最初の1人はどう採用する? まず必要になるのは内定通知書
今回のテーマは、創業した会社が最初のスタッフを受け入れるときに何をすればよいか、です。吉田さんは、最初の1人は知り合いを採用するケースが多いと話します。
ただ、最初から求人広告やハローワーク経由で採用することもあります。だからこそ、正しい入社手続きの手順を知っておく必要があると吉田さんは言います。
面接をして採用しようと決めたら、会社がまず行うのは内定通知書の発行です。採用内定通知書は会社としての発行義務はありませんが、ほとんどの会社が行っているとのことです。
一人目の入社で悩むような中小企業では、募集枠が1人や2人と少ないため、内定辞退があると採用が全部やり直しになります。だからこそ内定辞退を防ぐことが重要だと吉田さんは強調します。
内定通知書はメール添付でいいのか
採用内定通知書は、Wordファイルで作ってPDFをメール添付で渡す、という合理的な方法もあります。ただ吉田さんは、その方法をあまりお勧めしていません。
理由は、入社予定者が他社からも内定をもらっている可能性があるためです。気持ちが高まらなければ、辞めますと言われる可能性があると吉田さんは指摘します。
採用内定通知書もただメールで送るとかじゃなくて、例えば手渡しにするとか。
手渡しにしたうえで、どういう成果を上げてほしいのか、どんな期待を持っているのかを熱量高く話す。そうすると、これから会社の一員になるんだと思ってもらえて、内定辞退の可能性が減るのではないかと話します。
企業規模にもよりますが、少し大きな会社が行う内定式も、こうした内定辞退を防ぐ目的があるのではないかと吉田さんは推測します。ここまでが入社前の話です。
雇用契約書は労働条件通知書とどう違うのか
入社前後にやることとして、次に出てくるのが雇用契約書です。労働基準法では労働条件通知書を発行しなければならないと決まっています。
労働条件通知書は通知書なので、会社が労働者に一方的に通知すればよいものです。ただ社労士としては、労働条件通知書の発行だけはお勧めしていないと吉田さんは言います。
一方的な通知ですから、これ聞いてませんでした、見てませんでしたって言われる可能性がゼロじゃないからです。
そこで、会社と本人の双方の合意が確認できる雇用契約書という形で作ることをお勧めしています。
労働条件通知書と雇用契約書をそれぞれ1通ずつ作らなければいけないのか、と質問されることもあるそうですが、そんなことはないと吉田さんは答えます。
労働条件通知書兼雇用契約書という形で、1枚の書類にまとめることが可能です。合理的に進めたい会社が多いため、ほとんどの会社は労働条件通知書と雇用契約書を一体型にして締結しているとのことです。
会社が労働者に一方的に通知するもの。聞いていない・見ていないと言われる余地が残る。
会社と本人の双方の合意を確認できる文書。社労士としてはこちらの形での作成を勧めている。
入社時の健康診断と個人情報の収集
入社手続きはまだあり、入社時には健康診断を行う必要があります。社会保険に加入するような週30時間以上働く人については、入社時に健康診断を行うことが安全衛生法で決まっています。
入社時の健康診断をやっていないと、実際に罰金になったケースはあまりないものの、理論上は50万円以下の罰金になる可能性があると吉田さんは説明します。
次に個人情報の収集です。これは入社後でもよいのですが、この後の入社手続きで必要になるため、先に生年月日やマイナンバーなどをクラウドツールで収集することが多いとのことです。
吉田さんは、収集に使うツールの例としてSmartHRや人事労務フリーを挙げています。ここまでが入社前や入社前後に行う手続きの話です。
入社後に必要な3つの保険手続き
ここからは入社後の話です。本当に最初のスタッフを迎えると、いろいろな手続きがあると吉田さんは言います。
まず一人目のスタッフの場合、労災保険に加入する必要があります。労災保険は人ごとに入るのではなく、会社で丸ごと加入する仕組みです。
