上場を目指すと会社の何が変わるのか
今週のテーマは「IPOを検討している事業会社が注意する点」です。前週に引き続き、税理士法人G&Sソリューションズの清水浩久さんがゲストとして登場します。
吉田さんは、清水さんが事業会社でのIPO経験を持ち、IPOの税務に強いという点からこのテーマを選んだと説明しています。
まず吉田さんは、利益が数千万ほど出てくると経営者によっては上場を目指す話になると前置きし、その際に管理部門が注意すべき点を尋ねました。
清水さんは、上場するということは、会社の体質が大きく変わることだと答えます。オーナー社長一人が株主で、ある程度自由にやっていた会社が、投資家のお金を預かって増やす「社会の公器」へ変わっていく必要があるという説明です。
上場するっていうことは、今まで社長一人が株主で、許されたルールの範囲内でやりたい放題だった会社を、投資家のお金をきちんと預かって増やしていく、社会の公器としての上場企業に変わっていかなければいけない。
具体的には、監査法人ときちんと付き合い、これまで雑に作っていた会計数値を正確なものとして投資家に説明することが求められます。
さらに、社長のワンマンなトップダウンで何でも決めていた会社では暴走の可能性もあるため、ガバナンスが効いた、コントロールの取れた会社として運営する体制が必要になると清水さんは話します。
上場は最短で何年かかるのか
吉田さんは話を時系列で整理しようと、最終的には社外取締役が入り、対外的に公表できる決算数値と、しっかりした意思決定プロセスを持つ状態にしなければならないと確認しました。
そのうえで、上場を決めてから最短で何年ほどで上場できるのかを尋ねます。
会社の状況にもよるんですけれども、最短でやっぱり2年とか3年ぐらいで上場、というのが現実的なスケジュールだと思います。
最短2年かかる理由として、清水さんは、上場を決めるとまず監査法人と、上場まで導いてくれる主幹事の証券会社という2つの会社と新たに付き合いを始めると説明します。
これらの会社は、上場に至るまでに足りていない点を最初に洗いざらい調べ、宿題事項をリストとして会社に示します。会社はそれを一つずつ潰して体制を良くしていくため、どうしても2〜3年かかるという流れです。
吉田さんは、2期分の決算の監査証明がないと上場できないと聞いたと補足し、清水さんもそれが理由の一つだと認めています。
N期から逆算する「監査法人が先」の理由
吉田さんは、IPOでよく聞く「N期」というワードを整理します。N期が上場する期で、その手前がNマイナス1、さらに前がNマイナス2と、上場したい期から逆算して数える考え方です。
証券会社と監査法人と付き合い始めるのはいつ頃かという問いに、清水さんはN-2期か、その前のN-3期ぐらいから付き合い始めることが多いと答えました。
続いて吉田さんは、証券会社と監査法人のどちらから先に契約すべきかを尋ねます。
清水さんは、ケースバイケースとしつつ、できれば監査法人から先に付き合った方がいいという考えを示しました。その理由は監査証明の期日にあります。
N-2期の会計数値が適正であるためには、N-2期の期首、つまりN-3期の期末のBS残高がかなり正確性が高いという状態からスタートしないと、N-2期の監査証明が出ないんです。
そのため、N-3期から期末残高を適正に締められる状態を、監査法人とやりとりしながら精度を高めていく必要があります。清水さんは、この点も踏まえて監査法人と先にやりとりを始めるとよいと個人的な見解を述べました。
一方、証券会社についてはN-2期に入った後に契約する選択肢もあり、なるべく早く契約した方が指導を受けられて会社にとってはありがたいと清水さんは話します。
証券会社が「早すぎる会社」に力を入れにくい事情
ただし、証券会社が早い時期から手取り足取り教えてくれるとは限らないと清水さんは指摘します。証券会社の担当者は上場したい会社を何十社も抱えているためです。
(担当者は上場したい会社を)何十社も担当として持っているんですね。全てに手厚いサポートができるわけではなくて、やはりサポートにオーダーが出てくる。
その結果、まだ上場準備を始めるには早い会社には力を入れづらいという事情があります。吉田さんは、これは証券会社のビジネスモデルを考えると、本当に上場しそうな会社に力を入れる話だと受け止めました。
吉田さんは、スタートアップ起業家からそもそも証券会社が見つからないという声が出ると紹介し、それは本当かと尋ねます。清水さんは、証券会社がしっかりサポートしたいと思う会社かどうかで、見つかりやすさや契約の受けやすさが変わると答えました。
では証券会社が見つからない場合はどうすればよいのか。清水さんの答えは会社の魅力を上げるしかないというものです。
ここで清水さんは、魅力は必ずしも利益だけではないと補足します。その時々の時流に乗ったビジネスで、上場させることに社会的意義があると思ってもらえれば、業績が芳しくなくても証券会社にとって名を売れる場になり、サポートを受けやすくなることがあると説明しました。
監査法人も見つかりにくいのはなぜか
吉田さんは、二大関係者のもう一方である監査法人も見つかりにくいと聞くが本当かと尋ねます。清水さんは、それも本当だと答えました。
理由は証券会社と似ています。監査法人のメインの客はあくまで上場会社であり、上場準備会社にコンタクトするのは、将来の上場会社という客を作るためだという説明です。
監査法人のメインのお客さんというのはやっぱり上場会社なんですね。その上場会社のお客さんを作るために、上場準備会社にコンタクトをしている。
そのため、上場できない可能性が結構ある会社や、上場できるかまだわからない会社は、監査法人としても引き受けづらい面があります。
