地方で社労士を取ったら、まずどうすればいい?
今回のテーマは「地方の社労士のキャリア戦略」です。吉田さんは、地方で社労士資格を取った人がどういう道を描けるのかを、広島で開業している石田さんに率直に尋ねました。
地方で社労士取ったらどうすればいいんですか?
石田さんの答えは、あくまで自身の見解と前置きしたうえで、大きく2つに絞られました。一般企業に社労士資格ありで勤めるか、開業するか、そのどちらかに着地するのがベストだといいます。
一般企業に社労士資格ありで勤めるか、開業か、どちらかに着地するのがベストかなと感じてます。
この回答に対して、吉田さんはすぐにツッコミを入れます。社労士事務所などに勤める「勤務社労士」という選択肢はないのか、という疑問です。
地方では「雇ってくれる事務所」が極端に少ない
石田さんは、勤務社労士がすぐに選択肢に上がらない理由として、地方特有の事情を挙げます。資格に合格すると、多くの人はまず開業がちらつき、実務経験を積みたいと考える。ところが、その受け皿がないというのです。
雇用してくれる事務所が少ないんですよ。極めて。
どれほど少ないのかを示すのが、石田さんが開業支援をしている滋賀県の人の例です。滋賀にも近隣の都道府県にも受け入れ先がなく、実務経験のために遠く離れた土地まで動かざるを得なかったといいます。
結局広島県の社労士事務所に、その時だけ引っ越して働きながら住んで、1年間ぐらい実務経験を積んで、開業して滋賀に戻った方がいらっしゃるぐらい。
吉田さんは、この点が東京と地方で大きく違うと指摘します。東京なら社労士事務所の求人は多く、条件のよいものもあるため、前提が根本的に異なるというわけです。
「一本釣りされに行った」石田さんの就職エピソード
石田さん自身は、開業を前提とせず、まず社労士事務所への勤務から社労士のキャリアを始めています。場所は広島です。吉田さんは「あるじゃん」と感じつつ、そう簡単でもないのか尋ねました。
僕の場合は自分でのなんですけど、猛烈に熱量を持って、その社労士事務所の代表にアピールしたんで、一本釣りされに行った感じで就職したんです。
そのアピールの中身は、かなり泥臭いものでした。石田さんはもともとファイナンシャルプランナーの資格を持ち、その延長で社労士に興味を持ったといいます。未経験で雇ってくれる事務所が少ないなか、人間力で売るしかないと考えたそうです。
石田さんは、FPの会に出て社労士資格を持つ人を探し、狙った相手にいわば出待ちをして名刺を渡し、食事に誘って自分を売り込んだといいます。
名刺を持って行って渡して、こういうものですと。続いてはお話聞かせてください、一回食事是非どうですかと。
吉田さんは、そこまでしないと入れないのかと驚きます。石田さんは、タイミング次第で未経験でも入れる人はいるし求人自体はあると補足しつつ、「開業したい」「資格はあるが未経験」となると門戸が一気に狭まると話しました。
一般企業への就職という選択肢の可能性
話は最初の質問に戻ります。企業への就職か開業か、という2択のうち、まず企業就職の路線がどうなるのかを吉田さんが尋ねました。
石田さんは、社労士資格の活かし方は本来さまざまだと前置きします。副業で開業する人もいて、関東では監査役など多岐にわたる活かし方を耳にするといいます。
一方で地方は、社労士としては開業一択に近い。ただし「社労士資格を持った人を探している」という企業側の声はよく聞くと石田さんは言います。
社労士資格を持った方を探しているという話はよく聞くんです。そうするとかなり価値も高いし、労働条件もいいだろうと思いますので、ひとつ選択肢かなと思っています。
実務経験ゼロで開業は現実的なのか
もう一つの選択肢である開業について、吉田さんは自身は勤務側だと明かしたうえで、開業する人を心から尊敬すると語ります。そのうえで、実務経験がない開業は現実的なのかを問いました。
いや、もうかなりエネルギーと忍耐が必要だなと僕も思います。
吉田さんは、実務経験がなければ客に聞かれても分からず、調べて返そうにも聞く相手すらいない状態になりがちだと指摘します。そのうえで、それを突破してうまくいった人を知っているか尋ねました。
石田さんによれば、開業でうまくいく人にはコミュニケーション力のような特化した強みがあり、それとともに仕事を取っていったケースがほとんどだといいます。吉田さんも、実務経験があるか、なければ元営業の人がうまくいきやすい印象だと応じました。
ここで石田さんは、自身の開業支援の経験から踏み込んだ見解を示します。実務経験を積みたくても積める場所がない現実がある以上、そこにこだわりすぎなくてよいというのです。
