そもそも無期転換権とは何か
今回のテーマは、無期転換ルールに残る「法律の抜け落ち」です。吉田さんは、定年後再雇用の人には無期転換権が発生しない仕組みがある一方で、そこには抜け落ちがあり、いまだに解決されていないと話しています。
まず無期転換権そのものの説明から入ります。これは12年前、2013年の労働契約法の改正でできたルールだと吉田さんは説明します。
契約社員や有期パートなど有期雇用の人が更新を繰り返し、一つの会社との契約が通算5年を超えると、その人に無期転換権が付与されます。1年更新なら、5回更新して5年を超えたあたりが目安です。
これは権利なので、使うか使わないかは本人の自由です。本人が使うと、今までと同じ労働条件のまま無期契約に変わります。
吉田さんが挙げた例では、時給1500円で1年更新のパートの人が5年を超える更新を続けた場合、本人が申し込めば時給1500円のまま無期契約に変わるというイメージです。
騒がれた2018年問題と、実際に起きたこと
2013年にできた当初は、その時点からカウント開始でした。つまり過去の分はカウントされず、2013年から5年経った時点で無期転換権が発生する仕組みだったと吉田さんは説明します。
そのため2018年には、有期雇用の労働者がこぞって無期転換するのではないかと世の中で騒がれました。当時は「2018年問題」「平成30年問題」などと呼ばれ、派遣労働者などが無期転換するのではないかと言われていました。
ところが実際には、無期転換権そのものがあまり認知されておらず、ほとんどの人が使わなかったというのが吉田さんの振り返りです。
専門家からすると、有期契約より無期契約のほうが労働者に有利です。ですが、期間が定まっている有期のほうが辞めやすいと考え、有期契約のままがいいという人もいたと吉田さんは話します。
私は引き続き有期、有期契約がいいですなんて人もいました。
吉田さんは、民法上、無期契約なら労働者側は14日前の予告で簡単に解約できるため、そちらのほうが自由度は高いはずだと指摘します。それでも実際にはそうならなかったといいます。
定年後再雇用で見つかった「不備」
運用が始まった後、一部の専門家から、無期転換ルールには不備があるのではないかというツッコミが入りました。それが定年後再雇用の場面です。
日本の法律では定年は最低60歳で、60歳で定年を迎えた後、65歳まで再雇用する義務があります。法律どおりに運用する会社では、60歳で定年、その後は1年や半年の契約を繰り返して65歳まで再雇用する形になります。
法律の前提では、65歳で再雇用が終わって引退し、年金生活に入るようなパターンが想定されていました。ところが、ここで無期転換権が問題になります。
5年経つと無期転換権が発生するため、定年した人が有期の更新を続けて5年を超えると、また無期契約に戻る可能性が出てきてしまうのです。
これっておかしいじゃないですか。
第二種計画による特例と、それでも残った人たち
この問題に対して国は新しい仕組みを作りました。第二種計画を労働局に出せば、定年後再雇用の人には無期転換権が発生しないという特例です。
これで全て解決したかと思われましたが、そうではなかったと吉田さんは言います。第二種計画の対象になるのは、その会社で定年を迎えて再雇用している人だけだからです。
たとえば別の法人で定年を迎えた人や、個人事業主・法人の代表をしていた人などが、新たに60歳以上で嘱託社員として雇われた場合は、第二種計画の対象になりません。
吉田さんが挙げた例では、他の会社で定年を迎え、キャリアの最後を別の会社でやりたいと転職してきた人が該当します。こうしたケースは十分にあり得ます。
この場合、転職先で有期雇用契約を5年更新すると無期転換権が与えられてしまいます。本人が手を挙げれば、会社が対策していない限り、本人が辞めるまで雇い続けなければならない問題が出てくると吉田さんは説明します。
自社で定年→再雇用
第二種計画の認定を受ければ無期転換権は発生しない
他社で定年後に転職
第二種計画の対象外で、5年更新すると無期転換権が発生し得る
いたちごっこの定年設定と、その場しのぎの対策
この抜け穴を回避するには、たとえば60歳を第一定年として、65歳、70歳、75歳と第二定年、第三定年を作っていく必要があると吉田さんは言います。ある意味いたちごっこのようなやり方です。
結局、会社が何歳まで高齢のスタッフを雇うのかを考えたうえでルールを作らなければなりません。ただ、高齢者は体力の差が人によって大きく、高齢でも優秀だからぜひ来てほしいというケースもあり、対応に悩む場面が出てきます。
吉田さんは、法的に有効かどうかわからないと前置きしつつ、過去に考えた解決策も紹介しています。無期転換権を行使した1年後を定年にするというルールです。
(そのルールは)労働局に聞くと違法じゃないけどやめてほしいねっていう感じらしいです。
法律上、定年は60歳以上であれば違反にはなりません。そのため、無期転換した1年後を定年とするルールも一応アウトとは言えないはずだ、というのが吉田さんの見立てです。ただし、法律の趣旨からするとおかしいという指摘も残ります。
いまだ解決されない問題への社労士の見解
こうした問題は、いまだに解決されていないと吉田さんは強調します。第二種計画の認定をしていない中小企業もあることから、吉田さん自身は考えを述べています。
もう平等に60歳以上の人は無期転換権が発生しないっていう方が平等かなと思います。
その理由として、労働者派遣法では60歳以上の人に期間制限がないなど、60歳以上を特別扱いしている法律が他にもある点を挙げています。それなら無期転換ルールでも法律上の定年で扱いを変えてもよいのではないか、という考えです。
現状では、法改正で解決されるのか、社労士など労務のプロが就業規則を作り込んで解決するのか、労使間の話し合いで決めるのか、いくつかの道が考えられます。吉田さんは、万能的な解決策がない点は改善されていないため、労務担当者は注意が必要だとまとめています。
まとめ
無期転換ルールは2013年に生まれ、当初懸念された2018年問題は大きくは起きませんでした。一方で、定年後再雇用の場面には第二種計画でも救えない抜け穴が残り、いまだに万能的な解決策がない状態が続いています。
- 無期転換権は、有期契約が通算5年を超えると本人の申し込みで無期契約に変わる権利
- 2018年問題として騒がれたが、認知不足でほとんど使われなかった
- 第二種計画の認定で定年後再雇用の無期転換権は防げるが、対象は自社で定年を迎えた人だけ
- 他社で定年後に転職してきた人などは対象外で、5年更新すると無期転換権が発生し得る
- 万能な解決策はなく、就業規則の作り込みや労使間の話し合いなど対応が必要



