質問「給与テーブルはいつまでに決めればいい?」
今回の相談は、業務委託の人が会社に増えてきたことに危機感を持つ経営者からのものです。
相談者は、給与テーブルの整備が必要だと感じつつも、優先度が低く後回しになっている現状を打ち明けています。
業務委託の人が会社に増えてきたので、そろそろ給与テーブルを整備しないとまずいのでは?と危機感がありますが、優先度が低く後回しになってしまっているのが現状です。どのタイミングで給与テーブルが決まっていないとまずいといった目安のタイミングはありますか?
吉田さんは、この質問の核心を「給与テーブルは遅くともいつまでに決めた方がいいか」という点だと整理し、そこから回答を始めています。
権限委譲のタイミングが一つの目安になる
吉田さんがまず示す目安は、中間管理職に評価を権限委譲するときまでには給与テーブルが決まっていないとまずい、というものです。
中間管理職に評価を権限委譲するときには給与テーブルが決まってないとまずいですよ、というかできないですよね。
その理由を、吉田さんは会社の発展段階に沿って説明します。最初は社長一人で始め、そこにスタッフが少しずつ増えていくという流れです。
初期は社長の裁量で給料を決めていきます。「君の給料30万ね」「よくできるから40万」といった、いわゆる鉛筆舐め舐めと呼ばれるやり方です。
しかし、それだといつか追いつかなくなると吉田さんは指摘します。給与の基準が社長の頭の中にしかないためです。
その評価自体を中間管理職の人にやってもらおうとか、人事部の人にやってもらおうみたいな話になった時に説明できなくなるからです。
だからこそ、評価や給与決定の仕組みを誰かに渡すときには、必ず給与テーブルが決まっていなければならない、というのが吉田さんの結論です。もちろん、それより早い段階で決まっているのが理想だと補足しています。
業務委託中心の会社で起きる「給料バラバラ」問題
吉田さんは、この質問には突っ込みどころがあると指摘します。業務委託の人が増えたから給与テーブルを整備する、という発想そのものです。
そもそも業務委託の人、給与テーブル作る必要性ありますか?っていう突っ込みがあるんですが、おそらくこれスタートアップ企業だと思うんですよ。
吉田さんは、この会社を雇用と業務委託の境目があまりないスタートアップ企業だと推測します。こうした会社では、人それぞれの時給や給料がバラバラになりやすいといいます。
具体例として、前職の給料が500万だったから500万で入ってきた人もいれば、前職が400万だったから400万で入っている人もいる、それでいてやっている内容は変わらない、という状態を挙げています。
こうした状態を直すには、まず給与テーブルをきちんと作り、評価し直すことが重要だと吉田さんは話します。
下がる人には「調整給」でソフトランディングを
給与テーブルを作り、資格等級表のようなものを整備すると、新しい基準に照らして年収が上がる人も下がる人も出てきます。
上がる人は問題ありませんが、難しいのは下がる人です。ただ、高止まりしたままでは評価制度の意味がないため、適正な形に収束させる必要があると吉田さんは言います。
そこで登場するのが調整給という考え方です。たとえば前職500万で入ってきた人が、自社の基準では450万相当だった場合を例に説明されています。
いきなり50万を下げることはできないため、差額の50万は調整給という形で出し、給料が勝手に下がる状態をまず回避します。
吉田さんは、勝手に給料を下げることの法的なリスクにも触れています。
これを勝手に下げちゃうと、法的には不利益変更っていうのに該当する可能性が高いので、そういった法的なハードルもあって難しい、できない。やるのであれば本人の合意が必要です。
調整給を設定したうえで、本来の実力と給料が今アンバランスであることを本人に自覚してもらう、というのがこのステップの狙いです。
たとえば「500万のレベルは、うちの会社だと次の次のランクだから、ここまで頑張ってくださいね」と伝え、期限を区切って結果を出せば給料を下げない、といったコミュニケーションで給与を適正化していく流れになります。
そもそも「どういう組織体を目指すか」を先に決める
吉田さんは、この会社が業務委託中心である点を踏まえ、その前に決めるべきことがあると話します。
まず、業務委託の人しかいない会社はなかなかないため、当然正社員もいるはずだと吉田さんは指摘します。
まず決めなきゃいけないのは、その会社がどういう組織体を目指してるの?っていうのをまず決めた方がいい。
目指す組織体を決めてから、どの給与テーブルを整備すべきかを考えるべきだ、という順序を示しています。
一般的な方向として、吉田さんは日本の雇用慣行が正社員中心主義的である点を挙げます。正社員をコアメンバーにし、脇を業務委託で固めるなら、まず整備すべきは正社員の給与テーブルだと話します。
一方で、あえて正社員を少なく限定し、業務委託中心で回していく方向もあると吉田さんは示します。
業務委託中心なら「発注票」でメニューを整える
業務委託中心の会社の場合、吉田さんは給与テーブルという表現は正確ではないとしつつ、発注票のようなものを作ることを勧めています。
発注票には「この仕事だったらいくら」という報酬を定め、さらにどういう基準で報酬が上がるのかを設計するのがポイントです。
同時期に2つ仕事を引き受けてたら定価通りの発注になる。3つ一緒に引き受けてくれるんだったら10パーセント報酬を上げますよっていう発注表にすれば、業務委託の人もここの会社の仕事を優先的にどんどん引き受ける。
こうした仕組みにすれば、業務委託の人が優先的に仕事を引き受けやすくなり、人手不足の中でも人繰りが楽になるのではないか、と吉田さんは見ています。
吉田さんがこの相談者に伝えたいのは、何のための給与テーブルなのかを意識してほしいという点です。
正社員なら一般的な人事評価制度を整備すべきであり、業務委託に活躍してほしいなら発注表やメニュー表を整え、たくさん引き受けてくれるほど報酬が上がるシステムにした方がよい、とまとめています。
給与テーブルと評価は必ずしもリンクさせなくていい
吉田さんは、給与テーブルの話でよくある思い込みにも触れます。給与テーブルと評価は必ずリンクさせなければならない、という考え方です。
吉田さんによれば、それは必ずしも正しくなく、給料は給料、評価は評価で別に決めるやり方も一つだといいます。
報酬をはっきり市場価格で決める例として、他社から出ている内定額に合わせて同じ金額を出す、という方法を挙げています。
確かサイボウズがそういう風に報酬を決めてるはずです。
この場合、評価は本人のキャリア形成や自己成長のために上司と部下が面談するためのツール、という割り切りも一つだと吉田さんは話します。
評価と給与テーブルをどういう哲学で運用するかを会社として決めていくと、納得性のある報酬制度になるのではないか、というのが吉田さんの締めくくりです。
まとめ
給与テーブルの整備は、権限委譲のタイミングが一つの目安になりますが、それ以上に「何のための給与テーブルか」を先に決めることが重要だと解説された回でした。
- 評価を中間管理職や人事部に権限委譲するときまでには、給与テーブルが決まっている必要がある
- 給料がバラバラな会社では、給与テーブルと資格等級表を作り、下がる人には調整給でソフトランディングさせる
- 勝手な減給は不利益変更に該当する可能性が高く、本人の合意が必要になる
- 正社員中心なら人事評価制度、業務委託中心なら報酬が上がる発注票と、目指す組織体で整備すべきものが変わる
- 給与テーブルと評価は必ずしもリンクさせる必要はなく、運用の哲学を会社として決めることが納得性につながる






