そもそも健康保険の被扶養者とは何か
今回のテーマは、健康保険の被扶養者の認定の取り扱いが2026年4月1日から変わるという話です。給与収入のみの人については、労働条件通知書の記載内容をもとに被扶養者かどうかを判定する形になります。
吉田さんはまず、そもそも被扶養者とは何かという前提から説明しています。「扶養者」に「被」がついた言葉で、誰かから養われている人を被扶養者と呼びます。
養う人がいなければ被扶養者は存在しません。その養う人にあたるのが被保険者 ── 健康保険などに加入し、保険料を負担している本人のこと。会社員であれば勤務先を通じて社会保険に加入している人を指す。です。
多いパターンとして、昭和的な家族像を例に挙げています。企業でサラリーマンをするお父さんが社会保険に入って被保険者になり、専業主婦やパートの奥様、子どもが被扶養者になるという構図です。
被扶養者は保険料が上がらない、その仕組み
被扶養者になる最大のメリットは、無料で健康保険に入れる点だと吉田さんは説明します。制度としての賛否はあるとしつつ、仕組みを解説しています。
健康保険料は、被保険者であるサラリーマン本人が会社からいくら給料をもらっているかで決まります。給料が高ければ保険料も高く、低ければ低くなります。
平等性を重視するなら、被扶養者が1人増えるごとに保険料が上がるようなルールも考えられますが、現状はそうなっていません。結果として、被扶養者が何人いても健康保険料は変わりません。
だからこそ、入れるのなら入ったほうが得だというのが健康保険の扶養だと吉田さんは述べています。
年収の基準と、税金との時間軸の違い
扶養に入れるかどうかの原則は、年間の収入が130万円未満であることです。この130万円の判定方法に、税金との勘違いが起きやすいと吉田さんは指摘します。
健康保険の場合、未来に向かった1年間の見込み収入で130万円未満かどうかを判定します。一方で税金は1月1日から12月31日までに稼いだ金額で決まるため、時間軸が違う点に注意が必要です。
未来に向かった1年間の見込み収入で判定する
1月1日から12月31日までに実際に稼いだ金額で判定する
基準は原則130万円未満ですが、年齢によって枠が広がります。60歳以上の人は180万円未満、19歳から23歳までの大学生や専門学生は150万円未満です。
60歳以上が180万円未満なのは、年金をもらって生活スタイルが変わっているためだと説明されています。19歳から23歳が150万円未満に広がったのは最近の改正で、この世代の働き控えが労働力不足の一因という説があるためだとされています。
何が変わるのか、残業代はカウントしなくてよくなる
これまで130万円未満の判定は、ざっくりとした見込み年収から行っていました。今後は給与所得のみの人について、労働条件通知書の契約内容で判定することになります。
従来は、残業やその他の収入も含めて130万円以上になったら健康保険を抜けなければいけないのではないか、という考え方が一般的でした。
今後は認定基準が明確化され、原則として労働条件通知書の契約内容から想定される年収で判定します。具体的には、所定外労働に対する給与、つまり残業代はカウントしなくてよくなります。
たとえば労働条件通知書から計算した年収が125万円なら、130万円未満なので扶養に入れます。従来はここでたまたま残業や一時収入で超えると扶養から抜ける必要があるのではという論点がありましたが、それがなくなります。
吉田さんは、働く人にとって有利な改正だと評価しています。ただし平等性の観点では、扶養する家族が少ない人から見れば、自分の納めた保険料が知らない人に流れているという見方もあるかもしれないと補足しています。
人手不足の会社にとってプラスになる点
ここからは会社側の実務でどんな変化が起こるかという話に移ります。まず雇用する側、特に人手不足の業界にとってのメリットです。
130万円未満のパートを多く雇う飲食店や小売店、サービス接客業などでは、たまたま残業させてしまったという理由で被扶養者から抜けなくてよくなります。労務管理がしやすくなり、プラスになると吉田さんは述べています。
労働条件通知書が曖昧な会社に迫られる対応
一方で、労働基準法で定められているにもかかわらず、労働条件通知書を出していない会社や、記載内容が曖昧な会社は珍しくないと吉田さんは指摘します。
そうした会社では、契約書からは年収が130万円未満だとわからないケースが出てきます。たとえば労働時間が「シフトによる」としか書かれておらず、何時間働く契約かわからないため年収も算定できない、という状態です。
その結果、扶養認定ができないとスタッフから相談を受けたり、そもそも労働条件通知書を出してほしいというリクエストが来たりする可能性があります。会社の社長や労務部門は、これに対応できるよう準備が必要だと述べています。
使っている労働条件通知書や雇用契約書のひな形が、年収130万円未満だと読み解ける内容になっているかを確認したほうがよいと吉田さんはすすめています。
パートと取り交わす契約書は曖昧な書き方が多く、「シフトによる」だけでは130万円未満かどうかがわかりません。差し替えを求められる可能性があるうえ、契約内容が不明確なこと自体がトラブルの原因になるため、変えたほうがよいとされています。
契約書だけ短時間に見せる小手先の対応が招くリスク
もう一つの注意点として、スタッフ側から出てきそうな相談を吉田さんは挙げています。被扶養者であり続けたいスタッフが、契約書上だけ短く働いている体裁にしてほしいと求めてくるケースです。
実態はフルタイムやたくさん働くのに、書面だけ短時間に見せてほしいという相談が社長のところに来るかもしれません。これについて吉田さんは、まず倫理的によくないのでやめるべきだとしています。嘘をついている状態だからです。
さらに労働時間が増えると、被扶養者かどうかとは別に、社会保険に加入させなければいけないのではないかという議論も出てきます。
最終的に困るのは経営者自身や労務部門です。年金事務所の調査 ── 日本年金機構が行う、事業所の社会保険加入状況などを確認する調査。加入漏れが見つかると過去にさかのぼって加入手続きを求められることがある。で社会保険加入を求められた場合、最大2年間さかのぼって加入させる必要があります。
その間の社会保険料は会社が負担することになります。本人に請求できる権利はあるものの、現実には回収が難しく、会社が全部立て替えることにもなりかねません。
悪気なく働きすぎた微妙なケースはどうするか
極端なケースだけでなく、悪気はなかったが結構働いてしまったという微妙なケースもあります。この場合はFAQなどを見るとギリギリセーフという扱いだと吉田さんは説明します。
ただし契約の趣旨から考えると、できるだけ本来の契約に沿って働いてもらうのがよいとしています。130万円未満と決めたなら、その枠内に収める努力が大切です。
業務上の必要性があって残業し超過してしまった場合でも、超過が少なくなるようにするのが、後々困らないためのポイントだと述べています。
- 契約書のひな形が130万円未満とわかる内容か確認する
- 曖昧な「シフトによる」などの記載は具体的に差し替える
- 契約書だけ短時間に見せる小手先の対応はしない
まとめ
2026年4月1日から、給与収入のみの人の被扶養者認定は労働条件通知書の契約内容で判定され、残業代はカウントされなくなります。働く人には有利な改正ですが、会社側は契約書の整備が求められます。
- 給与収入のみの人は労働条件通知書の内容で被扶養者かどうかを判定するようになる
- 所定外労働に対する残業代はカウントしなくてよくなり、働く人には有利な改正
- 原則130万円未満だが、60歳以上は180万円未満、19歳から23歳は150万円未満
- 曖昧な契約書は年収が読み解ける内容に差し替える準備が必要
- 実態と違う短時間の契約書で乗り切ると、社会保険の遡及加入など会社が困るリスクがある



