記念すべき200回で選んだテーマはカスハラ対策
この回は、10分で労務がわかるラジオの200回記念として放送されました。特別企画があるのかというと、吉田さんは「ないです」と語り、いつも通り実務の話をしていくと述べています。
今回のテーマは、カスハラ対策の義務化です。年末年始に法改正のダイジェスト版を放送していたため、その中からカスハラだけを取り出して掘り下げる構成になっています。
吉田さんによると、この義務化は2026年10月施行という予想が大方で、そうなる可能性が高いと見られています。ただし変更の可能性もあるため、厚生労働省の発表に注目するよう促しています。
これ法律が施行されるかどうか、改正が例えば極端な話、延期になったりするかもしれないんですけど、そういうことがあったとしても必ず必要になる話なので、健全な会社を運営していく上で必要になります。
吉田さんは、施行を待たずに早速取り組んでよい内容だと話しています。法改正への対応というより、健全な経営に必要な取り組みとして位置づけている点が特徴です。
そもそもカスハラとは何か。厚労省の定義を読み解く
吉田さんはまず、厚生労働省が示すカスハラの定義を紹介します。読み上げた条文はかなり難しいとしつつ、要点を3つの条件に整理しています。
顧客からの言動
クレームや要求など、顧客からなされたものであること
社会通念上不相当
要求の内容の妥当性に照らして、その手段や対応が社会通念上不相当であること
就業環境が害される
その手段や対応により、労働者の就業環境が害されること
わかりやすい例として、吉田さんは飲食店を挙げます。ちょっとした間違いがあっただけなのに「土下座しろ」と強要するような行為が、カスハラにあたると説明しています。
一方で難しいのが、2つ目の社会通念上不相当という条件です。どこまでが不相当なのかの線引きは非常に難しいと吉田さんは述べ、この点は後半で改めて触れています。
3つ目の就業環境が害されるという条件は、パワーハラスメントの定義と同じ考え方だと吉田さんは説明します。働く環境が悪い状態になっていくことが条件になっています。パワーハラスメント ── 職場で優越的な関係を背景に、業務上必要な範囲を超えた言動で就業環境を害する行為。厚労省の定義でも就業環境が害されることが要件のひとつとされる。
土下座、しつこいナンパ、契約外の要求。具体例で見るカスハラ
吉田さんは、カスハラにあたる具体的な行為をいくつも挙げていきます。まず先ほどの、従業員に土下座を強要する行為が代表例として示されています。
次に、労働者のプライバシーに関わることを聞く行為です。店員をナンパして電話番号を聞くような行為も、しつこいとカスハラになりうると吉田さんは指摘します。
時々は店員さんをナンパして付き合ってますみたいなことをしている人いますけど、それもなんか一歩間違えばカスハラになってしまう。しつこいとまずいですよねって話です。
続いて、契約内容を著しく超えたサービスの要求です。労務相談の契約しかしていないのに給与計算をやれと迫るケースや、60分で契約したマッサージ店で90分やれと求めるケースが例に挙げられています。
不当な値引きの要求もこの類型にあたります。契約外の要求を押し通そうとする行為が、カスハラに該当していくと吉田さんは説明します。
さらに、蹴る、殴る、ものをぶつける、唾を吐きかけるといった身体的な攻撃も当然カスハラにあたります。読み上げればキリがないほど、該当する行為は幅広いと吉田さんは述べています。
方針の明確化、相談窓口、事実調査。会社がとるべき措置
法改正により、事業主にはカスハラ対策が義務づけられます。ここから吉田さんは、会社がやらなければいけないことを順番に整理していきます。
1つ目は、カスハラは許さないという方針の明確化と、その周知啓発です。就業規則にカスハラへの会社の対応を定めたり、ホームページや社内ポータルにカスハラ撲滅の宣言を掲げたりすることが必要になります。
ただし宣言だけでは実効性がありません。2つ目として、カスハラ相談窓口の設置が求められます。相談が来たら、そこで話が終わるわけではないと吉田さんは続けます。
吉田さんは、この考え方はセクハラやパワハラの相談窓口と同じだと述べています。問題が起こったら事実調査をして、会社として適切な対応をしていく流れは共通しています。
該当が認定された場合の措置として、わかりやすいのはカスハラをしてきた客を入店禁止にすることです。殴る蹴るのように刑法違反にあたる場合は、警察や弁護士への相談が必要になると吉田さんは説明します。
意外な盲点。会社が「何がカスハラか」を先に定義する
吉田さんが「意外と落ちている」と指摘するのが、そもそも会社として何がカスハラなのかを定義しておくことです。ここが盲点になっているのではないかと述べています。
理由は、人によってものの感じ方が違うからです。吉田さんは、真面目すぎるスタッフの例を挙げます。
たとえば、ミスをして顧客から土下座を強要されているスタッフがいたとします。客観的には明らかにカスハラでも、本人が「自分が悪いことをしたのだから土下座してもしょうがない」と考えてしまう人も世の中にはいる、というのです。
