コピペした就業規則はなぜ危険なのか
この回で扱うのは、リスナーから寄せられた1つの質問です。
会社で就業規則を初めて作成する必要があります。ネット上にあるサンプルをコピーして作るつもりなのですが、それで問題ないでしょうか?
これに対して吉田さんは、何も手を加えずに使うのは非常に大きな問題があると答えます。
ネット上にあるサンプルをコピーして何も手を加えずに使うのであれば、非常に大きな問題があると思います。
理由は、就業規則が会社とスタッフの雇用契約の一部になるからです。
雇用契約と聞いてまず思い浮かぶのは雇用契約書ですが、就業規則も同じく契約の一部だと吉田さんは説明します。
就業規則も雇用契約の一部で、就業規則に書いてある内容をもとに裁判が起こせるぐらい重要な文書なんですね。
だからこそ、コピーしたサンプルに会社にとって不利な条文や、場合によっては法律違反の条文が入っていると、あとで大きな問題になります。
従業員が知らない「退職と処分のルール」
そもそも就業規則は、会社での働き方のルールを定めたものです。ただ、働いていて目にする機会が少ないという声もあります。
安田さんも、サラリーマン時代にそこまで重要だと感じた記憶がなかったと振り返ります。
その時に私、サラリーマンとして働いていた時、そんなに目にする機会ってなかったんですよね。だから、そんな重要なんですかっていうところがすごく疑問です。
吉田さん自身も、会社員時代は自社の就業規則をあまり見ていなかったと明かします。しかし、そこには自分の権利が書かれています。
結婚や葬式などの慶弔休暇慶弔休暇 ── 結婚や出産、家族の死亡など、冠婚葬祭にあたって取得できる休暇のこと。会社ごとに就業規則で日数などが定められる。や、どんな手当がもらえるかも記載されています。
そして吉田さんが最も重要だと指摘するのは、どういう状態になったら退職になるのか、どういう状態になったら処分されるのかという点です。
権利だけでなく、自分が不利になる場面のルールも書かれている以上、従業員も中身を確認しておく必要があるということです。
会社側にとっての就業規則の意味
一方で、就業規則は会社側にとっても重要な文書です。会社を運営していれば、いい人材だけで事業を回せるとは限りません。
時にはトラブル社員っていうのが出てきたりするんです。
トラブルを起こした社員に対して、処分や、程度がひどければ退職を求めることを考えなければならない場面もあります。
その時、就業規則に「こういう状態になったら辞めさせられる」と書いておかないと、いざという時に辞めさせられないと吉田さんは言います。
確かに何か個人の思いで辞めさせたみたいな感じになりますよね。
個人の思いで辞めさせることは基本的にできません。だからこそ、処分や退職の条件を就業規則に明記しておくことが、会社の企業秩序を守る上ですごく重要だとまとめられます。
作ったら終わりではない、就業規則の見直し
就業規則は最初に念入りに作れば終わり、というわけではありません。吉田さんは、見直しは必ず必要だと断言します。
理由の1つは外的な要因です。法律は改正されるため、それに合わせて就業規則も改定していく必要があります。
だいたいですけれども、毎年一つか二つは法律が改正されるんですね。
大企業や上場企業では、法律改正のたびに就業規則を最新のものにアップデートするのが当たり前に行われています。
一方で中小零細企業では、古いものがそのまま残っていることも珍しくないといいます。
毎年の更新は大変なため、吉田さんの事務所では2年から3年に1回はアップデートすることを勧めています。
見直しをしないと、就業規則の内容がすでに法律違反になっていることもあります。
また、従業員がある日突然、法律上認められた休暇の権利を主張したとします。就業規則に書いていないからと会社が断ってしまうと、問題が起きます。
法律で認められている休暇なら会社は認めなければならず、断れば「法律の休暇も与えない会社だ」という認識につながります。
その結果、会社と従業員の信頼関係にマイナスの影響が出ると吉田さんは指摘します。
見直しが必要なのは、外的な要因だけではありません。会社自体が変わる内的な要因もあります。
例えば正社員しかいなかった会社が、初めてアルバイトを雇う場合です。正社員向けの就業規則だけでなく、アルバイト向けの就業規則も作る必要が出てきます。
こうしたさまざまな理由から、就業規則はアップデートし続けなければならないものだといえます。
外的な要因
法律の改正。毎年1〜2つは改正があり、放置すると内容が法律違反になることも
内的な要因
会社の変化。正社員だけの会社が初めてアルバイトを雇う場合など、新しい対象向けの規則が必要になる
コピペが招いた退職金トラブルの実例
では、実際にサンプルをコピーして就業規則を作り、トラブルになった例はあるのでしょうか。吉田さんは、そうした事例はたくさんあると言い、その1つを紹介します。
ある会社が、別の会社の就業規則をコピーして使っていました。そのコピー元には「退職金を支給します」と書かれていました。
しかし、コピーして使った会社の経営者は、そもそも退職金を支給するつもりがなかったのです。
就業規則に書いてある以上は、従業員さんから退職金払ってくださいって言われたら払わなきゃいけないんですね。
実際に退職者が出た時、その従業員から「就業規則に書いてあるからもらう権利がある」と主張されました。
就業規則は契約の一部です。会社は退職金を払うことになりました。まずはその退職者に支払って、そのケース自体は解決しました。
しかし問題はその先です。経営者はもともと退職金を払うつもりがなく、月額給与や賞与も退職金がない前提で設計していました。
そこで会社は、今いる従業員やこれから働く従業員に対応を迫られます。就業規則の記載に間違いがあったことを一人ひとりに説明し、同意書を取って、退職金の条項をなしに変えたのです。
さらに難しいのは、退職者に払った事実の扱いです。吉田さんは、退職金を払う際には口外禁止の条項を設けているはずだと補足します。
もしそうした条項がなく退職金の話が広まると、「あの人には払ったが、皆さんにはない」という苦しい説明を、既存の従業員にしなければなりません。
この実例は、コピペの就業規則が単なる書類上のミスにとどまらず、給与設計や従業員との信頼関係にまで影響することを示しています。
まとめ
就業規則は雇用契約の一部であり、裁判の根拠にもなる重要な文書です。ネットのサンプルをそのままコピーして使うと、会社にとって不利な条文や法律違反の条文が紛れ込み、退職金トラブルのような大きなリスクにつながります。
- 就業規則は雇用契約の一部で、裁判の根拠にもなる重要な文書
- 従業員の権利だけでなく、退職や処分の条件も書かれている
- 処分や退職の条件を明記することは、会社の企業秩序を守るために重要
- 法律改正や会社の変化に合わせて、2〜3年に1回はアップデートが望ましい
- コピペの就業規則は退職金トラブルなど、給与設計や信頼関係に影響する経営リスクになる