吉田さんは、上場が延びても監査法人は監査報酬をもらい続けられるのではと疑問を投げかけました。清水さんは、それだけで満足できるわけではないと答えます。
上場準備会社は社内の経営体制のレベルがまだ高くないことも多く、監査する側の工数がかかるためです。経理が整っていない会社に普通の監査報酬だけを請求する形では厳しく、そこに回す人材があるなら、メインのクライアントである上場会社に回したいというのが実情だといいます。
IPOコンサルと信託銀行は何をしてくれるのか
証券会社と監査法人という二大関係者に続き、吉田さんは他にどんな会社と付き合うのが一般的かを尋ねます。清水さんが挙げたのはIPOコンサルの会社です。
IPOコンサルとは、証券会社や監査法人から出された宿題に対応する際、会社の中だけではリソースが厳しい場合に、一緒に課題解決を手伝ってくれる会社側のサポーターだと清水さんは説明します。
必ずつけるべきかという問いには、自社の社員や知り合いだけで課題をクリアできるならつける必要はないと答えました。
ただし上場に向けては、有価証券届出書や目論見書の作成など、一時的に業務負荷が非常に高くなる時期があります。清水さんは、そうした負荷の高い時期だけ手伝ってもらう使い方もよいと話しました。
吉田さんは、上場は社長にとって一生に一度あるかどうかで相場観がわからないとして、IPOコンサルの費用感を尋ねました。
私の知っている限りだと多いのはタイムチャージで考える方が多いと思います。1時間あたりいくらっていう形で。
業務内容は多岐にわたるため、時間単価にかかった時間を掛けて請求する形が多いといいます。吉田さんは弁護士のような体系だと受け止めました。後からタイムチャージで請求するか、見込み工数から固定フィーにするかは、その時々によるとのことです。
他に付き合う先として、清水さんは信託銀行を挙げます。上場時に株式を預ける役割がメインですが、その前段階の上場準備のサポートもしてくれると説明しました。
具体的には、取締役会や株主総会をどう開催すればよいかといった、会社法に関係する部分のアドバイスをくれるといいます。
なぜ労務DDを最初にやるべきなのか
吉田さんは、税務・法務・労務など各種DDについて、どのタイミングでどれからやるのがよいかを尋ねます。
清水さんの経験では、税務・法務はあまり初めには出てこず、どちらかというと労務DDを最初にやり、労務分野の不備がない状態を早く作ることを優先する会社が多いといいます。
吉田さんは、てっきり税務や法務の方が重視されると思っていたと驚きを見せ、労務を最初にする理由を尋ねました。清水さんは理由が2つあると答えます。
1つ目は労働災害の時効の問題です。時効が3年であるため、3年前まで遡って請求される恐れがあり、上場まで最低2〜3年かかることを踏まえると、この問題は一刻も早くクリアしておきたいという理由です。
2つ目は、長時間労働に対する世間の目がここ10年で非常に厳しくなっていることです。未払い債務とは別に、コンプライアンスの観点で会社がクリーンであると示すために、労務DDを早めに行うことが多いといいます。
時効が3年のため、遡って請求される恐れがある。上場まで2〜3年かかることを踏まえ、早くクリアしたい
ここ10年で厳しくなっており、コンプライアンス上クリーンだと示すために早めに対応する
吉田さんは、IPO準備中の会社は長時間労働の問題に非常に気を遣っており、36協定違反も重いことだと補足します。
さらに、ハラスメントの問題も社会的注目の的になっており、芸能人のスキャンダルなどの流れも相まって、IPOの場面で重要だという理解でよいかを確認しました。清水さんは、その通りだと答えています。
吉田さんは、単に賃金を払っていない問題があることも当然問題であり、加えて社会的な公器としての会社にふさわしい体制が必要だという観点から、労務DDが重要なのだとまとめました。
IPOは王道を知っているかで近道が変わる
時間が近づき、吉田さんはリスナーに伝えたいことを清水さんに尋ねます。
清水さんは、IPOに至るプロセスは時代の流れで変わってきているものの、ある程度の王道があると話します。
IPOまでのプロセスを知ってる、知ってないということで、どれだけ遠回りになっちゃうか、どれだけ近道で物事を進められるかっていうのは大きく変わってきます。
そのため、信頼できる専門家、きちんとしたバックグラウンドを持つ人に相談できるネットワークを築いておくことが大事だと締めくくりました。
吉田さんも、労務分野に限ってお手伝いしていても難しいと感じるとして、IPOを目指す会社は信頼できる専門家に相談し、いろいろなことに注意を向けてほしいと応じています。
最後に、税理士法人G&Sソリューションズの清水浩久さんに2週にわたるゲスト出演の礼を述べ、この回は締めくくられました。
まとめ
この回は、IPOを目指す事業会社が押さえるべき上場までのスケジュールと、関わる専門家、そして労務DDの優先順位を、税理士の清水さんとともに整理する内容でした。上場は会社を「社会の公器」へと変えるプロセスであり、準備には最短でも2〜3年がかかります。
- 上場は投資家のお金を預かる「社会の公器」への転換であり、ガバナンスが効いた体制が求められる
- 上場は最短2〜3年。N期から逆算し、監査法人・証券会社とはN-2〜N-3期ごろから付き合い始める
- 監査証明の都合から、証券会社より監査法人を先に契約した方がよいという考え方がある
- 証券会社も監査法人も、上場しそうな会社に力を入れる。会社の魅力や社会的意義を高めることが選ばれる鍵になる
- 労務DDは労働災害の時効と長時間労働への社会の目を理由に、最初に手をつける会社が多い




