遅刻1回1000円の罰金はなぜアウトなのか
今回のテーマは、労務分野で中小企業の社長がやりがちな法律違反6選です。吉田さんは6つの論点をテンポよく取り上げていきます。
1つ目は罰金制度です。よくあるのが「遅刻が多いから遅刻1回罰金1000円にしよう」というケースだと吉田さんは言います。
企業秩序を守り反省を促したい気持ちはわかるものの、これは法律違反にあたります。労働基準法が違約金や損害賠償の予定を禁止しているためです。
吉田さんは、まともな職場で働いてきた人が振り返れば、こうしたルールの会社はないはずだと指摘します。それは法律で禁止されているからだと話します。
金額の大きい例として、職業紹介経由で採用した人に「1年以内に辞めたら年収の35%払え」と求める社長も時々いるといいます。退職は自由であり、これも労働基準法違反にあたります。
壊したパソコン代は全額請求できる?
一方で、会社が金銭的な負担を一切求められないわけではありません。実害であれば負担してもらえる可能性があると吉田さんは説明します。
わかりやすい例が、従業員が職場で暴れてパソコンを故意にぶち壊した場合です。これはパソコン代を弁償してもらえます。
ただし過失で壊した場合、たとえば車をぶつけてしまったようなケースだと、話は変わります。裁判の結果では満額を本人に請求できず、2割から4割ぐらいしか本人に負担してもらえないのが通常だといいます。
その理由として吉田さんが挙げるのが、プラスとマイナスの釣り合いの考え方です。
会社が儲かったとき、たとえば大ヒット商品を生み出した人がいても、その売上のすべてがその人に入るわけではありません。賞与は増えても、売上に比べれば少ない金額です。
それなのに、真剣にやっていて過失で壊してしまったときだけ100%請求するのはおかしい、という考え方に基づいていると吉田さんは説明します。
給料からの天引きが違法になる境目
2つ目は給料からの天引きです。社会保険料や所得税の天引きは法律で決められているため問題ありません。
問題になりやすいのは、何も手続きをしないまま、レクリエーション費や制服代を給料から天引りしているケースだと吉田さんは指摘します。賃金は全額払わなければならないというルールがあるためです。
では世の中で天引きをしている会社はどうしているのか。吉田さんは、その手順が「24条協定」にあると説明します。
この労使協定を、労働者代表または過半数のスタッフが所属する労働組合と締結していれば、給与からの天引きは合法になります。逆に協定がない状態で天引きすれば違法だと吉田さんは念を押します。
「払ってるつもり」の未払い残業が起きる仕組み
3つ目は未払い残業です。今の時代、基本給しか払わずに残業させているような露骨なケースは減ってきたと吉田さんは見ています。
ただ、ありがちなのは「払ってるつもり」のケースです。
一番ある誤解っていうのは、基本給と手当の構成があるっていうことなんです。
吉田さんが挙げる典型例が、基本給25万円、資格手当5万円で総額30万円という給与構成です。ここで基本給25万円だけを残業代の計算に入れてしまう間違いがよくあるといいます。
基本的に手当も基本給と同じように、総額で計算しなければなりません。この例なら25万円と5万円を足した30万円で残業代を計算する必要があります。
基本給25万円だけで計算し、手当を除外してしまう
基本給25万円+資格手当5万円の総額30万円を基礎にする
吉田さんは、基本給と諸手当を分ければ残業代が減ると思っている社長がいるが、これはよくある間違いだと指摘します。さらに、割り戻す際の年間の所定労働時間の設定が違うというミスも多いといいます。
そのうえで、残業代を払っていると思っている人ほど点検した方がいいと吉田さんは勧めます。払っているつもりなのか本当に払えているのかを、専門家に分析してもらうべきだという考えです。
自分は関係ない——ハラスメント放置の落とし穴
4つ目はハラスメントの放置です。職場でセクハラやパワハラが起こり、加害者と被害者がいる状況が前提です。
このとき中小企業の経営者が言ってしまいがちなのが、加害者本人がやったのだから自分は関係ない、という態度です。
吉田さんは、会社には職場を安全に保つ義務があると説明します。ハラスメントが起きたら、会社としてやるべきことがあるからです。
具体的には、相談窓口の設置、相談や事実発見時の事実調査、セクハラの有無の確認、再発防止策、関係者へのヒアリング、場合によっては懲戒処分までが会社の役割だといいます。
自社の従業員が同僚や部下にハラスメントをしているとき、社長から見れば「自分ではない」と思うかもしれません。しかし職場を管理する義務がある以上、無責任な態度を取らずに対応してほしいと吉田さんは求めます。
社会保険を「希望制」にしてはいけない理由
5つ目は、社会保険を希望制のように運用してしまうケースです。社会保険は加入基準を満たしたら入らなければならない義務だと吉田さんは強調します。
加入基準の例として、現在は51人までバーが下がってきた企業での週所定労働時間20時間以上の人、それ以下の会社では通常の労働者の4分の3、おおよそ30時間以上働く人が挙げられます。こうした人は社会保険に加入させなければなりません。
それにもかかわらず、入りたい人だけを社会保険に加入させる「希望制」の会社があると吉田さんは指摘します。これは法律違反です。
背景として、フリーター全盛期には社保に入らない方が求人として人気だった時期があったといいます。その感覚を捨てきれていない経営者が、希望者だけを加入させてしまうケースがあるという見立てです。
今はむしろ、社保に加入できない会社には就職したくないと考える人が増えていると吉田さんは付け加えます。
「ウィンウィンだからいい」で済まない不法就労
最後の6つ目は不法就労です。在留カードもないまま日本にいる人を雇う経営者はあまりいないはずだと吉田さんは言います。
多いのは、在留カードは持っているが働けない在留資格の人を、こっそり働かせてしまうケースです。在留資格には働けるものと働けないものがあるためです。
たとえば家族滞在は働けません。留学も学業のための在留なので基本的に働けず、資格外活動許可を得ても週28時間までなどの制限があります。それを超えて働かせてしまうことが問題になります。
こうしたとき社長がよく口にするのが「ウィンウィンだからいい」という言い分だといいます。採用難のなかで人手不足が解消でき、本人も収入を得られる、という理屈です。
吉田さんは、働かせたいなら在留資格を変更する手続きを手伝い、変更が認められて働けるようになってから雇用するのが会社のあるべき姿だと話します。そうした形で外国人を受け入れてほしいという主張です。
まとめ
今回は、中小企業がやりがちな労務の法律違反6つを取り上げました。働き方改革でかなり減ったとはいえ、いまだに該当する経営者はいると吉田さんは指摘します。該当する場合はすぐ改めた方がよく、こうした感覚で経営がうまくいく時代はとっくに過ぎている、という締めくくりでした。
- 遅刻1回1000円のような罰金や、退職時に年収の一定割合を求める違約金は、賠償予定の禁止にあたり違法
- 過失で会社の物を壊した場合、本人への請求は通常2割から4割程度にとどまる
- レクリエーション費や制服代の給料天引きは、24条協定(賃金控除の労使協定)がなければ違法
- 手当を除いて基本給だけで残業代を計算するのは典型的な未払い残業。総額で計算する必要がある
- ハラスメントは「自分は関係ない」では済まず、事実調査や再発防止策など会社の対応義務がある
- 社会保険の希望制運用と、働けない在留資格の人を働かせる不法就労も、いずれも明確な法律違反