最初の1人までは、労災保険に加入するという手続きを会社が行ってこなかったはずです。そのため、最初の1人については労災保険に入る手続きが必要になります。
2人目以降については、労災保険は基本的に自動的に適用される仕組みのため、加入手続きは必要ありません。ただし支店を出したり新しく事業所を作る場合は、労災保険の加入手続きが必要になるケースもあります。その際は所轄の労働基準監督署や社労士に確認して正しい手続きをしてください。
労災保険の次が雇用保険です。ざっくり言うと週20時間以上働く人は雇用保険に加入させる必要があるため、加入手続きが必要になります。
雇用保険の手続きをサボっていると、退職時に失業給付がもらえないことになり、大きく揉める可能性があります。特に必ずやっておいた方がよいと吉田さんは念を押します。
3つ目が社会保険の手続きです。これを会社で行わないと、新入社員の健康保険証がいつまでも届きません。
新入社員が病気になって病院に行こうとしたときに健康保険証がなければ、なぜ私の健康保険証がないのかということになって困ってしまいます。そうした事態を防ぐためにも、きちんと社会保険に加入させる必要があります。
法的手続きの後に忘れがちな会社独自の受け入れ準備
ここからは会社独自の話です。法的なハードルをクリアしたら入社手続きが終わりというわけではなく、そこからいろいろなものがあると吉田さんは言います。中小企業ではこの部分がグダグダになっているのも珍しくないとのことです。
例えば製造業なら制服やヘルメットを作ったり、その人の工具を発注したりする必要があります。事務職ならアカウントの発行があります。
吉田さんの会社の例では、勤怠管理のキングオブタイムのアカウント発行や、給与明細をウェブで見るためのマネーフォワードクラウド給与のアカウント発行を行っているそうです。
それ以外にも、SlackやチャットワークやNotionのアカウント発行など、会社ごとに準備するものはたくさんあります。数が多いと抜け漏れが起きがちだと吉田さんは話します。
吉田さんの社会保険労務士法人ワンハートでは、Notionの中に入社時に何をするのかというリストを作っているそうです。現在は吉田さんを含めて5人体制で、スタッフを受け入れるごとにやること項目が増えてきたと話します。
一人目のときにやったのに記録し忘れていた、ということもあったそうです。リストをちゃんと作っていないと抜け漏れになるので気をつけた方がよいと吉田さんは言います。
受け入れ方の差が後々の不満につながる
最後に、細かいけれど後々言われないよう気をつけた方がよい点として、社員ごとの受け入れ方の差を挙げています。
例えばAさんが入社したときには社長が自らディナーに連れて行って歓迎会をしたのに、Bさんが入社したときには何もなかった、というケースです。
これって(Bさんが入社した時には何もなかったことが)Bさんからするとすごく意欲が下がってしまうかもしれないじゃないですか。
歓迎会やランチ会といったものも含めて、必ず全員を同じような形で受け入れた方が後々揉めないと吉田さんは話します。こうしたところは落ちがちなので気をつけてほしいと締めくくっています。
まとめ
一人目の社員を採用したときには、内定通知書の発行から雇用契約書、健康診断や個人情報の収集、そして入社後の労災・雇用・社会保険の手続きまで、順を追ってやるべきことがあります。さらに法的手続きの後に続く会社独自の受け入れ準備や、社員ごとの扱いの差にも注意が必要です。
- 内定辞退を防ぐため、採用内定通知書はメール添付より手渡しで期待を伝える方が効果的
- 労働条件通知書だけでなく、双方の合意を確認できる雇用契約書を作るのが望ましく、一体型にまとめられる
- 入社時の健康診断は週30時間以上働く人に必要で、理論上は50万円以下の罰金の可能性もある
- 一人目は労災・雇用・社会保険の加入手続きが必要で、特に雇用保険と社会保険は揉めやすいので確実に行う
- アカウント発行など会社独自の受け入れ項目はリスト化し、社員ごとの扱いに差が出ないようにする




