一度出社して移動する働き方、勤務時間はどう扱う?
今回の相談は、移動時間が長い従業員の給与に関するものです。仕事柄、直行直帰が難しく、一旦出社してから数時間移動して作業し、また戻ってくるような働き方が前提になっています。
仕事柄直行直帰が難しく、一旦出社して数時間移動して作業し、戻ってくるような場合、出社から退社まで全ての時間を勤務時間とするしかないでしょうか。手当化は可能なのですが、時間外がオーバーしそうで、勤務時間以外とする整理は可能でしょうか。
吉田さんは、こうした働き方だと業種や職種の都合で労働時間が長くなりやすいと説明します。具体例として、建設業、保険営業、訪問系のサービス業種の3つを挙げています。
建設業の場合、会社に保管された資材をピックアップしてから現場に移動するケースがあります。資材を扱う瞬間から労働が始まると考えられるため、拘束時間が長くなりがちだといいます。
保険営業の場合は、顧客情報の管理が厳しく、パソコンや個人情報を含む書類を必ず会社に保管するルールになっていることがあります。すると一度会社に立ち寄ってから顧客訪問することになり、建設業と同じ論点で時間が長くなります。
訪問系のサービスは、家事代行や訪問看護などが例です。利用者のところへ移動してサービスを提供し、また戻ってくるため、その移動時間が労働時間にあたるのではないかという議論になります。
吉田さんは、相談の後半で「手当化は可能」とある点に注目します。ある程度収益はあるものの、時間外がオーバーしそうということは、36協定の管理で困っている状況だと読み解いています。
結論はどうなる?出社してからの移動と労働時間
吉田さんはまず結論を示します。一度出社してからお客さんA社、B社と移動する場合、その移動は労働時間にあたるとしています。
建設現場の例でも、資材をピックアップする会社に必ず来るルールになっていれば、その後の移動時間も労働時間として判定されやすいと説明します。
つまり、移動時間を労働時間として扱わない整理には一定のリスクがある、というのが相談への基本的な回答です。
どんな移動なら労働時間にならない?3つの代表例
ここから吉田さんは、そもそもどの移動が労働時間に該当するのかを整理していきます。まず、労働時間として扱わなくてよい移動の代表例を3つ挙げます。
1つ目は通勤時間です。通勤中は打ち合わせや資料作成などをするわけではなく、電車の中で動画を見たりポッドキャストを聞いたりと自由に過ごせるため、基本的に労働時間に該当しないという考え方です。
2つ目は直行直帰する場合です。東京本社の人が千葉県の客先へ直行・直帰するようなケースで、その間何をしていてもよいことから、通勤時間と同じく労働時間には該当しないのが一般的だとしています。
3つ目は出張先への移動です。東京本社から福岡へ前乗りで移動したり、朝早く起きて移動したりする場合も、労働時間に該当しないという整理が一般的だと説明します。
通勤、直行直帰、出張先への移動。その間の過ごし方が自由なため
客先A社から別のB社への移動、一度出社して資材をピックアップして現場へ向かう移動
移動が労働時間になるのはどんな場合?
次に、移動が労働時間になるケースの原則です。客先A社を訪問した後にB社へ移動する場合、すでに仕事が始まっており、移動中の過ごし方にも一定の拘束性があると考えられるため、A社からB社への移動は労働時間になるのが一般的です。
また、一度会社に集合して資材をピックアップし、現場に向かうようなケースも、一般的には労働時間として判定されると吉田さんは説明します。
これらは原理原則であり、この通りに整理しておくのが無難でリスクも少ないとしています。
移動が労働時間と認められなかった裁判例とは?
一方で吉田さんは、相談者に寄り添う形で、移動時間が労働時間と判定されなかった裁判例も調べたと話します。ただし地方裁判所レベルであり、業界のスタンダードな考え方ではない点は前置きしています。
福井地裁で令和3年3月10日に出た判決では、自宅から集合場所へ自家用車で向かい、そこから社用車に相乗りして現場へ向かうケースが扱われました。移動時間中に業務をしていなかったため、労働時間としては認定されませんでした。
吉田さんは、こうした裁判の結果を持ち出して自社の事例に合うか検討したうえで、労働時間ではないと整理することもできなくはないとしています。ただし一般的な考え方とは異なるため、リスクを理解したうえで進めるべきだと念を押します。
裁判例を使うときに、なぜ弁護士へ相談すべき?
移動時間を労働時間として扱いたくない場合、吉田さんは弁護士への相談を勧めています。自分たちも実際にそうしているといいます。
理由は、裁判の結果はそれぞれの事案ごとに前提条件があるからです。その前提条件のもとで出た結論なので、世の中にオールラウンドに使えるとは限らないと説明します。
そのため、裁判例の前提条件と、相談者自身が置かれた前提条件を比較したうえで進める必要があるとしています。
吉田さんは、都合のよい裁判結果だけを切り取って解釈するのは避けるべきで、その裁判が法的にどういう意味を持つのかを顧問弁護士などの専門家に確認したうえで決めるのがよいとしています。
労働時間と認定されにくくする工夫は?
吉田さんは、労働時間として認定されにくくするための考え方も示します。ポイントは、移動中に会社の指示や拘束がないようにすることです。
- 移動時間中にウェブ会議をしない
- 移動時間中に会社から細かく指示が出ていない
- 集合して相乗りで行くか直行直帰で行くかを本人が選べるようにする
一度集合するタイプでも、相乗りのバスに乗るか直行直帰で行くかを自由にしておけば、労働者に選択の裁量が生まれます。すると労働時間にあたらない可能性が高くなると説明します。
こうした要素を積み上げることで、労働時間に該当しないという整理も一つの方法としてできなくはない、というのが吉田さんの回答です。
ただし基本は原理原則に戻ると吉田さんは強調します。会社への出社が義務付けられていたり、一度出社してから移動する場合は、その時間は労働時間に該当するはずだとしています。
吉田さんは、通勤時間が労働時間にならず、客先間の移動時間が労働時間になる理由には、腹落ちするようなロジックはないとも率直に話します。それでもそういう扱いになっているため、進めるならリスクありきだと伝えています。
まとめ
出社後の移動が労働時間にあたるかという相談に、吉田さんは原理原則と例外の両面から答えました。一度出社してからの移動は原則として労働時間になる一方、前提条件によっては労働時間と認められなかった裁判例もあり、活用するなら専門家への相談が前提になります。
- 通勤・直行直帰・出張先への移動は、その間が自由なため原則として労働時間に該当しない
- 客先間の移動や、一度出社して資材をピックアップして現場へ向かう移動は、原則として労働時間になる
- 移動時間を労働時間としない整理には一定のリスクがあり、36協定などの制約だけを理由に安易に進めるべきではない
- 裁判例は事案ごとの前提条件のもとで出た結論であり、都合よく切り取らず顧問弁護士など専門家に確認する
- ウェブ会議や細かい指示をしない、移動手段を本人に選ばせるなどの工夫を積み上げれば、労働時間と認定されにくくできる場合がある






