「便利な手当」を聞かれた社労士の第一声
番組にはリスナーからこんな質問が寄せられました。以前の放送で、リモートワークの光熱費は手当として一律で払うのが便利という話を聞いた、他にも便利な手当があれば知りたい、という内容です。
リモートワークの光熱費を一律の手当で払うと便利という回を聞きました。他にも便利な手当があれば知りたいです。
これに対して吉田さんは、率直な感想として「ないと答えたくなる」と切り出します。「便利」という言葉のイメージがざっくりしている、というのがその理由です。
便利な手当って言われたら、正直、率直な感想としてはないですって答えたくなるんですけど。
ただし、便利と感じたい以上、その人には何か目的があるはずだと吉田さんは続けます。まず整理すべきは、そもそも手当をどう支給していくのがいいのか、という考え方だと話します。
手当は「少なく」がいい理由
吉田さんの基本的な立場は、できるだけ少ない手当構成にしたほうが会社は楽というものです。手当を増やすより、シンプルにしておくことを勧めます。
そのうえで、一般的な会社で最低限必要になりそうな手当として、役職手当、難しい仕事に対する職務手当、通勤手当などを挙げます。
それ以外は基本給でコントロールしていくのがいい、という整理です。人事評価制度と連動させながら、基本給で調整していく形です。
役職者に対して支給する手当
難しい仕事に対して支給する手当
通勤にかかる費用に対する手当
そして、吉田さんが一番伝えたいこととして強調するのが、手当の目的をはっきりさせること。何に対してお金を払っているのかが明確でないと、不満の種になると言います。
営業手当が「不満の種」に変わるとき
目的があいまいだとどうなるか。吉田さんは営業手当を例に説明します。
たとえば「暑い中でも寒い中でも外回りをして大変だから、それに報いるために営業手当をつける」という議論が社内で出たとします。それ自体を切り出せば、おかしな話ではありません。
暑い中でも寒い中でも外回りをしながら大変なことをしている。だからそれに報いるために営業手当をつけるんだという議論が出たとしましょう。
ところが、営業と事務の2職種しかない会社で、よく見たら営業の人のほうが基本給も高かったとします。すると、営業の大変さや苦労はすでに基本給に入っているのでは、という疑問が出てきます。
確かに、そうじゃなかったらこの差額は何なんだって話になってきますからね。
同じ大変さに二重で報いる形になり、かえって説明がつかなくなる、というわけです。だからこそ、手当の目的をはっきりさせることが大事だと吉田さんは繰り返します。
正社員だけの手当が許されなくなった背景
もう一つ、吉田さんが挙げるのが同一労働同一賃金の観点です。同一労働同一賃金 ── 同じ仕事をしている場合、雇用形態の違いだけを理由に待遇差を設けることを認めない考え方。パートや契約社員から待遇差の理由を問われた会社には説明義務がある
今は法律上、パートやアルバイト、契約社員から「なぜこの手当をもらえないのか」と聞かれたら、会社側は答えなければならない義務があると説明します。
正社員か契約社員かって違いなだけで、やってることは一緒で、手当がありなしってなってくると、どうして?とは思いますもんね。
過去は、手当の差を「正社員だから」という理由だけで片付けてきた、と吉田さんは振り返ります。しかし、それは不平等ではないかという議論が起きたと言います。
例として挙がるのが皆勤手当です。1カ月遅刻・欠勤・早退なしに対して月5000円や1万円を払う設計が多く、その目的は「ちゃんと出勤したこと」への支給です。
同じように出勤しているのに、正社員だけに皆勤手当を払い、契約社員やパートに払わないのは不平等です。実際に、皆勤手当は正社員以外にも払うようにという裁判例が出ている、と吉田さんは話します。
つまり、手当があればあるほど、その説明を全部会社の中で用意しておかなければならないということです。3つあれば3つ、20個あれば20個の説明が必要になります。
手当が「不平等」を生む面と、解決する面
