随時改定、別名「月変」とは何か
今週のテーマは、見逃すとやばい随時改定です。正式には「随時改定」といい、実務では労務担当者や社会保険労務士が「月変(げっぺん)」と略して呼びます。
なぜ月変と呼ぶかというと、随時改定に該当することを年金事務所に届けるための書類が「月額変更届」だからです。この書類名を省略して月変と呼ばれています。
吉田さんは、この随時改定を社会保険労務士が警戒すべき届け出のトップ3に入る危険な手続きだと話します。
社会保険労務士からすると、結構警戒しなきゃいけない届け出のトップスリーぐらいに入るような危険な届け出なんですね。
理由は、随時改定をきちんとやっていないと、年金事務所の調査で「これ出してないじゃないですか」と指摘され、指導を受けることになるからです。
プロである社労士に手続きを任せていたのに随時改定が漏れていた、という事態になれば、顧客からのクレームにつながります。吉田さんは、長いキャリアの社労士なら一度は経験があるはずだと率直に語っています。
そもそも社会保険料はどう決まるのか
随時改定の細かい話に入る前に、吉田さんはまず「社会保険料はどうやって決まるのか」という前提から説明します。
新入社員の例では、入社時点の見込み給与額をもとに社会保険料が決まります。たとえば労働条件通知書や雇用契約書で給料25万円、通勤手当1万円、残業見込み5000円という条件なら、合計26万5000円に対応した社会保険料を引いていきます。
ただし、この金額がずっと固定されるわけではありません。22歳で入社した人が60歳の定年まで、同じ26万5000円に対応した社会保険料のままだと、途中で年収が大きく増えた人との間で不平等が生じてしまいます。
そこで社会保険料を毎年決め直す仕組みが「定時決定」です。通称、算定基礎届、または算定と呼ばれます。
定時決定では、4月・5月・6月に支払われた給料の平均をとり、通常はその年の9月支給分から社会保険料を決め直します。これによって、どんな人でも毎年1回は9月に社会保険料が更新され、実際の給料と本人が負担する社会保険料が釣り合うようになっています。
定時決定だけだと悪用できてしまう
吉田さんは、定時決定のルールだけでは社会保険料をズルできてしまう、という具体例を挙げます。
たとえば本来50万円で入社してくる人がいて、社会保険料を下げたいと考えたとします。初月だけ20万円で働いてもらい、2カ月目から50万円にする、というやり方です。
じゃあ初月だけ、すまん(給料)20万で働いてくれと。
定時決定のルールしかないと、この操作が通ってしまいます。社会保険料はおおよそ15%程度なので、20万円なら月額約3万円です。
一方、2カ月目から50万円になれば、本来は50万円の15%で約7万5000円の社会保険料を負担すべきです。しかし、20万円に対応した約3万円のままで走ってしまう。吉田さんは、これはおかしいと指摘します。
この不公平を防ぐために用意されているのが、今回のテーマである随時改定です。
随時改定に「該当する変動」と「該当しない変動」
随時改定とは、4月・5月・6月の定時決定の期間以外でも、給料が大幅に変わったなら、その名の通り随時、社会保険料を改定してくださいという届け出です。
先ほどの例でいえば、2カ月目に20万円から50万円へ昇給したら、その昇給月から3カ月間の給料を見て、それまでの社会保険料と大幅に変わるなら年金事務所に届け出る、という仕組みです。
社会保険料は、実際の給料に単純に掛け算するのではなく、等級ごとに区切った「グレード表」で決まります。このグレード表で等級がずれる給料を3カ月連続で受け取ると、随時改定に該当する可能性が出てきます。
ただし、等級がずれる給料を3カ月連続でもらえば必ず該当するわけではありません。ここが見分けの難しいポイントで、「固定的賃金」が変動していないと随時改定には該当しません。
たとえば資格手当が新しくついて等級が変わった場合は、固定でもらう給料が変わっているので随時改定に該当します。一方、たまたま残業が多くて等級がずれただけなら、変動する残業代が増えただけなので該当しません。
