そもそも中小企業の経営者は人件費を抑えたいのか
今回のテーマは、中小企業の報酬アップ、いわゆる賃上げです。吉田さんはまず、中小企業が給料を上げるのは大変だという現実から話を始めます。
大企業がよく儲かっているのに比べて、中小企業はギリギリのところで経営していることが多いといいます。そのため、給料を上げたくても上げられない経営者が多いと吉田さんは話します。
今回のテーマのきっかけは、吉田さんがX(旧Twitter)に投稿したポストでした。想定より反響が大きく、158人にいいねが付いたそうです。
社労士になる前は、中小企業の経営者は人件費を抑えようとする人ばかりだと思っていました。
実際にお会いする経営者の方は、どうやったら自社スタッフの待遇を上げられるか試行錯誤している人が多いです。
このポストには、共感してくれる他の社労士もいたといいます。世間には、中小企業の経営者は人件費を抑えて自分の資産を溜め込んでいるというイメージがありますが、吉田さんはそういう人は実は少ないのではないかと感じています。
なんとか自社を選んでくれた従業員に、この会社に入ってよかったなって思ってもらえるように報酬を上げていきたい、いい待遇を提示したいと思っている経営者の人が多いです。
給料が上がらない背景にある社会保険料と生産性
待遇が上がらない理由については諸説あると吉田さんは前置きします。そのうえで、自身が一番納得しているのは社会保険料が上がっているからだと話します。
給料を払う立場から見ると、手取りの給料そのものではなく、社会保険料の会社負担分を含めた金額が事実上の給料のように感じるといいます。吉田さんによれば、その負担はおよそ15%増しの感覚だそうです。
吉田さんは、この社会保険料が毎年のように上がり続けてきたことが、賃上げを阻害する一因ではないかという説を紹介します。もう一つの説として、日本や中小企業の生産性が上がっていないから給料を上げられないという見方も挙げています。
さらに吉田さんは、日本は中小企業が多すぎて一つ一つが小粒であり、生産性が上がらないという議論にも触れます。最低賃金を上げて生産性の低い企業を退場させようとする政策の見方もあると紹介しつつ、ここは経済政策の話だと位置づけています。
上げられないのは、下げられないから
本題として、そもそもなぜ給料を上げられないのかを吉田さんは掘り下げます。その答えは、下げられないからだといいます。
背景にあるのが、労働条件の不利益変更という問題です。従業員から見て労働条件が下がる場合には、本人の同意が必要になります。
昨日まで給料が30万でした、今日から25万になりますってなったら、本人が同意しないとダメなんですよ。
吉田さんは、仮に同意があったとしても、それが本当に自由な意思によるものかという論点もあると補足します。つまり、給料はそもそも下げづらいという前提があるということです。
下げづらいとなると、経営者の判断は慎重になります。中小企業の経営はいつ傾くかわからないため、今は儲かっていても来期はどうなるかわからない。だからこそ、中小企業の賃上げは思い切ったものになりにくいと吉田さんは説明します。
粗利と連動する給与設計で「下げる条件」を明確にする
では、どうすれば給料を上げやすくなるのか。吉田さんの答えはシンプルで、下げる条件を明確にすればいいというものです。
具体的には、案件や粗利に連動する給料システムを入れると分かりやすいといいます。たとえば大きな案件を担当している人は、その担当期間に限って給料を上げる、といった形です。
吉田さんは、士業のように成果と報酬をリンクさせやすい業種では、こうした仕組みが機能しやすいと話します。一方で、完全歩合にすればいいわけではないとも指摘します。
その中小企業がいい案件を受注できない場合は、その人の給料がすごく減っちゃうからなんですね。
そこで吉田さんが無難だと考えるのが、固定的に払う給料に、粗利や歩合に連動する給料を上乗せする形です。優秀な人を確保する意味でも、この連動型が適していると話します。
この形であれば、給料が下がるときも理由が分かりやすく、従業員も納得しやすくなります。労働者と揉める可能性も低くなると吉田さんは考えています。