一方で、手当にはメリットもあると吉田さんは言います。使い方次第で、不平等感を解決する道具にもなるからです。
例に挙がるのが医療機関です。患者の排泄物を扱うような大変な仕事に対して、1回につきいくらと支給する病院もあると説明します。
そうやって手当として還元しておけば、精神的に大変な仕事でも取り組むモチベーションになり、不平等感が減ります。
患者さんの排泄物を取り扱うような仕事だと大変じゃないですか。だから一回につきいくらみたいなのを支給する病院もあるんですね。
さらに、どの職場にも「大変な仕事を回避する人」が一人はいるはず、と吉田さんは指摘します。
いつもこの時間になるといないなみたいな人ね。
大変な仕事を避ける人は手当がもらえず、きちんと向き合う人は手当で還元される。そうやって金額の差になることで不平等感がなくなるのが、手当のメリットだと整理します。
目的があいまいだと、正社員だけに払うなど説明のつかない差になり不満を招く
大変な仕事に還元すれば、逃げる人と向き合う人の差が正当に反映される
従業員から手当を提案するときの作法
話は少し逸れて、従業員側からの視点にも及びます。やりたくない仕事ばかりで不平等だと感じたとき、会社に手当を作ってほしいと言えるのか、という問いです。
私ばかりやりたくない仕事をやらされていて不平等だと思ったとき、会社に「こういう手当を作ってください」と言うことはできるんですか。
安田祥子 さんからの質問
言うことは自由だが、採用されるかは会社の経営判断次第。ただし、給与設計は経営側の領域なので、従業員から言われると経営者はよく思わないことが多く、相当慎重に伝えたほうがいい、というのが吉田さんの答えです。
そのうえで、従業員の意見自体はもっともだとも言います。いきなり提案されると経営者はいい気がしないかもしれませんが、進め方を工夫すれば改善につなげられます。
吉田さんが勧めるのは、経営者側が先に動く形です。年度末に従業員アンケートを取り、「こういう手当があったらいいと思いますか」と先に聞いておけば、悪い気はしないと話します。
やるなら根回しというか、上手にそういうことを活用していくっていう手もあるかなというところですね。
絶対に払ってはいけない「その他手当」
最後に、吉田さんが「一番伝えたい」として挙げたのが、逆に絶対に払ってはいけない手当の話です。これは法律上ではなく、あくまで自身の考え方だと前置きします。
その正体は、中小企業に時々ある「その他手当」です。安田さんも「全くイメージが湧かない」と反応します。
時々中小企業にある手当で、その他手当っていうのがあるんですよ。
社長に「その他手当は何の目的で払っているのか」と聞くと、「よくわからない」と返ってくることもあると言います。何のその他なのかがはっきりしないのです。
ある程度整理されている場合でも、「他の人がやりたがらない仕事をやってくれているから」といった理由が多いと吉田さんは説明します。
それなら、職責手当や職務手当といったちゃんとした名前をつけ、その人の頑張りを認める手当にすべきだと言います。要は、目的のはっきりしない手当はやめたほうがいいという一点です。
なんとか手当と見たときに、何に対して払われているのかを誰もがわかること。そして手当そのものはなるべく少ないほうがいい。安田さんはそう回のポイントをまとめています。
まとめ
便利な手当を求める相談に対し、吉田さんの答えは一貫していました。便利さよりも目的の明確さとシンプルさこそが、不満やトラブルを防ぐ給与設計の要になるという内容です。
- 手当は少ない構成にしたほうが会社は楽で、最低限は役職・職務・通勤手当、あとは基本給で調整するのがよい
- 手当は「何に対して払うか」を明確にしないと不満の種になり、営業手当のように基本給と二重になる例もある
- 同一労働同一賃金の観点から、手当が多いほど会社は説明を用意する必要があり、正社員だけの皆勤手当は裁判例でも認められにくい
- 大変な仕事に手当で還元すれば、逃げる人と向き合う人の不平等感を解消する道具にもなる
- 目的のはっきりしない「その他手当」はやめ、職責手当などちゃんとした名前で頑張りを認めるべき