本人がすごい真面目すぎると、いやこれは私が悪いことをしたんだから、土下座をしてもしょうがないかもしれないとかっていうふうに考える人も世の中にはいるはずなんですよ。
だからこそ、この行為はカスハラですと会社の中で例示しておくことが重要だと吉田さんは説きます。自社のビジネスモデルで起こりそうなカスハラを想定し、研修や周知をしておく必要があります。
これを怠ると、現場でカスハラが起きていても本部に連絡が来ないことが起こりえます。本人が相談しないまま、土下座しているスタッフを他のスタッフが見れば、職場の雰囲気そのものが悪くなっていくと吉田さんは指摘します。
(土下座しているスタッフを見た他のスタッフは)いや、この職場ではなんかミスしたら土下座しなきゃいけない職場なのかみたいになるわけですよ。前向きに働くの嫌だなってなって、職場の雰囲気も良くなくなっていく。
吉田さんは、最悪のケースにも触れます。本人がカスハラだと認識しないまま悲観して自ら命を絶ってしまった場合、遺族から「なぜきちんと研修してこなかったのか」と問われ、大きな問題になりうると警鐘を鳴らしています。
だからまず、会社としてカスハラの定義や、社会通念として認められないカスハラがどういうものかを教える作業が要ります。そのうえで、上がってきた相談を聞き、事実調査をして対策していく流れになると吉田さんはまとめています。
本当のカスハラ対策は「強いビジネスモデル」をつくること
ここから吉田さんは、カスハラ対策の難しさの核心に踏み込みます。社会保険労務士としてクライアントワークをしている立場から、実感を込めて語っています。
強いビジネスモデルを作っておかないと、お客様を入店禁止にするとか、取引停止にするっていうのはできないんです。
吉田さんが挙げるのは、資金繰りが厳しい会社の例です。来月にも資金ショートしそうな状況で、大口の顧客からカスハラを受けている。その契約を切れば会社が立ち行かなくなる。そうなると、カスハラを黙認する選択肢を取らざるをえなくなる、というのです。
吉田さん自身も、開業直後は大変だったと振り返ります。今から考えるとすごい客がいたと、当時の経験を率直に語っています。
「お前絶対潰してやるからな」って言われたことあります。すげえ大変だった。今思い出してもやっぱりすごいことだよなと思ってます。
開業から5年経ち、おかしいと感じる客がいたら「今後はここまでしかできません」と話して解約できるようになったと吉田さんは言います。ただし、それができるのはいろいろな依頼が来る強いビジネスモデルがあるからだと強調しています。
弱いビジネスモデルのままだと、ひどいことを言われても契約を続けなければならなくなります。すると、それを見ている優秀なスタッフの心が離れていくと吉田さんは指摘します。
(会社が対応しないのを見た優秀なスタッフは)会社は何もしねえのかっていうふうになります。
吉田さんは、サラリーマン時代の自身の経験にも触れます。ここまで言われて、なぜ会社は契約を解約しないのか、なぜ代表が出て行って書面を出したり話しに行ったりしないのか、と感じたことがあったと語っています。
そうして忠誠心が冷め、優秀な人から辞めていけば、会社が崩壊する可能性がある。吉田さんはここに分岐があると整理します。
カスハラをしてくる客をきちんと断れる。真面目なスタッフが前向きに働ける好循環が生まれる
カスハラ客とダラダラ付き合わざるをえない。優秀な人から辞めていく職場になる
吉田さんは、法律の要請でカスハラ対策をやるという話にとどめず、改めて自社のビジネスモデルや付き合う顧客を考えるきっかけにしてほしいと述べます。そういう観点から取り組める会社が、今後も伸びていくという見立てで話を締めています。
専用Xアカウントの案内と番組からのお知らせ
最後に、番組からのお知らせがあります。10分で労務がわかるラジオには専用のXアカウントがあり、最新の回が自動的に流れるようになっています。
アカウント名は「10分で労務がわかるラジオ」で、検索すればフォローできると吉田さんは案内しています。番組ではXでも労務について発信しているとのことです。
吉田さんが所属する社会保険労務士法人ONE HEARTでは、急成長を遂げる会社に後悔しない働き方の設計を提供しています。労務に悩みのある場合はホームページから問い合わせられ、初回相談は無料と案内されています。
まとめ
カスハラ対策義務化は、方針の明確化や相談窓口の設置といった法対応が中心です。ただ吉田さんは、そこから一歩踏み込み、何がカスハラかを会社が先に定義することと、カスハラ客を断れる強いビジネスモデルをつくることを、本当の意味での対策として位置づけていました。
- カスハラ対策義務化は2026年10月施行の予想。ただし施行を待たず取り組んでよい内容とされる
- 厚労省の定義は「顧客からの言動」「社会通念上不相当」「就業環境が害される」の3条件
- 会社は方針の明確化と周知、相談窓口の設置、事実調査と再発防止措置を求められる
- 意外な盲点は、何がカスハラかを会社が先に定義し研修すること。真面目な人ほど自分で抱え込みやすい
- 強いビジネスモデルがなければカスハラ客を断れず、優秀な人から辞めていく。法改正は経営を見直す機会にもなる