成果と報酬が直結するが、いい案件を受注できないと給料が大きく減るリスクがある
従来通りの固定給に粗利や歩合に連動する給料を上乗せする。下がる理由が分かりやすく揉めにくい
吉田さんは、こうした連動要素の定番が賞与だと説明します。歴史的にも、賞与という形で成果に応じた支払いが行われてきました。
賞与にするのか、歩合給のような形にするのか、案件が終わったら外れる案件手当にするのかは会社ごとの設計次第だといいます。ただ、共通するポイントは変わりません。
自社の給料が高いか低いかを調べる方法
吉田さんは、自社が払っている給料が高いのか低いのか分からない場合の調べ方も紹介します。
一番リアルな数値が出てくるのは、業界がある程度固まっているなら、その業界の人に聞くこと、あるいはその業界に精通した転職エージェントに聞くことだといいます。
もっとデータが欲しい場合は、国が出している統計や、民間の調査結果と比較する方法があると吉田さんは挙げます。ただし、統計だけでは判断しにくい面もあると率直に話します。
正直統計見てもなんかよくわかんないですよね。何の手当がついて、これが残業代込みなのか込みじゃないのかとか、それぞれ調べりゃわかるんですけど。
結局のところ、吉田さんが一番リアルだと考えるのは、業界の人や転職エージェントに直接聞く方法です。
お金がなくても提供できる報酬とは
ここから吉田さんは、そもそもお金がないという段階の会社に向けた話に移ります。起業したてで資金に余裕がない場合の報酬の考え方です。
吉田さんがここで強調するのは、報酬はお金だけではないということです。金銭以外にも、従業員を引きつける報酬があると話します。
一つ目に挙げるのがストックオプションです。労働基準法上の賃金ではありませんが、会社が上場したら現金化できるという意味で、広い意味での報酬になると説明します。
二つ目は働きやすさです。フレックスや在宅勤務をうまく使うことで、別の形の報酬になるといいます。
吉田さんは、在宅勤務やフレックスなら家族と近い距離で働けるため、特に子育て中の人に受けやすいと話します。こうした働きやすさで勝負するのも一つの方法です。
三つ目は経験です。吉田さんは、履歴書に書ける経験がうちの会社ではできる、という形で求人をしている会社があると紹介し、これをうまいと評価します。
すごい難しい顧客の対応してましたみたいなのって、エピソードトークにするとちょっと薄くなっちゃう、みたいなのあると思うんですけど。
プロジェクトマネジメントを担当したといった経験は履歴書に書きやすく、将来の転職でも使い回せます。そうした経験を得られること自体が報酬になるという考え方です。
顧客からの感謝という精神的な報酬
最後に吉田さんが、自身もやって良かったと語るのが、顧客からの感謝を感じられる制度づくりです。
吉田さんは最近、お客さんに口コミを書いてもらえないかとお願いしているそうです。最初は少し気恥ずかしかったものの、書いてもらうととても良い反応が返ってきたと振り返ります。
社労士という仕事はミスが許されず、マイナスをなくすことが中心になりがちだと吉田さんはいいます。だからこそ、口コミや顧客アンケートで高評価が返ってくると、その人のやりがいにつながると話します。
吉田さんは、それでも長期的に仕事を続けるならお金の話は切り離せないとも念を押します。会社の粗利や利益を上げ続ける状態は必ず作らなければならない、というのが前提です。
そのうえで、金銭以外の方法もうまく組み合わせれば、いい会社をつくれるのではないかと吉田さんはまとめています。
まとめ
中小企業の賃上げは、給料を下げにくいという前提から考える必要があると吉田さんは整理します。粗利と連動する給与設計や、お金以外の報酬を組み合わせることが実務的な選択肢になります。
- 給料を上げにくいのは、労働条件の不利益変更で下げにくいから
- 固定給に粗利や歩合の連動要素を上乗せすると、上げやすく下げる理由も明確になる
- 連動要素の定番は賞与で、案件手当などの形も会社ごとに設計できる
- 自社の給料水準は、業界の人や業界に精通した転職エージェントに聞くのが一番リアル
- ストックオプション、働きやすさ、履歴書に書ける経験、顧客からの感謝もお金以外の報酬になる






