以外の社労事務所と東京の社労事務所の両方で働いた経験から、この違いに心当たりがあると振り返ります。東京では提案書を作るのが当たり前だった一方、そうでない事務所では紹介経由でその場で契約が決まっていく場面があったといいます。
紹介してもらって、誰々さんの紹介だから、じゃあお願いしますとか、その場で契約書もない中で話が決まっていくとかっていうのは記憶あります。
地方の場合は紹介者がどれだけ信頼できる人かというのが契約の角度に大きく影響するというところですね。
相見積もりがかかることが多い。業務オーダーとともに複数社を比較し、面談での受け答えやビジネススキルが見られる
紹介中心で見積もり前提ではない。直接会うことを重視し、人となりや信頼できる紹介者かどうかが契約を左右する
地方の営業戦略を支える「おせっかいなおっちゃん」
地方で紹介が重要なら、営業戦略も変わってきます。吉田さんは、いい紹介者とつながることが地方では重要になるのかと尋ねます。
東京だと、うちの事務所が他とどう違うのかを明確に打ち出すことだったり、いろいろなマーケティングを仕掛けていくのも戦略だと思いますけれども、地方の場合は、おせっかいなおっちゃんみたいな人が一人いて、その方が「ここ紹介しておくやつ繋ぐ、もう会ってみなよ」みたいな感じで契約が広がることが多いと感じてます。
その「おせっかいなおっちゃん」とはどんな人なのか。石田さん自身、営業経験を生かしてそうした人との関係づくりを営業として行ってきたといいます。
石田さんが挙げたのは、その地方で長く会社を経営している経営者、保険会社や金融機関の人、そして税理士でした。いずれも幅広いつながりを持ち、紹介の価値をよくわかっている人たちだといいます。
チャットで進む地方、ロードマップが敷かれる東京
商談からサービス提供へ移った後にも違いはあるのか。吉田さんの問いに、石田さんは打ち合わせの進め方の差を挙げます。
都会ではある程度のロードマップが敷かれ、そこに向けて進むケースや、単純な手続き代行のケースがあり、打ち合わせも定期的に30分ほどと会社側主導で決まっていることが多いといいます。
地方では、普段はチャットワークやメールでやりとりしつつ、3ヶ月に1回ほど表敬訪問する形が多いそうです。ただし訪問しても、特に何かを決めるわけではないといいます。
(訪問して)話して1、2時間話して、じゃあまた続きみたいなことがよく起こるっていうのが地方の特徴ですね。
なぜ違いが生まれるのか。地方に多い「予防型」の会社
そもそもなぜこうした違いが生まれるのか。吉田さんの問いに、石田さんは25歳で東京に出てきたときに感じた差を挙げます。情報のスピードやビジネスの感度が一人ひとり全然違っていたといいます。
石田さんは、いい悪いの問題ではないと前置きしたうえで、地方には古風な体質を維持している会社が多いと話します。
(地方の会社は)何かを新しく生まれ変わらせていくとか、どんどん拡大フェーズですわっていうことよりも、いかに今の既存の組織を円滑に、いろんなことも予防しながら進んでいくかっていうところだったりするところが多いかなと思ってますね。
東京と地方、どちらで開業すべきか
話は開業地選びに移ります。吉田さんは自身が東京で開業した理由を、東京が一番ビジネスパワーが強いからだと明かします。一方で、企業数を社労士数で割ると、一人あたりの会社数は地方のほうが少なく、当時調べた中では沖縄が最も少なかったといいます。
どっちも選べるとなったら、どういう人は東京で開業した方がよくて、どういう人は地方で開業した方がいいですか。
石田さんは、自身の選択を例に答えます。広島でも官公庁が並ぶ中区エリアに社労士事務所が集中していますが、石田さんはあえて自宅の近くの西エリアに事務所を出しました。
結果として、広島市の中区エリアを除けば、石田さんの事務所が一番大きくなったといいます。西エリアで従業員10人を超える事務所は他になく、必然的に選ばれやすい状態になったと振り返ります。
(西エリアだと)ある程度のこの十人超えてる事務所がうちしかないので、そうなってくると必然的に選ばれやすいだろうなっていう状態には、結果的にはなってるっていうところがまずあります。
石田さんは、かつて住んでいた島根県の例も挙げます。横に長い島根の西部エリアには社労士が数人しかおらず、認知活動と営業活動をきちんと行えば、ほぼ単独で契約が決まる点は有利に働くといいます。
地方のデメリットは「情報の価値が伝わりにくい」こと
一方で石田さんは、東京と地方の明確な差として、情報の価値が地方では伝わりにくい点を挙げます。
働き方が多様化する中で労務相談の重要性は増していますが、労務相談や情報提供といった無形の商材について、地方では別の受け止め方があるといいます。
(労務相談などの無形商材は)別にタダで教えてくれたらいいんじゃないのっていう感覚なんです。
そのため、コンサルティング的なものが刺さりづらく、単価が上がりづらいのが地方のデメリットだと石田さんは指摘します。契約を取るところだけにフォーカスすれば地方の方がいいかもしれないが、単価や業務の広さを考えると中心部に出た方がいいと感じているといいます。
吉田さんは、この答えを整理し直します。単価を上げて労務相談中心でやるなら都心、ベーシックな業務で攻めるなら地方が有利かもしれない、という理解でよいか確認すると、石田さんもその通りだと応じました。
単価を上げ、労務相談やコンサルティング中心で業務の広さを取りたい人。情報や無形商材の価値が伝わりやすい
ベーシックな業務で契約数を取りたい人。社労士が少ないエリアでは認知・営業活動で単独契約が決まりやすい
開業前に知っておきたい「まずはベーシックな事務所を」
最後に、前編の締めくくりとして、東京と地方の違いに関して石田さんが言い残したことを尋ねます。石田さんは社労士向けの開業支援も行っており、ホームページを作った方がいいか、自分の強みがなくてどうすればいいか、といった相談が多いといいます。
石田さんは、ホームページ自体は出した方がいいとしつつ、そこだけで仕事を取ろうとするなら、かなり特化した業務を持っていないと難しいと話します。
強みはなくても、一般的なゼネラリスト的な社労士事務所で十分にお客さんは増えると感じていますので。
石田さんは、強みがない、ホームページはどうすべきか、と悩む前に、まずはベーシックな事務所を普通にやるというのが大切だと、開業を考えている人に向けて伝えました。
吉田さんも強く共感します。尖っていなくても、コミュニケーションができ、社会保険手続きや給与計算、ある程度の労務相談ができれば、仕事はいただけると感じているといいます。
なお今回は前編で、後編では地方で社労士を取得した人に向けたキャリア戦略について、引き続き石田さんに話を聞く予定です。
まとめ
広島で開業する石田朋久さんの視点から、東京と地方の社労士事務所の違いが、契約の入口・商談・サービス提供・開業地選びの観点で整理された前編でした。相見積もりと紹介、スキルと人となり、単価とベーシック業務という対比が軸になっています。
- 契約の入口は、東京は相見積もりが多く、地方は紹介中心で見積もり前提ではないことが多い
- 商談では、東京はビジネススキルや面談の受け答え、地方は人となりと紹介者の信頼性が見られやすい
- 地方は古風な体質で予防型の会社が多く、チャット中心で3ヶ月に1回の表敬訪問という進め方も見られる
- 地方は情報や無形商材の価値が伝わりにくく単価が上がりづらいため、単価重視なら都心、契約数重視なら地方が向く
- 開業では強みやホームページに悩む前に、まずベーシックな事務所を普通にやることが大切だと石田さんは語る






