一人目の退職、法律上やるべきことは意外と少ない
今回のテーマは、会社で初めて退職者が出たときにどう動くかです。吉田さんはまず、手続きの話に入る前に気持ちの面に触れています。
一人目の退職は、創業者や経営者にとってかなりこたえるものだと吉田さんは話します。人によっては「失恋したときのような気分だ」と言うほどだそうです。
まずは気持ちの面で負けないようにしてください。
そのうえで吉田さんは、退職の手続きそのものについて、法律上やらなければいけないことは意外と多くないと説明します。
一方で、退職はやはり揉めやすいため、実務上の論点はとても多いといいます。今回はその論点を業務面と手続き面に分けて解説していく流れです。
実はまず法律的にやらなきゃいけないことっていうのは、そんなに多くないんです。
法律上、退職時に必ずやることとして吉田さんが挙げたのは次の3つです。
- 健康保険証を回収する
- 源泉徴収票を発行する
- 本人が希望すれば離職票を発行する
吉田さんによると、法律面で必須なのはこれくらいだといいます。ただし、実務では論点が多いため、以降で順番に説明していきます。
業務面①引き継ぎで出る「本性」への備え
ここからは業務面の論点です。まず退職が決まったら、その人が担っていた業務の引き継ぎが必要になり、引き継ぎのスケジュールを決めていくことになります。
吉田さんは、退職は人の本性が出やすい場面だと指摘します。最後まで協力的に引き継ぐ人もいれば、退職が確定した途端に手を抜く人もいるといいます。
そのため会社の管理としては、手を抜く人がいるかもしれないという前提で動いた方がいいと吉田さんは話します。「引き継いどいてね、よろしく」で済ませないという考え方です。
具体的には、上長や責任者が引き継ぎ計画を管理することを勧めています。退職する人が計画を作った場合はそれが適正か確認し、引き継ぐ側が作った場合は実現可能かを確認するという二方向のチェックです。
業務面②退職を「いつ・どう社内に伝えるか」
次の業務面の論点は、退職を社内へいつ伝えるかです。退職日まで社内に何も言わないことはないため、アナウンスのタイミングを考える必要があると吉田さんは話します。
これは退職理由によってタイミングや伝え方が変わる難しい部分だといいます。円満退職であれば、早めに伝えて挨拶し、卒業のような形で送り出す流れになります。
一方で、退職勧奨退職勧奨 ── 会社が従業員に退職を促すこと。あくまで本人の合意による退職を目指すもので、一方的に辞めさせる解雇とは区別される。や解雇で辞めるケースもあります。ひどいケースでは「明日から会社に来なくていい」「給料満額出すので自宅待機してください」といった形になることもあると吉田さんは説明します。
そうした場合は、誰かが代理で「こういう理由で退職になりました」と伝える流れになります。ただし退職理由まで言う必要はない、というのが吉田さんの整理です。
揉めやすいポイント:退職届と有給消化の認識ズレ
吉田さんが「すごく重要なのに抜け落ちがある」と強調するのが、退職届を書いてもらうことです。一身上の都合による自己都合退職が前提の話です。
本人が自ら辞めたという証拠が書面でないと、後から「会社から辞めさせられた」と言われる可能性があると吉田さんは指摘します。だからこそ退職届を書いてもらい、会社で保管するよう勧めています。
必ず本人に退職届を書いてもらって、会社で保管してください。
もう一つ、地味だが意外と揉めるのが有給の消化と最終出社日の認識のズレだと吉田さんは話します。
会社側は有給の申請が上がってこないと、在籍期間の最終日まで実際に出社して引き継ぎしてもらえると考えがちです。ところが本人は、最後の2週間や1カ月は有給を取るつもりだった、というケースがあるといいます。
吉田さんは、それが発覚してからでは遅いと注意します。有給を使う権利は非常に強く、残り労働日が20日で有給が20日ある場合、全部使わせてくださいと言われれば会社は基本的に認めなければならないからです。
退職金を支給する代わりに出社してもらう交渉も不可能ではないものの、本来有給は買い取りできない、と吉田さんは補足します。だからこそ、有給を消化する前提で引き継ぎ計画や社内アナウンス、最終出社日の挨拶までを組み立てる必要があるといいます。
手続き面:退職時にやる9つのこと
ここからは手続き面です。吉田さんは「淡々としているが抜け落ちが多い」として、一つずつ説明していきます。
最初はアカウントの削除です。退職者が使っていたアカウントは削除し、使用不能にする必要があります。ひどい会社では削除されず、機密情報が退職者から閲覧し放題になっていることがあると吉田さんは注意します。
次にパスワードの変更です。個人アカウントがなくパスワードで入るシステムの場合、しっかりした会社は退職者が閲覧できたパスワードを変更する仕組みにしていると説明します。
3つ目は備品の返却です。パソコンをそのまま持って退職したり、制服を返さず辞める人も珍しくないため、備品はきちんと返却してもらいましょうと吉田さんは話します。
4つ目は誓約書です。しっかりした会社では、機密保持や競業避止競業避止 ── 退職後などに、同業他社への就職や競合事業を一定期間行わないよう約束させること。実務上の効力には限界があるとされる。の文言が入った誓約書を提出してもらうことが多いといいます。
吉田さんは、この誓約書は実務的にそれほど効力はないとしつつ、「会社の情報を持ち出さないでくださいね」と最後に確認する意味で提出してもらった方がよいと話します。
5つ目は退職金の支給準備です。退職金制度がある会社は、退職金がいくらになるかを集計して支給する必要があります。
6つ目は健康保険証の返却です。冒頭でも触れられた点で、返却してもらい、最終的には役所へ返すことになります。
7つ目は源泉徴収票の発行です。普通に退職すれば基本的に源泉徴収票が必要になるため、本人に交付します。
8つ目は離職票です。本人が希望しなければ原則発行しなくてよいものの、後から忘れた頃に「離職票をください」と言われるより、原則発行して渡しておいた方がよいというのが吉田さんの考えです。
最後に必ず:預かってはいけないものの確認
最後の論点は、預かってはいけないものを預かっていないかの確認です。本来あってはいけないことですが、退職時に確認して返却するよう吉田さんは勧めています。
ブラック企業の例として、外国人労働者から在留カードやパスポートを預かり、会社のロッカーに入れて辞めさせないようにしているケースを挙げています。そうした会社は少ないとしつつ、注意を促しています。
吉田さんは、それに限らず会社が預かりっぱなしになっているものがないかを確認し、返すものはすべて返すことがトラブルの予防になると話します。
まとめ
初めての退職では、法律上必須なのは健康保険証の回収・源泉徴収票・離職票くらいですが、実際に揉めやすいのは業務面と手続き面の細かな論点です。吉田さんは、手を抜く人がいる前提で引き継ぎを管理し、退職届や有給消化の認識を早めにそろえることの大切さを強調しました。
- 法律上必須なのは、健康保険証の回収・源泉徴収票・希望者への離職票の3つ
- 引き継ぎは責任者が計画を管理し、退職届は必ず書面で保管する
- 有給消化と最終出社日の認識ズレは、発覚前に前提として計画へ織り込む
- 手続き面はアカウント削除から備品・誓約書・退職金・各種書類まで9項目を一つずつ確認する
- 預かってはいけないものは絶対に預からず、預かっているものは最後にすべて返す






