そもそも確定拠出年金とは何か
今回は退職金制度シリーズの最終回として、確定拠出年金がテーマです。
吉田さんはまず、確定拠出年金を一言で表現します。
確定拠出年金って一言でいうと、まあ自分専用の年金っていうようなイメージです。
その前提として、日本の公的年金は二階建ての構造になっていると説明されます。
一階部分は、自営業やフリーターの方も含めたすべての人が入る国民年金です。その上の二階部分に、サラリーマンや会社の社長が入る厚生年金があります。
ただし、公的年金だけでは老後の生活に足りないと感じる人もいます。いわゆる「老後2000万問題」も、その背景にあります。
吉田さんによれば、年金だけで年間200万円を受け取っている人はかなり高額な部類で、試算すると多くの人が「これしかもらえないのか」と感じる金額になるといいます。
そうした不足を自分で補う手段として、確定拠出年金で自分専用の年金を作る人が増えていると話されています。
個人が自分で掛金を出して老後資金を作る仕組み。もっとも有名なタイプ
会社が制度として導入するタイプ。今回はこのうち選択型を扱う
給料を切り分ける「選択型」の仕組み
今回、会社の制度として取り上げられるのは、企業型のなかでもメジャーな選択型確定拠出年金です。
選択型がどういうものか、吉田さんは給料30万円の人を例に説明します。導入時には、その30万円を「生涯設計手当」と残りの給与に切り分けます。
たとえば30万円を、生涯設計手当5万5000円と、残りの24万5000円に分ける形です。総額は30万円のままなので、その時点では損も得もしていません。
この生涯設計手当5万5000円は、これまで通り自分で受け取ってもかまいません。一方で、その一部を受け取らずに確定拠出年金の掛金に回すこともできます。
この選び方こそが「選択型」と呼ばれるゆえんで、拠出の仕方の基本になります。
経営者も入れる、税や社会保険料も下がる
ここからメリットの話に移ります。吉田さんは、それだけで時間がかかるほど複雑な制度だと前置きしたうえで整理していきます。
最初のメリットは、経営者自身が加入できるという点です。中小企業退職金共済とは異なる特徴です。
中小企業の経営者は儲かっているイメージがあっても、実際には保証が少ないと吉田さんは言います。だからこそ、老後の資産づくりとして確定拠出年金は有効だと話されています。
さらに、会社や経営者が破産・倒産した場合でも、年金資産は取り上げられません。この点も経営者に勧めたい理由として挙げられています。
次のメリットは、資金効率の良さと節税効果です。給料30万円の人を例に説明されます。
原則で考えると、30万円に対して税金と社会保険料がかかります。しかし生涯設計手当として5万5000円を拠出すれば、給与総額は24万5000円になります。
すると、税金も社会保険料もその金額を基準に決まるため、どちらも下がることになります。
ただし、社会保険料が下がることには裏側もあると注意が促されます。傷病手当金の受取額や将来の年金額が下がるといったデメリットもあるため、理解したうえで拠出すべきだと話されています。
給与30万円のまま
通常は30万円に対して税金と社会保険料がかかる
生涯設計手当を拠出
5万5000円を掛金に回すと給与総額が24万5000円になる
負担が下がる
税金と社会保険料が24万5000円を基準に計算される
最後のメリットは、退職金制度全般に言えることとして、求人に強い点です。
選択型確定拠出年金を導入していると、わかる人には従業員を大切にする意識の高い会社だと伝わると話されています。
毎月拠出する制度である点も、採用の次の段階である定着にプラスに働くのではないかと考えられています。
吉田さんは、メリットが大きいため、社会保険労務士法人ONE HEARTでも選択型確定拠出年金を導入していると明かします。
私自身も毎月毎月掛金払ってます。
60歳まで引き出せない、従業員への説明も大変
続いてデメリットです。吉田さんは、なかには面倒なものもあると前置きして順番に説明します。
1つ目は、掛金は原則60歳まで引き出せないという点です。毎月最大5万5000円まで掛けられますが、いったん拠出すると自由には取り出せません。
人生では急にお金が必要になることもあります。その時、確定拠出年金に回していたお金が手元にあればよかったのに、という事態になるかもしれないと注意されています。
2つ目からは会社側のデメリットです。まず、選択型確定拠出年金は仕組みが複雑だという点があります。
給料を生涯設計手当と残りに分け、手当を自由に掛金へ回してよいと説明しても、金融商品の仕組みが理解できないと、なかなか拠出してくれなかったり、導入に反対意見が出たりします。
そのため、従業員に理解してもらうこと自体が大変だと話されています。
3つ目は、拠出した掛金をどう運用するかを従業員自身が決めなければならない点です。
元本保証型を選ぶか、値動きのある投資信託を選ぶかは本人の判断になります。こうした知識を伝える投資教育を続けることが、現実的にぶつかる壁だといいます。
外部講師を招いて投資教育をしても、なかなか理解してもらえないケースも多いと話されています。
事務手続きの煩雑さと最低賃金の壁
4つ目のデメリットは、事務手続きの大変さです。吉田さんは、確定拠出年金を始めること自体がすごく大変だと言います。
導入時には役所に何枚もの書類を作って提出する必要があります。しかも、入ってしまえば終わりではありません。
新入社員が入るたびに、その人の掛金額を登録する必要があります。たとえば「3万円拠出します」となれば、その3万円を登録しなければなりません。
さらに、多くの会社では半年に一回ほど掛金を変更できるルールがあります。従業員から「3万円を5万5000円に変えたい」といった申し出があれば、その都度対応が必要で、管理が煩雑になります。
5つ目は、給与水準が低い業界で導入する場合の注意点です。掛金を拠出した結果、最低賃金を下回ってしまうことがあると指摘されます。
吉田さんは、給料20万円の人を例に説明します。基本給14万5000円、生涯設計手当5万5000円という構成にしたケースです。
この人が生涯設計手当5万5000円をすべて拠出すると、給与総額は14万5000円になってしまいます。
一般的なフルタイムで東京の場合、14万5000円ではほぼ確実に最低賃金を割ってしまうため、そうした拠出はできません。最低賃金の縛りが選択肢を狭めるデメリットだと話されています。
ハイリスク・ハイリターンな制度をどう選ぶか
吉田さんは、これまでの退職金制度シリーズを振り返ります。中退共、生命保険、確定拠出年金という3パターンを扱ってきました。
そのなかで選択型確定拠出年金は、メリットが大きい一方でデメリットも大きい制度だと総括されます。
そのため、思い切ってやろうという覚悟のある会社には勧める一方、中途半端な気持ちでやると後が大変だとくぎを刺します。
そうした場合には、生命保険や中退共など管理が楽な方をお勧めしますと話されています。
まとめ
選択型確定拠出年金は、経営者自身も加入でき、税や社会保険料の負担を抑えながら老後資金を作れる制度です。一方で、引き出し制限や従業員への説明、投資教育、事務手続き、最低賃金の縛りといった負担も大きく、導入には覚悟が求められると整理されました。
- 確定拠出年金は「自分専用の年金」で、公的年金だけでは足りない老後資金を補う手段
- 選択型は給料を生涯設計手当と残りに切り分け、手当を掛金に回すか受け取るかを本人が選ぶ仕組み
- メリットは経営者も加入でき、税・社会保険料が下がり、破産時も資産が守られ、求人や定着に強いこと
- デメリットは原則60歳まで引き出せず、従業員への説明や投資教育、事務手続き、最低賃金の縛りがあること
- メリットもデメリットも大きいため、覚悟のある会社に向き、管理を楽にしたいなら生命保険や中退共も選択肢