そこまで苦しく実務経験というものにこだわらなくても開業できるなと考えてまして。
その根拠は、地方の集客の実態にあります。石田さんは、地方の顧客獲得は紹介が多いと説明します。契約の段階では、社労士としての経験や知識の有無は特段の影響を与えないというのが石田さんの考えです。
契約はできても、その先はどう乗り切るのか
吉田さんは、顧客を獲得できたとして「そこから先がヤバそう」だと率直に切り込みます。契約後に高度な相談が来たとき、どうするのかという問いです。
石田さんも、契約時と契約後は全然違うと認めます。契約後はどんな質問や高度な課題が来るか分からないため、結局はマインドの問題になるといいます。
契約してからは、もうどんな質問が来るかもわからないし、高度な課題が来ることも当然ありますから、もうとにかく何とかするしかないというマインドで向かうしか選択肢はないのかなと思います。
吉田さんは、これはある種の根性論だが、粘り強くやるしかないと受け止めます。石田さんは、自分の1年半の実務経験も、企業の労務監査やIPO会社の支援が中心で、いわゆる実務経験は多くないと明かしました。
給与の手続きも2ヶ月くらいちょろっとやったくらいなんで。
地方の社労士に必要な「無害さ」という力
ここまでの話を吉田さんが整理します。地方では勤務社労士が最初の選択肢になりにくく、企業就職か開業かが現実的な入り口になる、という構図です。そのうえで、地方で社労士を取った場合に他に意識すべきことを尋ねました。
石田さんが挙げたのは、都会でも共通するかもしれないと前置きしたうえでの、コミュニケーションのあり方でした。尖ることよりも、誰とでも分け隔てなく話せる力が強いといいます。
無害であることっていうのはすごく大事だと思ってまして。とにかく相談のしやすい人間関係を築いて、ちょっと連絡取ってみようみたいな立ち位置を取ることができれば、社労士として十分に声がかかることが多いんじゃないかなと。
吉田さんは、この「無害さ」という言葉を評価します。余計なことを言うと、客は「また変なことをされるかも」と相談をやめてしまうからです。労務相談の回答はある程度型化されており、加点要素は少ないというのが吉田さんの見方です。
そこで重要になるのが、減点のない対応だと吉田さんは言います。感じが悪くない、前向きに相談に乗ってくれる、といった姿勢がポイントになるという整理です。
石田さんも同意します。法律がどうなっているかは相談者も分かったうえで来る時代であり、社労士に求められるのは現実と法律のギャップを埋めることだといいます。ただ、そこに断定的で明快な答えは出しにくい。
なんとか対応してくださいという冷たい立ち位置を取るんじゃなくて、一緒になって考えましょうっていう立ち位置を取ることができれば、きっと自ずと顧問契約が増えるのかなと思います。
開業は簡単じゃない。それでも飛び込んでほしい理由
終盤、吉田さんは石田さんに、地方の社労士のキャリア戦略について言い残したことを尋ねました。石田さんは、開業は簡単ではないとしつつ、キャリア選択として価値があると語ります。
開業されたいと思っている方は、臆することなく、ぜひこの業界に飛び込んで開業されて、見ていただきたいなと思ってます。
吉田さんも同意見だと応じ、社労士のやりがいに触れます。社労士と顧問契約をする顧客は人を大切にするため、人格者の経営者が多いというのが吉田さんの感覚です。頼りにされて問題を解決するやりがいがあるといいます。
最後に石田さんは、社労士の仕事に誇りを持っていると述べ、業界を盛り上げたいと語りました。現在は事務所運営に加えて社労士向けの開業支援も行っており、Xのアカウント「おとそ」で情報を発信していると案内しました。
社労士の仕事、とても素晴らしいと思っていて、日々誇りを持ってやっています。なので、業界をもっと盛り上げたいと思っています。
まとめ
地方で社労士資格を取った場合、勤務社労士の受け皿は少なく、企業への就職か開業かが現実的な選択肢になります。石田さんは、実務経験にこだわりすぎず、紹介中心の地方では相談しやすい「無害さ」こそが強みになると語りました。
- 地方では未経験で雇ってくれる社労士事務所が極端に少なく、勤務社労士は最初の選択肢になりにくい
- 現実的な入り口は、社労士資格を活かした企業就職か、開業の2択になりやすい
- 地方の顧客獲得は紹介が中心で、契約段階では実務経験の有無が影響しにくい
- 契約後の高度な相談は「何とかする」マインドで乗り切るしかない場面がある
- 尖るより、相談しやすく一緒に考える「無害さ」が地方の社労士には効く



