管理職なら残業代はいらない、という思い込み
前回のインターンの給与に続き、今回は管理職の給与がテーマです。吉田さんは、管理職の給与について誤解している経営者が多いと感じていると切り出します。
一般社員と管理職の給与って、何か違ってくるんですか?
吉田さんが挙げたのは、管理職になれば残業代を支払わなくていいという、よくある誤解です。アシスタントの安田さんも「確かに私もそう思っていた」と反応します。
この誤解を突き詰めると、ある発想にたどり着きます。それなら、いっそ全員を管理監督者にしてしまえばよいのではないか、というものです。
全員を管理監督者にしてしまうというのは、ありなんですか?
結論からいうと、ナシです。吉田さんは、過去に同じような相談を実際に受けたことがあると明かします。
もうオールスター全員集合みたいな感じで、全員管理職だから残業代を払わなくていい、全員固定給なんだ、うちの会社は、みたいなお客様もいらっしゃいます。
「管理監督する」人がそんなに多いはずがない
吉田さんはまず、言葉そのものに注目してほしいと言います。管理監督者とは、他の一般スタッフを管理監督する人のことです。
つまり、部下を持つということになります。部下を持たない管理職はありえない、というのが出発点です。
さらに、部下を持つ最適な人数は5人から7人程度だと言われています。そこから逆算すると、多く見積もっても数人に一人しか管理監督者はいないことになります。
そうすると、全員とか、ほぼ全員がというのはありえないということですね。
全員を管理監督者にすれば、会社の組織図はめちゃくちゃになります。誰がどう指示を出しているのかがわからなくなる、と吉田さんは指摘します。
全員管理監督者にする会社の人は、自分自身を管理監督してるんです、なんて屁理屈を言いそうですけど、そういうのはダメです。
部長・課長は管理監督者ではない
ここで安田さんが、自身の感覚を打ち明けます。部長など役職がつけば、それはイコール管理監督者だと思っていた、というものです。
役職がつくと、それはイコール管理監督者だと思っていたのですが、違うのですか?
違います。吉田さんは、部長や課長は会社が勝手に決めた呼び名にすぎないと説明します。
部長とか課長っていうのは、ちょっと冷たい言い方をすれば、会社が勝手にその人の役職や呼称を決めてるだけなんです。
その呼び名をもって残業代を払わなくてよい、という裁判の結果も法律の条文も存在しません。これまでの判例の積み重ねから見ても、管理監督者と認められるのはかなり難しいというのが実態です。
吉田さんは、管理監督者と認められるための具体的な要件を挙げていきます。
出退勤の自由
始業・終業時刻に縛られず、勤怠を自分の裁量で決められること
権限がある
採用の権限や、経営会議に出席して経営に提言する実績があること
ふさわしい待遇
それだけの権限と自由に見合った給料をもらっていること
吉田さんは、これらの条件を文句なしにクリアする人は、中小企業にはもうほぼいないと考えてくださいと話します。
残業代を払わないと決めた会社が背負うリスク
安田さんは、部長や課長がつけば給料が高くなる分、残業代は支払われないのだとずっと思い込んでいた、と改めて振り返ります。
珍しいですね。社労士としてお手伝いしてきて、本当に珍しいです。
仮に会社が、管理職には残業代を払わないと決めたとします。しかし、その人が退職時に会社との関係が悪くなった場合が問題です。
実態が一般の労働者と変わらないのだから管理監督者ではない、として残業代を請求される可能性があります。しかも、時効期間分をまとめて請求されうるのです。
管理職と管理監督者は別物だ、ということですね。
そうですね。これは絶対に覚えておいてほしいことです。
朝から晩まで働く「部長」は管理監督者なのか
話を聞いた安田さんは、過去の同僚を思い出します。部長になったことで、残業代を気にせず朝早くから夜遅くまで働くようになった人がいた、というのです。
残業代を気にせず朝から晩まで働くようになった部長がいたのですが、大丈夫だったのでしょうか?
その働き方が常態化しているなら、管理監督者ではないのではないか、と吉田さんは答えます。
吉田さんは、一時的なものであれば話は別だと補足します。部下が退職して欠員を埋める必要があるときなどは、管理職として一時的にそうした勤務になることもあります。
問題は、それが常態化している場合です。管理監督者には採用の権限があるはずなので、忙しいなら自分の権限で人を採用し、動きやすいように組織を組み替えればよいことになります。
新しく人を採用して組織を組み替えた方がいいんじゃないですか、と言いたくなります。でも、それが実際できないと思うんですよ。ってなると、管理監督者じゃないですよね。
なぜ未払い残業代は表面化しにくいのか
吉田さんは、管理監督者だからといって楽なわけではなく、むしろ一般の労働者の方が上からの圧を受けやすい面もあると話します。そのため、管理職の方が気分は楽だと感じる人も一定数いるかもしれません。
安田さんは、定時の中に収めることが苦しかったであろう同僚の姿が見えたと語ります。一方で、忙しそうな上司がいると帰りづらさを感じたとも振り返ります。
吉田さんは、こうした構図が未払い残業代を表面化しにくくしていると分析します。本当は請求権があっても、お互いにwin-winの関係になっているためだと言います。
給料の追加払いが発生しない
圧を受けずに気楽に働ける
しかし、それは会社にとって決してよいことではありません。関係が壊れれば、残業代を請求される可能性が残るからです。
そもそも管理監督者はなぜ設けられているのか
安田さんは、欠員の穴埋めなどのために残業代を超えて働けるよう、手当が出ているはずだと補足します。だからこそ残業代が支払われない仕組みになっている、という理由があるからです。
吉田さんは、そもそもなぜ管理監督者という立場が設けられているのかを説明します。前提にあるのは労働基準法の考え方です。
労働基準法の世界観は、時間に応じて給料を支払って、決められた時間を働くというのが原則的な考え方なんですね。
ただ、会社運営では何が起こるかわかりません。クレーム対応が発生したり、従業員が連絡もなく退職してしまったりと、イレギュラーな事態が起こります。
そうしたとき、時間の枠を超えて働ける人が会社に一定数いないと事業が回りません。その役割を担うために管理監督者という立場があるというのが、制度の背景です。
悪用は絶対にしないでください。
まとめ
管理職という呼び名と、労働基準法上の管理監督者はまったくの別物です。呼び名だけで残業代を払わない運用は、後から時効期間分の未払い残業代を請求されるリスクを抱えることになります。
- 「管理職なら残業代を払わなくてよい」は誤解で、法律の条文も裏づける判例もない
- 管理監督者は部下を管理監督する立場で、全員を管理監督者にすることはできない
- 認められる要件は、出退勤の自由・採用などの権限・見合った待遇の3つで、中小企業ではほぼいない
- 朝から晩まで働く状態が常態化しているなら、管理監督者とはいえない
- 管理監督者はイレギュラーな事態に対応するための制度であり、残業代逃れに悪用してはいけない






