望まない異動で手取りが減る。この相談は合法なのか
今回のテーマは、リスナーから寄せられた1件の質問から始まります。
会社都合で望まない異動を命じられました。業務内容が変わること以上に給与が下がることが気になっています。基本給はそのままですが、みなし残業が部署によって規定が異なり、次の部署ではみなし残業が少ないため、結果的に手取りが減ってしまいます。これって合法なのでしょうか。
吉田さんはまず、この相談の状況を整理します。相談者は配置転換の命令を受け、今いる部署から別の部署へ移ったと考えられます。
この会社では部署ごとに固定残業手当 ── あらかじめ一定時間分の残業代を毎月固定で支払う手当。みなし残業手当とも呼ばれる。実際の残業がその時間に満たなくても支払われる。の金額や時間数が異なっており、新しい部署ではその手当が下がる。結果として手取りが減ってしまう、という構図です。
合法になる場合と、違法になる場合の分かれ目
吉田さんは、この論点は非常に難しいと前置きしたうえで、2つのパターンに分けて説明します。
まず、合法になりうるパターンです。入社時の就業規則に、人事権の中で部署を異動する可能性があると書いてあり、なおかつ部署ごとにみなし残業手当の時間数が規定されていた場合です。
営業部門だったらこの時間分出します、総務だったらこの時間分出します、というのが全部規定されていたのであれば、配置転換で次の部署のルールに応じて固定残業手当が下がるのは、私は合法だと思います。
一方で、違法になりうるパターンもあります。就業規則にも雇用契約書にも何も書かれていないのに、会社が一方的に手当を下げる場合です。
吉田さんによれば、配置転換の命令そのものは会社の人事権として比較的強いとされています。ただし、部署が変わったという理由だけで手当を勝手に下げるのは別の問題だといいます。
部署が変わったっていう理由だけで手当を勝手に下げちゃうのは、従業員さんの労働条件を不利益に下げているので、基本的には本人の同意がないと下げられないというのが基本的な考え方です。
最終的な判断の基準になるのは、実際の就業規則の規定のしかたや、雇用契約書にどう書いてあるかだと吉田さんは話しています。
そもそもこの質問が出た時点で、労務管理は後手に回っている
ここから吉田さんは、経営者としての視点に話を移します。合法か違法かという議論の前に、まず認識すべきことがあるといいます。
その理由は、給与制度や人事制度は本来なんらかの目的があって作られているはずだからです。
会社側の立場で解釈すると、部署ごとにみなし残業手当の金額が違うのは、おそらく部署ごとに残業時間が違うからだと吉田さんは説明します。
たとえば営業職と事務職を比べると、営業職は外回りの時間が長く、残業時間が増える傾向にあります。直行直帰以外の業務時間中の移動時間は、原則として労働時間としてカウントされるためです。
さらに営業職は、夏や冬など暑い寒い時期にも外を回る必要があり、身体的な負荷も高くなります。こうした事情を勘案して高めのみなし残業手当をつけ、処遇の平等性を担保している、という設計が考えられます。
総務職には総務職の苦労があるものの、残業時間や拘束時間は比較的少なく、雨の日に外へ出る必要もありません。そのため給料は営業職に比べて低くなる傾向がある、と吉田さんは整理します。
こうした考えのもとで金額に差をつけているのなら、それは会社としてきちんとした考え方だといいます。問題は、その考え方が従業員に伝わっていないことにあると吉田さんは指摘します。
その考え方が伝わってなくて、こういう質問や不満になっているんであれば、それは会社の落ち度だと思います。
根拠を数字で示せば、不満は防げた
では、どう伝えれば納得を得られたのでしょうか。吉田さんは、経営計画の発表の場や入社時の給与制度の説明の機会を挙げます。
そこで、どういう基準で固定残業手当の金額を決めているのかを説明しておけば、この不満は出なかったはずだといいます。
吉田さんが挙げたのは、平均残業時間という具体的な根拠です。
過去の営業スタッフの平均残業時間が月40時間。それを基に40時間分の固定残業手当をつける
平均残業時間が月20時間。それを基に20時間分の固定残業手当をつける
このように根拠を作って説明していけば、従業員も納得できるはずだと吉田さんは話します。制度に数字の裏づけを持たせ、それを伝えることが重要だという主張です。
固定残業手当に込める「哲学」とは
ただ説明すればいいわけではない、と吉田さんはもう一押しします。経営者として、固定残業手当の意味そのものを考えたほうがよいといいます。
固定残業手当には賛否両論があります。反対派からは、事実上残業代を払わなくていい制度ではないか、という見方もあると吉田さんは紹介します。
一方で、良い面もあるといいます。一定額の固定残業手当をつけることで、労働時間ではなく業務の質や成果に応じて支払う給与設計がしやすくなる、という点です。
吉田さんは、固定残業手当がない場合の例を挙げます。給料が全く同じAさんとBさんがいて、Aさんは仕事が早く定時に帰り、Bさんは仕事が遅く残業しているケースです。
この場合、固定残業手当がないと、仕事が遅いBさんのほうが残業代の分だけ給料が高くなってしまいます。効率よく働くAさんが報われない、という不平等が起きるのです。
固定残業手当があれば、お二人とも同じ給与金額になって、最終的な処遇を賞与で反映するとか、別の方法で処遇していけば、毎日定時で効率よく仕事をしているAさんが報われる給与制度も作れる。
なぜ部署ごとに固定残業手当が違うのか、なぜこの制度を入れているのか。そこに哲学を持ったうえで従業員に説明することが大切だと吉田さんはまとめます。
給与設計を通じて、会社が求める成果へのメッセージを発することもできる。相談で見えた不満は、その姿勢を変えていくことで防げるものだと考えられます。
まとめ
配置転換によるみなし残業手当の減額が合法かどうかは、就業規則や雇用契約書の内容で決まります。ただし吉田さんは、そもそもこうした不満が出ること自体が労務管理の後手だと指摘し、制度の根拠と考え方を従業員に伝える重要性を語りました。
- 就業規則や雇用契約書に部署ごとの規定があれば、配置転換に伴う手当の減額は合法になりうる
- 何も定めがないまま一方的に手当を下げるのは不利益変更にあたり、本人の同意なしには下げられないのが基本的な考え方
- 不満が出た時点で労務管理は後手。給与制度の目的と根拠を事前に説明することが大切
- 平均残業時間などの数字で根拠を示せば、部署ごとの手当の差は納得を得やすい
- 固定残業手当は、労働時間ではなく成果や質で報いる給与設計を可能にする。その哲学を持って伝えることが重要