資格手当など固定的賃金が変わり、等級が3カ月連続でずれた場合
残業代など変動する給料が増えただけで、固定的賃金は変わっていない場合
吉田さんは、該当するかしないかの判定はかなり複雑で、このポッドキャストで話しきるのは難しいと率直に述べます。
この随時改定に該当するか該当しないかっていう議論を、このポッドキャストで全部話しきるっていうのは難しい。
専門家は、該当を見分けるためのソフトや仕組みを入れているので基本的に見逃しは少ないものの、それでもプロが時に見逃すことがある届け出だと説明しています。
届け出漏れで本人に生じる不利益
では、随時改定を届け出なかったらどうなるのか。吉田さんは、まず本人への不利益から説明します。
20万円から50万円に給料が上がった人は、20万円のときは社会保険料が約3万円、50万円のときは約7万5000円になります。届け出をせず約3万円のまま預かっていると、本来本人が負担すべき差額を会社が預かりきれていない状態になります。
この状態で、日本年金機構が行う社会保険調査に会社が当たり、届け出漏れを指摘されると、約3万円と約7万5000円の差額を後から本人にもらわなければなりません。
ところが、差額を後からまとめて請求されて、本来の負担分だからと快く払う人はほとんどいません。「給与計算のミスじゃないか」と受け止められ、管理部門は嫌な顔をされ、スタッフには「この会社は大丈夫なのか」と不安を抱かれてしまいます。
もう一つの不利益は、給付面です。健康保険の給付や将来受け取る厚生年金の金額は、先ほどのグレード表(等級)に応じて決まるため、届け出漏れがあると本来より下がってしまう可能性があります。
もっとも、届け出ていなければ本人が負担している保険料も少ないので、必ずしも損とは言えない面もあります。ただ、本来と違う書類のままになっているため、受け取れる金額が本来と変わってしまう点は問題だと吉田さんは指摘します。
会社に生じる未払い債務とIPOへの影響
では会社側に問題はないのかというと、もちろんそんなことはありません。随時改定の届け出が出ていないと、毎月会社に届く日本年金機構からの社会保険料の請求が、正しい金額で行われていないことになります。
吉田さんは、これを見方を変えると未払いの債務が会社に眠っている状態だと表現します。
つまり、見方を変えればですね、未払いの債務が会社に眠ってるっていうふうな判定になります。
この問題は、上場を目指すIPO準備中の会社では特に重くなります。年金事務所の調査で随時改定の届け出漏れを大量に指摘され、大きな未払い債務が明るみに出るケースを吉田さんは挙げます。
その場合、主幹事証券会社への連絡が必要になり、会計監査を担う監査法人にもお金の動きは見えるため、「これはおかしいのではないか」と指摘されるおそれがあります。金額次第では、IPOスケジュールの遅延に発展する可能性もあると説明されています。
さらに、社会保険料を意図的に減らすためにわざと随時改定を出していないのではないか、と主幹事証券に疑われれば、上場時の推薦状を書いてもらえない可能性が高まります。会社や創業者にとって大ダメージになりかねません。
まとめ
随時改定(月変)は、給料が大幅に変わったときに社会保険料を臨時で決め直す届け出です。判定は複雑でプロでも見逃すことがあり、漏らすと本人にも会社にも不利益が及ぶため、給与計算とあわせて確実に行う必要があります。
- 随時改定は月額変更届から「月変」と略され、社労士が警戒する危険な届け出とされる
- 社会保険料は入社時の見込み給与で決まり、毎年の定時決定で決め直される
- 定時決定だけだと保険料の操作ができてしまうため、大幅な給料変動時は随時改定が義務付けられている
- 該当の鍵は「固定的賃金の変動」で、残業代など変動給だけの増減では該当しない
- 届け出漏れは本人への差額請求や給付減、会社の未払い債務やIPO遅延リスクにつながる






